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2巻
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しおりを挟む第1話 首都サンアンガレス
何気なく呟いた一言のせいで、遊戯と享楽を司る神、メシュフィムに異世界に転移された俺、西園寺玲真。
しかも、転移の際に半神という種族になり、唯一持っていたスマホをチート仕様にされてしまっていた。
俺はスマホの能力を駆使してなんとかファレアスという街に辿り着き、そこで冒険者として活動しはじめる。
騒ぎになるから種族のことは隠したかったのだが、あっさりとバレてしまったのもあって、フィランデ王国の首都サンアンガレスを目指して旅に出た俺。
新人冒険者のロマとフェルメ、それからルイン達と共に旅を続け、ムエラゴという街に辿り着いたのだが、そこで俺が持つ地球の飲み物に目をつけた商人、オイグスと揉めてしまうことになる。
商人の側近で元日本人のタオルクという男の助けもあり、差し向けられた刺客を撃退した俺は、タオルクを仲間に加え、ムエラゴを出て再び王都を目指す旅に出たのだった。
そんなわけで、ムエラゴを脱出した翌朝六時前。
俺が目を覚ますと、他の四人はまだ眠っているようだった。
今いるのは、俺が持つチートスマホの休憩所というアプリで生み出した亜空間の中。
このアプリは、個室やベッド、テーブル、トイレにお風呂まである空間と行き来できるようになるもので、人目がない時はここで休むようにしている。
静かにベッドを出て、朝食の準備をしていると、タオルクも起きてきた。
「おはようございます。まだ早いので、もう少し寝てても良いですよ」
「いや、目が覚めたから起きるわ」
「そうですか。コーヒー飲みます?」
「おぉ、頼む」
俺はインベントリから、コーヒー粉と数十万はする高級コーヒーカップ、それからドリップポットを取り出し並べていく。これは固有空間という、地球で暮らしていた俺の部屋を完全再現した空間に繋がるアプリから持ち出しておいたものだ。一応、俺の家は財閥の家系だったので、こういった食器類は高級なものが揃っている。
水魔法でポットに水を注ぎ、火魔法でお湯を沸かして、細い注ぎ口から湯気が出てきたのを確認してから、チョロチョロとカップに注いだ。
「砂糖とミルクはどうします?」
「あ、あぁ……ミルクだけ頼む……」
俺の一連の行動に呆然としているタオルク。
「どうぞ」
コーヒー用のミルクを出して、コーヒーと一緒に差し出す。俺は自分のコーヒーに砂糖とミルクを入れ、一口飲んで皆が起きてくるまで寛ぐことにした。
すると、タオルクが目を丸くしながら尋ねてきた。
「……地球の物をなんでも出せるのか……?」
そうか、昨日はほとんど何も説明してなかったっけ。
「なんでもは無理ですよ。とある場所から物を持ってきてるだけです。ただ、オイグスにコーラを売らなかったように、それで金儲けをするつもりはありませんけどね」
「なるほど……勿体ないな。俺なら売っぱらって億万長者になろうとするけどなぁ」
「ハハハ……そういえばタオルクさんは、地球で生きていた頃はどんな生活をしてたんですか?」
「そうだなぁ……」
懐かしそうに遠くを見つめ、タオルクは口を開く。
地球にいた頃は大学生で、楽しい日々を過ごしていたのだが、恋人を庇って事故で死んだそうだ。
驚いたことに、彼が死亡した日は俺がこの世界に来る数日前だった。そして、転生して三十年をこの世界で生きてきたという。
幼少の頃に親に捨てられ、スラムでいつ死んでもおかしくない生活をし、似た境遇の子供達と助け合って生きてきた。人に言えないようなことも沢山してきた中で、剣の才能があることがわかり、それを理由にオイグスに拾われた。そして、飯をいっぱい食わせてもらう代わりに仕事を請け負うことになり、今に至るそうだ。
「もし叶うなら地球に帰りたいな……」
思いを馳せて呟くタオルク。
もし自分がその立場だったら……と考えてしまい、言いようのない感情に押しつぶされそうになってしまった。
そんな俺の気持ちを察したのか、タオルクが明るく聞いてくる。
「なあ、お前のことも聞かせてくれよ」
「俺は……」
地球でどんな暮らしをしてたのか話す。
俺が大財閥である西園寺家の御曹司だと知ったタオルクは、ものすごく驚いていた。
それからアニメや漫画、ラノベなんかのサブカルチャーが大好きだという話になると、タオルクも漫画が大好きだったようで、結構盛り上がった。
「あの漫画が好きでさぁ。新刊が出たら必ず買ってたんだよ。もうほとんどうろ覚えだけどな。できることならもう一度読みたいなぁ……」
懐かしむタオルクを見て、どうしようかな……と俺は悩む。
なぜならば、固有空間に行けばタオルクが懐かしんでいる「あの漫画」があるのだ。
飲み物やコーヒーカップなんかと同様に、持ってくることはできるのだが、漫画を持ってこられるなんて話までしたら、他にどんなものが出せるのかと突っ込まれるかもしれない。
でももっと漫画とかの話もしたいし……多少なら良いかな……良いよね?
