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7話 鍛冶師見習いのレン

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 街の暮らしになれてきて、浄化水も作れるようになり、錬金術もそこそこ上達した。
 回復ポーションの他に浄化水と魔毒草を使って作る魔力ポーションも作れる様になり、売上を伸ばしてるから借金の返済もそう遠くない。

 俺が攫われそうになった件を何処で知ったのか、エウリムさんは俺を心配して、何やら手を尽くしてくれたようであれ以来平和に暮らしている。
 そんなある日、待ちをブラブラしていると工房区域に迷い込む。
 至る所からトンテンカンと鉄を打ち付ける音が鳴り響き、煙突からモクモクと黒煙が登っている。

「あの人達って、もしかしてドワーフ?」

 イメージ通りのヒゲがぼうぼうに生えていて筋肉隆々のずんぐりむっくりした褐色の小さな体の男が居る。

『彼等は鉄の小人って呼ばれててね、僕達地の精霊と親和性が高い種族なんだよ。
土魔法や金属の扱いが得意なんだ』

「へぇ~」

 いろんな工房を見てみながらノームと話していると、声をかけられる。

「おいお前、見ない顔だな。
なに一人でブツブツ言ってんだ?」

 俺と同じ背丈の褐色の男の子が怪訝な顔をする。

「あ、ど、どうも。
えっと、君はドワーフだよね……?」

「見れば分かるだろ」

 こういった相手、異種族と話すのは初めてだからつい緊張してしまう。
 獣人とかも見かけた事もあるけど、それも遠目からだ。
 別に差別してるとか嫌ってるとかではなく、機会が無かっただけで、憧れはあった。

「お、俺の名前はモール。
君は?」

「俺はレン!
そこの工房で親父から鍛冶を教えてもらってる鍛冶見習いだ!」

 なんだか誇らしそうだ。

「ねえ、工房の中見てみていいかな?」

「良いよ!!
こっちだ、ついてきて」

 入り組んだ工房区域の奥の方に向かい、建物に入る。

「親父ーー!!
友達連れてきたーー!!」

 レンは大声で言うと、奥からノシノシと金槌を持ったドワーフが出てくる。

「うるせぇ!!
そんな大声じゃなくても聞こえてるわい!!」

 レンの頭を拳でゴチンと叩く。

「おぅ、よく来たな。
まぁ適当に……お前、何もんだ?」

 俺の事を頭の先からつま先までジロッと睨みつせて聞いてくる。

『このドワーフ鋭いね。
オイラの気配を察してるみたい』

 ノームはあっけらかんと言う。

「おぬしから偉大な大地の気配を感じるぞ……。
本当に人間か?」

「あー、えーっと……。
(どうするノーム!?)」

『オイラが話すよ。
鉄の小人は大地の精霊王を強く信仰しているから、地の精霊を見る事が出来るんだ』

 ノームは魔力を高める。
 気配が増していき、その場を圧倒する。
 レンは何が何だかわからないようで困惑し、親父さんはノームの強い魔力を感じ取り慌てて跪き祈りのポーズをする。

『畏まらなくていいよ。
楽にして』

 雰囲気が一変し神聖な気を纏うノームに俺は唖然としてしまう。
 いつも見ている姿から全然想像がつかなかったからだ。
 地の大精霊だと自分では言うが、本当かと疑ってすらいた。
 だがこうして神聖な雰囲気を発し圧する姿に俺も思わず跪きそうになる。
 ノームは正真正銘、地の大精霊。
 特別な存在なのだ。

 至る所から茶色い毛玉みたいなのが沢山現れる。

『君達まで出て来なくて良いのに』

 ノームはその毛玉みたいなのを愛おしそうに撫で、微笑む。

「土の精がこんなに……」

「ノーム、そのモコモコしたのも精霊なの?」

『そうだよ。
この子達は土の精。
オイラの兄弟たちさ!!』

 茶色い毛玉は俺に群がって纏わりつく。
 なんだか暖かくて落ち着く。

『はははは!!
皆モールを気に入ったみたいだね』

「何ということじゃ……。
土の精は人間を好まないというのに……」

『モールは大地の精霊王のお気に入りだからね~。
それに、モールの魔力は大地を豊かにしてくれる。
だからあの子達はモールが大好きなのさ』

「ふむむ……」

 ドワーフの親父さんは腕を組んで何かを考え込む。
 レンは未だ状況を理解できずに呆けたままだ。

「ねぇどうしよう、前が見えない」

 全身くまなく包み込まれているかもう土の精の塊のようにすら見える。

『君の魔力は僕達にとっては本当に心地良からねぇ。
ほら皆、困ってるから離れてあげて』

 ノームがそう言うと土の精は名残惜しそうにポツリポツリと離れていく。
 そして何処かへ溶け込むように消えていった。
 そして、俺の足元には小さな種や小石が積もっていた。

