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4巻
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しおりを挟む第1話 協商人国シャンダオ
何気なく呟いた一言のせいで、遊戯と享楽を司る神、メシュフィムに異世界に転移された俺、西園寺玲真。
しかも、転移の際に半神という種族になり、唯一持っていたスマホをチート仕様にされてしまっていた。
俺はスマホの能力を駆使してファレアスという街に着くと、冒険者として活動を始め、フィランデ王国の首都サンアンガレスを目指して旅に出る。
新人冒険者のロマとフェルメ、ルイン、それから元日本人のタオルクを仲間に加え、迂余曲折ありながらも、俺達は首都に到着。半神は神の使徒として扱われることもあり、王族から歓待を受けた俺は、屋敷を貰ってそこを拠点にする。
首都で過ごしていた俺だったが、ある時、商人が集まってできた国、協商人国シャンダオの商人ディダルーに出会い、犯罪組織ノリシカ・ファミルについて聞かされる。
ノリシカ・ファミルは人身売買、殺人、暗殺、麻薬の密売等の極悪犯罪全般を行っており、そのボスの表の顔が、シャンダオを取り仕切る三豪商の一人、陸運の巨人ベンジャーノだというのだ。
情報の真偽を確かめるために調査を進めていた俺は、サンアンガレス内の貧民街アルガレストで、麻薬を売りさばく組織ノルスと対峙することになる。
無事にその組織を潰したものの、そのバックにはノリシカ・ファミルがいたらしい。
おそらく報復なのだろう、俺の大切な仲間達の命が狙われる事件が発生したのをきっかけに、俺はノリシカ・ファミルを壊滅させるためにシャンダオへと旅立つのだった。
サンアンガレスを出て三日。
俺は全力の高速飛翔を解除し、丘の上に降り立った。
風に靡く、青く茂る草を踏み、遠くに見える大都市を見下ろす。
「――あれがシャンダオの首都……グアンマーテルか」
俺はそう言ってアレクセルの魔套のフードを被る。
このアレクセルの魔套は自動修復、環境適応、形状変化など、様々な機能が備わっていて、魔力隠匿の効果によって、俺の濃密で神聖な魔力を隠すことができるのだ。これがないと、俺の接近がシャンダオの人間にバレかねない。
シャンダオは、俺と同じ使徒の一人、皇がいるメルギス大帝国に並ぶほどの大国だ。さらに国家として使徒に匹敵する力があるとも聞いている。
しかも現在は、新しくこの世界に現れた使徒である俺を懐柔し、その権力を取り込もうとする計画が動いているともいう。
正体がバレると、確実に厄介なことになるので、気を引き締めていかないといけない。
俺は隠密スキルを発動してグアンマーテルへと歩き始めた。
街の中へ足を踏み入れると、さすがは商人達が集まってきた国というべきか、ものすごい人口密度と賑わいだ。
「まずはブルオンを探さないと」
ブルオンはシャンダオの商人として唯一俺と直接取引している人物で、友人として仲良くしている。
彼とは、俺のスマホのアプリ、妖精の箱庭――文字通り妖精達が暮らす亜空間を生み出すアプリの中で作られた野菜を、定期的に買い取る契約をしている。
時期的に今はシャンダオにいるはずである。
しかし、しばらく歩いて気付いたのだが、どこの通り沿いにも大きな商会が立ち並び、様々な品物が扱われているようだった。
面白そうな商品がたくさんあって目移りしそうになるけど……まずはブルオンを探さないといけない。
といっても、闇雲に探しても時間がかかるだけから、適当にお店に入って聞いてみることにした。
そのお店は、魔道具を扱っているようだった。
「いらっしゃいませ!」
褐色の肌の明朗快活な若い男性店員が挨拶をしてくる。
「マギル王国から仕入れたばかりの最新の魔道具ですので、是非見てってください!!」
彼の言う通り、様々な魔道具が棚に置いてあり、なかなか興味深い。
俺が透明な玉の前に立って観察していると、店員が話しかけてきた。
「それは投影玉です! 風景を記録して投影することができます!」
「へぇ、面白いですね。記録できるのは静止画ですか?」
「いえ! 映像として記録できます!」
映像を記録できる魔道具か。何かの役に立つかもしれないから買っておくのもいいかもしれない。
「それじゃあ一個貰っていいかな」
「かしこまりました! 百二十ドラルになります!」
ドラルはシャンダオの通貨で、俺が拠点にしているフィランデ王国の通貨ビナスとのレートは……一ドラル=六ビナスだったか。
ブルオンとの取引ではドラルで支払ってもらっているから、たんまり持っている。
店員に見えないように、魔套の中でスマホを操作してインベントリから百二十ドラルを出して支払った。
そうだ、本題のことも聞かないと。
「あの、ここで使徒の野菜を買えると聞いたのですが、どこで買えますか?」
「それでしたらナリアス通りのブルオン商会ですね! ここからなら馬車で行くのがいいですが……まずはこのお店を出て左にまっすぐ行って、突き当たりを右に行くとガームル黒茶屋というお店があります。その前の道を左に行くと乗り合い馬車の停留所があります! そこでオーガシア広場行きの乗り合い馬車を使うと良いですよ!」
「ご丁寧にありがとうございます。行ってみます」
お店を出た俺は、教えられた通りに進み、停留所に到着した。
そこにはたくさんの馬車が停車していて、どこどこ行きと看板が掲げられている。
オーガシア広場行きの馬車に三十ドラルを支払って乗ると、ほぼ満席状態で、俺が乗車してすぐに出発となった。
ちょうど出るタイミングで良かったと胸を撫で下ろす。これに乗れてなかったら、どれだけ待たされたかわからないからな。
お店が立ち並び、様々な様相の人達が行き交うのを眺めながら馬車に揺られること約三十分で、オーガシア広場に到着した。
広場の中央には、厳かな石像が立っている。
観光をする旅人やこの街で活動しているであろう冒険者、職人や住民が多く、すさまじい喧騒だ。
広場の一角では、大道芸が行われていて歓声が上がっていた。
ものすごく興味があるけど、俺は近くで露店を出しているおじさんに声をかける。
「あの、ちょっといいですか?」
「お、いらっしゃい! なんか買ってってくれ!」
満面の笑みを浮かべるおじさん。
「えーっと……じゃあ、それをください」
青い石が嵌められたバングルを指差す。
「はいよ! 三十ドラルだ!」
三十ドラルを払いバングルを受け取った。
「ついでに道を尋ねたいのですが良いですか?」
「おう! どこに行きたいんだ?」
バングルを買ったからだろう、快く聞いてくれる。
「ナリアス通りに行きたいのですが、どう行ったら良いですか?」
「それなら、あそこの通りをまっすぐ行くとミドラス大書店があるから、その角を右に行くとナリアス通りだ!」
指をさして教えてくれる。
俺はお礼を言ってその場を離れ、ナリアス通りに向かった。
ナリアス通りには大きな建物が連なっている。ここにブルオンがやっているお店があるのだろう。
通りに入って少し歩いただけで、目的の店はすぐに見つかった。
一番人の出入りが激しいお店で、俺が売った妖精の箱庭の野菜が、店頭のガラスケースに鎮座しており、とても目立っていたからだ。
おそらくガラスケースにあるのは客引き用の展示だろう。
多くの人がそのガラスケースの中にある箱庭の野菜を珍しそうに、または羨望の眼差しで眺めていた。
俺は店頭の人だかりをスッと避けてお店の中に入る。
何かのお香だろうか、ほのかに甘いようないい匂いがする。
店内では、身なりの良いお客さんが従業員から妖精の野菜や果物を買っていた。
「いらっしゃいませ。どうぞゆっくりご覧になってください」
俺に気付いたらしき容姿のいい従業員が、綺麗な所作で頭を下げる。
その時に俺の身なりを観察する視線を感じた。
地球にいた頃、両親に連れられて高級店に行った時にそういう視線を感じたことがある。
身につけているものを観察して、どれぐらい金銭的余裕があるのかを判断しているのだ。
今俺に挨拶をした従業員も、お店の格に見合うかどうかをさり気なく観察したのだろう。
まぁ、アレクセルの魔套を被っているから、パッと見ただけじゃわからないだろうけど。
「すみません、個室は空いてますか?」
「個室でしょうか……少々お待ちください」
俺に声をかけられた従業員の男は、店の奥に確認しに行く。
「――お待たせいたしました。ご案内いたします」
どうやら問題なかったようで、個室に案内してもらい、俺は椅子に座って一息つく。
「自分はフィランデ王国から来ましたタロウと申します。本日はブルオン様と取引をしたくて参りました。品物はこちらになります」
俺は偽名を名乗りつつ、懐から物を取り出すふりをして、アレクセルの魔套の下でスマホを操作する。そして、小さな宝石が鏤められ、細かい装飾が施された白銀のブレスレットを取り出した。
これも野菜と同様、妖精の箱庭で妖精達が作った装飾品だ。
妖精の箱庭の中では、野菜や果物を作るだけではなく、酪農をしていたり、島に生える木を伐採したり、鉱石を採掘して精錬し、装飾品を作ったりと、何でも作っているのである。