そう考えて決心する。
「実は……今持ってるんですよね、その漫画」
「は?」
素っ頓狂な声を上げて訝しむタオルク。
「ちょっと待っててください」
俺は神様ポイントを1万消費して、固有空間アプリを起動する。
この神様ポイントというのは、スマホの機能の一つだ。神様クエストをクリアすることで貰うことができ、スキルを購入したり、新しいアプリを起動できるようにしたりするのに使う。
固有空間アプリは、起動するのに1万ポイントかかるが、その代わり空間の内部時間で七日間は起動したままになる。期間内であれば100ポイント使って出入りできるという優れモノだ。しかも、どんなに中で時間が経過しても、こちらの世界では全く時が進まないという機能もある。
というわけで、俺にしか見えない扉を潜り、話題に出た漫画のシリーズ全冊をインベントリにしまい込んでから、固有空間から出た。
「ん? リョーマ、今一瞬消えたか……?」
「はい、これ!」
インベントリから数冊を取り出してテーブルに置く。
「おおおお!? これだよこれ!! マジかよ……また読めるのか……」
興奮しつつ一冊を手にしたタオルクは、色褪せていた思い出が蘇ってきたのか、ボロボロと大粒の涙を流し、声も出さずに泣いていた。
その後、泣き止んだタオルクはかぶりつきで漫画を読み初め、俺もついつい夢中になってしまった。
そのため、起きてきたロマ達に漫画が見つかってしまった。
一応彼らにも俺の出自は話してあったが、漫画まで見せるつもりはなかったんだけど……まぁ、見られたからしょうがないので、説明しつつ手渡してみる。
珍しそうにしていたロマ達は、恐る恐る一冊を手に取りパラパラとめくる。
日本語は読めないはずだが、絵を見てなんとなく展開がわかるのか、すっかりハマった様子だ。
そして続きが気になると言って、お昼になるまでなかなか休憩所を出ようとしなかったのだった。
そんな旅を続けながら、ムエラゴを出てから約一週間ほどで、俺達は首都サンアンガレスにほど近い都市、ロワ・ジャンベールに到着していた。
ムエラゴ以来の、それなりの規模の都市だ。
ここから首都サンアンガレスまで定期運行している乗合馬車があると宿の人に教えてもらったので、乗車して出発を待っている。
俺達の他に二人の冒険者、三人の旅人が乗っている幌馬車は、運賃が一人470ビナスだ。
この世界の物価は、普通のグレードの宿屋が個室で35ビナスくらい、宿屋の定食が7ビナス、ゴブリン十体の討伐の報酬が25ビナスだったので、それを考えるとこの運賃は結構いいお値段だ。
とはいえ、ここの料金は全員分を俺が支払った。お金には余裕があるしね。
乗車して二十分程しただろうか、お昼を告げる教会の鐘が鳴ると、御者がガランガランとハンドベルを鳴らして出発を知らせる。
「いよいよ首都だなぁ」
とりあえずの目的地は首都だったわけで、この旅も終わりかと寂しく思いながら呟く。
一人だったら退屈な旅になっていただろうが、ロマ達三人やタオルクと一緒に過ごせたのは凄く楽しかったな。
短い旅の思い出を振り返る中、馬車が進むこと四時間半。
夕焼けとともに、首都サンアンガレスが見えてきた。
衛兵に見守られて大きな門を通り抜け――ついに首都に到着した。
「おおお! ここが首都なのか! 都会ってやつだな!」
「ワクワクするッス!」
「人がいっぱいいますね!!」
キョロキョロと見回しながら興奮するロマ、ルイン、フェルメの三人。
「上京した時のことを思い出すなぁ~」
タオルクは懐かしそうに頬を緩めている。
俺は活気に溢れる街に自然と心が高揚し、期待に胸を膨らませた。
「それじゃあ予定通り、今日は宿を探してご飯にしよう!」
「「おう!」」
「はい!!」
「はいッス!」
皆で歩きながら、街を観察してみる。
地面は石畳が整備され、建物も四、五階建てと大きなものが多い。
景観にこだわっているのだろう、どれも煉瓦造りで統一感があり美しかった。昔パリに行った時のことを思い出すな。
しばらく歩いたところで宿を示す月の看板を見つけ、中に入る。
