中国ドラマの最終回で殺されないために必要な15のこと

神雛ジュン@元かびなん

文字の大きさ
上 下
10 / 81

9話:修行前の約束

しおりを挟む

 蒼翠そうすいの言いつけどおり食事をたくさん食べ、積極的に運動するようになってから無風むふうの栄養失調は見る間に改善され、肌も艶々のぷりぷりになった。身体つきもすっかり年相応になって、今や健康そのものだ。
 
 文字も一通り覚えたようで、蒼翠の私室で書物を読み漁ってはどんどん知識をつけていっている。元から知力が高いのは知っていたが、一つ教えれば三つは理解する吸収ぶりなので、今に無風のほうが頭がよくなってバカにされるのではと心配になるぐらいだ。
 が、この数ヶ月で二人の関係をかなり向上させることに成功したので、とりあえずはよしとしよう。


「無風。話がある」

 二人きりの食事の最中、今日も元気にもりもりと白飯を頬張っている無風に声をかける。すると無風はすぐに箸と茶碗を置き、姿勢を正した。

「はい、なんでしょう」
「お前の体調も整ってきたようだから、そろそろ金丹を結丹するための修行に入ろうかと思う」
「……っ! はいっ!」
「ただし。正式に許可を出す代わりに、お前にはいくつかの約束事を守ってもらう」
「はい」

 真剣な眼差しが、こちらを真っ直ぐ見つめてくる。


「まず一つ。今日よりこの屋敷の外では師と弟子だ。お前には想像以上に厳しい指導を課し、態度も取るが、力が欲しいなら俺の言葉には疑問を持たず従え」


 無風に聞かせたのは修行のために必要な心得――と見せかけた、邪界で生きていくための処世術だった。
 なぜ、こんなことを約束させるかといえば、当然、無風を他の黒龍族の者たちから守るため。蒼翠は八番目とはいえ一応皇子。高位の者が無力の幼子に目をかけているなんて話が伝わったら、二人ともに目立ってしまう。だから屋敷の外ではドラマの蒼翠のように、冷たい態度を取る必要がある。
 
 しかしそういった裏事情など、無風は知らない。であるが、これが修行だということにしてしまえば、場所によって態度を変える蒼翠に不安を覚えることもないし、不信感も抱かないはずだ。


「あと、俺と交わした会話の内容は、一言も他に漏らしてはならない。俺の屋敷にいる配下にもだ」

 これも理由は同じく、二人の命を守るため。

「加えて俺の許可なく遠地へ赴いてはならないし、何かあったら必ず報告すること。これが約束できないのであれば、話は白紙だ」
「分かりました。蒼翠様との約束、絶対に守ります」
「よし。ならば無風、今日よりお前に毎日の水汲みを命じる。ここより二里離れた場所にある川から水を運び、この大瓶おおがめをいっぱいにしろ」

 頷いた蒼翠が無風に示し、渡したものは大人一人が悠々に入れるほど大きな瓶と、子どもの無風がギリギリ持てる大きさの桶二つだった。

「瓶に水が溜まるまで休憩は許さん。いいな」

 この瓶を満杯にするには、少なくとも十往復以上は必要となる。考えただけで気分が重たくなる命令だ。

「は、はい……」

 どうやら子どもの頭でも過酷さが分かったらしく、無風の顔がみるみる真っ青になった。その表情を見るだけで心が痛み、思わず「あ、やっぱやめ。もっと軽い命令に変えるわ」と言ってしまいそうになったが、そこはグッと我慢する。

 ――別に俺は無風を虐げているわけではない。うん、そう、絶対に。

 すべては無風の金丹きんたんのため。それに、これなら配下の目にも蒼翠が黒龍族らしい嫌味な行動をしているようにも映り、疑われることもなく修行に出せる。
 
 これほどまでに完璧な作戦を思いついた自分を、褒めてやりたい。
 蒼翠は自画自賛しながら、心の中で無風に「がんばれ!」とエールを送った。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...