中国ドラマの最終回で殺されないために必要な15のこと

神雛ジュン@元かびなん

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71話:★ 最愛の人を信じてあげましょう①

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 結局、回復術が効かなかったのはヒヨコと蒼翠そうすいの霊力の相性が悪かったせいだった。
 ヒヨコの様子を診た住職の見立てを聞いた蒼翠は、そんなのこともあるのだなと思ったが、すぐにきっと自分は黒龍族こくりゅうぞくで、色つきヒヨコは聖界せいかいの生き物だから合わなかったのだろうと納得した。

 ただ、相性が悪いとはいえど術がまったく効かないと言うわけではない。住職曰く、傷薬と併用しながら回復術をかけ続ければ治るらしいので、蒼翠は頭を下げ、ヒヨコの傷が消えるまで山の寺で世話になることになった。
 
 
 そうして過ごすこと五日。
 蒼翠はすっかり寺の住職と茶飲み友だちになっていた。 
 

「なんだか申し訳ないね。こちらはそう大したもてなしもできないのに、薬草摘みに堂の掃除と、いろいろなことを手伝って貰ってしまって」
「いえいえ、こちらこそ寝所を借りるだけでなく食事や着物まで用意していただいてありがたいです。なのでできることはさせてください」


 ここは邪界《じゃかい》の屋敷でも聖界の宮殿でもないから、以前のように胡座をかいているわけにはいかない。それにこれから一人で生きていくのなら、自分でなんでもできるようにならなければいけない。今はその修行中なのだと思えば、雑穀のご飯や汁物だけの食事も、住職のお古の着物も少しだって辛いと思わなかった。


「そう言って貰えると助かるよ。この寺は見てのとおり、もう私しか守る者が残っておらん場所だからね。人手があるだけで感謝ものだ」


 この寺は寧平寺ねいへいじという名で、昔は多くの御弟子さんもいたそうだ。だが今は全員外へ修行に出て行き、住職一人きりになってしまったのだという。
 

「だからあなたの気が済むまで……いや、次に進む道が見つかるまで、好きなだけいてもらって構わないよ」
「え……」

 不意にかけられた言葉に、蒼翠は目を丸くする。

「ご住職……俺が訳ありだと、分かっていたんですか?」


 それとも、もしや蒼翠の正体を知っているのか。ぎくりとして思わず警戒してしまったが、話を聞いてみればそうではなかった。


「いくら怪我をした鳥のためとはいえ、こんな寂れた寺に長居する者はそうそうおらんからね。それにあなたがこの寺を訪ねた時の身なりを見れば、なんとなく人には言えない理由がある、と推測ぐらいはできるよ」


 住職が蒼翠の膝の上で丸まるヒヨコに、穏やかな微笑みを向ける。


「……さすが長く修行されている方の慧眼力は違いますね」
「私なんてまだまだ。大和尚だいわじょうに比べれば、それこそヒヨコのようなもの」
「大和尚? ご住職も十分のように見えますが、さらにすごい方がいらっしゃるんですか?」
「大昔、私がまだ若者だった頃の話です。もうここにはいらっしゃらないが、大和尚からは多くの大切なことを学ばせていただいた。だから私も、少しぐらいはあなたのお役に立てるかと思ってね」


 いつのまにか空になった茶杯ちゃはいに、新たな茶を入れ直しながら住職は言う。


「相談に乗ってくださる……ということですか?」
「心のお優しいあなたの、新たな道を見つけるお手伝い……なんて言ってしまうと大袈裟だけれど、話を聞くことぐらいなら」
 
 
 悩み相談に乗ってくれるとの申し出に、蒼翠の心は動いた。
 自分の身の上をどこまで語っていいのか分からないが、人生に迷って困っていることは確かだし、この先どうするべきかもまだ決まっていない。正直、この状況での年長者からの助言は蒼翠にとって神の啓示にも近いといってもいいだろう。
 

「そう、ですね……じゃあ、少しだけご住職の優しさに甘えさせてください」


 無断で無風から離れた手前、誰かに甘えることは卑怯なことだと思っていた。でも未来のために、と蒼翠は今の自分の状況と今後どうしていけばいいかを悩んでいることを住職に話した。
 
