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3巻
3-1
しおりを挟む第1話 帰還
何気なく呟いた一言のせいで、遊戯と享楽を司る神、メシュフィムに異世界に転移された俺、西園寺玲真。
しかも、転移の際に半神という種族になり、唯一持っていたスマホをチート仕様にされてしまっていた。
俺はスマホの能力を駆使してファレアスという街に着くと、冒険者として活動を始め、フィランデ王国の首都サンアンガレスを目指して旅に出る。
新人冒険者のロマとフェルメ、ルイン、それから元日本人のタオルクを仲間に加え、迂余曲折ありながらも、俺達は首都に到着。半神は神の使徒として扱われることもあり、王族から歓待を受けた俺は、屋敷を貰ってそこを拠点にする。
冒険者らしく依頼を受けたり、この世界で俺以外に五人いる半神達と交流したりと平和に過ごしていた俺だったが、ある日、とあるダンジョンに挑戦することに。
ガステイル帝国という名前の、アンデッドまみれのダンジョンを攻略した俺は、元スケルトンでヴァンパイアデビルに進化したスレイルと、大天使ルシルフィアを仲間に加えて、地上へと戻るのだった。
――そんなわけで、ダンジョンを出た俺達は首都サンアンガレスに戻ってきた。
スレイルは好奇心旺盛な様子でキョロキョロ周りを見回して興奮し、ルシルフィアはそんなスレイルを微笑ましく見ている。
ちなみにルシルフィアには、三対六翼、純白の翼を隠してもらっている。そしてその声も、頭に響くようなものではなく、普通に聞こえるようになっていた。
それにしても、二人はやはり目立つな。
眉目秀麗なルシルフィアと美少年のスレイルは、道行く老若男女の注目を集め、いつの間にか人集りができるほどだった。おかげで俺の存在感が霞んでいる。
もっとも、それはダンジョンで手に入れたアレクセルの魔套を纏っているからというのもある。このローブは自動修復、環境適応、形状変化、魔力隠匿、清浄の効果を持っているのだ。
このローブがなければ、俺の魔力とその神聖さによって、正体に気付く人が出てくるかもしれない。そうなったら、騒ぎになることは間違いない。
そういう意味では、俺が目立たないのはありがたいことだった。
「お兄ちゃん、人がたくさんいるね!」
「迷子にならないように離れないでね」
「うん!!」
「リョーマ様、私におまかせください」
ルシルフィアはそう言うと、スレイルと手を繋ぎご満悦の様子だ。
俺達が通りを進んで家に辿り着くと、門衛はすぐに俺に気付いた。
そして慌てて門を開け、緊張した面持ちで直立する。
俺達は敷地に入り、まっすぐ続く道を進む。敷地内の広大な庭園の向こうには大きな宮殿……俺の屋敷が見えた。
「あれがお兄ちゃんの家?」
「そうだよ」
「すごくおっきいね!!」
はしゃぐスレイルを微笑ましく思いながら進むと、玄関前にはサンヴァトレが待っていた。
「おかえりなさいませ、リョーマ様。後ろのお二人は?」
「ただいま。こっちの二人は、男の子がスレイル、女性がルシルフィアだよ」
「そうでしたか。スレイル様、ルシルフィア様、私はリョーマ様にお仕えしておりますサンヴァトレと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
サンヴァトレは深々と頭を下げる。
「よろしくお願いします!!」
「よろしくお願いします」
スレイルは元気よく挨拶をし、ルシルフィアは微笑む。
そんな彼女の微笑みに、普段はポーカーフェイスのサンヴァトレが、若干頬を赤く染めていた。
二人の紹介を済ませた俺達は、玄関の中に入る。
まずは客間で一息。スレイルとルシルフィアはふかふかのソファーで寛ぐ。
「二人の部屋を用意するから、これからはその部屋を自由に使ってね」
「やったー!! ありがとうお兄ちゃん!!」
「お気遣い感謝します」
それから俺はサンヴァトレに指示して二人の部屋を用意させて、二人を案内してもらう。
