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異世界転生編

7話 精霊獣、そしてギルドで一悶着

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「よし!今日もいい天気だな。
朝食食ったら試験再開するぞ」

 朝食を食べ、昨日と同じ様に道無き道を進んでいく。
 この森で訓練を始めてから思ったのだが、豊穣の効果が凄まじい。
 一晩留まっただけなのに俺の周囲の雑草が他の所より大きく丈夫に育っている様に感じる。
 3日間の練習の時も、俺の寝床の周りだけ明らかに水々しく丈夫に茂っていたし、その雑草を一つ抜いてヨハンとベルさんはしげしげと見ていた。

 それはさておき。

 奥に進むにつれてエンカウント率がどんどん上がっていく。
 ゴブリン、コボルト、スライムから巨大イモムシ、マンティス、ウルフなどなど。
 それ等を倒していってると、とても珍しい生き物に出会った。
 額に煌めく石が生えている大きいリスみたいな生き物だ。
 俺達に気がついた瞬間に一目散に逃げ出す。
 その速さに驚いてしまった。

「ベルさん……今の見た?」

「あ、あぁ……伝説の精霊獣だろ……?
はは……、何が起きてるんだ……?」

「あの生き物がどうかしたんですか?
一瞬で居なくなって驚きましたね」

 俺の発言に2人は何言ってんだこいつ、みたいな顔をしている。

「あれはカーバンクルだ。
富を齎すという吉兆の精霊獣だ。
その存在は伝説とされていて、伝承や古文書に記されているだけでそれを実際に見たというのは聞いた事ない。
これはギルドに報告しても信じてもらえないだろうな」