 
「――――なるほど、自分に対する悪意は構わないけれど、大切な人へのものは我慢することができない。それでお相手のもとを離れると決めた、と」
「ええ……」
「……やはりあなたはお優しいですな。でも、少々優しすぎる」
「そう……でしょうか」
「ええ、そして悪意についても勘違いしている節がある」
「勘違い?」


 悪意に別の意味でもあるのだろうか。分からず蒼翠は首を傾げる。


「そもそも悪意はなぜ生まれるのかご存知かな?」
「それは……相手が憎かったり嫌悪を抱いたりするからですよね?」
「それももちろんある。けれど一番は、他人を悪く言う本人が満たされていないから……。だからあなたがいくらお相手のために身を引いたとしても、決して悪意は消えない。次に標的となる者や理由が見つかれば、すぐにまた同じことを繰り返す」


 悪意の原因は蒼翠でも、そして名前は明かしていないが無風のせいでもない。さらにはどれだけ善行を詰んだとしても、悪意の大元が変わらない限りどうやったって生まれてしまうと住職は語る。

 確かに人の妬みや僻みは、いつの時代だってどんな国にだって必ず存在してきた。葵衣あおいが生きていた日本でも、だ。
 しかし、ならばどうすればいいのだ。無限に生み出される闇をどうすることもできないのなら、すべてを諦め最初から白旗を揚げるしかないというのか。


「でも一つだけ、そういった悪意に勝つ方法がある」
「えっ? そんな方法があるんですか?」


 もしそんな手段があるなら知りたい。蒼翠は前のめりになって住職を見つめる。


「簡単なこと。それは自分と大切な方を信じること。何をされようが言われようが、罪を犯していないのであれば堂々と前を向く。そうしていれば悪意の源は自然と消えていく」


 自分と無風を信じる。たったそれだけのことで無風の将来が傷つかないようになるのだろうか。
 蒼翠は視線を落とし、眉根を下げる。
 と、茶杯で喉を潤した住職が、ふふっと小さく笑った。


「あなたが想うお相手は、取るに足らない他人の悪意にも勝てぬほど弱い方なのかな?」
「そんなことはない! 無風は誰よりも強いっ! ……あ」


 無風のことを悪く言われるのが嫌で思わず叫んでしまったが、すぐに名前まで出してしまったことを悔やむ。
 まずい、いくら人里離れた山寺とはいえ、さすがに聖界の新皇太子の名前ぐらい届いているだろう。もし無風の名から蒼翠の正体に気づいてしまったらと緊張を張り巡らせるが、心配をよそに住職は何も追及してはこなかった。
 迷い人の事情を深く追うべきではないと、こちらを気遣ってくれたのだろうか。



「おや、もう答えは出ていたようだね」
「え……?」
「私の言葉を聞いて一番に浮かんだ方。それがあなた自身とともに、あなたが信じるべき相手……私はそう思うよ」


 無風と自分だけを信じれば、どんな悪意にだって打ち勝つことがきる。そう断言する住職の言葉は、春の雪解け水のように蒼翠の胸へすっと染み込んだ。


 ――そうか……俺は陰口ばかりに目を向けて、一番信じなければいけない無風を見ていなかった。
 
 
 きっと無風なら「何を言われても関係ありません。私は守るべきものを守るだけです」と突っぱね、実力や功績といった正当な手段で相手を黙らせていただろう。
 無風はそれができるぐらい強い男だ。そんなこと、ずっと前から知っていたはずなのに。


「俺が……間違っていた、ということですね……」
「たとえ間違っていたとしても、大切なことに気づくことができたのであれば必要なものだったんでしょう」
「でも、ちゃんと謝らなきゃ……無風に」


 謝って、ちゃんと伝えなえれば。
 無風が大丈夫だというのなら、どんなことだって信じて支えたいと。
 
 
「俺……っ」


 心の中でなにかが嵌ったような、そんな感覚が走る。
 その時。
 突然、晴天の空に龍の鳴き声が響き渡った。
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