俺はといえば、サンヴァトレを伴って私室に戻った。
「そういえば、俺がいない間、ロマ達は来た?」
「はい。二度ほどお見えになりました。最後にお会いしたのは十日前です」
「そっか」
スマホを取り出してマップアプリを開く。このアプリは、一度会った相手がどこにいるかを表示させることができるのだ。
ロマ達のアイコンを確認すると、ダンジョンの出入口のところにあった。
ダンジョンの中は外からは表示されないので、彼らは攻略をしているのだろう。
しばらくのんびりする予定だから、帰ってくるのを待とうかな。
一息ついた俺は、スレイルとルシルフィアと一緒に、お気に入りの大浴場に向かった。
本来の俺なら、ルシルフィアと一緒にお風呂なんてとてもじゃないけど無理だ。俺も男だし、女性の裸を見たらそりゃあ性的に興奮する。
だけど、使徒となった俺はそういう性欲が減退したようで、特段興奮もしない……というか、大天使に手を出すなんてことは無理だ。
というわけで、仲良く三人でお風呂に入った。気分的にはただの家族だな。
スレイルは大浴場で大はしゃぎし、大きな湯船をスイスイ泳ぐ。ルシルフィアは湯船にゆったりと浸かり、気持ちよさそうにしている。
お風呂から上がったら三人で夕食にし、屋敷で雇っているシェフが作る、久しぶりのちゃんとした料理に大満足したのだった。
翌日、俺達は朝から冒険者ギルドに向かった。
広場までは馬車で向かったのだが、馬車を降りた瞬間、ルシルフィアやスレイルに注目が集まったのがわかった。
ルシルフィアは純白の聖女のような出で立ちで、美しさが男達の視線を集めている。
スレイルは使用人が用意した服を着ているから、貴族のお坊ちゃんみたいな格好になっている。可愛らしい容姿から、お姉さん方に人気なようだ。
ギルドまで向かう道すがら、人々の注目を集めるが、その視線の先は主に二人で、フードを被っている俺に気付く人はいないようだった。
そうしてギルドに到着するなり、ガラの悪い冒険者が、鼻の下を伸ばしながらルシルフィアに声をかけてくる。
しかし当の本人は完全に眼中にないようだ。
「さぁ、リョーマ様。用事を済ませましょう」
「そ、そうだね」
ルシルフィアが柔らかい笑みを浮かべて言ってくるのに、俺は思わず苦笑いする。
一方で、無視された冒険者はムッとした様子だった。
「おいてめぇ、なに笑ってんだよ」
俺の苦笑いが嘲笑に見えたのか、冒険者が絡んでくる。
するとスレイルが咄嗟に、俺をかばうように前に出た。
「なんだぁ、このガキ。俺とやろうってのか?」
絡んできた男はガハハハと笑う。
「大丈夫だよ」
俺はそう言ってスレイルの頭を撫でると、男を無視してカウンターに向かった。
「おい! なに勝手に行こうとしてやがる!」
俺の態度が気に入らないのか、苛立ちを見せて俺の肩を掴む男。
そこにギルドの職員が慌てて駆け寄ってきた。
「リョーマ様!! ベグアード様がお待ちですのでご案内いたします!!」
ギルド職員が俺にかしこまる様子と、ベグアード――ギルドマスターの名前が出てきたことで、男はたじろぐ。
そして俺の肩から手を離して、バツが悪そうに離れていった。
「すみません。ありがとうございます」
「い、いえいえ!! ではご案内いたします!!」
ギルド職員の機転で難を逃れた俺達は、三人でベグアードのもとに向かった。
「リョーマ様!! お戻りになったのですか!!」
椅子から勢いよく立ち上がり出迎えてくれるベグアード。
俺達は勧められるがままに、応接用のソファーに座った。
「たしかダンジョンに行かれていたと思いますが……」
「ええ。昨日、ガステイル帝国を攻略して戻ってきました」
俺の返事に、ベグアードは驚愕する。
「あのダンジョンをもう攻略なされたのですか!?」
「はい」
それから俺は、ガステイル帝国で何があったのかをベグアードに説明した。
ベグアードは手に汗を握り、興奮した様子だ。
