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2巻
2-3
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翌朝。
「リョーマ様、国王陛下とご家族の方々が朝食をご一緒にとのことですが、いかがなさいますか?」
部屋に来たガイフォルに尋ねられる。
俺は固有空間から持ってきた普段着に着替えていて、王宮を出てブラブラしながら帰ろうかと思っていたところだった。
「えっと、この服装で大丈夫でしょうか……?」
一応ブランド物ではあるが、かなりカジュアルな格好になっている。
この世界の服装に似せてコーディネートしているが、失礼にならないか心配だ。
「珍しいお召し物ですが、上品なもののようですので大丈夫かと思います。それもリョーマ様の御力で?」
「はい。一応俺の能力で持ってきたものです」
「でしたらそう説明していただければ納得なさると思います」
「わかりました。ではご案内お願いします」
広い王宮を案内してもらい、朝食用の部屋に通される。
すれ違う貴族や執事、使用人は皆足を止めて道を空け、俺に深々と頭を下げて通り過ぎるのを待っていた。
なんだか慣れない感じはあるが、これも仕方ない。
そういえば、今後貴族からの接触が増えてくるだろうから、その時はガイフォルに連絡するように言われたっけ。政争とかには興味がないから、巻き込まれないように注意しないとな。
それから国王とご家族の方々と朝食を一緒にいただく。
俺の服装については王太子がかなり興味を示しており、新たなファッションとして取り入れたいと興奮していた。
女性用のはないかと聞かれたが、当然持ってるはずもなく、残念そうだった。
一応ブランド物のファッション誌はあるから、裁縫のスキルを持っている人を紹介してもらい、再現して贈ってもいいかもな。
なごやかに歓談しながら美味しい朝食をご馳走になって、俺は大満足だった。
「リョーマ様、今後も是非気兼ねなく王宮にいらしてください。我々は快く歓迎させていただきます」
「はい。是非そうさせていただきます。この度は大変お世話になりました。今後ともよろしくお願いします」
挨拶を交わし、王宮を後にする。
ガイフォルが送ってくれるというので、前に貰った屋敷に案内してもらうようにお願いした。
そうして馬車に揺られること約十分。
そのお屋敷が見えてきた。
うわぁ、でっかぁー……。
ファレアスにある俺の屋敷と比べても、何倍も違う建物の大きさと敷地面積。
それもそのはず、今朝聞いた話によると、屋敷とは名ばかりで、ここは王族が所有する数ある宮殿の一つだったのだ。
何代か前の国王が建てたそうで、マルサート宮殿と呼ばれていた。
部屋は四百八十八室あり、現在の王宮に次いで五番目に大きい宮殿だそうだ。
敷地を隔てる門を通り抜け、屋敷前に到着し馬車を降りると、洗練された動きでお辞儀をする執事に出迎えられた。
「使徒リョーマ様のご到着を心よりお待ちしておりました。私はサンヴァトレと申します。宮殿と執事、使用人の統括管理を行っております」
「は、初めまして。今日からお世話になりますリョウマ・サイオンジと申します。よろしくお願いします」
さっそく宮殿内を案内してもらう。
見て回って思ったのは、まさに豪華絢爛。全てにおいて華美な装飾や飾りがされていて、こう言っては申し訳ないが、ファレアスの屋敷とは天と地ほどの差である。
まさかここまで想像を裏切るとは……良い意味でではあるが、もうお腹いっぱいだ。
使用人達が住む部屋は除いて、今回は俺が主に使う部屋だけを案内してもらう。
いくつもの部屋を見て回り、結構満足したところで、最後に寝室に案内してもらった。
うん、ここでいいかな。
「今からすることは、絶対に他言無用でお願いします」
真剣な表情でガイフォルとサンヴァトレに言うと、二人は緊張した面持ちになる。
「か、かしこまりました。肝に銘じて、絶対に秘密にすることを誓います」
「命を懸けてリョーマ様の秘密を守ると誓います」
それを聞いて頷き、俺は右手でスマホを取り出す。
まずはマップを開いてこの場所にピンを刺し、次に写真を撮る。
これは、俺のスマホの転移能力を使うための準備だ。
マップ上の設定したポイントに転移できるというもので、写真を撮るという手間は必要だが、とても便利な能力なのだ。
これで転移の設定は完了。一応書斎もやっておく。
書斎に向かう間、二人は神妙な面持ちだ。
到着し、寝室でやったのと同じことをすると、ガイフォルが質問してくる。
「お伺いしてよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか」
「その、先ほどリョーマ様は何をなされていたのですか?」
「……驚かないと約束してくださいね。あと、絶対に口外しないでください」
二人はコクコクと頷く。
「転移の設定をしていました。これは自分の特殊能力の一つで、場所を登録して自由に行き来する力があるんですよ」
俺の言葉に絶句する二人。
「そういうことなので、サンヴァトレさんには状況に応じて対応してほしいんです。自分はこの転移であちこち行って、この場所に戻ってきたりすると思うので……」
「か、かしこまりました……」
「リョ、リョーマ様、一つ質問してもよろしいでしょうか……?」
