15 / 21
三日目
14 * ラストナイトの空の色
しおりを挟む帰りのバスはすごい混雑具合だった。大勢の人達が一斉にバスに乗ろうとするのだから仕方あるまい。先ほどまで「精神の距離は近い」とか言っていた人々は、こうなればバスを奪い合うただの敵となる。人類の悲しい性だ。
結局、バスに乗るのはあきらめて、七人でぞろぞろと歩いて帰ることになった。寿司詰めになって帰るよりも、歩いて帰ってパンパンになったお腹の中を消化する方がお得な気がしたからだ。
ホテル近くまで戻ってきたときには、昨日のラウンジはもうすぐ閉まるという時間になっていた。だからといって、そのまま眠ってしまうのはもったいない。最後の夜だ、名残惜しいではないか。
街にはまだ開いている店も多かった。だったらいっそ買い物タイムにしよう、という流れになる。買い物タイムがやたら多い気がするが、かまわない。グアムとはきっとそういうものなのだ。明日の予定も、半日買い物だ。
つぐみたちは見たい店があったらしく、翌朝の集合時間を決めて、解散した。
ところでみなさんは、ハードロックカフェという服屋をご存じだろうか。わたしはこのときまで知らなかった。
羽斗がいきなり「ハードロックカフェに行きたい」と言いだしたとき、驚いた。バンドや楽器に興味なし、好きなアーティストはAAAである羽斗が、ハードロック? そしてあれだけ食べておきながら、まだ食べるのか?
連れられたところは、Tシャツがたくさん売っている店だった。
「ハードロックカフェって、服なのか。カフェなのに」
「カフェもあるけどね。Tシャツほしくてさ」
「好きな人は好きだよね、ここのTシャツ」
勝手知ったる様子のひばりも、羽斗と一緒にTシャツを見て回っていた。あれ、わたしもしかして、すごい恥ずかしいこと言ったかな。なんとも言えない気持ちになる。
そういえば昔、友達のTシャツを見て「バナナのTシャツかわいい~」と言い「アンディ・ウォーホル、知らないの?」と怪訝な顔をされたことがあった。それ以来、服に対して余計なことを言ったり、書かれた文字を読んだりするのはやめにしたのだ。ちなみにアンディ・ウォーホルはポップアートの画家であり、ブランドではないというのを、これを書きながら検索して知った。
ウィンドウショッピングを一通り楽しみホテルに戻ると、つぐみから「プールサイドのデッキチェアで酒を飲んでいる」という連絡があった。迷ったが最後の夜なので、わたしたちも行ってみることにする。
デッキチェアが並んだその場所は、浜辺から一階分ほどあがったところにあった。暗い海を見渡すことができる。
雨で濡れたデッキチェアに慎重に横たわり空を見上げると、わずかながら星が見えた。南の島といえば星がたくさん見えるものだと思っていたが、そうじゃないのだ。グアムは明るい街だから。その場に行かなければわからないことがたくさんある。
物思いにふけりながら、つぐみがくれたチョコレートを食べたらタバスコ味だった。辛かった。絶対に許さないと思った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。


【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜
珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。
2匹の怪獣さんの母です。11歳の娘と5歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。
毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる