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15 深き亡者の生贄2

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 俺達は今、地下7階の安全地帯に居る。
 各々が自由に休んでいるなか、俺は三人から少し離れて壁に凭れかかっていた。

『へ~、今ダンジョンに居るのか』

 通話しているのは誠司だ。

「深き亡者の生贄って言うAランクのダンジョンでな」

『絶対ヤバイやつだろそれ~』

 これまでの事を話すと誠司は興味津々といった感じであれこれ質問してくる。

『は~、お宝か~!!
いいなそれ!!
今度俺達もダンジョンに行けないかお願いしてみるよ。
晴貴はもうお宝を見つけたのか?』

「俺の悪魔が見つけてきたんだよ。
グレードAの小瓶に液体が入ってるやつ」

『それ絶対やばい薬かなんかだろ!!』

「かもな~」

『ところでさ~、今ポイントどれぐらい溜まってる?』

「ちょっと待ってて。
今確認してみる」

 異世界マーケットを開いて確認する。
 378万6098P

「ん……?」

『どうしたんだ?』

「いや……ちょっと……」

 もう一度確認すると、381万1339Pになっていた。
 今もなお上がり続けるポイントに俺は開いた口が塞がらない。
 あ、ポイントが一気に20万跳ね上がった。

「えっと……400万ちょいかなぁ……はは……」

『まじかよ!!
すげえじゃん!!
それでさ、ちょっと聞きたいんだけど、晴貴の例のスキルで漫画買えないかな?』

「漫画か?
えーっと、あった。
結構なんでもあるみたいだ」

『おおおおお!
思ったとおりだ!!
それで一つ頼みたいんだが、マガトキって漫画見てほしいんだけど……』

「ああ、お前がハマってるやつか。
見たぞ」

『何巻まで出てる?』

「64巻だな」

『やっぱり最新刊出てたか!!
それでだな……』

「いいよ。
すぐ送ってやる」

『ありがとう晴貴!!
訓練中にふと思い出してずっと気になってモヤモヤしてたんだよ』

 すごく嬉しそうな誠司。
 一冊が5万ポイントもするが、ポイントは今も尚増え続けてるから全く問題ない。
 俺もちょっと気になって、ゲームとか検索すると、しっかりあった。
 本体で約300万、ソフトで一番安いやつでも10万はする。
 今度暇なときでも買ってみるかと思いつつ、誠司に漫画の最新刊を送った。

 しかし、この増え続けるポイント。
 思い当たるのは一つしかない。

(フェリゴール、ちょっといいか)

(はい)

(今どこに居る?)

(地下25階です)

(もうそんなに進んでるのか!!
どんなモンスターと戦ってるんだ?)

(グールの群れとドラウグル、リビングメイル等です)

 結構なモンスターが居るみたいだ。

(強さはどれほどだ?)

(大したことはありません。
準備運動にもならない程度です)

 フェリゴールがそういうのならグザファンと一緒なら問題なくそこまで潜れる。

(わかった。
そのまま進んでくれ。
もし何かあればすぐに連絡をしてほしい。
あと、人間がいた場合も知らせてくれ)

(かしこまりました)

 フェリゴールとの念話が終わり、一息つく。

「どうぞ」

 グザファンはお茶を俺に差し出す。
 それを受け取り喉を潤して三人の元へ戻った。

 三人はいつも通り交代で休眠を始めており、今起きているのはダンだけだ。

「先に俺達が見張り番だ」

 ダンは俺にそう云う。

「わかった。
グザファンは先に休んでてくれ」

「はい。
お先に失礼致します」

 悪魔であるグザファンに睡眠は必要ないが、三人はそれを知らない為、人間だと思い込んでいる。
 だから怪しまれなようにそうさせている。

(いつ戻りに頼む)

(かしこまりました)

 表向きは休んでいるが、警戒はグザファンに任せている。
 何かあれば人知れず対処してくれる。
 だから俺達が休んでいるときにモンスターが襲ってくることはなく、その心配もない。
 ダンジョン攻略の一日目はこうして終わった。

 二日目。

 俺達は今地下8階を進んでいる。
 しばらく進むと分岐路があり、三方向にに別れている。

「こっちだ」

 ルインは右の道を往く。

(主、この先魔物がいます)

(どんな魔物かわかるか?)

