表紙へ
上 下
33 / 64
3巻

3-1

しおりを挟む



 第1話 帰還


 何気なくつぶやいた一言のせいで、遊戯ゆうぎ享楽きょうらくつかさどる神、メシュフィムに異世界に転移された俺、西園寺玲真さいおんじりょうま
 しかも、転移の際に半神デミゴッドという種族になり、唯一持っていたスマホをチート仕様にされてしまっていた。
 俺はスマホの能力を駆使くししてファレアスという街に着くと、冒険者として活動を始め、フィランデ王国の首都サンアンガレスを目指して旅に出る。
 新人冒険者のロマとフェルメ、ルイン、それから元日本人のタオルクを仲間に加え、迂余曲折うよきょくせつありながらも、俺達は首都に到着。半神デミゴッドは神の使徒として扱われることもあり、王族から歓待を受けた俺は、屋敷をもらってそこを拠点にする。
 冒険者らしく依頼を受けたり、この世界で俺以外に五人いる半神デミゴッド達と交流したりと平和に過ごしていた俺だったが、ある日、とあるダンジョンに挑戦することに。
 ガステイル帝国という名前の、アンデッドまみれのダンジョンを攻略した俺は、元スケルトンでヴァンパイアデビルに進化したスレイルと、大天使ルシルフィアを仲間に加えて、地上へと戻るのだった。


 ――そんなわけで、ダンジョンを出た俺達は首都サンアンガレスに戻ってきた。
 スレイルは好奇心旺盛おうせいな様子でキョロキョロ周りを見回して興奮し、ルシルフィアはそんなスレイルを微笑ほほえましく見ている。
 ちなみにルシルフィアには、三対六翼、純白の翼を隠してもらっている。そしてその声も、頭に響くようなものではなく、普通に聞こえるようになっていた。
 それにしても、二人はやはり目立つな。
 眉目秀麗びもくしゅうれいなルシルフィアと美少年のスレイルは、道行く老若男女ろうにゃくなんにょの注目を集め、いつの間にか人集ひとだかりができるほどだった。おかげで俺の存在感がかすんでいる。
 もっとも、それはダンジョンで手に入れたアレクセルの魔套まとうまとっているからというのもある。このローブは自動修復、環境適応、形状変化、魔力隠匿いんとく、清浄の効果を持っているのだ。
 このローブがなければ、俺の魔力とその神聖さによって、正体に気付く人が出てくるかもしれない。そうなったら、騒ぎになることは間違いない。
 そういう意味では、俺が目立たないのはありがたいことだった。

「お兄ちゃん、人がたくさんいるね!」
「迷子にならないように離れないでね」
「うん!!」
「リョーマ様、私におまかせください」


 ルシルフィアはそう言うと、スレイルと手をつなぎご満悦まんえつの様子だ。
 俺達が通りを進んで家に辿たどり着くと、門衛はすぐに俺に気付いた。
 そして慌てて門を開け、緊張した面持ちで直立する。
 俺達は敷地に入り、まっすぐ続く道を進む。敷地内の広大な庭園の向こうには大きな宮殿……俺の屋敷が見えた。

「あれがお兄ちゃんの家?」
「そうだよ」
「すごくおっきいね!!」

 はしゃぐスレイルを微笑ましく思いながら進むと、玄関前にはサンヴァトレが待っていた。

「おかえりなさいませ、リョーマ様。後ろのお二人は?」
「ただいま。こっちの二人は、男の子がスレイル、女性がルシルフィアだよ」
「そうでしたか。スレイル様、ルシルフィア様、私はリョーマ様にお仕えしておりますサンヴァトレと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 サンヴァトレは深々と頭を下げる。

「よろしくお願いします!!」
「よろしくお願いします」

 スレイルは元気よく挨拶あいさつをし、ルシルフィアは微笑む。
 そんな彼女の微笑みに、普段はポーカーフェイスのサンヴァトレが、若干じゃっかんほおを赤く染めていた。
 二人の紹介を済ませた俺達は、玄関の中に入る。
 まずは客間で一息。スレイルとルシルフィアはふかふかのソファーでくつろぐ。