ぎこちなく頷くサンヴァトレさんの横で、困惑しながらも真剣な表情で俺に聞くガイフォル。
「えっと、はい」
「その……転移はリョーマ様だけが行えるのでしょうか?」
どう答えるべきか迷ったが、ガイフォルを信用して正直に答えることにした。
「……俺が認めた人なら一緒に転移することはできます」
「……左様でございますか……このことは私の心の内に秘めておくことを改めて誓います」
俺の使い方によっては、軍隊を連れてきたり、要人の暗殺にも使えたりすることに気付いたのだろう。ガイフォルは緊張した面持ちで頷いていた。
ふとスマホの時計を見ると、もう昼時だった。窓の外を見れば、太陽はほぼ真上だ。
「ご昼食はいかがなさいますか?」
そんな俺の動きで気付いたのか、サンヴァトレが尋ねてくる。
「う~ん、食べていこうかな。ガイフォルさんもご一緒にどうですか?」
「是非ご一緒させてください!!」
「それじゃあサンヴァトレさんお願いします。あ、良い食材があるのですが……」
「では、私がお預かりして料理人の所に持っていきます。その食材を使って料理をさせましょう」
「ありがとうございます!!」
アイテムバッグから野菜とお肉を出す。
もちろん妖精達が作った野菜と高級オーグル肉である。
サンヴァトレに預けて持っていってもらい、待つことしばし。
昼食ができたと呼ばれたので食堂に向かうと、沢山の料理が並んでいた。
一流の料理人の手で作られた料理は食材の良さも相まってかなり美味しく、舌鼓を打つ。
食べ終わって余韻に浸っていると、ガイフォルが頭を下げてきた。
「稀に見るご馳走をありがとうございました」
「いえいえ! 自分でも驚く程に美味しかったです。またご馳走します」
「是非お願いします!! その時は私の家族も連れてきて良いでしょうか? 私だけこんな美味しい料理を食べるのも忍びなくて……家族も一緒に楽しみたいのです」
「ええ!! その時は是非ご家族もお連れください。美味しいデザートも用意しておきますので」
「ありがとうございます!! それでは、私は今日はこれで失礼いたします。もし何かございましたら、遠慮なくご連絡ください」
「はい! よろしくお願いします」
帰っていくガイフォルを見送り、俺は伸びをする。
「さて、俺もそろそろ行こうかな」
「お出かけですか?」
「はい。このあとはお世話になっている冒険者のところに行ってきます。明日連れてくると思うので、もてなしの準備をお願いできませんか?」
「かしこまりました。ではそのようにいたします……お出かけに馬車は使われますか?」
まさか馬車まで用意してあるとは思っていなかったので驚きつつ、サンアンガレスの街広場であるオルレー広場までお願いすることにした。
そこから街を見つつ、冒険者ギルドに向かおうと思ったのだ。
すぐに馬車が用意され、オルレー広場に向かって出発する。
馬車に揺られながら窓の外を見ていると、昨日は緊張していて気付かなかった街の様子がよく見えた。
一等地ではそんなに見られなかったが、オルレー広場に近づくにつれて、浮浪者や浮浪児らしき姿を見かけるようになる。
貧富の差はどの世界でもあるだろうし、都会となると多くいるよな……そして、もう一つ気が付くのは、浮浪者・浮浪児の多くが獣人だということだった。
俺はそれがなんだか気になった。
オルレー広場に到着し、適当な場所で降ろしてもらってから、馬車は帰した。
サンアンガレス最大の広場というだけあって、多くの高級宿やレストランが建ち並び、いろんな通りに繋がっている。
商店が建ち並ぶ通りや、教会方面へ繋がる通り、酒場や劇場など娯楽が盛んな通りまである。
冒険者ギルド方面の大通りを進んでいくと、いろんな武具や防具、道具等のお店や、冒険者用の宿があった。この通りを行き交うのはもちろん冒険者ばかりだ。
並んでいるお店を見ていたら、インサイル魔導店なるお店を見つけ、気になったので入ってみることにする。
店内には、なにやらアイテムが並んでいるのだが、その中でも杖が売られているコーナーが目に入った。
短杖に長杖、貴族が使うようなステッキまである。
これも魔法杖なのか? ステッキを手に取り見る。
「何かお探しかい」
「おわっ!?」
しわがれたお婆さんの声が背後からして、驚きつつバッと振り返る。
そこには、かなり腰が曲がった小さなお婆さんが、俺を見上げてヒッヒッヒッと笑っていた。
まるで魔女だな……。
「あたしゃ魔女じゃないよ」
そう言うお婆さんに、また思わずビクッとしてしまう。
「か、考えてることわかるんですか……?」
「わからないよ。何となくそう思っただけさね。ヒッヒッヒッヒッ」
なんとも不気味だ。
「それで、何かお探しかい?」
「あ、えっと……自分は魔法を使うのですが、杖とか持っていなくて、どんなものがあるんだろって興味があって……」
「ほぉ、なるほどねぇ……」
お婆さんはジロジロと俺を見ると、トコトコと歩いて一つの商品を手に取り、俺の前に戻ってくる。
「これなんてどうさね。お前さんは若いから、この短いのを振り回すのがお似合いだよ。ヒッヒッヒッ。それは魔力回復補助と、魔法展開速度補助の効果が備わっているよ」
その杖を受け取って握る。
うーん……あんまりしっくりこないな。
「お気に召さないようだね。ヒッヒッヒッ、そこで待ってな」