従業員の男は、妖精が作った白銀のブレスレットの精巧な美しさに魅了されていた。
「是非これをブルオン様にお売りしたくて来ました。ご精査していただけると幸いです……」
「か、かしこまりました! 少々お待ちください!」
従業員の男は白銀のブレスレットをハンカチで丁寧に包み、個室を出ていった。
これで俺が来たことを察してくれたら良いけど……
そう心の中で思いながら戻ってくるのを待つ。
七分くらい経った頃、ドタドタと廊下を走る足音が聞こえてきた。
そしてその直後、バーンと個室のドアが開けられ、額から汗を滴らせハァハァと息を切らせたブルオンが入ってきた。
相変わらずひどく太った体で、指にはギラギラと宝石の指輪をしており、全身を貴族のように着飾っている。
「も、もしかしてリョーマ様ですか……?」
その言葉に、俺はフードを脱いで顔を見せる。
少し苦笑いを浮かべて右手を上げて挨拶をした。
ブルオンは俺がここにいることに驚愕し、ヨロヨロと椅子に座る。
そして少しして、落ち着きを取り戻したのを見計らって、こちらから話を始めた。
「驚かせてごめんね。緊急の用でこっちに来たんだけど、頼れるのがブルオンしかいなくてさ」
「そういうことでしたか……私にできることがありましたら何なりとお申し付けください」
「ありがとう。俺がここにいることは、ひとまず他の人には内密にお願い」
「かしこまりました」
「それで、ディダルーにこの手紙を渡してほしいんだけどお願いしていいかな?」
ブルオンが部屋に来るまでの間に書いておいた手紙を渡す。
俺がシャンダオの首都にいることや、速やかに内密で話がしたいことが書いてある。
ブルオンは頷くと、手紙を懐にしまった。
「ところで、リョーマ様は滞在する場所はお決めになられているのでしょうか?」
「いや、この街に到着してすぐにここに来たから、宿はまだ決めてないよ。これから探そうかなって。そうだ、よかったらいい宿を紹介してくれないかな」
「でしたら是非、我が家にお越しください!!」
ブルオンはずいっと身を乗り出して前のめりに提案してくる。
うーん、特に断る理由はないか。
「それじゃ、お言葉に甘えようかな」
「ありがとうございます! それでリョーマ様、これについて一つご相談があるのですが……」
さっき従業員の男に渡した白銀のブレスレットを取り出すブルオン。
「是非これを買い取らせていただきたいのですが」
「これからお世話になるからそれはプレゼントするよ」
「なんと!? よろしいのですか!?」
「うん。その白銀のブレスレットも妖精達が作ったものでね、近々売りに出そうか考えてるんだ」
「なるほど……その時は是非私にも……」
目を細めるブルオン。
「もちろん良いよ」
快く承諾すると、彼は満面の笑みを浮かべた。
「価格などについては追々話しましょう」
「承知いたしました!! ではさっそく、私の家にご案内いたしましょう」
ブルオンは従業員に帰ることを伝え、馬車の手配をさせる。
すぐに到着した馬車に一緒に乗り込み、ブルオンの邸宅に向かうのだった。
馬車が走ること十分。豪邸がいくつも立っている地域に到着した。
その中でもなかなかに立派な家の前に馬車が停まると、しっかりした身なりの壮年の使用人が玄関から出てきて、俺達を出迎えた。
「おかえりなさいませ、旦那様」
壮年の使用人の男が頭を下げると、ブルオンは大仰に頷いてこちらを見た。
「タロウ様、家で働くモリスです。モリス、大事なお客様だ。丁重にもてなしてくれ」
「ようこそお越しくださいましたタロウ様。よろしくお願いいたします」
俺は軽く会釈をする。
今は身分を隠しているから、素顔は見せないように魔套のフードを被り、ブルオンにタロウと呼ぶように言っている。
「さぁ、我が家をご案内いたします!」
そう言って、ブルオン自ら邸宅の中を案内してくれた。
かなり儲かっているようで、相当高価そうな置物や絵画が目立つ。
そうして一通り簡単に案内してもらった後、俺が寝泊まりする部屋に着いた。
「どうぞこの部屋をお使いください! 今夜はタロウ様を歓迎する夕食会を行いたいと思います。その時に私の家族を紹介させてください!」
「ありがとう。是非挨拶させてよ」
「はい! では失礼いたします。夕食の時にお呼びいたしますので、それまではごゆっくりお寛ぎください!」
ブルオンはモリスと一緒に部屋を出た。
俺はソファーに腰掛けて一休みする。
部屋は豪華なシャンデリアに大きなベッド、ふっかふかのソファーに高級そうな置物に絵画も飾られている。
ひとまずブルオンと接触できて、ディダルーに手紙を渡すようにお願いできたから、後は待つのみ。
