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9話 一目惚れ

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 レグルとの出会いから俺は気になっている事がある。
 冒険者というものに。
 クエストを受けていろんな仕事をしたり、街の外に出てモンスターと戦って、倒したモンスターの素材等を売って生活したりっていうワイルドな生き方に男心として結構興味があったりするのだ。
 この街に着くまでにゴブリンとかを倒してきたけど、もっと冒険らしい冒険して外の世界を色々見てみたいとは思った。

 その事をモリスじいちゃんに話すと、危ないからと止められてしまった。
 まあじいちゃんの息子さんが冒険者になって家を出ていって、一回も帰ってきていないと言っていたから、あまり良い印象はないんだと思う。
 じいちゃん自身、息子さんは死んだと考えているみたいだ。

 俺はそれ以上あんまり言えず、冒険の事はグッと飲み込んで錬金術な集中する。
 抽出、分解、構築はもう認められる程の技量になったから、次は融合、変質、付与の修練だ。

 まず浄化した無属性の魔石を2つ用意し融合する。
 ゴブリンのクズ魔石でも数を一纏めにできればそれなりの物になるから。
 融合した魔石は魔玉となり、魔導具の素材になる。
 無属性の魔玉に俺の地属性の魔力を込める事で変質が起こり、地の魔玉になる。
 さらに地の魔玉に地属性の魔法の効果を付与する事で完成だ。
 融合、変質、付与を纏めて修練出来る。

「ふぅ……」

 一個作るのにかなり精神力と魔力を消耗する。
 今は1日一個、小さな地の魔玉を作るのがやっとだ。
 小さな物では精々ストーンバレットを数回撃つことしか出来ず、魔力を使い果たした魔石、魔玉は崩壊して消える。

「もうそろそろお昼だし、なにか食べに行こうか」

『おー!!』

 モリスじいちゃんに午後の鍛冶の仕事に向かうと伝えて家を出る。
 今日は何を食べようかなと大通りを練り歩き物色する。
 お昼時だからそこかしこから美味しそうな匂いがし、空腹が刺激される。

 何処かから香るシチューのような匂いに誘われて行くと、ボロい宿屋さんにたどり着いた。

「よし、今日はここにしよう!」

 ドアに手をかけて開けると、ギイイと軋む。
 中は薄暗くお客さんは見当たらない。
 でも確かに美味しそうな匂いはここからしていた。

「す、すみませーん……」

 なんだか怪しい雰囲気に思わず尻込みしてしまう。

「はーい!!
今行きます!!」

 奥から若い女性の声がして、バタバタと出てくる。

「!?」

 驚いた事にその人は美しいエルフの女性だった。
 エルフを間近で見たのは初めてだからなんだか緊張してしまう。

「あ、えっと、ここって食事は……」

「やってますよ!!
どうぞ好きな所にお座りください。
リリア、お水持ってきて!!」

 エルフの女性は奥へと消えていく。
 入れ違いに女の子がコップを持って出てきた。

 綺麗なプラチナブロンドのストレートのロングヘアーで、鼻筋の通った可愛いお鼻、透き通るような碧眼、真っ白な肌。
 エルフの女性に似ているが、耳が少し短い。
 俺よりもいくつか年上に見えるその娘に俺は目を奪われていた。

「あの……お水……」

 綺麗な声がスッと耳に入ってくる。

「……」

「……」

 その人はテーブルにコトっと水の入ったコップを置くと足早に奥へと引っ込んで行ってしまった。

『どうしたのモール、顔か赤いよ?』

「な、なんでもない!!
お腹が空いただけだから!!」

 顔が熱くなっているのを自覚しながら誤魔化す。
 前世を通しても一目惚れをする経験はないから、俺は戸惑っていた。
 恋をする事はあったけど、胸の高まりは比じゃない。
 言いようの無い感情に支配されていた。
 感情が高ぶり、鼓動が激しく心拍する。

 心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返してしまう。
 そんな事をしているうちにエルフの女性が器に盛られたシチューを持って来た。

「どうぞお召し上がりください!!
ごめんなさいね、今これしか用意できないの。
でも味には自信があるんですよ」

 柔らかく微笑み差し出す。
 俺はぎこちなく受け取り、木匙で掬って口に運ぶ。
 少しシャバシャバした小さく切られたお肉や野菜が入ったシチュー。
 味は薄めだけどしっかりしていて、さっぱりして美味しい。
 パンを少し浸して食べるとこれまた美味しい。