「――それで、ダンジョンを攻略する中で仲間になったのが、隣にいる二人です」
「なるほど……その子がリョーマ様が契約した従魔で、そちらの……御方が大天使様……ですか……」
「一応、二人の正体は秘密でお願いします」
コクコクと勢いよく頷くベグアード。
ちなみに、ダンジョンで手に入れた魔石はスレイルに全部あげてしまったと話すと、少し残念そうにしていた。
今日のところは戻ってきた報告をするだけの予定だったため、ギルドを後にした俺達は、王都をいろいろと見て回った。
スレイルはずっとダンジョンで過ごしてきたから、外の世界に大はしゃぎだ。俺とルシルフィアはあっちこっちへと振り回されたが、ルシルフィアも一緒になってはしゃいでいる。
楽しそうな二人に、俺は大満足だった。
翌日、三人でのんびりと過ごしていると、サンヴァトレが部屋に入ってきた。
「リョーマ様、王宮から使者が参りました。応接室にご案内いたしましたが、いかがなさいますか?」
「わかった。すぐに応接室に行くよ」
スレイルとルシルフィアは、俺のスマホの能力で生み出した固有空間――俺の地球での部屋を再現した空間から持ってきたボードゲームに夢中になっているから、二人を残して部屋を出る。
応接室に向かう途中、使者はルイロ国王の側近であり、俺の顔見知りのガイフォル侯爵だと教えてもらう。
俺が応接室の扉を開けると、ガイフォルがソファーから立ち上がって深く頭を下げる。
「お久しぶりでございます、リョーマ様!!」
「お久しぶりです、ガイフォルさん! どうぞお掛けになってください」
向かい合ってソファーに座る。
「それで、突然どうしたんですか?」
「冒険者ギルドからリョーマ様の帰還と、ダンジョン攻略の知らせを受けて参りました。あのガステイル帝国を攻略したと聞き、ルイロ国王陛下は大変驚きになられていました。是非リョーマ様から直接お話を聞きたいということで、謁見の要請に参りました」
「なるほど。わかりました。それでは明日、王宮へお伺いいたします。それと、仲間を二人、ルイロ国王にご紹介したいのですが、よろしいでしょうか……?」
「もちろんでございます!! リョーマ様のお仲間でしたら、国王陛下も喜ばれると思います。ちなみに、そのお二方はこちらに……?」
「ええ。サンヴァトレ、お願いできる?」
俺が頷きサンヴァトレに視線を向けると、すぐに部屋から出ていく。
そしてしばらくすると、スレイルとルシルフィアを連れて戻ってきた。
「男の子がスレイル、女性がルシルフィアと言います」
「スレイルです!」
「ルシルフィアと申します」
スレイルが元気よく挨拶をして、翼を隠して人間になりきっているルシルフィアは無表情で軽く頭を下げる。
「ガ、ガイフォルと申します。よろしくお願いします」
挨拶が終わったところで、ガイフォルには話しておいた方がいいだろうと、二人の正体を教える。
ガイフォルは開いた口が塞がらないといった様子だったが、俺を見ると納得したように頷いた。
それからガステイル帝国の攻略の話をしているうちに、時間が過ぎていく。
「いやはや、さすがは使徒リョーマ様です! それでは、明後日にお迎えに上がりますのでよろしくお願いいたします」
一通り話を終えると、ガイフォルは満足げにそう言って王宮に帰っていった。
ガイフォルが帰ってから、サンヴァトレにスレイルとルシルフィア用の謁見の服を用意させることにした。
一応、国王より神の使徒の方が身分は上だとはいえ、こちらもそれなりの服装をしておかないと互いに面目が立たない。
裁縫スキルが高レベルの仕立屋が連れてこられ、あっという間に服が作られていく。
そうして出来上がったのは、二人にぴったりのものだった。
スレイルは刺繍が施されたワインレッドのジャケットに、黒いズボンと黒の革靴。襟飾りもあり、まさに大貴族の子息のような出で立ちだ。
ルシルフィアは装飾が施された純白のドレスになった。まさに大天使であるルシルフィアにぴったりなイメージのロイヤルドレスだ。