特にやることもないので、固有空間――俺の地球での部屋を再現した空間から持ってきておいたラノベをインベントリから取り出して読み始めるのだった。
ラノベを読んでいたら、いつの間にか日が暮れていた。
もうそろそろ夕食かなと思った時に、タイミング良くドアがノックされる。
「どうぞ」
「し、失礼いたします。御夕食の準備が整いましたのでご案内いたします」
使用人のモリスが、緊張した面持ちで頭を下げる。
明らかにさっきと態度が違うのは、俺がどういう人物なのかブルオンから聞いたからだろう。
まぁ、一般人からしてみれば使徒と対面することは少ないだろうし、こうなるよな。
モリスはぎこちない様子で夕食をとる部屋に案内してくれる。
「タロウ様、ご到着されました!」
モリスは部屋の中にいる人達にそう告げると、ドアを開けた。
ブルオンは満面の笑みで待っていて、その隣には、小柄で可愛らしく美しい女性が緊張した様子で座っていた。
その隣には、彼女によく似た十代前半くらいの可愛らしい女の子が、にこやかに座っている。
「タロウ様! どうぞこちらのお席にお座りください!」
ブルオン自らが席に案内してくれる。
「まずは乾杯しましょう!」
自分の席に座ったブルオンがそう言うと、壁際に控えていた若い使用人が全員のグラスにワインを注ぐ。女の子には果実ジュースを注いでいた。
「タロウ様をお迎えさせていただけた栄誉に――乾杯!」
俺達はワイングラスを掲げ、一口飲む。
「さっそくですがタロウ様、家族を紹介させてください。私の隣に座っているのは妻のリメリスです!」
「リ、リメリスと申します。よろしくお願いします!」
席を立って恭しく頭を下げるリメリス。
ブルオンがこんな美しい女性を奥さんに迎えているのには、正直驚いた。どういう馴れ初めなのか非常に気になるところだ……
「タロウです。よろしくお願いします」
「リメリスの隣にいるのが、私達の娘のマルエーヌです!」
「マルエーヌと言います! タロウ様、よろしくおねがいします!」
「よろしくねマリエーヌ。タロウと言います。改めましてブルオンさん、今回はお招きいただきありがとうございます」
「いえいえ! こちらこそタロウ様をお迎えできて大変光栄です! お抱えの料理人が腕を振るって夕食を作りましたので、是非お召し上がりください!」
ブルオンがパンパンと手を叩くと、若い使用人がテーブルにある美味しそうな料理を皿に取り分けてくれる。
楽しく話をしながら食事をし、緊張していたリメリスも次第にリラックスして、楽しい夕食会になった。
美味しいご飯をご馳走になり、楽しい話もたくさんできて大満足だ。
和やかな夕食会も終わったところで、俺は自分の部屋に戻る。
特にすることもないから、スマホを出してアプリの妖精の箱庭を開いてみた。
妖精達はせっせと働いていて、いろんなものがアイテムボックスに貯められている。いつも通りだな。
「ん?」
そこで俺は、箱庭ショップに『覚醒の秘薬(フォノン)』というアイテムが一個だけ追加されているのを見つけた。
フォノンというのは、この妖精の箱庭で一番初めに召喚した妖精のことだろう。箱庭にある世界樹を管理している妖精王だ。
そのフォノンを覚醒させる秘薬というのはどんな影響があるのかかなり気になる。
だけど、その『覚醒の秘薬(フォノン)』を購入するのに、箱庭ポイントが一千万必要だった。
島を大きくしたいし妖精をもっと増やしたいし、施設を追加したいから一千万ポイントを貯めるには時間がかかりそうだ……
まぁ、こればかりは貯まるのを待つしかないか。
俺は次に神様クエストを開く。
この神様クエストというのは、神様から与えられた様々なクエストが表示されており、それをクリアしていくことで神様ポイントなどの報酬を獲得することができる。
神様ポイントは神様ショップというアプリで使うことができて、いろんなアイテムを購入したり、アプリをダウンロードできたりする。
他にも自分のステータスを伸ばしたり魔法などのスキルも覚えられたりと、いわゆるチートみたいな便利なものだ。
現在の神様ポイントは千四百六十二ポイント。
できるだけ貯めておこうと思っているのだが、固有空間の出入りにポイントを使ったり、強敵との戦いでスキルを取得したりとするうちに、なんだかんだポイントを使ってしまっていた。
せっかくシャンダオに来たので、何かちょうど良いクエストがないか見てみる。
シャンダオにあるダンジョンの攻略などいろいろ見ていく。
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