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14話:新たな不穏

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 国王が魔族に襲撃され生死を彷徨っていることを皇太子ジェラールが国民に伝えたのは二日前。その日行われた演説では同時にライウェン王国との開戦もはっきりと告げられた。おかげで今や国中が戦争の話で持ち切りだ。

 ある者は己の力を誇示できると歓喜し、ある者は魔族との対峙や戦争による物価の上昇に不安を募らせる。そんな両極端な感情が織り混ざった街の風景は、以前のものとは全く違うものになっていた。
 ほんの少し前まで平和に賑わっていたのに、どこもかしこも緊張感で溢れかえってしまった街の空気に、リュスカは物悲しい気分になるーーーーが、それも突如起こった新たな事件によって見事に吹き飛んだ。

「は? マーグが死んだっ?」

 苺の甘煮と燻製にした豚肉という奇想天外な組み合わせを挟んだパンに齧りついていたリュスカは、驚きのあまり大きな声を上げた。

「ああ、昨夜の話だ」
「でもアイツって確か俺らに罪を暴かれたあと王国法廷に侍女殺しを自首して、捕まったんじゃなかったっけ」
「ああ。公爵は王城内にある牢に収監されていた。にも関わらず、昨夜、牢番が交代する一瞬の隙を狙って殺害されたそうだ」
 
 マーグのような貴族が収監される牢はマリクが入れられてる特別牢程の厳重さはないものの、相応に警備は厳しい。それなのに、とレイナルドが険しい表情を浮かべる。

「しかも殺されたのはマーグだけじゃない。同日、こちらは牢ではなく自分の屋敷だけれど、別の貴族がマーグと同じ手口……大剣で斬られて殺されてる」
「貴族が二人も同時に? ……それはちょっとおかしいよな」
「私もそう思って調べてみたんだが、どうやら殺された二人には妙な接点があったらしいんだ」
「接点?」
「二人は五年前に一度、同時期に理由未記載の謹慎処分を受けている」

 レイナルドが二名の過去を調べたところ、王国法廷に誅罰の記録が残っていたそうだ。

「真実を包み隠ささず記録するはずの王国法廷が理由を記述しないなんて、かなり怪しいな」
「リュスカもそう思うよね。だからさらに詳細を掘ってみたら、どうやら理由不明の謹慎処分を受けた貴族がもう一人いることが分かってね」
「同じ時期に処分を受けてるってことは、罪が同じ可能性は高いな」

 そして、マーグが侍女を殺した時のように金で罪を買い、逃れた可能性も高い。

「だったらその貴族に話を聞きに行った方がいいんじゃないか? 考えすぎならいいけど、同時に接点のある二人がってなると最悪な事態も……」
「私もそれは危惧してる。ただ、今は国王暗殺未遂の真犯人捜しもあるし、不確かな予感だけでリュスカたちを動かすのはどうかとも思えてね」

 他に抱えている事件があるせいか、レイナルドはどうも一歩踏み出せないでいるようだった。
 しかし、こういう時のレイナルドの直感は当たると、リュスカは知っている。

「でも、放っておくわけにはいかないだろ」

 貴族殺しは重罪。事件の謎に触れてしまったのにもかかわらずその犯人を野放しにして、次の犯罪が起こってしまったら目も当てられない。

「二つの案件を同時に調べるのは大変かもしれないけど、とりあえずやってみようぜ」
「……え? リュスカ危ないよ。相手は人殺しなんでしょ?」

 隣でぬいぐるみを作りながら黙って二人の話を聞いていたディーノが、縫い針を置いて不安そうに眉を垂らす。

「大丈夫だって。人殺しの相手なんて何度もあるし、今回は偵察するだけだから」
「でも……」

 こういったことは慣れているからと宥めても、なかなかディーノは納得の顔を見せない。困ったリュスカがどうやって説得しようか悩んでいると、隣からレイナルドが助け舟を出してくれた。
 
「まぁ、ディーノが心配する気持ちは分かるよ。この事件の犯人は、犯行手口から見ても相当の手練れだ。だから今回は私とリュスカとラッセル、そしてアラン全員で向かおう。……四人で行くのなら、ディーノも安心できるかい?」
「……うん」

 レイナルドがそう言うなら、とディーノが頷く。が、まだ渋々といった様子がはっきりとこちらに伝わってきて、リュスカは乾いた笑いを受けべることしかできなかった。





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