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最終話:君と出会えてよかった
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突然、皇后の宮殿という神聖な場に、ドタドタドタという似つかわしくない荒い足音が響き、茶会中の二人とその侍女たちを驚かせる。が、すぐに寿伽が額に指を当て深い溜息を落とした。
「涙を流されるなんて、どうなされたのですっ? もしや体調が優れないのですか?」
足音の主は無風だった。
駈けるように東屋へやってきた無風が、到着するなり蒼翠のもとで膝を突き手を握る。こちらに向けた顔は酷い焦りで染まり上がっていた。
足音から手を握られるまで数秒という早業に唖然とする蒼翠の隣で、ごほんと寿伽が咳払いをする。
「落ち着きなさい。それと、皇太子ともあろう者がそう易々と膝を落としてはいけませんと、先日お諫めしたばかりではありませんか」
そのうえ本来なら何より優先しなければならない母親への挨拶もないなんて、と寿伽は嘆く。
「ですが母上、蒼翠様に何かあったのかと心配で……」
「まったく、そんな情けない性格でよく皇太子が務まりますね。皇太子妃に問題はありませんから、安心なさい」
「本当ですか……?」
こちらを見上げてくる無風に、蒼翠は困り顔で頷く。心配してくれるのは嬉しいが、どっしり構えていないといけない立場の者がこれでは下に示しがつかない。
あとここでは『蒼翠様』もやめて欲しい。
「大丈夫です、殿下。義母上の優しさに涙腺が緩んだだけだから。それよりどうしてこちらに?」
「公務が早く終わったのでお迎えに上がったのです」
「え、もう? 今日は遠方に出ると……」
「はい。それを終えて戻ってまいりました」
帰宅は夜遅くになるとばかり思っていた蒼翠と寿伽は、目を見開きながら顔を見合わせた。
「まさかと思いますが、今日、皇太子妃が太医に診て貰う日だからと帰宅を早めたわけではありませんよね?」
「はい母上、そのとおりです。私も一緒に話を聞きたく、予定を早めました。ですので蒼翠様を東宮殿へ連れ帰ってもよろしいでしょうか?」
今度は二人で溜息を吐いた。皇太子が悪びれもなく個人的な用事のために公務の予定を変更したなんて、配下たちが知ったら驚愕するだろう。もしかしたら「ああ……いつものことか」と潔く納得してしまうかもしれないが。
「貴方という子は……はぁ、もういいです。どうせいくら言っても直らないのでしょうから」
寿伽の顔には「説得するだけ無駄ですね。諦めてます」と書いてある。
「すみません義母上。私からも言って聞かせますので……」
蒼翠は謝罪の言葉の裏に「あとでみっちり説教しておきます」と添え、義母子で頷き合ってからゆっくりと立ち上がる。そして横に並んだ無風の手を取った。
「母上、蒼翠様をお連れしてよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。皇太子妃、また色々お話を聞かせてくださいね」
「勿論です義母上。では、ごきげんよう」
無風と二人で礼をして、皇后の宮殿から退出する。今から向かうのは太医が待機している東宮殿だ。
「本当に体調のほうは大丈夫ですか? 今朝は少々食欲がないように見えましたが」
「問題ありませんよ、殿下。今日は義母上との茶会があったので控えただけですから」
「…………蒼翠様、二人きりの時は無風でと、いつもお願いしているではありませんか」
「おや殿下、背後が見えていないとは激務で目がお疲れのようですね。あと『蒼翠様』もおやめください」
二人の後に続く侍女らの列にチラリと視線をやってから、笑顔を浮かべる。すると、子どものような不貞腐れた表情を見せた無風が振り返り、侍女たちに少し距離を置くよう命を出した。
「これで私たちの会話は聞こえません」
「…………お前、毎度こんなことしてたら嫌われるぞ?」
