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8話 ジャスミン武具店
しおりを挟む午前中は錬金術を、午後は鍛冶を学んではや半年。
錬金術の技術まだいぶ向上してポーション類はある程度作れるようになった。
鍛冶に関しては未だ雑用を任され、鉱石の扱い等を覚えていった。
借金についてはもう完済している。
ヴァサロの工房に行くと、レンは壁にかけられている白銀の剣をウットリとして眺めている。
ノームから貰ったミスリルで作られた剣だ。
一月掛けて作られた大作。
《ガディアソード S
ミスリルを惜しみなく使われた剣
鍛冶師ヴァサロが地の大精霊ノームに感謝を込めて作られた
ノームに祝福され大地の力が宿った魔法剣》
かなり癖のある剣で、魔力を流すと呼応して重量が増加、破壊力が増すのだ。
さらに魔法杖の役割を果たし、土魔法が扱いやすくなり、効果、威力が上がる。
かなり使い手を選ぶ剣だが破格の性能だ。
「相変わらずだなぁレンは」
「こ、こんな凄いの盗まれないようにな、見張ってたんだよっ!!」
「はいはい。
今日は何をすればいいの?」
「親父の作った剣を売りに行くのと、いつもの鉱石の選別だ。
とゆーわけで、俺は選別やっとくから剣は頼んだ」
「了解」
「あ、あと帰りに親父のお酒買ってきて。
いつもの奴ね。
これ代金」
「わかった。
じゃあ行ってくるよ」
全身に魔力を漲らせて身体強化をし、数十本の剣の束を背負い工房を出る。
冒険者ギルド近くにいつも卸している武器屋があるからそこに向かう。
大通りから冒険者通りと呼ばれる通りに入る。
そこはポーション等の道具屋や武器屋、防具屋が密集していて、その奥に冒険者ギルドがあるから多くの冒険者が往来している。
だから冒険者通りと呼ばれているのだ。
ヴァロサと契約している武具店に入る。
「いらっしゃい。
あらモールちゃんじゃな~い。
品物はこっちに置いてお茶しましょ」
ゴツいオネェさんがウインクする。
一旦お店を閉めてあっという間にお茶の用意ができてしまう。
「今日はクッキーを手作りしてみたの!!
どうかしらぁ~?」
一枚を口に放り込む。
サクサクとして甘くて紅茶に丁度いい。
「すごく美味しいよ!!」
「良かったぁ~!!
お砂糖ちょっと高かったんだけど奮発しちゃった。
たくさんあるからレンちゃんにも持って帰って上げて~。
今度は二人で遊びに来てネ」
「わかった。
連れてくるよ」
と言っても、レンはここに来たがらない。
ジャスミンさんを怖がってるような感じなのだ。
別に何かされるでもなく、こうして商品を持ってきたときはお茶を出してくれる良い人だ。
ただ見た目が凄いだけ。
俺も最初は驚いたが、もとからそういうのに偏見はなかったからすんなり受け入れられた。
「そうだ、モールちゃん。
この前お客さんから聞いたんだけどねぇ、エニスの森で大規模なオークの集落が見つかったんだってぇ。
怖いわよね~。
オークなんて私達オンナの敵よ」
「大規模なオークの集落かぁ~。
冒険者には頑張ってもらわないとね。
オークって凶暴なの?」
「凶暴なんてもんじゃないわよぉ~。
何でも食べちゃう雑食で共食いまでしちゃうんだから。
性欲旺盛で繁殖力はゴブリン並みだから厄介ねぇ。
あんた可愛い顔してるんだからメスに間違われて襲われるんじゃないかしら」
「何言ってんの、ジャスミンさんの方が可愛いから襲われるならジャスミンさんでしょ」
「やだもぉ~、そんな事言ってくれるのモールちゃんだけよぉ~」
それにしても良い情報を得た。
もし討伐隊を組まれるならポーション類が売れるだろうし、これからは多めに作ってストックしとこうかと考える。
世間話をしていると、店の外が騒がしくなる。
「あら、何かしら」
気になって二人で店を出る。
道には大きな荷物を背負っている獣人の男の子が血を流して倒れており、冒険者の男達が殴り合いの乱闘をしている。
「ちょっとちょっと~、何があったのよ~」
近くの野次馬に話を聞くと、獣人のポーターを雇っていた冒険者がポーターに対して不当な扱いをしていたようで、それを見ていた他の冒険者が注意した所、逆上。
ポーターにキツく八つ当たりをして獣人の男の子は頭から血を流して意思を失い倒れ、注意した冒険者の方はこれにキレて殴り合いに発展したと言う事らしい。
「モールちゃん、ポーターの子お願いね!
