上 下
29 / 51

わたしのほしかったもの

しおりを挟む
 子供のころ得られなかったものに
 人は一生執着するらしい

 母の愛だけがほしかった私は
 これから先も永遠に
 あの頃の愛情を求め続けるのかしら

 歳を重ねた彼女の愛は二度と私を満たせない

 物陰から覗くあの頃の私と
 気付いてしまったおかあさんは
 すれちがいの涙を流し続けるのです

   *

 妹がいる。妹がいる。弟がいる。見えないと言われるが、四人兄弟の長女だ。
 三女と弟がうまれたとき、とてもうれしくてかわいくて、たくさん面倒をみた記憶がある。読み聞かせをしたり、オムツを替えたり。ただ、いい記憶だけ残っている可能性が非常に高いので、おそらくゲームしてないで面倒みてやれと叱られたり、喧嘩するなと一喝されたりもしたはずである。
 じゃあ次女が生まれてひとりっこじゃなくなったときは、どんな気持ちだったんだろう。全く覚えていない。母に聞いたところ、出産のために祖母の家に預けられることもあったらしい。それを聞いてなんとなく思い出した。たぶん妹がうまれたとき、とても寂しかった。
 人生で一番痛かったことってなんだろう。痛みの記憶は時と共に薄まる。だけどひとつだけ、思い出すだけで痛い記憶がある。母とまだ小さな次女と、お風呂に入っていたとき。
 先にあがってと言われたのか、わたしは一人で浴室を出た。脱衣所。開いた扉のすきまに指を入れた。母が扉を閉め、人差し指は挟まれた。泣いた。後悔した。わざとだった。祖母がとんできた気がする。母は妹を抱いていたから。痛かった。割に合わないと思った。
 今では実家から自宅に戻るとき、母の方が寂しがる。形勢逆転だ。さあドアに指でもなんでも挟むがいい、手当してあげるから。
 なんて嘘。本当はわたしも、おかあさんにばいばいするときは、とても寂しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「カクヨム」「エブリスタ」「小説家になろう」「アルファポリス」「ハーメルン」の比較と考察(サイト比較エッセイシリーズ③連載)

源公子
エッセイ・ノンフィクション
カクヨム・エブリスタ・小説家になろう・アルファポリス・ハーメルン。五つのサイトに全ての(一部載せられなかった作品あり)作品を掲載して比較した。各サイトは、私のホームズさんをどう評価したのか?そして各サイトの光と闇。これから新しいサイトを開拓したい方向け。

一行日記 2024年3月 🥚🐇

犬束
エッセイ・ノンフィクション
 今年度、最後の月🌕  充実させたい。  目標は、連載小説は週2回投稿。  一行日記は1日1000文字。  読書と小説の写経。  あと、お絵描き練習復活。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

霜月は頭のネジが外れている

霜月@サブタイ改稿中
エッセイ・ノンフィクション
普段ゆるーくポイ活をしている私(作者:霜月)が、あるポイ活サイトで『ごろごろしながら小説書くだけで二万稼げる』という投稿をみて、アルファポリスへやってきた。アルファポリスに来て感じたこと、執筆のこと、日常のことをただ書き殴るエッセイです。この人バカだなぁ(笑)って読む人が微笑めるエッセイを目指す。霜月の成長日記でもある。

酩酊猫のモノローグ

黒いテレキャス
エッセイ・ノンフィクション
「ナニカに酩酊してるんじゃないの?」って思われるような事が書かれている場所。時々ホントに酒気帯びで書いてます。

カミングアウトすることは勇気がいるが、人間性を見極めるには有効な手段だという話。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
障害に限らず自分の秘密をカミングアウトするのは勇気がいること。そんなカミングアウトについてのあれこれを詳しく綴りました。 1、カミングアウトをする意味 2、障害者が言われて傷つく言葉 3、障害についての最適なカミングアウトの方法 4、最近よく耳にするアウティングとは? 5、カミングアウトとアウティングにまつわる私の実体験 全部で5話あります。少しでも参考にして頂ければ幸いです。

硝子の大瓶

しゃんゆぅ
エッセイ・ノンフィクション
詩集、散文などを詰めました。 私の好きな物を詰めるの 大きな大きな硝子の瓶 私の大好きなものを詰めるの 大きな大きな硝子の瓶 痛いも悲しいも 辛いも怒りも 恋も愛も 幸せを温かさを 全部全部詰めました これは私の分身です これは私の心です 幸せで大好きな私です 今まで書いたものをつめました。 他の所で発表したものもはいっています。

処理中です...