あまりの美しさに、仕立てを行った仕立屋、着付けを手伝った女性の使用人達が頬を赤く染めて見惚れている。
俺はといえば、前にファレアスの冒険者ギルドマスター、ギメルが仕立ててくれた服を着ていこうかと思ったのだが……
「リョーマ様、せっかくですし新しいのを仕立ててもらいましょう!」
ルシルフィアが楽しそうにそう言った。
「う~ん、俺は前に作ってもらったのがあるから……」
インベントリから出して見せる。
「とても素晴らしいとは思いますが、リョーマ様は私達の主です。これでは私達が目立ってしまって、誰が主なのか示しが付きません。さあ新しいのを仕立てましょう!」
そう強引に決められ、俺も服を作ることになってしまった。
それからルシルフィアはあーでもないこーでもないと真剣に悩み、夜遅くまでかかってしまったのだった。
ガイフォルがやってきた二日後、俺達は謁見用の服を着て、王宮からの迎えを待っていた。
俺の服は結局、上下ともに黒に赤紫の細かい刺繍が施された礼装になった。しかも赤い飾緒、金のサッシュ、黄色の肩章と、まるで王子のような出で立ちである。さすがに階級章とか勲章、儀礼刀なんてものはないが、もしあったら完全に軍人の礼服だ。
このデザインは全てルシルフィアによるもの。
かなり目立ってしまうような気がすると伝えたのだが、それでいいと言われてしまった。
まぁ、俺がどんなに着飾っても、ドレスを着たルシルフィアが圧倒的に輝いてて、俺より目立ってるのだが……
ジュースを飲んでクッキーをつまみながらのんびりと待っていると、サンヴァトレが王宮からの迎えが到着したと知らせてくれた。
正面玄関を出ると、豪華な馬車が二台停まっていて、その前にガイフォルが立っていた。
玄関から出てきた俺達を見て一瞬目を見開き、ルシルフィアの美しさに見惚れている。
「ど、どうぞ馬車へ」
国王の側近であり大貴族のガイフォルが緊張を露わにしているのがなんだか面白い。
そんな彼を見つつ、俺達は後ろの馬車に乗り込み王宮へと向かった。
王家の家紋が施された馬車は多くの人の注目を集め、民衆はその場で立ち止まり頭を下げていた。それは上流階級の人々も同じで、貴族街に入ってからも続いた。
馬車の小さな窓から眺め、自分が王子様になったかのような気分になって少しだけ高揚した。
王宮に到着した馬車は、正面玄関前に停まる。
玄関前には王太子のロディアとその妃のサリアヌ、それから王太子の側近の貴族や従者等が出迎えていた。
先導する馬車に乗っていたガイフォルが俺達の乗る馬車に来て、ドアを開けて頭を下げた。出迎えてくれる人達も一斉に深く頭を下げ、王太子と妃が俺達が出てくるのを待つ。
まずは俺が先に降りて、次に降りてくるルシルフィアに手を差し伸べる。ルシルフィアは俺の手を取り馬車を降り、最後はスレイルが降りた。
俺が先頭、その後ろにスレイルとルシルフィアが続いて、王太子のもとへ向かった。
「お久しぶりです、ロディア様、サリアヌ様」
挨拶をして軽く頭を下げる。
「あ、頭をお上げください、リョーマ様!!」
慌てる王太子に俺はすぐに頭を上げる。
軽く話をしてから、王太子自ら国賓の間に案内してもらい、俺達はしばしそこで待つことになった。
「お兄ちゃんの家も凄いけど、ここも大きくて凄いねぇ!」
好奇心旺盛にキョロキョロと室内を見るスレイル。そんな無邪気な姿に、ルシルフィアはニッコニコだ。
俺はというと、ソファーに深く座り、スマホを持ってインベントリを見ていた。今回渡す贈り物の最終確認だ。
あれこれとしっかり確認していると、ドアがノックされる。
「どうぞ」
入室の許可をすると、若い貴族の男が緊張した様子で部屋に入ってくる。
「お、お初にお目にかかります! わたくし、サイール伯爵家当主をしておりますルミール・ルグル・サイールと申します! 謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします!」
