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三日目
12 * 南の島の落とし物
しおりを挟むバナナボートから降りたら、スマートウォッチの時計部分だけがなくなっていた。バンドはついたまま、見事に大事なところだけ抜け落ちている。シュールだった。
すると、続いてひばりも耳に手を当て、
「あれ、ピアスがない! キャッチだけ耳にくっついてる……」
と紛失報告をした。世界三大珍紛失方法の二つが揃い踏みといったところだろうか。
どちらもわりと小さな物なので、沖で落としたとしても浅瀬にあるとしても、見つけるのは難しそうだった。日本に帰ったあとも、ピアスと時計はグアムの海の底できらめき続けるのだ。ウミガメが誤飲してしまわないことを祈るしかない。
昼食は島にある、セルフサービスのレストランでとった。ビュッフェ形式になっており、好きな物を持っていける。カレーやそうめんなどの日本食も用意されていた。
置かれている物は一通り食べたくなってしまうタイプのわたしは、あっさりした羽斗のトレイの上を見て複雑な気持ちになった。彼は小食かつ、欲がない。お腹がそこまですいていないにも関わらず肉を二本持ってきたわたしは、欲深い人間だろうか。
つぐみもひばりも羽斗も、グアムと書かれたビールを片手に食事をしていた。ちょっとうらやましい。昼間から飲むビール最高、と彼女たちのように言ってみたい。喉ごしを味わう、とよく言われるそのおいしさが、わたしにはよくわからなかった。悔しい。かわりに肉をかじる。昼間からかじる肉最高、と言ってみる。
食事を終え、時計に目をやった、つもりだったが、腕には時計部分がないただの黒いバンドが巻き付いていた。ああそうだったと思い母に聞くと、十二時。帰りの舟まで、あと二時間ほどある。
そうなれば、再び海に入るしかないだろう。こんなにきれいな海なのだ、入らないという選択肢はない。……と思ったら、入らないという選択肢がある人たちもいた。父も母も、ついでに羽斗も、パラソルの下での昼寝を選んだのだ。あしたのジョーのようにうなだれ眠る羽斗を無理やり引っぱりだすこともできず、まだ元気な人チームで海に入る。
あおむけになり浮かぶつぐみの彼を真似、みんなでぷかぷか浮かんだ。太陽が眩しい。雨期を感じさせないほどの晴天が広がっている。海に体をゆだねるのは気持ちがよかった。ゆりかごって多分こんなかんじだろう。
満足いくまで遊んだら、少し早めに水着から洋服に着替え、乗船する時間を待つことにした。何事も余裕が肝心だ。
更衣室から戻ると、さっき紛失した時計部分が、ころんとテーブルの上に置かれていた。これどうしたの、と驚いて聞くと、本部のようなところに届いていたのを見つけた父が、受け取ってきてくれたのだという。一時間ぶりの再会だ。不格好になっていたバンドに装着してやると、互いが再会を喜んでいるように見えた。
残念ながらひばりのピアスは見つからなかったので、それだけが帰国した今も、グアムの海で時を過ごしている。ちょっとうらやましくもある。
舟を待っている時間、近くの売店でアイスクリームも売っているとのことだったので、もう何度目かもわからないアイスを買った。もう海&アイス旅行と言っても過言ではない。ストロベリーチーズケーキとロッキーロードのダブル、盛り方がとにかく大雑把かつ大胆だ。特盛りアイス、大きいは正義。
たくさん遊んでたくさん食べ、帰りの舟も、ホテルまでのバスも、ぐっすり眠った。まるで小学生の夏休みだ。陽光を浴びて、たくさん笑って体を動かして、安心して眠る。
だけど、まだまだ一日は終わらない。今日の夕飯は、ディナーショーに行くことになっているのだ。
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