一階はレストランになっていて、その奥のカウンターで宿の受付をしていた。
部屋は二人部屋、三人部屋、四人部屋があり、二人部屋と三人部屋を借りる。
部屋割りはいつもの通りロマとフェルメの二人部屋、俺とルインとタオルクの三人部屋だ。料金は二人部屋で64ビナス、三人部屋で110ビナスだった。
荷物を置いて少し休んだところで、五人揃って一階のレストランで食事をする。
食事代は宿泊費に含まれていないから、食べ終わったら俺が支払う。都会の本格的な料理を堪能し、皆大満足の様子だった。
今日はもう遅いし他にやることもないので、部屋に戻った俺達は各々寛ぐことにした。
タオルクとルインとしばらく話してから、すぐに寝ることになった。
というわけで俺はベッドにゴロンと横になってスマホを取り出し、妖精の箱庭アプリを起動する。
これは文字通り、妖精が暮らす箱庭を管理するアプリゲームで、このアプリ内で作られたアイテムをこっちの世界でも使えるという優れモノだ。
画面内は、海に孤島がぽつんとあり、その中央に世界樹の若木が聳えている。現在の島の面積は、元の小さな島から五倍とかなり広くなっていて、世界樹も根を広げて大きくなった。
個性豊かな妖精達は六十匹にまで増やした。この妖精一人当たり、一日10ポイント、箱庭内の機能を拡張するためのポイントを貰えるので、今では大量にある。
畑も拡張したので、いろんな種や苗を与えて野菜を作ってもらい、水田や果樹園を設置して豆や麦、果物を育ててもらっている。
どの作物も、妖精の力と世界樹の恩恵で大豊作な上に味も極上だ。そのため、旅の間休憩所で泊まる時はこの収穫物をふんだんに使っていた。神様クエストの報酬で貰った高級オーグル肉と一緒にバーベキューをしたが、滅茶苦茶美味しくて最高だったのはいい思い出だ。
そんなわけで、農作関連は満足したので、別の要素を追加したいな……。
さっそく箱庭ショップを覗いて、良さそうなのがないか探す。
山が妖精ポイント5000、鉱脈が妖精ポイント8000、港が妖精ポイント3000、森林が妖精ポイント1000、という表示になってるな。
とりあえず一番安い森林を購入してみると、いろんな樹木が世界樹の周りにニョキニョキと生えてきた。畑や水田、果樹園エリアの手前まで生い茂る。
箱庭ショップを確認すると、道具の欄に斧が追加されていたので購入。
するとさっそく一体の妖精がアイテムボックスから斧を取り出して、コーンコーンと木に打ち付け始めた。
時間をかけて一本の木を切り倒すと、その木に触れて箱庭アイテムボックスに収納する。
箱庭ショップを再度確認すれば、木材を加工する施設や道具が追加されていた。
木材加工施設は妖精ポイントが2万も必要なのか……妖精を増やしてポイントが溜まったら追加してみよう。
いつも通り時間を忘れて妖精の箱庭に夢中になり――いつの間にか、すっかり朝になっていた。
この半神の体になって以来、睡眠をとらなくても動けるようになってしまったので、いつもこうしてうっかり朝になるんだよな。気を付けないと。
一人反省していると、ルインやタオルクが起きてきた。
今日は冒険者ギルドに行こうと皆で話していたので、その準備をしていたところで、ロマ達もやってくる。
レストランで朝食を食べてから、俺達は宿を出た。
「えーっと、冒険者ギルドはあっちだって言ってたよね」
あらかじめ宿の従業員にギルドの場所を聞いておいたので、そこを目指して歩く。
こうも街の規模が大きいと迷わないか不安だったのだが、道順はシンプルで、大通りに出て二十分ほど進むと、目的地が見えてきた。
重厚感ある、バロック様式を思わせる石造りの建物。冒険者ギルドだ。
「さすが、この国の本部だけあって立派だなぁ……」
息を呑むほど圧倒感があり、ついつい足踏みしてしまったが、ロマ達に促されて意を決してギルドに入る。
「おぉ~……」
天井が高く広々としていて、雰囲気に圧倒される。
「あっちが受付だな」
タオルクが指差す方を見るとカウンターがあり、人が並んでいた。