お婆さんは再び奥へ行くと、赤い木の短杖を持ってくる。
「これはどうだね」
そう言って俺に手渡してきた。
握ってみると、妙に手に馴染みしっくりくる。
しかもその杖は、俺の魔力に呼応しているかのように、淡く七色に光り始めた。
「ほぉ、面白いね。この杖を持ってここまで反応する人は初めて見たよ」
「あ、あの、この杖は……?」
「これはね、聖域にしか生えないルグライドという神聖な木の枝でできた杖だよ。持ち主を癒やして魔を祓う力があるよ」
確かに神聖な空気が全身を包んでるような気がする。
……いや、気がするじゃなくて杖から神聖なオーラが出て、俺の全身を包んで白く輝いていた。
「ヒッヒッヒッ、神々しいねぇ。まるで神様みたいさね」
「こ、これは持ってるだけでかなり目立ちますね……やめときます……」
「それならこれはどうだい?」
赤い宝石がはめられた指輪を差し出してくる老婆。
「これは?」
「魔法の媒介になるのは何も杖だけじゃないのさ。指輪だったり腕輪だったり、ネックレスだったり本だったり……なんでもあるよ」
「へぇ~。しかしこの指輪、綺麗な宝石ですね」
「それはフェニックスの涙と呼ばれる宝石でね、火魔法の威力を増大させる。さらに持ち主の治癒力も高めてくれる優れ物だよ」
火魔法か……あまり使わないんだよな。
「水系のものってあります?」
「水かい? ちょっと待ってな」
お婆さんがゴツゴツの長杖を手に取ってわずかに振ると、そこらにあった商品がひとりでに集まってくる。
俺はその幻想的な光景に思わず見とれてしまう。
「こいつらが水魔法を高めてくれる道具だよ」
俺は目の前に浮かんでいる杖や指輪、魔導書を、一つ一つじっくりと見ていく。
そんな中、一つの長杖を手に取った。
一五〇センチ程の杖で、荒々しく大海を思わせるような何かを感じる。
全体的に深い青色で、よく見るとびっしりと鱗が生えているかのような模様、薄く光る文字、杖の頭の部分には黒く見えるほどに深く濃い青色の宝石がはまっている。
「ほぉ。海龍リヴァイアサンの素材で作られた杖だね。その杖は暴れん坊なんだけどねぇ、お前さんによく懐いてるように見える。どうする? 買ってくかい?」
「はい、これにします!!」
「はいよ。四十万ビナスになるよ。お前さんなら払えるだろう? ヒッヒッヒッ」
四十万!? この首都でもしっかりした家を買えるくらいじゃないか。
「えっと、ちょっと待っててください……」
俺はこの杖を気に入ってしまったからなんとしても買いたい。
お婆さんに見えないように背を向けてアイテムバッグとインベントリにある金貨を見る。
ハーデと呼ばれる、金貨百枚分の金塊が二本と、金貨二百枚。つまり、合わせてちょうど四十万ビナス……よし、あるな。
お金を取り出して支払う。
「毎度あり。また遊びにくるといいさね。ヒッヒッヒッヒッ」
全てを見透かすような不思議なお婆さんにお礼を言って、俺は杖を抱え意気揚々とお店を出るのだった。
そんなわけで、ウキウキしながら杖を手にギルドに向かっていたのだが……この杖、かなり目立つ。
すれ違う冒険者にかなり注目されてしまうので、仕方なくアイテムバッグにしまうことにした。
今度は寄り道せずにまっすぐに冒険者ギルドへ向かい、日が傾いてきた頃に到着した。
ギルド内は依頼をこなして帰ってきた冒険者で賑わっている。
俺は適当な受付に向かい、声をかける。
「すみません、リョウマと申します。ギルドマスターのベグアードさんに面会を申し込みたいのですが……」
そう言うと、受付のお兄さんはハッと顔を上げて慌てる。
「リョ、リョーマ様ですね!! 担当の者をお呼びしますので、少々お待ちください!!」
ビシッと背筋を伸ばしてぎこちない笑顔を作りそう言うと、手元にあるベルをチンと鳴らす。
女性の職員がやってきて受付のお兄さんから説明を受ける。
「ご、ご案内いたします!!」
これまた凄く緊張した様子で、周りの冒険者達の注目を集めてしまった。
三階の奥にあるギルドマスターの部屋につくと、すぐに中に通された。
「お帰りなさいませ、リョーマ様。王宮ではいかがお過ごしでしたでしょうか」
「はい、大変有意義な時間を過ごせました」
王宮でのことを話すとベグアードはうんうんと頷き、王族と直接話したり、晩餐や朝ご飯を一緒にさせてもらったりしたと言うと結構驚いていた。
「あの、それで、ロマ達はどうしてますか?」
「彼等でしたら、今日も簡単な依頼を受けていたので、そろそろ帰ってくる頃だと思います」
スマホのマップを確認すると、ロマ達のアイコンがこのギルドに向かって移動しているのが表示されている。
「それでしたら、少しここで待たせてもらって良いでしょうか?」
「どうぞどうぞ!! お寛ぎください」
ベグアードは快諾してくれた。さらに、ロマ達が受付に来たらこの部屋まで案内してくれる手配までしてくれた。
お礼に、インベントリにしまい込んでおいた、数万円はするクッキーの詰め合わせの缶箱を出す。
「よかったら食べてください。とても美味しいですよ」
缶箱の蓋を開ける。
「見たことがない焼き菓子ですね。それではお言葉に甘えて……」
太い指で器用にクッキーを一つ摘み、口に放り込むベグアード。
「ッ!!」
そして、目を真ん丸に見開くのを見ながら、俺も一枚食べる。
手作りにこだわり、素朴ながら上品さが際立つ味わいだ。バターはあまり使われておらず、さっぱりしている。
