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病棟回診②
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「やだやだやだやだぁぁぁ、あっちいってぇぇぇ!!」
「沙織ちゃん、泣かないで。絶対に痛くしないって約束するから」
「うそ! 昨日はいたかったもん! 今日はぜったいイヤ!」
慌てた看護師の声と、激しく泣く子どもの声。一体何事かと病室を覗き込めば、四人部屋のベッドの上で、五歳の少女が顔を真っ赤にして大粒の涙をボロボロと流す姿が見えた。
「沙織ちゃん、おはよう。朝からどうしたの?」
そのまま部屋の中に足を踏み入れ、なるべく声を柔らかくすることに務めて声をかける。
しかし。
淡いピンク色のパジャマを着た少女・沙織は和臣の顔を見た瞬間に、なぜかさらに高い声で泣き始めた。
「やだやだせんせいやだぁぁぁ!」
「さ、沙織ちゃん?」
何もしていないのに全力で拒絶され、和臣は意味も分からず動揺してしまう。すると沙織の相手をしていた看護師の折田が、申し訳ないといった顏で謝ってきた。
「東宮先生、すみません。沙織ちゃん、お医者さんが来たら、怒られると思ったんじゃないかと……」
「ああ、そうなんですか」
幼子は親からよく「言うこと聞かないとお医者さんに怒られるよ!」と言われるからか、医師に怖い印象を抱く子が多い。ゆえに怖がられるのは仕方ないが、それより今はどうして沙織が尋常ではない様子で泣いているのかが気になった。
「もしかして、沙織ちゃん今朝は採血がある日ですか?」
「はい。一昨日から夕方になると微熱が出るとのことで、昨日から朝の採血が入るようになって……」
「でも、たしか沙織ちゃん採血苦手じゃなかったですよね。どうして急に?」
「それが、昨日沙織ちゃんの採血を担当した看護師が新人で、かなり痛かったらしいんです。それで……」
折田が眉を垂らしながら事情を説明する
「なるほど……。でも折田さんは採血上手いので大丈夫では?」
沙織の横で困った顏をしている折田は、小児科の中でも屈指の腕利きだ。きっと彼女なら痛みを感じる前に処置を終えることができるだろう。そう期待した和臣だったが、折田は気まずそうな笑みを浮かべて小さく首を横に振った。
「子どもって一度悪い記憶がついちゃうと、もうダメみたいで」
いくら痛くしないからと説得しても、一向に聞き入れてくれないのだという。
「でも沙織ちゃんの微熱も気になりますし、採血はしないと……」
「折田さんでダメなら、あとは親御さんからの説得か。今日、沙織ちゃんのお母さんは?」
「今日は夕方からしか来られないそうです」
「じゃあ親御さんが来るまで、採血は待つしかないか……」
朝一番の採血は結果も早く出るし、身体の状態を詳しく知るためには同じ時間帯での検査が好ましい。が、ここで無理強いしてしまえば、今度はすべての治療を嫌がってしまうようになるかもしれない。
沙織は来月、手術の予定が組まれている患者だ。ここで内科の治療が止まってしまって手術ができないとなってしまったら、また予定を調節するために入院が伸びてしまう。それだけは避けたいと、和臣は息を一つ吐いてから沙織に朝の採血はしないと伝えようとする。
「沙織ちゃん、じゃあ――――」
和臣が口を開いた次の瞬間。
「沙っ織ちゃーん、おはようございまーす!」
「沙織ちゃん、泣かないで。絶対に痛くしないって約束するから」
「うそ! 昨日はいたかったもん! 今日はぜったいイヤ!」
慌てた看護師の声と、激しく泣く子どもの声。一体何事かと病室を覗き込めば、四人部屋のベッドの上で、五歳の少女が顔を真っ赤にして大粒の涙をボロボロと流す姿が見えた。
「沙織ちゃん、おはよう。朝からどうしたの?」
そのまま部屋の中に足を踏み入れ、なるべく声を柔らかくすることに務めて声をかける。
しかし。
淡いピンク色のパジャマを着た少女・沙織は和臣の顔を見た瞬間に、なぜかさらに高い声で泣き始めた。
「やだやだせんせいやだぁぁぁ!」
「さ、沙織ちゃん?」
何もしていないのに全力で拒絶され、和臣は意味も分からず動揺してしまう。すると沙織の相手をしていた看護師の折田が、申し訳ないといった顏で謝ってきた。
「東宮先生、すみません。沙織ちゃん、お医者さんが来たら、怒られると思ったんじゃないかと……」
「ああ、そうなんですか」
幼子は親からよく「言うこと聞かないとお医者さんに怒られるよ!」と言われるからか、医師に怖い印象を抱く子が多い。ゆえに怖がられるのは仕方ないが、それより今はどうして沙織が尋常ではない様子で泣いているのかが気になった。
「もしかして、沙織ちゃん今朝は採血がある日ですか?」
「はい。一昨日から夕方になると微熱が出るとのことで、昨日から朝の採血が入るようになって……」
「でも、たしか沙織ちゃん採血苦手じゃなかったですよね。どうして急に?」
「それが、昨日沙織ちゃんの採血を担当した看護師が新人で、かなり痛かったらしいんです。それで……」
折田が眉を垂らしながら事情を説明する
「なるほど……。でも折田さんは採血上手いので大丈夫では?」
沙織の横で困った顏をしている折田は、小児科の中でも屈指の腕利きだ。きっと彼女なら痛みを感じる前に処置を終えることができるだろう。そう期待した和臣だったが、折田は気まずそうな笑みを浮かべて小さく首を横に振った。
「子どもって一度悪い記憶がついちゃうと、もうダメみたいで」
いくら痛くしないからと説得しても、一向に聞き入れてくれないのだという。
「でも沙織ちゃんの微熱も気になりますし、採血はしないと……」
「折田さんでダメなら、あとは親御さんからの説得か。今日、沙織ちゃんのお母さんは?」
「今日は夕方からしか来られないそうです」
「じゃあ親御さんが来るまで、採血は待つしかないか……」
朝一番の採血は結果も早く出るし、身体の状態を詳しく知るためには同じ時間帯での検査が好ましい。が、ここで無理強いしてしまえば、今度はすべての治療を嫌がってしまうようになるかもしれない。
沙織は来月、手術の予定が組まれている患者だ。ここで内科の治療が止まってしまって手術ができないとなってしまったら、また予定を調節するために入院が伸びてしまう。それだけは避けたいと、和臣は息を一つ吐いてから沙織に朝の採血はしないと伝えようとする。
「沙織ちゃん、じゃあ――――」
和臣が口を開いた次の瞬間。
「沙っ織ちゃーん、おはようございまーす!」
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