「大丈夫です。皆、私の蒼翠様に対する愛の深さを知っていますから。それにその他のことでは蒼翠様のご命令どおり公私の区別をつけております」
確かに公の場では殿下と呼んでも、無風は不服そうな顔をしなくなった。それは明らかに成長と呼べるだろう。が、周囲に侍女たち以外誰もいなくなると、すぐにこれだ。
――本当は二人きりの時も立場を貫け、と言い聞かせるべきなんだろうけど。
そう思う反面、毎日皇太子として頑張っている無風に無理強いするのも可哀想だという気持ちもある。結局、自分も無風に甘いのだ。
「ああ、そうでした。今日は蒼翠様に贈り物があるのです」
「俺に?」
「はい。公務で立ち寄った街に腕のいい香油師がいたので、身体の不調を取り除く香油を調合していただきました。そちらを使って腕や足などの按摩を行えば、お悩みだった浮腫みのほうも改善するとのことです」
「公務も大変なのにわざわざ寄ってきてくれたのか? それはありがたい。でも……」
「蒼翠様?」
「最近、少しばかり土産が多くないか?」
昨日は薬湯、その前は御守り、さらにその前は湯浴みに使う花弁でさらにさらにその前は――と、無風は外に出る公務の時は必ずといっていいほどたくさんの贈り物を買って帰ってきてくれる。しかもすべてがその筋で有名な店や寺ばかりで、中には貴賤関係なく並ばなければならない場所もあった。
こちらのことを思ってくれているのは素直に嬉しいのだが、聖界の皇太子に行列並びさせるのは少しばかり心苦しいし、色んな意味で店の主人の胃が心配になる。
「俺のために考えてくれるのは嬉しいが、あまり無茶は……」
「無茶だなんてとんでもない! 私がこうして贈り物を用意するのは蒼翠様のためでもありますが、私自身のためでもあります!」
「む……無風?」
「……蒼翠様は厳しい試練を乗り越え、私に新しい家族という希望をもたらせてくださいました。だというのに私は何もすることができず……なので、わずかなことでもいいのでお役に立ちたいのです」
言いながら無風が蒼翠の腹を愛おしそうに撫でる。
「何言ってるんだ、お前がこうして隣にいてくれるだけで十分だよ。この子だってきっとそう言ってる」
両手で包むようにして無風の手の上に重ね置く。
当然のごとくそこから返ってくる反応はないし、まだなんの膨らみだってない。けれど二人の手が重なり合うその場所には今――――新しい命が宿っていた。
そう、蒼翠は無風との子を妊娠したのだ。
蒼翠の妊娠が判明したのは一月ほど前、婚姻の儀から二年が経った頃だった。
懐妊を伝えると無風は飛び上がるほど大喜びし、はてには男泣きまで見せて逆に蒼翠を驚かせた。
ただ、その後が無風らしいというのか、一頻り歓喜してからすぐに大量の医書などを読み漁るようになり、こうして身重の身体によいとされるものを用意するようになった。
どの時代も等しくそうだが妊娠出産は命懸けだ。どれだけ優秀な太医がついていても、ほんのわずかな運の巡り合わせの悪さで、尊い命があっさりと掌から零れ落ちていく。そんな生死の危険と隣り合わせの行為に、男である蒼翠が挑むとなれば不安は尽きないのだろう。知らせを聞いた仙人がその道の名医を呼ぶと言ってくれるのに、それでもまだ心配が収まらず今や太医並みの脈診術まで会得してしまったほどだ。
「まぁでも、お前がしたいことなら止めはしないけど。ただ子が生まれたらさすがに『蒼翠様』はやめろよ」
「どうしてですか?」
「子には親が隣同士並んでる姿を見せたいんだよ」
我が子には主と従者、師と弟子ではなく、夫夫としての姿を見せてやりたい。
「ということで、とりあえず一度試しに呼んでみろ」
「え、今ですか?」
驚きと戸惑いを綯い交ぜにしながら狼狽する無風に「いいからやってみろ」と促す。そうすると暫く逡巡してからようやく覚悟を決めた無風が、大きく息を吸ってから静かに唇を開いた。
「そ……蒼、翠…………………………サマ」
「微妙に惜しいっ」
