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1話 転生、終わらない不幸
しおりを挟む38年という人生は俺にとってあっという間だった。
幸せを感じることなく、幼少の頃から辛い日々が続き、16歳で働き始めて忙しい毎日で1年があっという間に過ぎていく。
両親は俺に対してずっと無関心であり、実の息子より競馬やパチンコに夢中だった。
ネグレクトだ。
親の愛情に飢えて、ゴミだらけの家から毎日ご飯を探した。
学校では誰も俺の事なんか心配してくれる人は居ない。
教師は極端に面倒事を嫌がり女生徒に鼻の下を伸ばし、同級生達は俺を貧乏人といじめる。
16歳になってから働き始めて、会社の寮に住まわせてもらった。
給料の半分が寮費に消え、もっと稼ごうと頑張っても残業代は出ず低賃金。
食っていくのがやっとで毎日毎日必死に働いた。
中卒である事に負い目を感じ、転職なんか出来やしないと諦めて必死にしがみついた。
いわゆるブラック企業で、年中人手不足で若い人が入ってはすぐ辞めていく。
俺のような人間がしがみつき、こき使われて使い潰されていく会社だった。
俺の唯一の趣味は毎月給料日に買う一冊のラノベ。
お気に入りは異世界転生物で、華やかな主人公に魔法などの力を使って思い通りの人生を掴み取る話に心躍って、いつも自分もそうなりたいと妄想した。
深夜のサービス残業を乗り越え、さあ帰るかと立ち上がった時、俺はそこで意識が消えた。
伊東守の38年は孤独で、我慢続きで、足掻く一生だった。
永遠に続く暗黒の中を落下し続ける。
時を感じさせないそれは一日なのか、一ヶ月なのか、一年なのか、それとも何千年も落ち続けているのか分からない。
分かるのは伊東守だった記憶と落下する感覚だけ。
それは唐突に終わった。
急速になにかに引っ張られる感覚がしたと思ったら、おかしな事に全身に激痛が走る。
「ッ!?」
薄っすらと瞼を開くと視界は赤く滲んでいる。
(どういう……事だ……?)
ヨロヨロと立ち上がる。
鋭い頭痛が襲ってきて、流れる様に記憶が思い出されていく。
俺は今7歳の子供で、両親は流行病で一年前に病死。
身寄りの無い子供を村人は厄介者扱いし始め、空腹に耐えかねてちょくちょく畑から野菜を盗んでいる事がバレて袋叩きにされた。
これが思い出した記憶だ。
(転生したって事なのか…?)
ズキズキと痛む頭を抑えて自分の体を見る。
服装は泥だらけの襤褸で、全身が字だらけだ。
「ハ……ハハ……前世はきつかったけど、新しい人生も相当だな……」
自虐的に笑ってしまう。
今は夜。
村の外れに捨てられるように放置されていた俺はそのまま村を出た。
「……こんな所に未練もない。
何処か落ち着ける場所に……」
よろよろと暗闇に紛れ込む。
ワオオオーーーーーン
何処かから狼の遠吠えが聞こえてくる。
夜風が吹き、野生している草花がガサガサと揺れる。
その音にいちいちビクビクしてしまう。
青い月と星明りだけの薄暗い広野は怖かった。
「明け方に出ればよかった……」
今さら後悔しても遅いの自分でも良くわかっている。
「ァ……」
意識が遠のいていく。
『ーー……』
何かの声が聞こえた気がしたが、俺はドサリと倒れて気を失った。
目が覚めると朝になっていて、最初に見た光景に唖然とした。
大人程の大きさの土人形が側で佇んでいるのだ。
その土人形の影から俺と同じくらいに見えるおさない男の子がひょっこりと顔を出す。
『おはようモール!!』
「え?
お、おはよう……?」
頭の中に直接声が聞こえたような気がして困惑する。
『あはは!!
オイラはノーム!!
こいつはゴーレムだよ!!』
ノームと名乗った男の子は土人形のゴーレムをコンコンと叩き、ゴーレムは片腕を上げる。
「ゴ、ゴーレム……?
なんでゴーレムが……?
それに、君は……?」
『モールが夜中に意識を失ったからモンスターに襲われないように、ゴーレムで守ってたんだ!!