さらにもう一枚、しっかり噛み締めて味わう。
ベグアードとクッキーを食べながら一息ついていると、依頼から戻ってきたロマ達が部屋に案内されてきた。
部屋に入った瞬間、緊張した面持ちだったのが、俺がいるのを確認して満面の笑みになる。
「お、リョーマ、戻ってきたのか!!」
「さっき戻ってきたところだよ。合流できてよかった」
「あの、リョーマ様とギルドマスターが食べてるのって……」
ロマと俺が話していると、目敏くお菓子に反応するフェルメ。もう視線はクッキーに釘付けだ。
「美味しそうッスね」
「……」
ルインもフェルメと一緒になってお菓子を見ている。
せっかくなので、クッキーを何枚か分けて皆で食べることにした。
「「「!!」」」
一口食べて、ロマとフェルメ、ルインは驚いた顔をする。
タオルクはコーヒーが飲みたいと目で訴えてくるが、俺はスッと目を逸らした。
「いつも食べさせていただいているクッキーと味が違いますね!! これはこれですごく美味しいですー!!」
幸せそうに食べながら言うフェルメ。いつも食べているというのは、日本を代表するホテルが売っている高級クッキー詰め合わせのことである。あれもけっこういいやつなんだけどね。
それから、ロマ達にも王宮でのことを話し、帰りに杖を買ったことも話してアイテムバッグから取り出して自慢する。
「インサイル魔導店ってところで買ったんだけど、かなり品揃え良かったよ」
ロマ達は恐る恐るという感じはあるが俺の杖に興味津々なようで、その隣ではベグアードが顔を引きつらせていた。
「リョ、リョーマ様……その杖……何でできてるのですか……? ものすごい威圧感ですが……」
「えっと、お婆さんが言うには海龍リヴァイアサンの素材を使ってできた杖だって言ってました。威圧感、ありますか……?」
俺が首を傾げて皆に聞くと、ウンウンと力強く頷く。
俺は特にそういうのは感じないが、ロマ達は冷や汗を流していたのでアイテムバッグに再びしまった。
「海龍リヴァイアサンといえば、大昔に海を支配したという伝説の怪物ですよ!! その伝説の怪物の素材が使われた杖……あのものすごい威圧感も納得です」
うんうんと頷くフェルメ。
「へぇ、そんなに凄いのか。ちなみに、四十万ビナスもしたよ」
そう言うと、皆揃って目をひん剥いて驚いていた。
それから、今日はどこに泊まるかという話になる。
今日はそのへんで宿を取ろうと思っていたのだが、ベグアードが今日も屋敷に泊まっていってほしいと言うので、またお世話になることにした。
お礼として、ご家族にもクッキーの詰め合わせを贈ることにしようかな。
というわけでベグアードの仕事が終わるのを待って、皆で屋敷に向かった。
夕食をご馳走になり歓談したあと、それぞれの部屋に戻ることになったのだが、ロマ達に話があったので皆を部屋に呼んだ。
「ゆっくりしたいだろうに悪いね」
「気にするなって! それで、話ってなんだ?」
首を傾げるロマに、用件を伝える。
「俺さ、この首都に家を貰ったから、明日皆を招待したいんだけど……」
「まじか!! 凄いな!!」
「リョーマ様のお家行ってみたいです!!」
「きっとでっかい家ッスよ!!」
三人がワイワイと盛り上がる横で一人静かなタオルクに尋ねる。
「タオルクも来てくれるでしょ?」
「もちろん」
タオルクはそう言って、ニヤリと笑むのだった。
翌日、朝食もご馳走になった俺達はベグアードと彼の家族に感謝を告げ、屋敷を後にする。
街の観光を楽しみながら、のんびりと俺の家へと向かうことにする。
一等地区画に入り、周りが大きな屋敷ばかりになってくると、ロマ達はなんだか萎縮してしまっていた。
「こ、こんな凄いところに家を貰ったのか?」
「うん。あともう少しだよ」
皆が驚く反応が楽しみで、俺はワクワクしている。
そんなこんなで俺の敷地の門の前に到着すると、門衛に止められた。
「ここは偉大なる御方がお住まいの場所だ。一般人は不用意に近づくな」
あ、昨日来た時は馬車だったし、出る時に見かけた門衛じゃないから俺に気が付かないか。
俺はアイテムバッグから冒険者登録証を出して、見せる。
俺の魔力に反応して浮かび上がってきた情報を見た門衛は顔を真っ青にして、バッと直立不動になった。
「た、大変申し訳ございません!! どうかご無礼をお許しください!!」
「いえいえ、しっかり仕事をなさってのことですし、問題はありませんよ。これからもよろしくお願いします。あ、あと、彼らは俺の友達なので、今後彼らは通してあげてください。ロマ、フェルメ、ルイン、タオルクです」
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
ルイン達三人はガチガチに緊張していて、深々と頭を下げている。タオルクはそんな彼らに若干苦笑いを浮かべながら頭を下げていた。
門衛は彼らの顔を忘れないようにじっと見つめているので、それで緊張しているのもあるのだろう。
大きな門を通って敷地の中に入る。
ずっとまっすぐ続く道に、広大な庭園。そして奥に見える立派な宮殿。
四人はポカーンと口を開けて俺の後についてくる。
八分ほど歩いて、ようやく建物の前に到着した。昨日は馬車だったから気にならなかったけど、門から結構歩くな。
