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四日目
17 * ただひたすらに明るい夏
しおりを挟むハンバーガーは意外と普通の大きさだった。
一人で一個いけたかもな、と一瞬思ったが、さっきオムレツとパンケーキを食べたばかりだということを思い出す。やっぱり、ひばりとシェアすることにしてよかった。これ以上肥えて日本に帰るわけにはいかない。
ひばりが選んで買ってきてくれたのは、シュリンプバーガーだった。店内が混んでいたので、外のテーブルで食べる。耐えられなくない暑さだ。クーラーで冷え切った室内で食べるのとは違うよさがある。
プラスチックのナイフで切り分け、その半分を頬ばった。熱中症も吹き飛ぶしょっぱさ。紙皿に乗っているスパイシーなポテトも、一口もらった父のサンドイッチも、みんな味が濃い。だけど日差しの強いこの街で食べると、それがやけにしっくりときた。
ああ、明日の今ごろは職員会議を終え、研修を受けているなんて信じられない。現実がすぐそこまで迫っている。
食事を終えてから現実行きのバスが出発するまで、二時間弱あった。グアムで過ごす、最後の時間。父と母は、コーヒーを飲んで休憩することにしたらしい。若者たちは最後にもう一度ホテルのビーチに行くことに決めた。歩きながら、午前中の買い物で手に入れた物についておしゃべりをする。
「ひばり、バッグ買ってもらっていいなー」
「つぐみは何買ったの?」
「あたし腕時計買った」
「え、いいな、俺も腕時計ほしい」
「羽斗、時計持ってないの?」
「誕生日プレゼントに買ってあげようか」
「ひとり五千円ずつくらい出し合う?」
「そしたら二万円の買えるね」
「ぼくも出しますよ」
「え? まじですか?」
つぐみの彼氏まで賛同してくれ、ビーチに向かっていたそれぞれの足にブレーキがかかった。
羽斗の腕には時計が巻かれていない。ひとつも持っていないのだという。彼の誕生日は七月だったのだが、誰もまだプレゼントを贈っていなかったということもあり、じゃあ本当に時計を買おう、と行き先をデパートに変えた。
彼のリクエストは、「①青っぽい文字盤で、②あんまりごつくなく、③できれば金属ベルトがいい」というものだった。確かに彼には精悍なものよりも、華奢で女性的なものの方が似合いそうだ。
ああでもないこうでもないと好き勝手言いながら選び、満場一致でカルバンクラインの時計に決まった。少々予算オーバーだが、羽斗がこの先使い続けてくれるのならかまわないだろう。(が、帰国して数日経った今もまだ腕時計を箱から出していないらしい。どうなってるんだ)
最後の大きな買い物も済み、じゃあ今度こそビーチに向かおうと、足を進める。日差しが強い。昨日ココス島で十分すぎるほど日光を浴びた一同は、各々日焼けをしていた。
しっかり日焼け止めを塗れていなかったわたしの肩は、軽いやけど状態だった。カメラとハンドバッグの紐が食い込み、ひりひりと痛い。水着のあとが残るくらいに日焼けするなんて、いつぶりだろう。大人になってからは、腕時計焼けやTシャツ焼けばかりだった。
ビーチ近くのカウンターで交換してもらえるアイスキャンディーの券があったので、せっかくだからと引き替える。わたしがもらったグリーンマンゴーのアイスキャンディーは不思議な味で、砂浜でみるみる溶けていくそれを食べながら、最後の異国感を楽しんだ。
足だけ少し浸かりながら眺める海は、やたらと青く澄んでいた。砂浜の白が美しい。最後なのに哀愁も憂いも生まれないのは、やっぱり鮮やかすぎる海の色のせいだろうか。こんなにも、ただひたすらに明るい夏を味わうのは、たぶん生まれて初めてだった。
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