やはりまだ早かったか。だが生まれるまでまだ時間はたっぷりある。少しずつ慣れていけばいいだろうと微笑みながら歩いていると、不意に名を呼ばれた。
「蒼翠様」
「ん?」
「私と出会って下さって、ありがとうございます」
「どうした……いきなり」
「幸せなのです。蒼翠様とこうして肩を並べて歩けることが」
ずっと自分の手は蒼翠に届かないと思っていたが、数奇な運命の巡り合わせの末、望みを叶えることができた。
でも、それはすべて蒼翠が出会ってくれたからだと思ったら、無性に礼が言いたくなったのだという。
「俺も幸せだ。けど……人っていうのは強欲な生き物だな。処刑の場で毒酒を前にした時は最後に一目だけでもお前に会いたいと願い、夫夫になった後は子を授かれたらこれ以上の幸せはないと思ったのに、その願いが叶ったら次は大切な家族と末永く暮らしたいって願ってしまう」
「私も同じです。蒼翠様を娶ることを一番の望みと言いながら、他の望みが湯水のように溢れ出てくる。……ですが、それでいいと思うんです」
「なんで?」
「人は願いを持つと、自分でも驚くほどに強くなれる。だから私はこれからも、たくさんの願いを持っていこうと思ってます」
「たくさんか……例えば?」
「東宮殿を常に笑いが絶えない場所にしたいですし、多くの家族にも囲まれたい。ですが一番は、天寿をまっとうするまで蒼翠様のお傍にいたい」
同日、同時刻に愛する者同士がともに死ねる奇跡がないことは、誰もが知る事実。けれど、どちらかが目を閉じるその時まで離れず見つめ合いたいと無風は願う。
「天寿……そうか、天寿か……」
無風と共白髪になるまで添い遂げる。
この願いが叶うのなら、これほど幸福なことはないだろう。
「俺も最期の最後まで、お前と見つめ合っていたいな」
強く願い続けていれば、きっと叶えることができる。自分と無風を信じ続けると決めた今、蒼翠に不安や恐怖なんてものはない。
「お前と出会えて……本当によかった」
言葉を噛み締めながら無風に身体を預けると、蒼翠はそっと目を閉じて天に深く感謝した。
この世界に転生させてくれて、ありがとう。
無風と出会わせてくれて、ありがとう、と。
END
*次の話より番外編(全3話)となります。
「涙を流されるなんて、どうなされたのですっ? もしや体調が優れないのですか?」
足音の主は無風だった。
駈けるように東屋へやってきた無風が、到着するなり蒼翠のもとで膝を突き手を握る。こちらに向けた顔は酷い焦りで染まり上がっていた。
足音から手を握られるまで数秒という早業に唖然とする蒼翠の隣で、ごほんと寿伽が咳払いをする。
「落ち着きなさい。それと、皇太子ともあろう者がそう易々と膝を落としてはいけませんと、先日お諫めしたばかりではありませんか」
そのうえ本来なら何より優先しなければならない母親への挨拶もないなんて、と寿伽は嘆く。
「ですが母上、蒼翠様に何かあったのかと心配で……」
「まったく、そんな情けない性格でよく皇太子が務まりますね。皇太子妃に問題はありませんから、安心なさい」
「本当ですか……?」
こちらを見上げてくる無風に、蒼翠は困り顔で頷く。心配してくれるのは嬉しいが、どっしり構えていないといけない立場の者がこれでは下に示しがつかない。
あとここでは『蒼翠様』もやめて欲しい。
「大丈夫です、殿下。義母上の優しさに涙腺が緩んだだけだから。それよりどうしてこちらに?」
「公務が早く終わったのでお迎えに上がったのです」
「え、もう? 今日は遠方に出ると……」
「はい。それを終えて戻ってまいりました」
帰宅は夜遅くになるとばかり思っていた蒼翠と寿伽は、目を見開きながら顔を見合わせた。
「まさかと思いますが、今日、皇太子妃が太医に診て貰う日だからと帰宅を早めたわけではありませんよね?」
「はい母上、そのとおりです。私も一緒に話を聞きたく、予定を早めました。ですので蒼翠様を東宮殿へ連れ帰ってもよろしいでしょうか?」