「二人の部屋を用意するから、これからはその部屋を自由に使ってね」
「やったー!! ありがとうお兄ちゃん!!」
「お気遣い感謝します」

 それから俺はサンヴァトレに指示して二人の部屋を用意させて、二人を案内してもらう。
 俺はといえば、サンヴァトレを伴って私室に戻った。

「そういえば、俺がいない間、ロマ達は来た?」
「はい。二度ほどお見えになりました。最後にお会いしたのは十日前です」
「そっか」

 スマホを取り出してマップアプリを開く。このアプリは、一度会った相手がどこにいるかを表示させることができるのだ。
 ロマ達のアイコンを確認すると、ダンジョンの出入口のところにあった。
 ダンジョンの中は外からは表示されないので、彼らは攻略をしているのだろう。
 しばらくのんびりする予定だから、帰ってくるのを待とうかな。
 一息ついた俺は、スレイルとルシルフィアと一緒に、お気に入りの大浴場に向かった。
 本来の俺なら、ルシルフィアと一緒にお風呂ふろなんてとてもじゃないけど無理だ。俺も男だし、女性の裸を見たらそりゃあ性的に興奮する。
 だけど、使徒となった俺はそういう性欲が減退したようで、特段興奮もしない……というか、大天使に手を出すなんてことは無理だ。
 というわけで、仲良く三人でお風呂に入った。気分的にはただの家族だな。
 スレイルは大浴場で大はしゃぎし、大きな湯船をスイスイ泳ぐ。ルシルフィアは湯船にゆったりとかり、気持ちよさそうにしている。
 お風呂から上がったら三人で夕食にし、屋敷で雇っているシェフが作る、久しぶりのちゃんとした料理に大満足したのだった。


 翌日、俺達は朝から冒険者ギルドに向かった。
 広場までは馬車で向かったのだが、馬車を降りた瞬間、ルシルフィアやスレイルに注目が集まったのがわかった。
 ルシルフィアは純白の聖女のようなで立ちで、美しさが男達の視線を集めている。
 スレイルは使用人が用意した服を着ているから、貴族のお坊ちゃんみたいな格好になっている。可愛らしい容姿から、お姉さん方に人気なようだ。
 ギルドまで向かう道すがら、人々の注目を集めるが、その視線の先は主に二人で、フードを被っている俺に気付く人はいないようだった。
 そうしてギルドに到着するなり、ガラの悪い冒険者が、鼻の下を伸ばしながらルシルフィアに声をかけてくる。
 しかし当の本人は完全に眼中にないようだ。

「さぁ、リョーマ様。用事を済ませましょう」
「そ、そうだね」

 ルシルフィアが柔らかい笑みを浮かべて言ってくるのに、俺は思わず苦笑いする。
 一方で、無視された冒険者はムッとした様子だった。

「おいてめぇ、なに笑ってんだよ」

 俺の苦笑いが嘲笑ちょうしょうに見えたのか、冒険者が絡んでくる。
 するとスレイルが咄嗟とっさに、俺をかばうように前に出た。

「なんだぁ、このガキ。俺とやろうってのか?」

 絡んできた男はガハハハと笑う。

「大丈夫だよ」

 俺はそう言ってスレイルの頭をでると、男を無視してカウンターに向かった。

「おい! なに勝手に行こうとしてやがる!」

 俺の態度が気に入らないのか、苛立いらだちを見せて俺の肩をつかむ男。
 そこにギルドの職員が慌てて駆け寄ってきた。

「リョーマ様!! ベグアード様がお待ちですのでご案内いたします!!」

 ギルド職員が俺にかしこまる様子と、ベグアード――ギルドマスターの名前が出てきたことで、男はたじろぐ。
 そして俺の肩から手を離して、バツが悪そうに離れていった。

「すみません。ありがとうございます」
「い、いえいえ!! ではご案内いたします!!」

 ギルド職員の機転で難を逃れた俺達は、三人でベグアードのもとに向かった。

「リョーマ様!! お戻りになったのですか!!」

 椅子いすから勢いよく立ち上がり出迎えてくれるベグアード。
 俺達は勧められるがままに、応接用のソファーに座った。

「たしかダンジョンに行かれていたと思いますが……」
「ええ。昨日、ガステイル帝国を攻略して戻ってきました」

 俺の返事に、ベグアードは驚愕きょうがくする。

「あのダンジョンをもう攻略なされたのですか!?」
「はい」

 それから俺は、ガステイル帝国で何があったのかをベグアードに説明した。
 ベグアードは手に汗を握り、興奮した様子だ。

「――それで、ダンジョンを攻略する中で仲間になったのが、隣にいる二人です」
「なるほど……その子がリョーマ様が契約した従魔で、そちらの……御方が大天使様……ですか……」
「一応、二人の正体は秘密でお願いします」