俺はとりあえず、用件を伝えるために並ぶことした。
そもそも、俺がサンアンガレスに来た理由は、神様クエストになっていたからというのもあるが、この国の王族に会うためである。
それではなぜ王城ではなく冒険者ギルドに来たかというと……いきなり王城に向かったとして、使徒専用の冒険者登録証や贈り物で貰った王室直筆の身分証明証があるので、すぐに通してはもらえるだろうが、さすがにそれは失礼かなと思ったためだ。
自分で言うのもなんだが、俺の神の使徒というのはかなりの身分なので、国側としても迎える準備を必要とするはず。俺としてはそこまでしっかりした出迎えはいらないのだが、もしも『王国は使徒様を迎えるのに十分な準備をしていなかった』なんて噂が流れてしまえば、国の立場が悪くなる。
そのため、冒険者ギルドから一度、俺が来たことを王国に伝えてもらおうと思ったのである。
そんなわけで俺が列に並ぶと、ロマ、フェルメ、ルインの三人は、フロアの一角にある壁際のクエストボードを見に行くことにしたようだった。
「んじゃ、俺はこの建物の中をいろいろ見てくる」
タオルクもそう言って、冒険者達の間をスルスルと縫うようにして、どこかに行ってしまった。
一人になっちゃったな……まぁいいけど。
それから二十分ほど並んで、俺の順番になる。
「ようこそ、フィランデ王国冒険者ギルド、サンアンガレス本部へ」
「すみません、その、ここでは話しづらいので、できれば個室でお話ししたいことがあるのですが……」
俺の言葉に、挨拶の時は笑顔だった受付の男は、一瞬、めんどくさそうにわずかに眉をひそめる。
「……かしこまりました。では担当の者をお呼びしますので少々お待ちください」
卓上にあるベルをリーンと鳴らすと、すぐに男性がやってきた。その男はカウンターの人と一言二言話し、俺の方を向く。
「特別担当のアイロと申します。ご案内しますのでついてきてください」
彼の後についていくと、俺の後ろに並んでいた何人かの冒険者が、興味深そうに視線を向けてきた。
二階に案内されて個室に入る。
部屋の中は細長いテーブルがあり、俺達は向かい合うように席についた。
「それではご用件をお伺いいたします」
「はい。えっと、まず見てもらいたいものがあるのですが……できればあまり驚かないでくれるとありがたいです」
俺の言葉に少し首を傾げながらも「わかりました」と答えるアイロに、アイテムバッグから冒険者登録証を出して見せる。
普段目にすることがないであろう使徒専用登録証に怪訝な顔をしていたアイロだが、浮かび上がってきた情報を見て、青褪めた。
「し、使徒様、ですか……!? ほ、本物!? 噂に聞くあのリョーマ様ですか!?」
「はい。一応本物です。その、ギルドマスターに面会を申し込みたいのですが……」
「は、はい!! ただちに呼んでまいります!!」
アイロは慌てて部屋を出ていき、ダダダダと廊下を駆けていく音が聞こえる。
数分待っていると、再びダダダダという音が聞こえて、バッとドアが勢いよく開いた。
そこに立っていたのは、眉毛に目立つ傷があり、ヒゲが厳つい熊みたいなおじさん。
顔面蒼白で慌てて部屋に入ってきた彼は、バッと跪いて深く頭を下げる。
「フィランデ王国冒険者ギルド、サンアンガレス本部のギルドマスターをしております、ベグアードと申します!! 使徒リョーマ様のご訪問、誠に光栄の至りに存じます!!」
「あ、あの、そんなかしこまらないでください、俺はまだまだ若輩者なので!! できれば普通に接していただければなと思います……」
彼はこの国の冒険者ギルドのトップという立場だから、そうもいかないのは重々承知している。だけどあまりかしこまられるのも息苦しいのだ。
「申し訳ありません、努力いたします。ここでは何ですので、貴賓室にご案内いたします!!」
俺はこの部屋でも良かったけど、それを言っても相手を困らせるだけなので素直に従い、ベグアードの後についていく。
貴賓室は二階の奥にあった。冒険者ギルドを訪れた貴族などをもてなすための部屋だから、高級そうな家具や絵画が飾られ、掃除や手入れが行き届いている。