「よろしくお願いします」
俺達は彼に案内され、謁見の間の大扉の前に到着する。
衛兵が大扉を開け、俺達に深く頭を下げた。
赤い絨毯の上を進むと、今回もルイロ国王は玉座がある高段から下りて俺達を迎えた。
「ようこそお越しくださいました、使徒リョーマ様」
「お久しぶりです、ルイロ国王陛下」
「この度は我が王国最大にして凶悪なダンジョン、ガステイル帝国を攻略したとお聞きしました。その偉業を称え、ルンシュ勲章を授与させていただきたく存じます」
先ほど俺を出迎えた王太子が、装飾が施された銀の箱に入った勲章を持って前に出る。
まさか国王から勲章を賜るとは……思ってもいなかった。正直前回みたいに、簡単な謁見だけだと思ってたんだけどな。
「謹んでお受け取りいたします」
受け取ると、控えていた貴族一同が拍手をする。
俺はそれに驚いて一瞬ビクッとして、勲章を箱から落としそうになった。
拍手が静まると、ルイロ国王は再び口を開く。
「リョーマ様の後ろにいらっしゃるお二方は、新たなお仲間だとガイフォルから聞きました」
「はい。ガステイル攻略の際、二人が仲間になりました。スレイルとルシルフィアです」
二人を紹介する。この場では本来の正体を明かさず、ただ仲間だと言う。
脇に控える貴族達は、やはりルシルフィアの美貌に見惚れていた。
形式的な挨拶と勲章授与が終わり、俺達は謁見の間を後にし、国賓の間に戻った。
前回同様、この後王族だけのサロンに招かれて、話をすることになっている。どちらかというとそっちがメインだな。
「ようこそリョーマ様、スレイル様、ルシルフィア様」
サロンに案内されると、ルイロ国王が出迎えてくれた。
「お招きありがとうございますルイロ国王陛下。改めてご紹介します。こちらがスレイルで、こちらがルシルフィアです。ガステイル帝国を攻略するにあたって仲間になりました」
「リョーマ様がお一人であのダンジョンに向かわれたと聞いて驚きました。心配もしたのですが、攻略したと報告を受け、まさに度肝を抜かれました。さすがは使徒様だと強く再認識しましたよ」
「ねぇねぇ、ダンジョンってどんなところだったの?」
まだ幼い第三王子レオワールが無邪気に俺に尋ねる。
非公式の場だから、誰もそれを咎めず、むしろ微笑んでいた。そして、皆も同じことが気になっているようで、俺に期待に満ちた視線を向け、目を輝かせる。
「お話ししますよ。でも、その前に贈り物があるのでお受け取りください。それを摘まみながらのんびりと聞いていただけると幸いです」
「おぉ、かたじけない!」
インベントリから大量のお菓子やジュース、お酒等を出すと、皆は大興奮で自分の欲しい物を手に取る。前回渡した物が好評だったからだろう。
落ち着いたところで、ガステイル帝国の攻略について話した。
おどろおどろしい内容に幼い王子は怯え、荒事に慣れていない夫人方も青褪める。
必要以上に怯えさせないようにマイルドに脚色しながら、スレイルとの出会い、ヴァンパイアロードのヴァレンスルードやガステイル皇帝といった強敵との戦いについて話す。
特に戦いのシーンは、皆が前のめりになって手に汗握るように真剣に聞いていた。
「ふぅ……」
俺の話を聞き終えた国王達は一息つく。まるで壮大な物語を全力で楽しんだかのような疲労感が窺える。だけど、その表情は満足げだった。
その後は晩餐まで招かれ、いろいろと話すうちに宿泊することになった。
翌朝も朝食に招かれた後、俺達は手配してもらった馬車で王宮を後にし、屋敷へと戻った。
「おかえりなさいませ」
サンヴァトレが出迎えてくれるのを見て、ほっと一息つく。
「ただいま。ん~、やっぱり我が家が一番だな。王宮はさすがに緊張しちゃうよ」
背伸びをする俺にルシルフィアが微笑む。
「よ~し、ボードゲームしようか!」
スレイルに言うと、「うん!」と元気よく返事をした。
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