 コクコクと勢いよくうなずくベグアード。
 ちなみに、ダンジョンで手に入れた魔石はスレイルに全部あげてしまったと話すと、少し残念そうにしていた。
 今日のところは戻ってきた報告をするだけの予定だったため、ギルドを後にした俺達は、王都をいろいろと見て回った。
 スレイルはずっとダンジョンで過ごしてきたから、外の世界に大はしゃぎだ。俺とルシルフィアはあっちこっちへと振り回されたが、ルシルフィアも一緒になってはしゃいでいる。
 楽しそうな二人に、俺は大満足だった。


 翌日、三人でのんびりと過ごしていると、サンヴァトレが部屋に入ってきた。

「リョーマ様、王宮から使者が参りました。応接室にご案内いたしましたが、いかがなさいますか?」
「わかった。すぐに応接室に行くよ」

 スレイルとルシルフィアは、俺のスマホの能力で生み出した固有空間――俺の地球での部屋を再現した空間から持ってきたボードゲームに夢中になっているから、二人を残して部屋を出る。
 応接室に向かう途中、使者はルイロ国王の側近であり、俺の顔見知りのガイフォル侯爵こうしゃくだと教えてもらう。
 俺が応接室の扉を開けると、ガイフォルがソファーから立ち上がって深く頭を下げる。

「お久しぶりでございます、リョーマ様!!」
「お久しぶりです、ガイフォルさん! どうぞお掛けになってください」

 向かい合ってソファーに座る。

「それで、突然どうしたんですか?」
「冒険者ギルドからリョーマ様の帰還と、ダンジョン攻略の知らせを受けて参りました。あのガステイル帝国を攻略したと聞き、ルイロ国王陛下は大変驚きになられていました。是非リョーマ様から直接お話を聞きたいということで、謁見えっけんの要請に参りました」
「なるほど。わかりました。それでは明日、王宮へお伺いいたします。それと、仲間を二人、ルイロ国王にご紹介したいのですが、よろしいでしょうか……?」
「もちろんでございます!! リョーマ様のお仲間でしたら、国王陛下も喜ばれると思います。ちなみに、そのお二方はこちらに……?」
「ええ。サンヴァトレ、お願いできる?」

 俺が頷きサンヴァトレに視線を向けると、すぐに部屋から出ていく。
 そしてしばらくすると、スレイルとルシルフィアを連れて戻ってきた。

「男の子がスレイル、女性がルシルフィアと言います」
「スレイルです!」
「ルシルフィアと申します」

 スレイルが元気よく挨拶をして、翼を隠して人間になりきっているルシルフィアは無表情で軽く頭を下げる。

「ガ、ガイフォルと申します。よろしくお願いします」

 挨拶が終わったところで、ガイフォルには話しておいた方がいいだろうと、二人の正体を教える。
 ガイフォルは開いた口がふさがらないといった様子だったが、俺を見ると納得したように頷いた。
 それからガステイル帝国の攻略の話をしているうちに、時間が過ぎていく。

「いやはや、さすがは使徒リョーマ様です! それでは、明後日みょうごにちにお迎えに上がりますのでよろしくお願いいたします」

 一通り話を終えると、ガイフォルは満足げにそう言って王宮に帰っていった。
 ガイフォルが帰ってから、サンヴァトレにスレイルとルシルフィア用の謁見の服を用意させることにした。
 一応、国王より神の使徒の方が身分は上だとはいえ、こちらもそれなりの服装をしておかないと互いに面目が立たない。
 裁縫さいほうスキルが高レベルの仕立屋が連れてこられ、あっという間に服が作られていく。
 そうして出来上がったのは、二人にぴったりのものだった。
 スレイルは刺繍ししゅうが施されたワインレッドのジャケットに、黒いズボンと黒の革靴。襟飾りもあり、まさに大貴族の子息のような出で立ちだ。
 ルシルフィアは装飾が施された純白のドレスになった。まさに大天使であるルシルフィアにぴったりなイメージのロイヤルドレスだ。
 あまりの美しさに、仕立てを行った仕立屋、着付けを手伝った女性の使用人達が頬を赤く染めて見惚みとれている。
 俺はといえば、前にファレアスの冒険者ギルドマスター、ギメルが仕立ててくれた服を着ていこうかと思ったのだが……

