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「平成も最後ですから弔おう」
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「あなたまで平成を人質に取るのね」
水槽の魚はフリルをひらめかせ、興味なさげに泳ぎます。
「そんなひとだと思わなかったわ」
かよわい子犬も満月も、幕を下ろすのは自分です。
いちどっきりの瞬間に、はじめもおわりもないでしょう。
焦ることなどありません、ちっとも最後じゃないのです。
*
新元号が発表されたそのとき、年度始めの職員会議がおこなわれていた。学校は年度が変わると何から何まで変わってしまうので、最初の職員会議は長く重たい。新元号発表のことなんてすっかり忘れていた。
ようやく会議のすべてが終わり、一息つく。もうお昼だった。トイレに行こうと職員室の後方を見ると、テレビがついていた。
職員室でテレビがつくときといえば、地震があったときや台風がきているとき。なにか事件でもあったのかな、と一瞬だけ思った。
ちがうとわかったのは、漢字二文字を掲げる様子が「平成」を発表する小渕官房長官の姿と重なったから。そうか、発表か。
掲げる文字を見てぞくりとした。ひとつはその美しさに、もうひとつはその非日常感に。
新元号の予想であがっていたものたちの美しさをはるかに上回る「令和」。平成以上にきれいでしっくりくるものはないと思っていたけれど、文字の並びも響きもきれいな新元号を見て、早く令和がくればいいと思えた。
と同時に、その非日常感、現実味のなさに少し背筋が冷たくなった。見慣れない文字を掲げるその姿。職員会議をしているあいだに今までと違う世界線に迷い込んでしまい、この世界では「平成? なにそれ」と言われてしまうのではないか、なんて思った。
令和。一度で変換できないこの言葉も、きっとすぐに生活になじむのだろう。だけど初めに感じた美しさをいつまでも覚えていたい。
水槽の魚はフリルをひらめかせ、興味なさげに泳ぎます。
「そんなひとだと思わなかったわ」
かよわい子犬も満月も、幕を下ろすのは自分です。
いちどっきりの瞬間に、はじめもおわりもないでしょう。
焦ることなどありません、ちっとも最後じゃないのです。
*
新元号が発表されたそのとき、年度始めの職員会議がおこなわれていた。学校は年度が変わると何から何まで変わってしまうので、最初の職員会議は長く重たい。新元号発表のことなんてすっかり忘れていた。
ようやく会議のすべてが終わり、一息つく。もうお昼だった。トイレに行こうと職員室の後方を見ると、テレビがついていた。
職員室でテレビがつくときといえば、地震があったときや台風がきているとき。なにか事件でもあったのかな、と一瞬だけ思った。
ちがうとわかったのは、漢字二文字を掲げる様子が「平成」を発表する小渕官房長官の姿と重なったから。そうか、発表か。
掲げる文字を見てぞくりとした。ひとつはその美しさに、もうひとつはその非日常感に。
新元号の予想であがっていたものたちの美しさをはるかに上回る「令和」。平成以上にきれいでしっくりくるものはないと思っていたけれど、文字の並びも響きもきれいな新元号を見て、早く令和がくればいいと思えた。
と同時に、その非日常感、現実味のなさに少し背筋が冷たくなった。見慣れない文字を掲げるその姿。職員会議をしているあいだに今までと違う世界線に迷い込んでしまい、この世界では「平成? なにそれ」と言われてしまうのではないか、なんて思った。
令和。一度で変換できないこの言葉も、きっとすぐに生活になじむのだろう。だけど初めに感じた美しさをいつまでも覚えていたい。
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