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二日目
5 * 七時の市場は雨上がり
しおりを挟むひばりの朝は早い。昨夜ハーゲンダッツを食べホテルに戻ったあとすぐに眠ってしまい、朝風呂に入らなければならないからである。
すずめの朝は遅い。一人暮らしの家ではがんばって自分で起きるが、母もひばりもいるホテルの部屋の中では誰か起こしてくれるだろうという甘ったれモードに切り替わるからである。
ただ、遅いといっても五時半だ。仕事の日並みに早い。しかし、これも朝市のため。朝早くなければ朝市ではない。六時にロビーに集合する約束になっていた。
こんな早朝集合にも関わらず、つぐみと彼氏と両親は昨夜、ハーゲンダッツを食べた後に最上階のラウンジに行き、お酒飲み放題、つまみ食べ放題の贅沢を尽くしてきたらしい。
JTBのプランで無料で使えるんだよー、なんて言われたけれど、ラウンジが閉まる十五分前であるにも関わらず足を運ぶ元気がわたしにはなかった。ちなみに母は、行くか行かないか部屋でさんざん迷ったあげく、ラウンジが閉まる五分前に到着し、つぐみ曰く「うろうろしている間に閉店になった」らしい。
父はラウンジから出たさらにそのあと、遅くまでやっているコンビニ的な店に行って酒を買い、ベランダで一人飲みをしたという。ちゃんと起きているかと心配になり、部屋と部屋をつなぐ扉(コネクティングルームというものらしかった)を覗いてみると、父はほぼ支度を終えていた。一方で羽斗はまだ、半分寝ている。父の体力ゲージはどうなっているんだろう。
朝市へは、リムジンで行くことになっていた。せっかくだから乗ろう、という父の計らいだ。ホテルを出て、停まっているリムジンを見て、わたしは思わず笑ってしまった。異物感がすごい。トリックアート、という言葉が頭上にぷかぷか浮かぶ。前方から写真を撮り、「ここからだと普通の車に見える!」というレベルの低さで一人盛り上がった。運転手さんは優しく日本語も堪能で、リムジンの前でわたしたちを並ばせ写真を撮ってくれた。
外見もすごいが、車内もおもしろかった。七人が顔を合わせるようにして座り、それでも余裕のある広さ。サイドにはシャンパングラスやワイングラスが並び、青い光がそれを照らしていた。照明や音楽をコントロールすることもできる。高級感あふれるその雰囲気にしばし酔いしれたが、実際その中で交わされた会話は「パリピが乗ってるやつっぽーい」「パリピは乗らなくね?」「ロンハーで淳が乗ってそー」「どっきり~」というようなものだった。
朝市、といっても正直期待していなかったのだが、到着すると想像の倍以上の規模に驚いた。なんでも売ってると聞いてはいたものの、食べ物や雑貨、野菜や植木、服にアクセサリー、本当になんでも売っていた。そして、ちらりと見ただけで安さに驚く。
集団行動するような場所ではないので、時間を決めて自由行動をすることになった。つぐみは彼氏と並んで我々の元から立ち去る。英語しか通じなそうだが、彼がいれば大丈夫だろう。
羽斗の第一声は、「タピオカが飲みたい」だった。タピオカ屋でバイトをしている彼は、さんざん「タピオカはもう下火だ」「売り上げも低下している」などと語っておきながら、でもやっぱりタピオカが飲みたいのだ。店員の鑑だ。
自由行動と言いながらもなんとなくその場に残っていた、つぐみたち以外の全員で、タピオカを探しつつ食べ物の店舗を見て回ることにした。なんとなく避けてきたが、そんなに言うならわたしもタピオカを飲もうではないか。
数分後、わたしがタピオカココナッツ、ひばりがタピオカバナナを飲む横で、羽斗は父と焼き鳥を食べていた。何がどうしてこうなったのかよくわからないが、昨日一日で二ハーゲンダッツ食べた彼の舌が、しょっぱさを求めてしまったのなら仕方あるまい。
ざっと朝市を見てまわり、気になった場所が二つあった。ひとつはかごバッグやピアス、鏡などの雑貨があるテント。もうひとつは、お祭りで売っているようなおもちゃがたくさん置かれたテントだ。
おもちゃの店では、電池で歩くプラスチックの犬やユニコーンが、サンプルとして足を動かしていた。日本であれば紐でつなぎ、円を描くように歩かせる気がするが、屋台だからかグアムだからか、犬もユニコーンもテントから吊され、ピイピイ言いながらひたすらに宙を搔いていた。なかなかシュールな光景だ。
ひばりは雑貨の店でかごバッグを買い、わたしも違う形のかごバッグを買うことにした。一ドルや二ドルでピアスが買える店の中で、三十ドルというバッグの値段は高く感じてしまったが、「買う理由が値段なら買うな、悩む理由が値段なら買え」というどこかで聞いた言葉に背中を押された。
レジのおばちゃんは、一緒にレジに持って行った二ドルのピアスをおまけしてくれ、ポーチもつけてくれた。つたない英語でしか喜びを伝えられないことが悔しかったが、「さんきゅーそーまっち」「あいむべりーはっぴー」の言葉におばちゃんがにこにこしてくれたのがうれしかった。
その後、集合時間ぎりぎりに「やっぱりほしい!」と母もかごバッグを買いに行き、親子でお揃いになった。同じようにおまけしてもらったポーチを見た父に、「おかあさん、そのおまけがほしくて三十ドル出したんでしょ?」といじられ、母は笑っていた。
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