でんでんむしが好きな君

ひらどー

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枕だけれども

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 出産を迎えるに当たって買い揃えた品々の中に、子ども用の布団があった。薄っぺらで小さくて、ちょっと固めの布団だ。こんなもので大丈夫なのだろうかと当時は不安を覚えたが、新生児の身体にとっては都合がいいらしい。実際、生まれたての子どもを寝かせてみたら、いい具合に収まった。まぁなんて可愛いんでしょう。小さな布団の半分しか使っていないわ。小さい赤ちゃんですね、うふふ。そんな具合で使い始めた布団だが、今はもう使っていない。
 寝相の悪い我が子をカバーするために、お情け程度に私の布団の脇に並べているだけだ。本人は私の布団の中に潜っている。そろそろ彼用の大きな布団を買わねばならない。この小さな布団ともお別れだ。そのつもりでいたのだが、本日、なんと約一年ぶりに、小さな布団が使われた。
 私は早々に自分の布団に潜り込み、寝たふりを決め込んでいたときのことだ。元気な声が隣から聞こえてきた。
「おかーしゃ、みてみてー!」
 迂闊に振り向いてはいけない。下手に反応すると彼の遊びたい欲に拍車がかかる。
 心を鬼にして聞こえない体を装っていた。だが、我が子は諦めが悪い。なおも「みてみて!」と言ってくる。続けて、「おふとん!」「まくら!」と言ってきた。ここで私はやっと反応した。彼が枕を持っているはずがないのだ。
 彼の寝相が荒くなってきた頃からずっと、枕は使っていない。今日も押入れの中に潜っている。一時期はタオルを使って枕を作っていたが、それも今はやっていない。
 それなのに枕だと。どういうことだ。
 不思議に思って布団から顔を上げ、彼の方を見たときに笑ってしまった。
 自らの枕を探し出せなかった我が子は、自身の父親の枕を取ってきたのだ。ちょっとお高い低反発の枕は、彼の布団にはもったいないほどに大きい。
「まくらだよ!」
 確かにそれは枕だね、おとーさんのだけど。
 さて、これを見たら、夫は何というだろう。この枕じゃないと眠れないー、なんて冗談めかして言っていたこともあったのだが、我が子の所行に対してどう動くのだろうか。奪い取るか、それともそのままにしておくのか。
 自分の子どもに張り合うこともある夫の行動を想像し、また一つ笑ってしまった夜だった。
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