 シチューを完食し、パンで皿を拭って最後の一滴まで食べきる。

「あの、凄く美味しかったです」

「ふふふ、そうでしょ。
お代は銅貨40枚ですよ」

 俺はポケットに手を入れるふりをして亜空倉庫から銅貨を取り出し払う。

「美味しかったです。
明日また来ます」

「はい、お待ちしてますね」

 笑顔で見送られてお店を出る。

「なんでこんな良いお店にお客さんが居ないんだろう……」

 綺麗なエルフの女性が居るお店はそれ目当てでも繁盛すると思う。
 料理も美味しかったし、寂れている事に疑問を抱く。

 次の日も訪れると状況は同じ。
 この日はあいにくあの娘には会えなかったけど、美味しいシチューを堪能していると、乱暴に入り口が開かれて3人の男達がお店に入ってくる。

「あぁ?
客が居るたぁ珍しいじゃねーか。
よぉワトワ、いつもの」

 男は偉そうにそう言うと我が物顔でドカッと椅子にすらる。
 他の男達も同様だ。
 このお宿のエルフ女将さん、ワトワさんは苦々しい表情を浮かべる。
 おおらかで、楽しそうな雰囲気は見る影もない。

 エルフの女将のワトワさんは黙って愛想良くすることもなくお酒とシチューを提供する。

「おいおい、こっちは客だぜ?
ちゃんとサービスしろよなぁ」

 そう言ってトワトさんのお尻を撫でる。
 トワトさんは顔を歪ませて唇を噛み締めてブルブルと震えて耐えている。

「今日は良い返事が聞けるんだろうなぁ?」

 ゲスな笑みを浮かべて下品に愛撫する男。

「ッ、このお店は絶対に手離しません!!
必ずお金は返しますからもう少し待ってください!!」

「あぁ!?
いつまで待たせるつもりだよ!!
借りた金返せねぇならさっさと親父の女になっちまえよ!!
そうしたら借金はチャラにするって言ってんだろ。
ボロい宿にこんな不味いシチューなんか出して客が来るわけねぇだろが!!
どうやって金返すんだよ、なぁ!?」

 男はシチューの入ったお皿を思いっきり床に投げつける。
 トワトさんは辛そうに口を噤み俯く。

 状況を把握する為に黙って見ていた俺は思わず口を挟む。

「あの、借金っていくらですか」

「あぁ!?
何だテメェ、すっこんでろ!!」

 下っ端みたいな男2人が席から立ち上がり、俺を威嚇する。

「店終いだ」

「痛い目見たくなけりゃとっとと失せろ」

 指をボキボキと鳴らして見下す2人。
 俺はポケットから金貨10枚を取り出しテーブルに置く。
 これは借金を返済してから毎日ポーションを売って稼いだお金だ。
 その場の全員が金貨に目が釘付けになる。

「これで足ります?」

 ワトワさんをセクハラしていたゲス野郎は立ち上がり、俺の方に来て見下し睨みつける。

「足りねーなぁ。
借金は金貨100枚だ」

「そんな!?
私が借りたのは金貨5枚だけですよ!?」

「こっちはだいぶ待ってやってるんだ。
利子がつくのは当たり前だろーが。
とにかく金貨100枚だ。
1週間待ってやる。
用意できねーなら母娘揃って親父の女になってもらうぜ。
あぁそれと、コレは有り難く頂いてやるぜ」

 そう言って俺の金貨を掴み取って自らのポケットに入れるチンピラ。
 俺は何も言わずに睨み返す。

『いいの?』

 ノームは不愉快そうに俺に聞いてきた。

(いいよ。
今はさっさと帰ってもらった方が二人の為に良いし。
それに、今度きっちり回収するから)

 俺の心を読んだノームは俺の考えに笑みを浮かべる。

 男達は機嫌よく店から出ていき、ワトワさんは凄く申し訳なさそうに俺に頭を下げる。

「私のせいで本当にごめんなさい……。
必ずお金は私が返します……」

「気にしないでください。
それより、一週間で金貨100枚をどうするかですね……」

 深刻な表情になるワトワさん。

「まぁ俺に任せてください。
これシチューのお代です。
また明日来ますね!!」

 銅貨40枚をテーブルに置く。
 迷惑かけたから受け取れないと言うが、俺は美味しいシチューのお金だからと置いて店を出た。

「一週間もあれば余裕かな」

 呟いて鍛冶工房へと向かった。

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