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七月二日|緑の金魚
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今のわたしたちには緑の金魚が必要だ。そう真面目に伝えたけれど、彼はまともに話を聞いてくれなかった。「金の魚、で金魚だろ。なのに緑なんておかしくない?」なんて、しょうもないことを言う。そんなこと言ったら、普通の金魚が赤いのはいいの? 言い返しても、スマホに夢中な彼は言い返されたことにすら気付いていなかった。
だからもう、説明をするのも許可を得るのもやめて夕飯に出してしまうことにした。が、緑色が鮮やかすぎることもあって、焼き魚にしたらちっともおいしくなさそうだった。失敗だ。これで貴重な緑の金魚のうち、二匹を無駄にしてしまったことになる。というかそもそも金魚が食卓に出ること自体ありえないので、これじゃ彼にバレバレじゃないかと後から気が付いた。そんなわけで結局、金魚をすり身にして料理に混ぜることにした。
魚をすり身にするには、フードプロセッサーを使うのが手っ取り早いらしい。ネットで出てきた情報のとおりに調味料を加えて電源を入れたら、緑の金魚はあっというまに緑のペーストになった。気持ちいいくらいに一瞬だった。
「あ、今日チーズハンバーグ?」
何も知らない彼は、帰宅して早々にキッチンを覗くと、うれしそうな声を出した。料理の過程を見ていない彼は、ひき肉に金魚ペーストが混ざっていることなど知らないし、思ったよりも緑が目立ったので慌ててチーズをたっぷり乗せたことだって知るはずがない。世の中には知らなくていいことがたくさんある。たとえば、緑の金魚を食べるとどうなるかなんてことも。
彼はよっぽどハンバーグがうれしかったのか、今日はわたし以外の誰かに夢中になることもなく、弾むように「いただきます」と言って箸を手に取った。スマホはテーブルの上に伏せられたままだ。なんてお行儀がいいのだろう。ああ、いつもこうならば、緑の金魚なんて食べずに済んだかもしれないのに。
「ねぇ、今日はゆっくり味わって食べよう。出会ったときの話とかしながら」
微笑みながら言うと、彼は怪訝な顔を浮かべた。何を言ってるんだ、とでも言いたげだ。だけどその口は特製ハンバーグでいっぱいだから、言葉にはならない。そして彼は、数回咀嚼したそれを、ほら、今、……呑み込んだ。
「愛してるよ、ずっと」
それを見届けたわたしもハンバーグを頬張り、たっぷり味わってから、呑み込んだ。
だからもう、説明をするのも許可を得るのもやめて夕飯に出してしまうことにした。が、緑色が鮮やかすぎることもあって、焼き魚にしたらちっともおいしくなさそうだった。失敗だ。これで貴重な緑の金魚のうち、二匹を無駄にしてしまったことになる。というかそもそも金魚が食卓に出ること自体ありえないので、これじゃ彼にバレバレじゃないかと後から気が付いた。そんなわけで結局、金魚をすり身にして料理に混ぜることにした。
魚をすり身にするには、フードプロセッサーを使うのが手っ取り早いらしい。ネットで出てきた情報のとおりに調味料を加えて電源を入れたら、緑の金魚はあっというまに緑のペーストになった。気持ちいいくらいに一瞬だった。
「あ、今日チーズハンバーグ?」
何も知らない彼は、帰宅して早々にキッチンを覗くと、うれしそうな声を出した。料理の過程を見ていない彼は、ひき肉に金魚ペーストが混ざっていることなど知らないし、思ったよりも緑が目立ったので慌ててチーズをたっぷり乗せたことだって知るはずがない。世の中には知らなくていいことがたくさんある。たとえば、緑の金魚を食べるとどうなるかなんてことも。
彼はよっぽどハンバーグがうれしかったのか、今日はわたし以外の誰かに夢中になることもなく、弾むように「いただきます」と言って箸を手に取った。スマホはテーブルの上に伏せられたままだ。なんてお行儀がいいのだろう。ああ、いつもこうならば、緑の金魚なんて食べずに済んだかもしれないのに。
「ねぇ、今日はゆっくり味わって食べよう。出会ったときの話とかしながら」
微笑みながら言うと、彼は怪訝な顔を浮かべた。何を言ってるんだ、とでも言いたげだ。だけどその口は特製ハンバーグでいっぱいだから、言葉にはならない。そして彼は、数回咀嚼したそれを、ほら、今、……呑み込んだ。
「愛してるよ、ずっと」
それを見届けたわたしもハンバーグを頬張り、たっぷり味わってから、呑み込んだ。
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