オイラはノームだよ!!』
ニシシと笑い、ノームの栗色の髪がそよ風にサラサラと靡く。
「えっと……ありがとう?
そ、それじゃあ俺はもう行くね」
『うん!!』
頭を下げて前へ進む。
俺の後ろをノームとゴーレムがついてくる。
「な、何かな?」
『モンスター出るから危ないよ?
オイラが守ってあげるよ!!』
(そうだった……。
モンスターが出るんだっだな……)
俺の記憶が思い出されたのは夜中で、前世である38年分の記憶が今世の7年の記憶を圧倒していたから忘れていた。
ガサガサと草をかき分けて狼が姿を表す。
これがモンスターだ。
草原や森林に多く生息するグレイウルフ。
他にもゴブリンやコボルト、スライムなどそこら中にモンスターは隠れているのである。
なんの準備も覚悟もなく、ましてや子供が村や町の外に出るのは自殺行為なのだ。
土ゴーレムが片腕を降りあげ、グレイウルフに振り下ろす。
俺を守るように戦ってくれてる。
「凄い……。
俺もゴーレムとか作れるかな……」
思わず呟いた言葉にノームが答えてくれる。
『祝福は済んでるはずだから出来るよ!!』
祝福。
その言葉で思い出す。
子供が5歳になった時、病気や怪我で死ぬ事なく生きた事、これからも健やかに長生き出来るようにと司祭のおじさんに祝福を受け、神様に感謝をする。
すると胸のあたりから青白い半透明のボードが出てくる。
これはソウルタブレットと呼ばれ、自分の才能やスキルを見る事が出来るようになる。
「ソウルタブレット」
そう言うと、俺の胸から青白いボードが出てくる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
モール 男 7歳 レベル1
天稟:地魔導 錬金術 鍛冶
体力:G 魔力:B 器用:C
俊敏:F 知力:S 幸運:ーー
覚醒スキル:鑑定 亜空倉庫
天稟スキル:地魔法【5】 錬金術【3】 鍛冶【3】
スキル:窃盗【2】
称号:野菜泥棒 覚醒者 大地の寵愛
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれ?」
俺の記憶にある内容とかなり違う。
まず、土魔法が地魔導になっているし、魔力も知力もFだった。
覚醒スキルなんてのは無かった筈だし、土魔法が地魔法になって、レベルも3じゃなくて5に上がってるし、称号も野菜泥棒だけだった筈だ。
「まぁ窃盗だの野菜泥棒はまぁ記憶にあるし別にいけど……、幸運が表示されないのはどういう事だろ。
神のみぞ知るってやつか?」
『ね?
モールもゴーレム出来るでしょ?』
「確かに土魔法は出来るみたいだけど……、やり方がわかんないよ」
『オイラが教えてあげるよ!!』
満面の笑みを浮かべるノーム。
魔力と知力が高い事が幸いして、すぐにゴーレムを使えるようになった。
「ゴーレムってもっとこう、違う形に出来ないの?」
『ゴーレムの土魔法を発動する時にどんなゴーレムにしたいかイメージすれば良いよ!!
イメージと魔法力でどんなゴーレムも出来るよ!!』
「なるほど」
目を瞑ってイメージを固め、ゴーレムを作る。
地面がボコボコと盛り上がり、形が出来ていく。
余計な部分は崩れ落ちて、イメージしたゴーレムが目の前に出来た。
「ちゃんと出来てるな。
馬ゴーレム」
前世の会社の上司に連れて行かれた競馬の馬をイメージしてみた。
堂々と佇む姿がなんとも凛々しい。
『凄いね!!
でも、そのゴーレムでどうやって戦うの?』
「戦わないよ。
これに乗ってどこか遠くへ行くの」
飛び乗ろうとして失敗し、ノームのゴーレムに抱えてもらって乗る。
ノームはピョンと飛んで俺の後ろに座った。
彼のゴーレムは役目を終えたと言わんばかりにドシャッと崩れる。
『繋がってる魔力を切り離すとゴーレムは崩れてただの土になるよ。
ゴーレムは自分で魔力を維持できないからね』
そういうもんなんだと頭の片隅で考えて、俺の馬ゴーレムが颯爽と駆けるイメージをする。
走り出し、広野を突っ走る。
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