驚いてるかな? なんて考えてワクワクしながら振り返ると、ロマ達は宮殿を見上げて放心していた。驚きを通り越してしまったようだ。
「リョーマ様、国王陛下とご家族の方々が朝食をご一緒にとのことですが、いかがなさいますか?」
部屋に来たガイフォルに尋ねられる。
俺は固有空間から持ってきた普段着に着替えていて、王宮を出てブラブラしながら帰ろうかと思っていたところだった。
「えっと、この服装で大丈夫でしょうか……?」
一応ブランド物ではあるが、かなりカジュアルな格好になっている。
この世界の服装に似せてコーディネートしているが、失礼にならないか心配だ。
「珍しいお召し物ですが、上品なもののようですので大丈夫かと思います。それもリョーマ様の御力で?」
「はい。一応俺の能力で持ってきたものです」
「でしたらそう説明していただければ納得なさると思います」
「わかりました。ではご案内お願いします」
広い王宮を案内してもらい、朝食用の部屋に通される。
すれ違う貴族や執事、使用人は皆足を止めて道を空け、俺に深々と頭を下げて通り過ぎるのを待っていた。
なんだか慣れない感じはあるが、これも仕方ない。
そういえば、今後貴族からの接触が増えてくるだろうから、その時はガイフォルに連絡するように言われたっけ。政争とかには興味がないから、巻き込まれないように注意しないとな。
それから国王とご家族の方々と朝食を一緒にいただく。
俺の服装については王太子がかなり興味を示しており、新たなファッションとして取り入れたいと興奮していた。
女性用のはないかと聞かれたが、当然持ってるはずもなく、残念そうだった。
一応ブランド物のファッション誌はあるから、裁縫のスキルを持っている人を紹介してもらい、再現して贈ってもいいかもな。
なごやかに歓談しながら美味しい朝食をご馳走になって、俺は大満足だった。
「リョーマ様、今後も是非気兼ねなく王宮にいらしてください。我々は快く歓迎させていただきます」
「はい。是非そうさせていただきます。この度は大変お世話になりました。今後ともよろしくお願いします」
挨拶を交わし、王宮を後にする。
ガイフォルが送ってくれるというので、前に貰った屋敷に案内してもらうようにお願いした。
そうして馬車に揺られること約十分。
そのお屋敷が見えてきた。
うわぁ、でっかぁー……。
ファレアスにある俺の屋敷と比べても、何倍も違う建物の大きさと敷地面積。
それもそのはず、今朝聞いた話によると、屋敷とは名ばかりで、ここは王族が所有する数ある宮殿の一つだったのだ。
何代か前の国王が建てたそうで、マルサート宮殿と呼ばれていた。
部屋は四百八十八室あり、現在の王宮に次いで五番目に大きい宮殿だそうだ。
敷地を隔てる門を通り抜け、屋敷前に到着し馬車を降りると、洗練された動きでお辞儀をする執事に出迎えられた。
「使徒リョーマ様のご到着を心よりお待ちしておりました。私はサンヴァトレと申します。宮殿と執事、使用人の統括管理を行っております」
「は、初めまして。今日からお世話になりますリョウマ・サイオンジと申します。よろしくお願いします」
さっそく宮殿内を案内してもらう。
見て回って思ったのは、まさに豪華絢爛。全てにおいて華美な装飾や飾りがされていて、こう言っては申し訳ないが、ファレアスの屋敷とは天と地ほどの差である。
まさかここまで想像を裏切るとは……良い意味でではあるが、もうお腹いっぱいだ。
使用人達が住む部屋は除いて、今回は俺が主に使う部屋だけを案内してもらう。
いくつもの部屋を見て回り、結構満足したところで、最後に寝室に案内してもらった。
うん、ここでいいかな。
「今からすることは、絶対に他言無用でお願いします」
真剣な表情でガイフォルとサンヴァトレに言うと、二人は緊張した面持ちになる。
「か、かしこまりました。肝に銘じて、絶対に秘密にすることを誓います」
「命を懸けてリョーマ様の秘密を守ると誓います」
それを聞いて頷き、俺は右手でスマホを取り出す。
まずはマップを開いてこの場所にピンを刺し、次に写真を撮る。
これは、俺のスマホの転移能力を使うための準備だ。
マップ上の設定したポイントに転移できるというもので、写真を撮るという手間は必要だが、とても便利な能力なのだ。
これで転移の設定は完了。一応書斎もやっておく。
書斎に向かう間、二人は神妙な面持ちだ。
到着し、寝室でやったのと同じことをすると、ガイフォルが質問してくる。
「お伺いしてよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか」
「その、先ほどリョーマ様は何をなされていたのですか?」
「……驚かないと約束してくださいね。あと、絶対に口外しないでください」
二人はコクコクと頷く。
「転移の設定をしていました。これは自分の特殊能力の一つで、場所を登録して自由に行き来する力があるんですよ」
俺の言葉に絶句する二人。
「そういうことなので、サンヴァトレさんには状況に応じて対応してほしいんです。自分はこの転移であちこち行って、この場所に戻ってきたりすると思うので……」
「か、かしこまりました……」
「リョ、リョーマ様、一つ質問してもよろしいでしょうか……?」
ぎこちなく頷くサンヴァトレさんの横で、困惑しながらも真剣な表情で俺に聞くガイフォル。
「えっと、はい」
「その……転移はリョーマ様だけが行えるのでしょうか?」