「リョーマ様、せっかくですし新しいのを仕立ててもらいましょう!」

 ルシルフィアが楽しそうにそう言った。

「う~ん、俺は前に作ってもらったのがあるから……」

 インベントリから出して見せる。

「とても素晴らしいとは思いますが、リョーマ様は私達の主です。これでは私達が目立ってしまって、誰が主なのか示しが付きません。さあ新しいのを仕立てましょう!」

 そう強引に決められ、俺も服を作ることになってしまった。
 それからルシルフィアはあーでもないこーでもないと真剣に悩み、夜遅くまでかかってしまったのだった。


 ガイフォルがやってきた二日後、俺達は謁見用の服を着て、王宮からの迎えを待っていた。
 俺の服は結局、上下ともに黒に赤紫の細かい刺繍が施された礼装になった。しかも赤い飾緒しょくしょ、金のサッシュ、黄色の肩章けんしょうと、まるで王子のような出で立ちである。さすがに階級章とか勲章くんしょう、儀礼刀なんてものはないが、もしあったら完全に軍人の礼服だ。
 このデザインは全てルシルフィアによるもの。
 かなり目立ってしまうような気がすると伝えたのだが、それでいいと言われてしまった。
 まぁ、俺がどんなに着飾っても、ドレスを着たルシルフィアが圧倒的にかがやいてて、俺より目立ってるのだが……
 ジュースを飲んでクッキーをつまみながらのんびりと待っていると、サンヴァトレが王宮からの迎えが到着したと知らせてくれた。
 正面玄関を出ると、豪華な馬車が二台停まっていて、その前にガイフォルが立っていた。
 玄関から出てきた俺達を見て一瞬目を見開き、ルシルフィアの美しさに見惚れている。

「ど、どうぞ馬車へ」

 国王の側近であり大貴族のガイフォルが緊張をあらわにしているのがなんだか面白い。
 そんな彼を見つつ、俺達は後ろの馬車に乗り込み王宮へと向かった。
 王家の家紋が施された馬車は多くの人の注目を集め、民衆はその場で立ち止まり頭を下げていた。それは上流階級の人々も同じで、貴族街に入ってからも続いた。
 馬車の小さな窓から眺め、自分が王子様になったかのような気分になって少しだけ高揚した。
 王宮に到着した馬車は、正面玄関前に停まる。
 玄関前には王太子おうたいしのロディアとそのきさきのサリアヌ、それから王太子の側近の貴族や従者等が出迎えていた。
 先導する馬車に乗っていたガイフォルが俺達の乗る馬車に来て、ドアを開けて頭を下げた。出迎えてくれる人達も一斉に深く頭を下げ、王太子と妃が俺達が出てくるのを待つ。
 まずは俺が先に降りて、次に降りてくるルシルフィアに手を差し伸べる。ルシルフィアは俺の手を取り馬車を降り、最後はスレイルが降りた。
 俺が先頭、その後ろにスレイルとルシルフィアが続いて、王太子のもとへ向かった。

「お久しぶりです、ロディア様、サリアヌ様」

 挨拶をして軽く頭を下げる。

「あ、頭をお上げください、リョーマ様!!」

 慌てる王太子に俺はすぐに頭を上げる。
 軽く話をしてから、王太子自ら国賓こくひんの間に案内してもらい、俺達はしばしそこで待つことになった。

「お兄ちゃんの家もすごいけど、ここも大きくて凄いねぇ!」

 好奇心旺盛にキョロキョロと室内を見るスレイル。そんな無邪気な姿に、ルシルフィアはニッコニコだ。
 俺はというと、ソファーに深く座り、スマホを持ってインベントリを見ていた。今回渡す贈り物の最終確認だ。
 あれこれとしっかり確認していると、ドアがノックされる。

「どうぞ」

 入室の許可をすると、若い貴族の男が緊張した様子で部屋に入ってくる。

「お、お初にお目にかかります! わたくし、サイール伯爵家当主をしておりますルミール・ルグル・サイールと申します! 謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします!」
「よろしくお願いします」