俺は上座に座る。
「すぐにお飲み物を用意させますので、少々お待ちください!!」
「えっと、ありがとうございます……」
ベグアードは一旦貴賓室を出たが、すぐに戻ってきて向かい側に座る。
どう話題を切り出すか……と思っていると、ベグアードが先に口を開いた。
「リョーマ様のご活躍はワナンから詳しく聞いております。フォールトゥで奇跡の御業を目の当たりにし、天使が降臨したのは驚いたと語っておりました」
「ワナンさんですか!! なんだか恥ずかしいですね……あの時はただ必死だったので何がなんだか。自分は気を失っていて天使を見ていないんですよ」
ハハハと苦笑いを浮かべる。
ワナンは英雄と呼ばれる高ランク冒険者で、先日フォールトゥにワイバーンが襲来した際、俺と一緒に撃退を手伝ってくれた人だ。そういえば、首都に戻るとか言ってたっけ。
この首都に来るまでのこととか軽い雑談をしていると、綺麗な女性がお茶のセットを持って部屋に入ってくる。
その女性は俺が誰だかわかっているのか、ものすごく緊張した面持ちで、必死な様子だ。震える手で準備をし、お茶を淹れる。
「ど、どど、どうぞお召し上がりください」
俺の前に丁寧にカップを置く。
「ありがとうございます。ではありがたく……」
カップを持って一口飲む。
「ッ!! 凄くフルーティーで、口当たりもよくて飲みやすいですね! とても美味しいです!」
「よ、喜んでいただけて光栄の極みです!!」
女性はペコペコと何度も頭を下げて、頬を赤らめて部屋を出ていった。
一通りお茶を楽しんでから、俺は話題を切り出す。
「えっと、それでは本題に……今日自分がここに来たのは、ギルドマスターにお願いがありまして」
「はい、何なりとお申しください!! 全力で対応させていただきます!!」
「俺が首都に来たことを、王族の方々か貴族の方に伝えていただけないかなぁーと思いまして」
「か、かしこまりました。私から直接報せます。返事が来るまでの間、私が滞在のお世話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「えっと……お気遣いありがとうございます。でも、首都まで一緒に行動してきた仲間がいるので、その人達とどこか宿に泊まろうかと思っていたのですが……」
「そんな!! リョーマ様にそんなお手間をかけさせる訳には参りません!! 是非私の屋敷をお使いください!! お仲間もご一緒にどうぞ!!」
鬼気迫る勢いに、俺は頷くことしかできなかった。
しかもベグアードは、今日はもう仕事を切り上げて俺を屋敷に案内すると言い出した。
「一旦仲間に説明をしたいので、ここに連れてきていいですか?」
「わかりました。職員を同行させますので、何かありましたら何なりとお申し付けください」
そう言ってさっきお茶を淹れてくれた女性を呼んできて、俺に紹介する。
「エ、エンリーと申します!! よろしくお願いします!!」
「それでは私は急ぎの仕事だけ片付けてきますので、この部屋は自由にお使いください」
ベグアードは俺に深く頭を下げ、貴賓室を出ていった。
俺はエンリーとともに貴賓室を出て、一階に降りる。
ロマ達とタオルクは丁度階段近くにいて、俺を待っていたようだった。
「ちょっと話があるからついてきてもらっていいかな?」
ロマ達を連れて貴賓室に戻り、エンリーがお茶の準備をしに部屋を出たところで、事の経緯とこれからのことを四人に話す。
「……ということで、これからギルドマスターのベグアードさんの所でお世話になるんだけど、ロマ達も一緒でいいって」
「この国の冒険者ギルドをまとめるトップの人だろ!? マジかよ!!」
「う、うん……どうしてもってことだからさ……一緒に来てくれるよね?」
驚きの声を上げるロマに頷くと、ロマ達は互いに顔を見合わせる。
すると、最初にタオルクが声を上げた。
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