どう答えるべきか迷ったが、ガイフォルを信用して正直に答えることにした。
「……俺が認めた人なら一緒に転移することはできます」
「……左様でございますか……このことは私の心の内に秘めておくことを改めて誓います」
俺の使い方によっては、軍隊を連れてきたり、要人の暗殺にも使えたりすることに気付いたのだろう。ガイフォルは緊張した面持ちで頷いていた。
ふとスマホの時計を見ると、もう昼時だった。窓の外を見れば、太陽はほぼ真上だ。
「ご昼食はいかがなさいますか?」
そんな俺の動きで気付いたのか、サンヴァトレが尋ねてくる。
「う~ん、食べていこうかな。ガイフォルさんもご一緒にどうですか?」
「是非ご一緒させてください!!」
「それじゃあサンヴァトレさんお願いします。あ、良い食材があるのですが……」
「では、私がお預かりして料理人の所に持っていきます。その食材を使って料理をさせましょう」
「ありがとうございます!!」
アイテムバッグから野菜とお肉を出す。
もちろん妖精達が作った野菜と高級オーグル肉である。
サンヴァトレに預けて持っていってもらい、待つことしばし。
昼食ができたと呼ばれたので食堂に向かうと、沢山の料理が並んでいた。
一流の料理人の手で作られた料理は食材の良さも相まってかなり美味しく、舌鼓を打つ。
食べ終わって余韻に浸っていると、ガイフォルが頭を下げてきた。
「稀に見るご馳走をありがとうございました」
「いえいえ! 自分でも驚く程に美味しかったです。またご馳走します」
「是非お願いします!! その時は私の家族も連れてきて良いでしょうか? 私だけこんな美味しい料理を食べるのも忍びなくて……家族も一緒に楽しみたいのです」
「ええ!! その時は是非ご家族もお連れください。美味しいデザートも用意しておきますので」
「ありがとうございます!! それでは、私は今日はこれで失礼いたします。もし何かございましたら、遠慮なくご連絡ください」
「はい! よろしくお願いします」
帰っていくガイフォルを見送り、俺は伸びをする。
「さて、俺もそろそろ行こうかな」
「お出かけですか?」
「はい。このあとはお世話になっている冒険者のところに行ってきます。明日連れてくると思うので、もてなしの準備をお願いできませんか?」
「かしこまりました。ではそのようにいたします……お出かけに馬車は使われますか?」
まさか馬車まで用意してあるとは思っていなかったので驚きつつ、サンアンガレスの街広場であるオルレー広場までお願いすることにした。
そこから街を見つつ、冒険者ギルドに向かおうと思ったのだ。
すぐに馬車が用意され、オルレー広場に向かって出発する。
馬車に揺られながら窓の外を見ていると、昨日は緊張していて気付かなかった街の様子がよく見えた。
一等地ではそんなに見られなかったが、オルレー広場に近づくにつれて、浮浪者や浮浪児らしき姿を見かけるようになる。
貧富の差はどの世界でもあるだろうし、都会となると多くいるよな……そして、もう一つ気が付くのは、浮浪者・浮浪児の多くが獣人だということだった。
俺はそれがなんだか気になった。
オルレー広場に到着し、適当な場所で降ろしてもらってから、馬車は帰した。
サンアンガレス最大の広場というだけあって、多くの高級宿やレストランが建ち並び、いろんな通りに繋がっている。
商店が建ち並ぶ通りや、教会方面へ繋がる通り、酒場や劇場など娯楽が盛んな通りまである。
冒険者ギルド方面の大通りを進んでいくと、いろんな武具や防具、道具等のお店や、冒険者用の宿があった。この通りを行き交うのはもちろん冒険者ばかりだ。
並んでいるお店を見ていたら、インサイル魔導店なるお店を見つけ、気になったので入ってみることにする。
店内には、なにやらアイテムが並んでいるのだが、その中でも杖が売られているコーナーが目に入った。
短杖に長杖、貴族が使うようなステッキまである。
これも魔法杖なのか? ステッキを手に取り見る。
「何かお探しかい」
「おわっ!?」
しわがれたお婆さんの声が背後からして、驚きつつバッと振り返る。
そこには、かなり腰が曲がった小さなお婆さんが、俺を見上げてヒッヒッヒッと笑っていた。
まるで魔女だな……。
「あたしゃ魔女じゃないよ」
そう言うお婆さんに、また思わずビクッとしてしまう。
「か、考えてることわかるんですか……?」
「わからないよ。何となくそう思っただけさね。ヒッヒッヒッヒッ」
なんとも不気味だ。
「それで、何かお探しかい?」
「あ、えっと……自分は魔法を使うのですが、杖とか持っていなくて、どんなものがあるんだろって興味があって……」
「ほぉ、なるほどねぇ……」
お婆さんはジロジロと俺を見ると、トコトコと歩いて一つの商品を手に取り、俺の前に戻ってくる。
「これなんてどうさね。お前さんは若いから、この短いのを振り回すのがお似合いだよ。ヒッヒッヒッ。それは魔力回復補助と、魔法展開速度補助の効果が備わっているよ」
その杖を受け取って握る。
うーん……あんまりしっくりこないな。
「お気に召さないようだね。ヒッヒッヒッ、そこで待ってな」
お婆さんは再び奥へ行くと、赤い木の短杖を持ってくる。
「これはどうだね」
そう言って俺に手渡してきた。
握ってみると、妙に手に馴染みしっくりくる。
しかもその杖は、俺の魔力に呼応しているかのように、淡く七色に光り始めた。
