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6 絶望

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 吹雪に見舞われ、隙間から冷たい風が吹く。
 木戸がガタガタと揺れて隙間風が暖めた部屋を冷ます。
 暖炉に当たっていても、ブルリと身震いして俺は凍えていた。
 なんてことはなく、火魔法で魔力を温めて全身を包み込みぬくぬくと快適に過ごしていた。
 魔力は火になったり水になったり出来るなら、温めたり冷たくしたり出来るんじゃないかと思って試してみたら、これが大当たり。
 お母さんも「面白い発想ね」と驚いていた。
 そして、お母さんは火属性の適性があるから、俺と同じように魔力を温めて纏いぬくぬくしている。
 それを羨ましがったお父さんを見て、温めた魔力を放出して部屋を満たすと、部屋全体が暖かくなった。

 吹雪も大分収まり、外の雪掻きをして町の広場に行くと、いくつもの屋台がもくもくと煙を上げていい匂いを漂わせる。
 名物のオークの串焼きを焼いていた。

「お父さん、オークの串焼き食べていい?」

「お、良いな!
小腹がすいたし、買い出しの前につまむか。
帰りにお母さんの分も買って帰ろう」

 2人で屋台に並び、オークの串焼きを2本頼む。
 目の前で焼かれるそれは、涎が溢れる程に美味しそうだった。
 1本25ルニスだ。

「はいよ!!
オークの串焼き2本!!」

 屋台のおっちゃんから焼きたての串焼きを受け取り頬張る。

「美味しい!!」

「そうかそうか!!」

 俺の言葉におっちゃんは満足そうに頷き、お父さんも笑みを浮かべながら食べていた。
 口の中に広がる芳醇な香りと濃厚な脂の甘味。
 肉汁が口の端から滴るほどに溢れる。
 あまりの美味しさにあっという間に完食した。
 残った串は置いてある小さな樽に捨てる。

 大満足して向かったのは、食料を扱うお店。
 そこには岩塩を扱っており、今日の目的はその岩塩を買うことだ。
 真っ白な製塩は大都市の大店にしか無く、かなり高価なものだ。
 だから広く流通しているのは岩塩で、製塩は滅多にお目にかかれない。
 一塊の岩塩を買っていく。
 この季節の塩のお値段は5レニー。
 割高になっている。
 他にも黒い粒のククの実を少量13レニーと45ルニスだ。
 帰りにさっきと同じ屋台で3本のオークの串焼き肉を買って帰路に着いた。

 その日の夜、就寝しようとしいていたところ、カンカンカンカンと鐘の音がけたたましく鳴る。
 火の取り扱いを誤った何処かの家が家事になったのかと慌てて家を飛び出す。
 近所の人も不安な様子で外に出てきてて、ご近所のワーフ一家が近寄ってくる。

「何事だろうか……?」

「さぁ……」

 お父さんがアマガと話す。
 鐘の音は鳴り止まず、しばらくすると報せが届いた。

「トロールだ!!
森からトロールが現れた!!」

 若い男が大声で走り回り報せる。
 近所の人達はこの自体に騒然となった。
 それから直ぐにドガーンとなにかが激しくぶつかる音が鳴り響く。
 その時騒然としていた人々はシーンと静まり返る。
 再び激しい音が鳴り響くと、何かが崩れる音がする。

「まさか……」

 誰かが呟いたその瞬間、住人たちはパニックになった。
 音がした遠くの方で悲鳴が聞こえる。
 アマガは一旦家に戻り、自身の剣と弓、ワーフの剣を持ってくる。
 お父さんもいつの間にか剣を取りに戻っていたようで、携えていた。

「ハル、よく聞くんだ。
これからお母さんと一緒に隣町のホルンに避難するんだ。
いいな?」

「お、お父さんは……?」

 ただならぬ様子に聞いてしまう。

「……この町の住人として町を守る義務がある。
だからお父さんはアマガさんと残るんだ。
なに、たくさん冒険者も居るし、町を守る兵士も居るんだ。
大丈夫だ」

 にっこり笑って大きな手で俺の頭をワシワシと撫でる。
 アマガもワーフに言って聞かせている。

「ルシア……ハルのことを頼む」

「アーシュ……絶対無茶はしないでね!!」

「あぁ、必ず二人のもとに戻ってくるから待っててくれ」

 抱擁を交わすお父さんとお母さん。
 俺はお母さんに手を引っ張られてワーフたちとともに避難する人たちの列に入った。

「お父さん!!
戻ってくるって信じてるからね!!
絶対に戻ってきてね!!」

 俺のありったけの大声に剣を掲げて答えてくれた。
 お母さんの俺を握る手が強くなったのを感じた。

 無事町を出た俺たちは、避難先となるホルンに向かう。
 雪が積もる街道になかなか前に進めないが、俺たち避難する人を守るように護衛する若い冒険者達が必死に道を作ってくれる。
 お母さんも火魔法の熱気で雪を溶かし、俺も手伝う。
 餌にありつけず、飢えて凶暴化しているゴブリンなどのモンスターはワーフ達若手の狩人が一丸となって対処していた。

 本来3日で行ける道を、1週間以上かけてやっと隣町ホルンに着いた。
 移動の間の食事などは、戦える冒険者や若手の狩人が冬眠しない動物を狩って飢えを凌いだ。
 俺も出来ることをするために、狩りに同行し課金貨を集めてこっそり塩などを課金して忍ばせて提供した。
 ホルンの人たちは避難してきた俺たちに驚き、事情を聞いて驚愕していた。
 この町に知り合いや親戚がいる人はその人のところに身を寄せ、居ない人は集会場を借りて避難生活をする。
 ホルンの冒険者が俺たちが暮らしていた町の偵察に向かい、ホルンに到着してから2週間ちょっとで現状を知ることが出来た。

 俺たちの住んでいた町は壊滅。
 町を守る為に戦っていた冒険者が敗走しているのを見つけ、保護して詳しい話を聞いたところ、トロールは5体居て、圧倒的な怪力と再生力で蹂躙し、残った人たちを貪り食っていたのだという。
 そのトロールの中に、一回り大きく、全身が燃えているかのように真っ赤な上位種が居て、ほとんどこの上位種のトロールにやられたのだという。
 3体はなんとか仕留めたが、残り一体とこの上位種は腹を満たすと森の中に消えていったらしい。

 その話に避難してきた俺たちは絶望し、愛する人、友達、親友、様々な思いに泣き叫ぶ人が居て、ホルンの町の人も絶望していた。
 お父さんは帰ってくることは無かった……。
 お父さんが帰ってこない絶望にお母さんは俺を抱きしめて泣く。
 俺の記憶している中で、3度めのお母さんの涙だ。
 俺自身も帰ってこなかったお父さんの記憶が走馬灯のように廻り、大粒の涙がとめどなく溢れた。
 強く頼もしくて優しいお父さんの楽しい記憶が溢れてくる。
 信じたくない。
 お父さんはきっと何処かで生きていると自己暗示するように自分に言い聞かせる。
 俺は涙を袖で拭い、お母さんの為に強くなると決心した。
 いつかきっとひょっこり帰ってくるお父さんを、心配させたバツとして殴り飛ばし、立派になったと褒めてもらうために。

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