私は喧嘩を止めてくるわぁ~」
ジャスミンさんは野次馬を掻き分けてズンズンと殴り合いをしている男達のもとへ向かっていく。
俺は倒れている獣人の男の子の元へ向かい、懐からポーションを取り出すフリをして亜空倉庫から一本取り出し振りかける。
意識があるなら飲ませていたけど、意識かないなら無理やり飲ませるのは危ない。
一応振りかけるだけでも効果はあるから、獣人の男の子と傷は塞がっているはず。
「ヒール」
あんまり目立たないように小声で唱え、体力を回復させる。
「オラァ!!
テメェらいい加減にしろやぁ!!」
厳つく野太い声が響く。
穏便に仲裁しようとしていたジャスミンさんがキレたようだ。
太い拳で冒険者をぶっ飛ばし気絶させると、襟を掴んで持ち上げる。
「モールちゃん、私ちょっとギルド行ってくるからその子の事お願いねぇ~。
私のお店で休ませてあげて!」
ウインクすると騒がを起こした冒険者を担いで冒険者ギルドに行ってしまった。
俺は全身に魔力を漲らせて獣人の男の子を荷物ごと背負い、ジャスミンさんのお店に連れて行く。
しばらくジャスミンさんが帰ってくるのをノームと待っていると、先にポーターの子の方が目を覚ました。
「うぅっ……こ、ここは……?」
頭を抑えてヨロヨロと起き上がる。
「おはよう。
俺はモール。
君は?」
「お、俺はレグル……」
「レグル君お腹空いてる?
これ食べていいよ」
出しっぱなしだったクッキーを差し出す。
レグルはゴクリと生唾を飲み込む。
恐る恐る手を伸ばして一個つまむとクンクンと匂いを嗅いでパクっと食べる。
「ッッ!!
お、美味しい!!」
「ね!
美味しいよね。
もっと食べていいよ」
一つ一つ味わって食べるレグル。
「ただいまぁ~。
あら、気が付いたのね」
ジャスミンさんが帰ってくる。
レグルはジャスミンさんに驚いて俺の後ろに隠れる。
「おかえりない」
ジャスミンさんはギルドでの事を話してくれる。
レグルを雇っていた冒険者は素行が悪く、問題行動を起こすばかりの問題児だったみたいで、今回の事でギルドを追放される事になったらしい。
その事で暴れたみたいだが、ジャスミンさんが一発で鎮めたと笑顔で語る。
「レグルちゃん帰るところあるの?」
無言でフルフルと頭を横に振る。
荷物持ちをするのはほとんどが浮浪児のようで、少ない賃金で雇われてその日暮しをしている。
レグルの体は痩せ細っている。
「ならしばらくはここに居るといいわよ。
常連さんにポーター探してる子いるから紹介してあげるわ」
このお店の常連さんと言う事は多分悪い人じゃないだろう。
レグルはジャスミンさんが面倒を見るということで、俺はお店をあとにする事にした。
長居してしまったが、俺はお使いを頼まれている身だ。
急いでお酒を買って買えると、レンは俺に憐れみの視線を送り、俺はヴァサロにしこたま怒られた。
おかげで大きなたんこぶが出来てしまった。
すぐにヒールしたけど。
レグルはジャスミンさんの紹介でまたポーターを始めた。
今度はちゃんとした雇い主で、無茶な事は命令されてないという。
ただ、ジャスミンさんの紹介という事で雇い主は強面のオネェさんになったと言う。
結構実力のある冒険者のようで、稼ぎは結構いいらしい。
レグルはジャスミンさんの所で住み込みで仕事をしているようで、たまに三人でお茶するようになった。
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