「ほぉ、面白いね。この杖を持ってここまで反応する人は初めて見たよ」
「あ、あの、この杖は……?」
「これはね、聖域にしか生えないルグライドという神聖な木の枝でできた杖だよ。持ち主を癒やして魔を祓う力があるよ」
確かに神聖な空気が全身を包んでるような気がする。
……いや、気がするじゃなくて杖から神聖なオーラが出て、俺の全身を包んで白く輝いていた。
「ヒッヒッヒッ、神々しいねぇ。まるで神様みたいさね」
「こ、これは持ってるだけでかなり目立ちますね……やめときます……」
「それならこれはどうだい?」
赤い宝石がはめられた指輪を差し出してくる老婆。
「これは?」
「魔法の媒介になるのは何も杖だけじゃないのさ。指輪だったり腕輪だったり、ネックレスだったり本だったり……なんでもあるよ」
「へぇ~。しかしこの指輪、綺麗な宝石ですね」
「それはフェニックスの涙と呼ばれる宝石でね、火魔法の威力を増大させる。さらに持ち主の治癒力も高めてくれる優れ物だよ」
火魔法か……あまり使わないんだよな。
「水系のものってあります?」
「水かい? ちょっと待ってな」
お婆さんがゴツゴツの長杖を手に取ってわずかに振ると、そこらにあった商品がひとりでに集まってくる。
俺はその幻想的な光景に思わず見とれてしまう。
「こいつらが水魔法を高めてくれる道具だよ」
俺は目の前に浮かんでいる杖や指輪、魔導書を、一つ一つじっくりと見ていく。
そんな中、一つの長杖を手に取った。
一五〇センチ程の杖で、荒々しく大海を思わせるような何かを感じる。
全体的に深い青色で、よく見るとびっしりと鱗が生えているかのような模様、薄く光る文字、杖の頭の部分には黒く見えるほどに深く濃い青色の宝石がはまっている。
「ほぉ。海龍リヴァイアサンの素材で作られた杖だね。その杖は暴れん坊なんだけどねぇ、お前さんによく懐いてるように見える。どうする? 買ってくかい?」
「はい、これにします!!」
「はいよ。四十万ビナスになるよ。お前さんなら払えるだろう? ヒッヒッヒッ」
四十万!? この首都でもしっかりした家を買えるくらいじゃないか。
「えっと、ちょっと待っててください……」
俺はこの杖を気に入ってしまったからなんとしても買いたい。
お婆さんに見えないように背を向けてアイテムバッグとインベントリにある金貨を見る。
ハーデと呼ばれる、金貨百枚分の金塊が二本と、金貨二百枚。つまり、合わせてちょうど四十万ビナス……よし、あるな。
お金を取り出して支払う。
「毎度あり。また遊びにくるといいさね。ヒッヒッヒッヒッ」
全てを見透かすような不思議なお婆さんにお礼を言って、俺は杖を抱え意気揚々とお店を出るのだった。
そんなわけで、ウキウキしながら杖を手にギルドに向かっていたのだが……この杖、かなり目立つ。
すれ違う冒険者にかなり注目されてしまうので、仕方なくアイテムバッグにしまうことにした。
今度は寄り道せずにまっすぐに冒険者ギルドへ向かい、日が傾いてきた頃に到着した。
ギルド内は依頼をこなして帰ってきた冒険者で賑わっている。
俺は適当な受付に向かい、声をかける。
「すみません、リョウマと申します。ギルドマスターのベグアードさんに面会を申し込みたいのですが……」
そう言うと、受付のお兄さんはハッと顔を上げて慌てる。
「リョ、リョーマ様ですね!! 担当の者をお呼びしますので、少々お待ちください!!」
ビシッと背筋を伸ばしてぎこちない笑顔を作りそう言うと、手元にあるベルをチンと鳴らす。
女性の職員がやってきて受付のお兄さんから説明を受ける。
「ご、ご案内いたします!!」
これまた凄く緊張した様子で、周りの冒険者達の注目を集めてしまった。
三階の奥にあるギルドマスターの部屋につくと、すぐに中に通された。
「お帰りなさいませ、リョーマ様。王宮ではいかがお過ごしでしたでしょうか」
「はい、大変有意義な時間を過ごせました」
王宮でのことを話すとベグアードはうんうんと頷き、王族と直接話したり、晩餐や朝ご飯を一緒にさせてもらったりしたと言うと結構驚いていた。
「あの、それで、ロマ達はどうしてますか?」
「彼等でしたら、今日も簡単な依頼を受けていたので、そろそろ帰ってくる頃だと思います」
スマホのマップを確認すると、ロマ達のアイコンがこのギルドに向かって移動しているのが表示されている。
「それでしたら、少しここで待たせてもらって良いでしょうか?」
「どうぞどうぞ!! お寛ぎください」
ベグアードは快諾してくれた。さらに、ロマ達が受付に来たらこの部屋まで案内してくれる手配までしてくれた。
お礼に、インベントリにしまい込んでおいた、数万円はするクッキーの詰め合わせの缶箱を出す。
「よかったら食べてください。とても美味しいですよ」
缶箱の蓋を開ける。
「見たことがない焼き菓子ですね。それではお言葉に甘えて……」
太い指で器用にクッキーを一つ摘み、口に放り込むベグアード。
「ッ!!」
そして、目を真ん丸に見開くのを見ながら、俺も一枚食べる。
手作りにこだわり、素朴ながら上品さが際立つ味わいだ。バターはあまり使われておらず、さっぱりしている。
さらにもう一枚、しっかり噛み締めて味わう。
ベグアードとクッキーを食べながら一息ついていると、依頼から戻ってきたロマ達が部屋に案内されてきた。