 なるほど。
 地球で言うところのツチノコやカッパみたいなものなのか。
 でも流石異世界だな。

 これが騒動を巻き起こすとはこの時は誰も予想していなかった。

 カーバンクルを見た事で一時歩みを止めてしまったが、2人が落ち着いてオーク探しは再開する。

 太陽がてっぺんを過ぎた所で小さな集落を見つけた。
 質素で不格好な柵、粗末な作りの家、そこに居たのはでっぷりとした体に醜い豚の頭部が付いている。

「オークの集落だな。
また小さい。
潰すなら今だ。
やってこい二人共」

 ベル先生の有無を言わさない顔でGOサインが出る。

「よし!俺が切り込むからアサトは魔法で援護してくれ」

「わかった。
タイミングは任せる」

 ヨハンは深呼吸をし集中する。
 そして剣を強く握り、俺に頷いて突っ込んでいく。

 俺は周囲の警戒をしながらついていく。

 オーク達は突然現れた俺達に驚きうるさく「プギイイ」と鳴く。
 ヨハンは襲い掛かってくる1匹を袈裟斬りにして倒す。

 奥の方から棍棒を持ったオークが数匹現れ、俺達を取り囲もうとしている。

 俺は左右から襲いかかってこようとするオークに風魔法で風の刃を作り、放つ。
 オークの首が落ちて血飛沫を上げる。

 ヨハンは正面からくる3体を相手にし、一歩も引かない。
 周りを見ると弓に矢を番え弦を引きヨハンを狙っているオークが見えた。

 風魔法で最速の刃をイメージする。

《仇なす魔を穿て、瞬速の風魔の矢 ウィンドアロー》

《風よ、かの者を守護せよ、風壁にて魔の撃を切り裂け ウィンドウォール》

 不可視の風の矢が、矢を放とうとしていたオークの胴体を貫き大きな風穴を開ける。
 念の為にヨハンに風壁を作って守る。

 死の間際に放たれた矢は見えない壁に切り裂かれた。
 その後風壁は消えてヨハンは呆然とするオークを切り捨てていく。

 勝てないと判断したのか、奥の方でふんぞり返っていた一際大きなオークは逃げていった。
 その瞬間、そのオークた真っ二つになった。

「合格だ二人共」

 ベルさんがそこから現れる。

 オーク共を回収し俺達は一息つけて他のモンスターが住み着かないように集落を破壊する。
 その後は一応という事で俺は聖魔法で浄化と樹魔法で再生を行う。

《我が聖なる力よ、この地の不浄を祓いたる、聖域となせ ピュリフィカ・サンクトゥス》

《再生せよ、我が樹の力で生まれ変われ、活性せよ我が森よ リギウム・ペプエリ・スィールヴァル》

 淀んだ空気が晴れていき、清浄な空間になっていく。
 倒木や柵や粗末な家から芽が出て育っていく。
 若木にまで成長すると魔法の効果が切れる。

 さっきまで殺伐としていた空間が幻想的な癒やしの空間へと変わった。

 動物たちがチラホラと現れてくる。

「多分、ここは暫く魔物が近寄れない領域になってると思います。
ついでに休んでいこう」

「お前、俺達しか居ないからってそんな凄い魔法使って大丈夫なのか?
魔力とか」

 ベルさんは俺を心配してくれる。
 だけどこの程度ならあと数百回は余裕で使えるくらい魔力は満ちているから平気だ。

「まあ大丈夫です!まだ少し余裕があるので!」

「凄まじいな……。
まあ大丈夫ならいいんだけどな」

 和やかに疲れを癒やしていると、俺の目の前に突然、さっき見た精霊獣が現れる。
 そしてじっと俺を見つめている。

 2人は俺の前に現れたカーバンクルに目を見開いて驚いて、フリーズしてしまった。

 尚も俺を見続けたカーバンクルは俺の肩に登り、そして、キュルキュルと鳴き声を出して俺に頬擦りする。

「おお。毛並みが俺の尻尾に負けず劣らずふわふわで気持ちいい」

 しばらくカーバンクルのもふもふを楽しんでいると、森に2人の絶叫が響き渡った。






 現在、俺達は森を抜けるために進んでいる。
 カーバンクルは俺の右肩が定位置だとでも主張するように動かない。
 気持ちよさそうに目を細めて座っている。

 ヨハンは羨ましそうに俺を見て、ベルさんはブツブツと何かを呟いては頭を降ったり抱えたりしている。

「なぁアサト、名前つけてあげないのか?」

「名前かぁ~。
この子に相応しい名前ってなんだろうね?」

「レオンなんてどうだ?!」

 興奮気味にヨハンは言うが、どうやらカーバンクルはお気に召さないようだ。
 プイッと顔を背ける。

 う~ん、名前かぁ。
 全体的に濃い緑色で、瞳はエメラルドのように透き通っていて綺麗だ。
 額の石は水色に煌めいている。

 真剣に考え、ふと思いついてボソッと一言。

「ミズホ」

 すると眩い光が俺とカーバンクルを包む。

 その光は俺とカーバンクルの中に集束していき、収まった。

『主、僕に名前を授けてくださりありがとうございます。
正式な契約でこれより僕は主の守護獣ミズホです』

 頭に幼い声が響いた。

「アサト、何が起きた!?大丈夫か!?」

 ベルさんは俺を心配して迫る。
 ヨハンはポカンとしている。

「えっと、この子にミズホって名前を授けた事により俺の守護獣になったって……」

「なにぃ~!?お前は次から次へと……」

 ベルさんが心底疲れきった顔をする。

「考える時間をくれ……。
このまま街に戻ると大変な事になる」

『主、この人間は何をお悩みで?』

「人間達の間じゃミズホは伝説の精霊獣で、このまま街に戻ると大騒ぎになるんだよ。
だからどうしようって」

『そういうことですか。
なら、これはどうですか?』

 ミズホがそう言うと光り出し、シルエットが変化する。
 どんどんと人間のような形になっていき、俺と似た容姿で狐耳、尻尾の生えた幼い男の子になる。
 違うところと言えば毛は緑色で翠眼、額には水色に煌めく石がある。

「主を模して見ました」

「お~!狐耳に尻尾……。ナイスだ!
女の子にはなれないのか?」

「すいません主。
僕には性別はなくて、その女の子というのがわかりません。
人間を見たのも初めてなので主を模してみたのです。
女の子とやらが分かればなれると思います」

 なるほど。
 狐人の女の子になってもらおうと思ったがそれは今度だな。

「なんじゃこりゃ~!!」

 この日2度目の絶叫が森に響きわたる。

「アサト……お前ってやつは……お前ってやつは~!!
相談が出来ないのか!!
あぁ……胃が痛い」

「ヒ、ヒール要ります?」

「あぁ……頼む……」

 ベルさんにヒールをかけて、ミズホの額に布を巻いて、街に戻る事になった。





 門のところでミズホのお金を払い、やっと街に戻る事が出来た。

「家に帰って休みたいが、ギルドに行くぞ。
多分ルブレオが心配してると思う」

 俺達は黙って従い、ベルさんの後をついていく。

 ギルドに入ると、人が溢れかえっていた。
 全員が入ってきた俺達を見て、何人かは軽蔑の顔をする。
 そこへ、例の冒険者がやってくる。

「腰抜け亜人とそのお供がやっときたか?
今更なにノコノコ来てんた?失せろ足手まといが!」

 俺達はそれを無視して奥に進もうとするが、そいつは立ちはだかる。

「おい、なに無視してんだ?その耳は飾りか?
失せろって言ってんだよ!!!」

「主、この人間は何を言っているのですか?亜人とはなんですか?」

「後で教えてあげるから今は静かにね」

 俺とミズホを見て忌々しそうに男は吠える。

「おいおい!こんな所に亜人のガキが居るぞ!いつからギルドは孤児院になった!?
目障りだから失せろ!!」

 そう言ってミズホを足蹴にする。

 そこまでするのか!?
 ミズホはなんとも無さそうだけど、こんな幼く見える子を平気で足蹴に出来るのか!?

 俺の体から魔力が大量に吹き出し、ギルド全体を包み、重圧を与える。

「お前は……自分が何をしたか……わかっているのか……?」

「ア、アサト……落ち着け、こいつらは無視して行くぞ」

 冒険者達は得たいのしれない、どんどんと重くなる重圧に恐怖しへたり込む。
 ミズホを足蹴にした男も例外ではなく、恐怖に歪めた顔で、発生源である俺を見ている。

「主、僕は平気だからその魔力を抑えてください。
弱き者が耐え切れずに死にます」

 ミズホに手を握られハッとする。
 漏れでた魔力は俺に集束していく。
 ギルドに居る全員が思い出したかのように大きく息を吸い込む。
 
「はぁ……はぁ……な、何事じゃ。
この膨大な魔力は何じゃ!?」

 ギルドマスターが現れた事で、皆が安堵する。
 俺はミズホの頭を撫でて自分の心を落ち着かせる。








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