(いえ、今まで遭遇してきたのとは別の魔物です。
気配が今までのより鋭いです)

(かわった。
俺達で対処するからグザファンは警戒を続けてくれ)

(かしこまりました)

 俺はモンスターの事は三人に告げず、そのまま前へ行く。

「グウウウウ……」

 明かりの魔道具が俺達を照らすよりも向こう側、薄暗い道の先でモンスターの唸り声が聞こえ、一同歩みを止める。
 俺達はダンジョンに入って初めて聞く声だが、ルインは違う。

「……グールだ」

 静かにそう告げた。

 ヒタヒタと足音がし、近づいてくる。
 薄く曖昧な明かりの境界線に一歩、そのモンスターが足を踏み入れた。
 徐々に明るみになるその姿。

「「ッッ!?」」

 ダンとエレナはグールを見て息を呑む。
 殆ど人と変わらない見た目に戸惑いを見せていた。
 だがやはりモンスターであるのは変わりない。
 目が完全に黒一色であり、犬歯が赤黒い色でかなり発達していて鋭く尖っている。
 俺もグールの姿は予想はしていたが、こうもほとんど人間と変わらない姿に同様していた。

「あれはモンスターだ!!
気をしっかりもて!!
さもないと死ぬぞ!!」

「グアアアアアアアアア!!」

 グールは咆哮を上げて襲いかかってきた。

 ルインが矢を射るがグールはそれを難なく躱した。
 俺は慌てて影腕を発動し、グールを拘束しようとするが、すばしっこく躱されてしまう。
 このままじゃまずいと思い、影腕を四本にして繰り出す。
 ルインは避けようとする瞬間に矢を放ちグールの気を引いて行動を逃げ場を制限させてやっと、俺の影腕がグールに纏わりつく。

「グアアアアアアアアアア!!!!」

 耳を劈く様な悲鳴をあげる。

 ギチギチと影腕がグールを締め付けて拘束するが、よほどの力があるのだろう、振りほどこうと暴れる。
 影腕を三本追加して締め上げるとやっと大人しくなった。

 物凄い力が影を通して伝わってくる。

「ダン!!
早く仕留めてくれ!!」

 俺の呼びかけにハッとしたダンは槍を構えて物凄い勢いで突きを放つ。
 だが、まだ戸惑いがあるようで、普段のような鋭さは感じられない。
 それでもグールの胸元を貫いた。

「まだだ!!
頭を潰せ!!
じゃないと再生する!!」

 ルインが厳しく言い放つ。
 確かに影から伝わる感覚でグールがまだ死んでいないのがわかる。

 グールは憎しみの眼差しをダンに向けていて、ダンはそれに怯んでいた。

「クソっ!!」

 ダンの様子にルインはそう吐き捨てて屋をグールの眉間へ放つが、それは弾かれた。
 ルインの放つ矢がどんなに鋭くても、グールの硬い表皮にはダメージが与えられないのだ。

 攻撃の要であるダンがあの様子じゃあどうしようもない。

(……グザファン、頼む)

(主のお望みのままに)

 一瞬でグールの前に現れると、グザファンはグールの頭を撫でるように首を捻り切った。
 影から伝わる力は抜け消えた。
 影腕を解くとグールはドサっと地面に倒れた。

 これがグールなのか、と倒れ死んだグールを見つめる。
 次第に溶けるようにダンジョンに吸収され、死体は消えて魔石と素材だけが残った。
 グールの素材は牙だった。

「ふぅ……これがグールだ。
ポイズンスライムやゾンビゴブリン、ブラックドッグみたいな雑魚とは違う。
油断しているとすぐに死ぬぞ」

 そう言いながら魔石と素材を拾うルイン。

「俺達は冒険者だ。
知っての通りモンスターを相手にするのが専門だ。
だけど、モンスターの中には人形のやつも存在することを忘れるな。
このダンジョンじゃグールは雑魚の部類だ。
そして、もっと厄介な人形のモンスターが居る。
やれるか?」

 問われる。

 俺は元々帝国等に居る召喚者を相手にするために召喚された。
 覚悟を持たなきゃ生きていけない。
 俺は黙って頷いた。

 ダンとエレナは真っ青な顔色で答えられないでいた。
 無理もない事だとルインは考えていた。
 人間相手に喧嘩は出来ても殺し合いなんてのはしたことはない。
 そういうのは傭兵が専門にやっている。
 冒険者はモンスターの討伐、魔境や秘境、ダンジョンの攻略等が主だ。
 傭兵は護衛や盗賊の討伐、戦争等を生業としている。
 人間相手には傭兵はエキスパートだが、冒険者はそうではない。
 忌避感を感じてしまうのだ。
 
「……続ける」

 ダンは覚悟を決めて答えた。

「いつかはそういうのに直面して対応しなきゃいけないときが来る。
それが今だったてだけのことだ……」

「わ、私も続けます!!」

 エレナもダンの後に答えた。

「わかった。
それじゃあ攻略を続ける。
さっきの通り、グールは動きが素早く力も強い。
そのうえ並外れた回復力も有している。
心臓を潰されたぐらいじゃ死なない。
確実に倒すには頭を潰す必要がある。
ダン、次からはしっかり頭を狙って潰してくれ。
今このメンバーで確実に倒せるのはお前とグザファンだけだからな」

「あぁ、次はしっかりやる」

「よし、行くぞ!!」

 覚悟を決めた俺達は足取り確かに前へと進んだ。

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