今度は二人で溜息を吐いた。皇太子が悪びれもなく個人的な用事のために公務の予定を変更したなんて、配下たちが知ったら驚愕するだろう。もしかしたら「ああ……いつものことか」と潔く納得してしまうかもしれないが。
「貴方という子は……はぁ、もういいです。どうせいくら言っても直らないのでしょうから」
寿伽の顔には「説得するだけ無駄ですね。諦めてます」と書いてある。
「すみません義母上。私からも言って聞かせますので……」
蒼翠は謝罪の言葉の裏に「あとでみっちり説教しておきます」と添え、義母子で頷き合ってからゆっくりと立ち上がる。そして横に並んだ無風の手を取った。
「母上、蒼翠様をお連れしてよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。皇太子妃、また色々お話を聞かせてくださいね」
「勿論です義母上。では、ごきげんよう」
無風と二人で礼をして、皇后の宮殿から退出する。今から向かうのは太医が待機している東宮殿だ。
「本当に体調のほうは大丈夫ですか? 今朝は少々食欲がないように見えましたが」
「問題ありませんよ、殿下。今日は義母上との茶会があったので控えただけですから」
「…………蒼翠様、二人きりの時は無風でと、いつもお願いしているではありませんか」
「おや殿下、背後が見えていないとは激務で目がお疲れのようですね。あと『蒼翠様』もおやめください」
二人の後に続く侍女らの列にチラリと視線をやってから、笑顔を浮かべる。すると、子どものような不貞腐れた表情を見せた無風が振り返り、侍女たちに少し距離を置くよう命を出した。
「これで私たちの会話は聞こえません」
「…………お前、毎度こんなことしてたら嫌われるぞ?」
「大丈夫です。皆、私の蒼翠様に対する愛の深さを知っていますから。それにその他のことでは蒼翠様のご命令どおり公私の区別をつけております」
確かに公の場では殿下と呼んでも、無風は不服そうな顔をしなくなった。それは明らかに成長と呼べるだろう。が、周囲に侍女たち以外誰もいなくなると、すぐにこれだ。
――本当は二人きりの時も立場を貫け、と言い聞かせるべきなんだろうけど。
そう思う反面、毎日皇太子として頑張っている無風に無理強いするのも可哀想だという気持ちもある。結局、自分も無風に甘いのだ。
「ああ、そうでした。今日は蒼翠様に贈り物があるのです」
「俺に?」
「はい。公務で立ち寄った街に腕のいい香油師がいたので、身体の不調を取り除く香油を調合していただきました。そちらを使って腕や足などの按摩を行えば、お悩みだった浮腫みのほうも改善するとのことです」
「公務も大変なのにわざわざ寄ってきてくれたのか? それはありがたい。でも……」
「蒼翠様?」
「最近、少しばかり土産が多くないか?」
昨日は薬湯、その前は御守り、さらにその前は湯浴みに使う花弁でさらにさらにその前は――と、無風は外に出る公務の時は必ずといっていいほどたくさんの贈り物を買って帰ってきてくれる。しかもすべてがその筋で有名な店や寺ばかりで、中には貴賤関係なく並ばなければならない場所もあった。
こちらのことを思ってくれているのは素直に嬉しいのだが、聖界の皇太子に行列並びさせるのは少しばかり心苦しいし、色んな意味で店の主人の胃が心配になる。
「俺のために考えてくれるのは嬉しいが、あまり無茶は……」
「無茶だなんてとんでもない! 私がこうして贈り物を用意するのは蒼翠様のためでもありますが、私自身のためでもあります!」
「む……無風?」
「……蒼翠様は厳しい試練を乗り越え、私に新しい家族という希望をもたらせてくださいました。だというのに私は何もすることができず……なので、わずかなことでもいいのでお役に立ちたいのです」
言いながら無風が蒼翠の腹を愛おしそうに撫でる。
「何言ってるんだ、お前がこうして隣にいてくれるだけで十分だよ。この子だってきっとそう言ってる」
両手で包むようにして無風の手の上に重ね置く。
