中国ドラマの最終回で殺されないために必要な15のこと

神雛ジュン@元かびなん

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23話:★成長は優しく見守ってあげましょう

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 仙人せんにんから助言を得た蒼翠そうすいは、それから密かに無風むふうを観察した。すると、どうやら無風は足になんらかの不調を抱えているらしく、周囲に誰もいなくなると歩く速度が極端に遅くなったり、時にはしゃがみ込んで足を摩ったりしている姿が何度も見受けられた。
 
 どこかで足に怪我を負ったのか、それとも何かの呪いでもかけられたか。
 
 邪界じゃかいには霊力を使って発動する呪術じゅじゅつとは別に、血や髪の毛を人型に埋め込むという原始的な方法で人に危害を加える呪術が存在する。しかし、呪いは効果があったりなかったりと不均一であるゆえほとんど使われていないうえ、今代こんだい邪君じゃくんが毛嫌いしているため全面的に使用を禁止されている。
 
 ただ、それでも無風に嘘を教えた半龍人はんりゅうじんのように、一時の悪意で相手を苦しめようと禁忌に手を出す不届き者もいる。
 その可能性があるならば、早々にでも原因を突き止めるべきだ。
 
 蒼翠は即座に無風を部屋に呼び、詰め寄った。

「無風、お前、俺に隠しごとをしているだろう?」
「い、いえ、隠しごとなんて……」
「嘘をつくな。俺が気づいていないとでも思っているのか?」


 チラリと足を見ると視線の意味に気づいた無風が、みるみる表情を落とした。これはおそらく「また迷惑をかけてしまう」の落胆だろう。無風らしいが今は関係ない。


「足に何か問題があるのか? 病なら侍医じい薬師やくしを呼ぶぞ」
「いえ、これは病でもなんでもなく、その……よくあることで……」
「よくある? そんなに頻繁に起こっているのか?」
「三月前ぐらいからです。ですが、特に何か悪いことがあったわけでもないので大丈夫かと」
「病でもないのに頻繁に足が痛むなんて、聞いたことがない。病でないというなら考えられるのは疲労の蓄積や、あとは……」


 頭の中で自身の経験も交えながら症例を巡らせる。と、ふとした瞬間に意外な答えが蒼翠の中に浮かんだ。
 もしかして。
 蒼翠は顔をゆっくりと上げる。


「一つ聞くが、その足の痛みが起こった後、背が伸びたような記憶はなかったか?」
「それはありました」

 やはりそうだ。無風が今抱えている足の痛みの原因は成長痛だ。確信して無風をじっくり見てみれば、確かに以前より頭半分ほど大きくなっていることが分かった。
 
 ――ドラマの無風は、最終的に蒼翠が見上げるほどにまで成長していた。あれはおそらく百九十センチは超えているだろう。
 
 今の無風はまだ蒼翠よりも小さいが、これから数年をかけてどんどん伸びていくはずだ。
 
 
「成長に伴う骨の痛みだな。確かにそれなら大事ない」
 
 
 蒼翠は安堵にホッと息をつく。
 仙人の言うとおり、これは変化を逃さず観察していれば気づけたことだった。見逃した自分が情けない。
 
 
「病や呪の類かと心配したが、杞憂きゆうだったようだな」
「蒼翠様、あの……」
「ん? なんだ?」
「私を心配してくださったんですか?」
「何を言ってる、当たり前だろう。さて、とりあえず原因が分かったなら対処もできる。ひとまずそこに座れ」
「座る、のですか?」


 何をするのかと不思議な顔をする無風を促し、蒼翠がいつも座る長椅子に座らせる。蒼翠はそのまま無風の前で膝を着くと、掌に霊力を込めながらゆっくりと脛や膝を摩った。
 成長痛は葵衣あおいの時に経験した。残念ながら無風のような羨ましすぎる体格にはなれなかったが、痛みに対する対処法ぐらいなら覚えている。

 
「蒼翠様っ! そんなっ、い、い、いけませんっ。私などに貴方様が膝を着くなんて」

 中国には人前でひざまずくことに、相手に屈服するという意味がある。ゆえに目上の者は下の者の前で膝を着かないようにする。もし着くとするなら、その時は死ぬほどの屈辱を味わっている時だ。それを熟知している無風は慌てふためきながら立ち上がろうとしたが、蒼翠は「いいから黙って座ってろ」と制して治療を続けた。
 

「ほ、本当に大丈夫ですから!」 
「この部屋にいるのは俺たちだけなんだから、深く考えるな。それに俺はお前の育ての親のようなもの。世話ぐらいしてもおかしくはないだろう。それよりも今後、足の痛みが強くなった時は我慢せずにちゃんと言え。身体の成長は一生のうち限られた時間だけ。修行も大切だが、その期間に負担をかけすぎて障りが出たら厄介だからな」
「蒼翠様……」
「よし、これで少しは痛みも和らぐだろう。あとは湯にゆっくりと浸かって温まってからしっかりと睡眠を取れ。今できることはそれぐらいだ」
「は、はい。ありがとうございます。蒼翠様からいただいた教え、きちんと守ります」


 まだ動揺が抜け切ってない無風が、慌てた様子で頭を下げる。その顔はどうしてだかゆでダコのように真っ赤で、そんな姿も可愛らしくて仕方がなかった。
  
 ――子ども扱いされて恥ずかしかったのかな?
 
 これからもまだまだ成長期は続く。きっと今回のことより難しい問題や、時には言い合いになることだってあるだろう。その度に悩みまくって仙人に泣きつくことになるだろうが、今は無風がいつもどおりに戻ったことが嬉しくて仕方ない蒼翠は、ご機嫌を全面に表しながら最愛の弟子の背を見送るのだった。




 
 
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