部屋に入った瞬間、緊張した面持ちだったのが、俺がいるのを確認して満面の笑みになる。
「お、リョーマ、戻ってきたのか!!」
「さっき戻ってきたところだよ。合流できてよかった」
「あの、リョーマ様とギルドマスターが食べてるのって……」
ロマと俺が話していると、目敏くお菓子に反応するフェルメ。もう視線はクッキーに釘付けだ。
「美味しそうッスね」
「……」
ルインもフェルメと一緒になってお菓子を見ている。
せっかくなので、クッキーを何枚か分けて皆で食べることにした。
「「「!!」」」
一口食べて、ロマとフェルメ、ルインは驚いた顔をする。
タオルクはコーヒーが飲みたいと目で訴えてくるが、俺はスッと目を逸らした。
「いつも食べさせていただいているクッキーと味が違いますね!! これはこれですごく美味しいですー!!」
幸せそうに食べながら言うフェルメ。いつも食べているというのは、日本を代表するホテルが売っている高級クッキー詰め合わせのことである。あれもけっこういいやつなんだけどね。
それから、ロマ達にも王宮でのことを話し、帰りに杖を買ったことも話してアイテムバッグから取り出して自慢する。
「インサイル魔導店ってところで買ったんだけど、かなり品揃え良かったよ」
ロマ達は恐る恐るという感じはあるが俺の杖に興味津々なようで、その隣ではベグアードが顔を引きつらせていた。
「リョ、リョーマ様……その杖……何でできてるのですか……? ものすごい威圧感ですが……」
「えっと、お婆さんが言うには海龍リヴァイアサンの素材を使ってできた杖だって言ってました。威圧感、ありますか……?」
俺が首を傾げて皆に聞くと、ウンウンと力強く頷く。
俺は特にそういうのは感じないが、ロマ達は冷や汗を流していたのでアイテムバッグに再びしまった。
「海龍リヴァイアサンといえば、大昔に海を支配したという伝説の怪物ですよ!! その伝説の怪物の素材が使われた杖……あのものすごい威圧感も納得です」
うんうんと頷くフェルメ。
「へぇ、そんなに凄いのか。ちなみに、四十万ビナスもしたよ」
そう言うと、皆揃って目をひん剥いて驚いていた。
それから、今日はどこに泊まるかという話になる。
今日はそのへんで宿を取ろうと思っていたのだが、ベグアードが今日も屋敷に泊まっていってほしいと言うので、またお世話になることにした。
お礼として、ご家族にもクッキーの詰め合わせを贈ることにしようかな。
というわけでベグアードの仕事が終わるのを待って、皆で屋敷に向かった。
夕食をご馳走になり歓談したあと、それぞれの部屋に戻ることになったのだが、ロマ達に話があったので皆を部屋に呼んだ。
「ゆっくりしたいだろうに悪いね」
「気にするなって! それで、話ってなんだ?」
首を傾げるロマに、用件を伝える。
「俺さ、この首都に家を貰ったから、明日皆を招待したいんだけど……」
「まじか!! 凄いな!!」
「リョーマ様のお家行ってみたいです!!」
「きっとでっかい家ッスよ!!」
三人がワイワイと盛り上がる横で一人静かなタオルクに尋ねる。
「タオルクも来てくれるでしょ?」
「もちろん」
タオルクはそう言って、ニヤリと笑むのだった。
翌日、朝食もご馳走になった俺達はベグアードと彼の家族に感謝を告げ、屋敷を後にする。
街の観光を楽しみながら、のんびりと俺の家へと向かうことにする。
一等地区画に入り、周りが大きな屋敷ばかりになってくると、ロマ達はなんだか萎縮してしまっていた。
「こ、こんな凄いところに家を貰ったのか?」
「うん。あともう少しだよ」
皆が驚く反応が楽しみで、俺はワクワクしている。
そんなこんなで俺の敷地の門の前に到着すると、門衛に止められた。
「ここは偉大なる御方がお住まいの場所だ。一般人は不用意に近づくな」
あ、昨日来た時は馬車だったし、出る時に見かけた門衛じゃないから俺に気が付かないか。
俺はアイテムバッグから冒険者登録証を出して、見せる。
俺の魔力に反応して浮かび上がってきた情報を見た門衛は顔を真っ青にして、バッと直立不動になった。
「た、大変申し訳ございません!! どうかご無礼をお許しください!!」
「いえいえ、しっかり仕事をなさってのことですし、問題はありませんよ。これからもよろしくお願いします。あ、あと、彼らは俺の友達なので、今後彼らは通してあげてください。ロマ、フェルメ、ルイン、タオルクです」
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
ルイン達三人はガチガチに緊張していて、深々と頭を下げている。タオルクはそんな彼らに若干苦笑いを浮かべながら頭を下げていた。
門衛は彼らの顔を忘れないようにじっと見つめているので、それで緊張しているのもあるのだろう。
大きな門を通って敷地の中に入る。
ずっとまっすぐ続く道に、広大な庭園。そして奥に見える立派な宮殿。
四人はポカーンと口を開けて俺の後についてくる。
八分ほど歩いて、ようやく建物の前に到着した。昨日は馬車だったから気にならなかったけど、門から結構歩くな。
驚いてるかな? なんて考えてワクワクしながら振り返ると、ロマ達は宮殿を見上げて放心していた。驚きを通り越してしまったようだ。
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