当然のごとくそこから返ってくる反応はないし、まだなんの膨らみだってない。けれど二人の手が重なり合うその場所には今――――新しい命が宿っていた。
そう、蒼翠は無風との子を妊娠したのだ。
蒼翠の妊娠が判明したのは一月ほど前、婚姻の儀から二年が経った頃だった。
懐妊を伝えると無風は飛び上がるほど大喜びし、はてには男泣きまで見せて逆に蒼翠を驚かせた。
ただ、その後が無風らしいというのか、一頻り歓喜してからすぐに大量の医書などを読み漁るようになり、こうして身重の身体によいとされるものを用意するようになった。
どの時代も等しくそうだが妊娠出産は命懸けだ。どれだけ優秀な太医がついていても、ほんのわずかな運の巡り合わせの悪さで、尊い命があっさりと掌から零れ落ちていく。そんな生死の危険と隣り合わせの行為に、男である蒼翠が挑むとなれば不安は尽きないのだろう。知らせを聞いた仙人がその道の名医を呼ぶと言ってくれるのに、それでもまだ心配が収まらず今や太医並みの脈診術まで会得してしまったほどだ。
「まぁでも、お前がしたいことなら止めはしないけど。ただ子が生まれたらさすがに『蒼翠様』はやめろよ」
「どうしてですか?」
「子には親が隣同士並んでる姿を見せたいんだよ」
我が子には主と従者、師と弟子ではなく、夫夫としての姿を見せてやりたい。
「ということで、とりあえず一度試しに呼んでみろ」
「え、今ですか?」
驚きと戸惑いを綯い交ぜにしながら狼狽する無風に「いいからやってみろ」と促す。そうすると暫く逡巡してからようやく覚悟を決めた無風が、大きく息を吸ってから静かに唇を開いた。
「そ……蒼、翠…………………………サマ」
「微妙に惜しいっ」
やはりまだ早かったか。だが生まれるまでまだ時間はたっぷりある。少しずつ慣れていけばいいだろうと微笑みながら歩いていると、不意に名を呼ばれた。
「蒼翠様」
「ん?」
「私と出会って下さって、ありがとうございます」
「どうした……いきなり」
「幸せなのです。蒼翠様とこうして肩を並べて歩けることが」
ずっと自分の手は蒼翠に届かないと思っていたが、数奇な運命の巡り合わせの末、望みを叶えることができた。
でも、それはすべて蒼翠が出会ってくれたからだと思ったら、無性に礼が言いたくなったのだという。
「俺も幸せだ。けど……人っていうのは強欲な生き物だな。処刑の場で毒酒を前にした時は最後に一目だけでもお前に会いたいと願い、夫夫になった後は子を授かれたらこれ以上の幸せはないと思ったのに、その願いが叶ったら次は大切な家族と末永く暮らしたいって願ってしまう」
「私も同じです。蒼翠様を娶ることを一番の望みと言いながら、他の望みが湯水のように溢れ出てくる。……ですが、それでいいと思うんです」
「なんで?」
「人は願いを持つと、自分でも驚くほどに強くなれる。だから私はこれからも、たくさんの願いを持っていこうと思ってます」
「たくさんか……例えば?」
「東宮殿を常に笑いが絶えない場所にしたいですし、多くの家族にも囲まれたい。ですが一番は、天寿をまっとうするまで蒼翠様のお傍にいたい」
同日、同時刻に愛する者同士がともに死ねる奇跡がないことは、誰もが知る事実。けれど、どちらかが目を閉じるその時まで離れず見つめ合いたいと無風は願う。
「天寿……そうか、天寿か……」
無風と共白髪になるまで添い遂げる。
この願いが叶うのなら、これほど幸福なことはないだろう。
「俺も最期の最後まで、お前と見つめ合っていたいな」
強く願い続けていれば、きっと叶えることができる。自分と無風を信じ続けると決めた今、蒼翠に不安や恐怖なんてものはない。
「お前と出会えて……本当によかった」
言葉を噛み締めながら無風に身体を預けると、蒼翠はそっと目を閉じて天に深く感謝した。
この世界に転生させてくれて、ありがとう。
無風と出会わせてくれて、ありがとう、と。
END
*次の話より番外編(全3話)となります。
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