 俺達は彼に案内され、謁見の間の大扉の前に到着する。
 衛兵が大扉を開け、俺達に深く頭を下げた。
 赤い絨毯じゅうたんの上を進むと、今回もルイロ国王は玉座がある高段から下りて俺達を迎えた。

「ようこそお越しくださいました、使徒リョーマ様」
「お久しぶりです、ルイロ国王陛下」
「この度は我が王国最大にして凶悪きょうあくなダンジョン、ガステイル帝国を攻略したとお聞きしました。その偉業を称え、ルンシュ勲章を授与させていただきたく存じます」

 先ほど俺を出迎えた王太子が、装飾が施された銀の箱に入った勲章を持って前に出る。
 まさか国王から勲章をたまわるとは……思ってもいなかった。正直前回みたいに、簡単な謁見だけだと思ってたんだけどな。

つつしんでお受け取りいたします」

 受け取ると、ひかえていた貴族一同が拍手をする。
 俺はそれに驚いて一瞬ビクッとして、勲章を箱から落としそうになった。
 拍手が静まると、ルイロ国王は再び口を開く。

「リョーマ様の後ろにいらっしゃるお二方は、新たなお仲間だとガイフォルから聞きました」
「はい。ガステイル攻略の際、二人が仲間になりました。スレイルとルシルフィアです」

 二人を紹介する。この場では本来の正体を明かさず、ただ仲間だと言う。
 わきに控える貴族達は、やはりルシルフィアの美貌びぼうに見惚れていた。
 形式的な挨拶と勲章授与が終わり、俺達は謁見の間を後にし、国賓の間に戻った。
 前回同様、この後王族だけのサロンに招かれて、話をすることになっている。どちらかというとそっちがメインだな。

「ようこそリョーマ様、スレイル様、ルシルフィア様」

 サロンに案内されると、ルイロ国王が出迎えてくれた。

「お招きありがとうございますルイロ国王陛下。改めてご紹介します。こちらがスレイルで、こちらがルシルフィアです。ガステイル帝国を攻略するにあたって仲間になりました」
「リョーマ様がお一人であのダンジョンに向かわれたと聞いて驚きました。心配もしたのですが、攻略したと報告を受け、まさに度肝を抜かれました。さすがは使徒様だと強く再認識しましたよ」
「ねぇねぇ、ダンジョンってどんなところだったの?」

 まだ幼い第三王子レオワールが無邪気に俺に尋ねる。
 非公式の場だから、誰もそれをとがめず、むしろ微笑んでいた。そして、皆も同じことが気になっているようで、俺に期待に満ちた視線を向け、目を輝かせる。

「お話ししますよ。でも、その前に贈り物があるのでお受け取りください。それを摘まみながらのんびりと聞いていただけると幸いです」
「おぉ、かたじけない!」

 インベントリから大量のお菓子やジュース、お酒等を出すと、皆は大興奮で自分の欲しい物を手に取る。前回渡した物が好評だったからだろう。
 落ち着いたところで、ガステイル帝国の攻略について話した。
 おどろおどろしい内容に幼い王子はおびえ、荒事あらごとに慣れていない夫人方も青褪あおざめる。
 必要以上に怯えさせないようにマイルドに脚色しながら、スレイルとの出会い、ヴァンパイアロードのヴァレンスルードやガステイル皇帝といった強敵との戦いについて話す。
 特に戦いのシーンは、皆が前のめりになって手に汗握るように真剣に聞いていた。

「ふぅ……」

 俺の話を聞き終えた国王達は一息つく。まるで壮大な物語を全力で楽しんだかのような疲労感がうかがえる。だけど、その表情は満足げだった。
 その後は晩餐ばんさんまで招かれ、いろいろと話すうちに宿泊することになった。
 翌朝も朝食に招かれた後、俺達は手配してもらった馬車で王宮を後にし、屋敷へと戻った。

「おかえりなさいませ」

 サンヴァトレが出迎えてくれるのを見て、ほっと一息つく。

「ただいま。ん~、やっぱり我が家が一番だな。王宮はさすがに緊張しちゃうよ」

 背伸びをする俺にルシルフィアが微笑む。

「よ~し、ボードゲームしようか!」

 スレイルに言うと、「うん!」と元気よく返事をした。


しおりを挟む
表紙へ
感想 136

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。