でんでんむしが好きな君

ひらどー

文字の大きさ
上 下
32 / 33

枕だけれども

しおりを挟む
 出産を迎えるに当たって買い揃えた品々の中に、子ども用の布団があった。薄っぺらで小さくて、ちょっと固めの布団だ。こんなもので大丈夫なのだろうかと当時は不安を覚えたが、新生児の身体にとっては都合がいいらしい。実際、生まれたての子どもを寝かせてみたら、いい具合に収まった。まぁなんて可愛いんでしょう。小さな布団の半分しか使っていないわ。小さい赤ちゃんですね、うふふ。そんな具合で使い始めた布団だが、今はもう使っていない。
 寝相の悪い我が子をカバーするために、お情け程度に私の布団の脇に並べているだけだ。本人は私の布団の中に潜っている。そろそろ彼用の大きな布団を買わねばならない。この小さな布団ともお別れだ。そのつもりでいたのだが、本日、なんと約一年ぶりに、小さな布団が使われた。
 私は早々に自分の布団に潜り込み、寝たふりを決め込んでいたときのことだ。元気な声が隣から聞こえてきた。
「おかーしゃ、みてみてー!」
 迂闊に振り向いてはいけない。下手に反応すると彼の遊びたい欲に拍車がかかる。
 心を鬼にして聞こえない体を装っていた。だが、我が子は諦めが悪い。なおも「みてみて!」と言ってくる。続けて、「おふとん!」「まくら!」と言ってきた。ここで私はやっと反応した。彼が枕を持っているはずがないのだ。
 彼の寝相が荒くなってきた頃からずっと、枕は使っていない。今日も押入れの中に潜っている。一時期はタオルを使って枕を作っていたが、それも今はやっていない。
 それなのに枕だと。どういうことだ。
 不思議に思って布団から顔を上げ、彼の方を見たときに笑ってしまった。
 自らの枕を探し出せなかった我が子は、自身の父親の枕を取ってきたのだ。ちょっとお高い低反発の枕は、彼の布団にはもったいないほどに大きい。
「まくらだよ!」
 確かにそれは枕だね、おとーさんのだけど。
 さて、これを見たら、夫は何というだろう。この枕じゃないと眠れないー、なんて冗談めかして言っていたこともあったのだが、我が子の所行に対してどう動くのだろうか。奪い取るか、それともそのままにしておくのか。
 自分の子どもに張り合うこともある夫の行動を想像し、また一つ笑ってしまった夜だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バーさん コンロと語る

はまだかよこ
エッセイ・ノンフィクション
76才のバーさん。やむなく新しいコンロを購入。このコンロがやたらうるさいのです……

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】初めてアルファポリスのHOTランキング1位になって起きた事

天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのHOTランキング一位になった記念のエッセイです。 なかなか経験できないことだろうし、初めてのことなので新鮮な気持ちを書き残しておこうと思って投稿します。 「イケオジ辺境伯に嫁げた私の素敵な婚約破棄」がHOTランキング一位になった2022/12/16の前日からの気持ちをつらつらと書き残してみます。

B型の、B型による、B型に困っている人の為の説明書

メカ
エッセイ・ノンフィクション
「あいつB型っしょ、まじ分からん。」 「やっぱ!?B型でしょ?だと思った。」 「あぁ~、B型ね。」 いやいや、ちょっと待ってくださいよ。 何でもB型で片付けるなよ!? だが、あえて言おう!B型であると!!

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜

珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。 2匹の怪獣さんの母です。11歳の娘と5歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。 毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)

まったくの初心者から長編小説が書けるようになる方法|私の経験をすべてお話します

宇美
エッセイ・ノンフィクション
小説を書いてみたい!! 頭の中は壮大なイマジネーションやアイディアが溢れていて、それを形にしてみたい!! けれども書き始めてはやめての繰り返し…… そういう人は多いと思います。 かくゆう、私も数年前まではそうでした。 頭の中のイマジネーションを書き始めるけど、書いては消しての繰り返しで短編1本仕上げられない…… そんな私でしたが、昨年50万字超の作品を完結させ、今では2万字程度の短編なら土日を2回ぐらい使えば、書き上げられるようになりました。 全くのゼロからここまで書けるになった過程をご紹介して、今から書き始める人の道しるべになればと思います。

処理中です...