「これは?」

『彼等からの贈り物だね!!
いっぱいあるね~』

 野菜や果物の種、驚いた事に穀物の実まである。
 小さな石は鉄鉱石や金や銀の鉱石のかけら、小粒の宝石、珍しいものでは七色に光る美しい石もいくつかあった。

《精霊石 SS
精霊の結晶とも呼ばれる貴重なもの
万能素材》

「精霊石か……凄いなこれ……」

 精霊石を手に取りキラキラと光るそれに見惚れる。
 俺は精霊石に夢中だったが、ドワーフの親父さんは顎が外れんばかりの驚愕した表情で固まっている。
 俺は土の精から貰ったものを全て亜空倉庫に収納した。

「すげーなお前!!」

 レンは本心からそう言ってくれてると思った。
 素直な言葉は嬉しい。

「なぁなぁ、さっきのキラキラの石見せてくれよ!!」

「いいよ」

 1個取り出して渡すと、レンも精霊石に夢中になる。

「あんまり見せびらかすのは辞めたほうがいいぞ」

 ドワーフの親父さんは忠告する。

「それはまさに精霊に認められた証じゃ。
認められたものにしか手に入れられん。
それ一個で莫大な財産を築く事も出来るだろうが、故に狙われる。
おぬしの収納スキル以上にの」

「わ、わかりました……。
ついこの間、狙われたばっかりなので気をつけます」

「お前もいつまでも惚けてないでさっさと返さんか!!
それはお前には過ぎた代物じゃ!!」

 ボカッとレンの頭を叩く。
 レンは頭を叩かれた時精霊石を落としそうになるがなんとか持ちこたえ俺に返してくれる。
 叩かれた頭を擦って恨みがましく親父さんを睨んでいた。

「あの、お願いがあるんですが」

「ん?
なんじゃ?」

「いきなりこんな事言うのも何ですが、鍛冶を教えていただけませんか?
その、自分の装備を作りたくて……」

「お金貯めて買うんじゃだめなのか?」

「その、鍛冶の天稟があるので自分で作ってみたくて……」

「ほぉ、鍛冶の才能があるのか。
教えるとなると、おぬしは儂の弟子になるってわけだが、いきなり鉄を打たせることはしないぞ?
こいつと同じく下積みの雑用からじゃ」

 グリグリとレンの頭を撫でる。

「はい!!
雑用から頑張ります!!
お願いします!!」

「う~む、まあ良いじゃろう。
幸い、弟子はこいつしかおらんしの。
ノーム様と大地の精霊王様のお導きと出会った縁じゃ。
儂はヴァロサ。
よろしくのう」

『良かったねモール』

 本当は住み込みで働きながら学んでいくのだが、午前中は錬金術の修行をしている事を伝え、午後から働かせて貰えるようになった。

『あ、オイラの事とかは秘密でお願いね』

「もちろんじゃ」

『ありがとう。
これはオイラからのお礼と言うことて受け取ってよ』

 ノームは何処から出したのか、俺の背丈ほどある大きな岩を取り出す。
 所々白銀の光沢が見え、この岩自体に強い魔力を感じる。

「こ、これは!!
こんな大きな魔銀を見たことがない!!」

《ミスリル鉱石 S
魔力を多大に含み発する
特殊な環境下のみ生成される鉱石
精錬すると白銀に輝くがプラチナとは全くの別物》

「へぇ~、これがミスリルか~」

 ファンタジー定番のアイテムに思わず心が踊る。

「うぉおおおおおお!!」

 ヴァロサは嬉々として大きなミスリル鉱石軽々と担ぎ工房の奥へ行く。

「ああなった親父は周りが見えなくなるからぁ。
明日また来いよ!!
雑用の仕事教えてやるよ」

 レンはそう言ってノームにお辞儀をすると嬉しそうにヴァロサの元へ向かったのだった。

「あれ多分、レンもミスリル目当てで行ったよな」

『彼もしっかりドワーフの子って事だね』

「帰るか」

『うん!!』

 残された俺達は静かに工房を出てモリスじいちゃんの元へ帰るのだった。

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