宝かごみかは、君しだい

七草すずめ

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おわりの泉

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 ぬるくなった光たちは涙すらこぼせぬままに、その泉へと向かうでしょう。

 そこで虹を映す泡に会うのです。
 虹色に輝く海を見るのです。
 虹色の空に抱かれるのです。

 世界のさいごって、思ってたよりもきれいだねえ。

 ささやきあう声は微笑みにかわり、淡い粒となってやさしくはじけました。


   *


 お風呂で小説を読んでいたら、「泉」「精」という単語に記憶のなにかが反応した。むかし家にあった、たくさんの児童書のうちのひとつに、そんな本があった気がする。内容もなにも思い出せない。だけど物語の空気や質感が脳裏をかすめる。近付くと消え、離れると浮かぶような、記憶とのおいかけっこ。
 どうしても気になり、なんとか思い出した「泉」「精霊」「さらさら」という単語で検索するも、手がかりはつかめなかった。水色の空気感、ページの厚み。そんなものは鮮明なのに、辿りつけないのがもどかしかった。
 だけど一週間ほどして、またお風呂に入っていたとき、本のことが頭をよぎり、同時に言葉が浮かんだ。あ、これタイトルだ、とすぐにわかった。「だぶだぶだいすき」。
 電球がつくようなひらめきではなく、沈んでいた言葉が浮力でふわりとあがってきたような、不思議な感覚だった。千と千尋の神隠しに出てくる、「一度あったことは忘れないものさ。思い出せないだけで」という言葉を思った。たぶん「だぶだぶだいすき」は、思い出すのに一週間くらいかかるところで眠っていたのだ。
 その後、神保町のみわ書房で上崎美恵子さん著の「だぶだぶ だいすき」を見つけ、購入することができた。一九八四年の古い本。数十年ぶりに読んだその話は、記憶どおり澄んだ水のように透明で、だけど記憶よりもはるかに残酷で、かなしく美しかった。
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