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気になるお姉さん
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我が家の二歳児は、まだ一人っ子だ。今後、きょうだいができるかもしれないが、まだ分からない。未定である。親戚にも同じ年ごろの子どもがいないので、彼が同年代の子と関わる場所はほとんど保育園に限られている。時折、ショッピングモールの遊び場に行って、同じくらいの年齢の子と遊ぶくらいだ。遊ぶといっても、その場にある滑り台の順番待ちをしたり、おもちゃが置かれているところに集まってそれぞれ別のおもちゃで遊んだりが関の山だ。一緒になって同じ遊びをすることはできない。子どもとしても、同じ空間に同じ年ごろの子が同じようなおもちゃで遊んでいる、くらいの感覚しかないように見える。きょうだいのいない我が子が遊び相手にするのは、専ら母だ。そんな様子の我が子だったが、先日、少し変わったことが起きた。
いつものように、買い物の後にキッズスペースに立ち寄った。同じく買い物帰りらしい母親数名と、子どもたちが遊んでいる。我が子はお気に入りのおもちゃが空いているのを見ると、一目散に駆けて遊び始めた。一緒に遊んで、ある程度の時間が経ったら帰る。これがいつものパターンだ。だが、この日は違った。我が子の遊び相手が私以外にもいた。
小学生くらいの女の子だった。そのキッズスペースを使うには、年齢がやや高い。不思議に思って見渡すと、彼女の妹らしき女の子が近くにいた。その隣には、お腹に赤子を抱えた母親もいる。三人きょうだいの長女のようだった。下にきょうだいがいるせいか、面倒見のいい女の子だった。滑り台でまごつく我が子に世話を焼いたのをきっかけに、気がついたら二人で遊んでいた。いや、我が子がこの「お姉さん」にくっついて動いていたのだ。
お姉さんはせわしなく動き、色んなところで遊んでいる。それを我が子が追いかけていた。時折、「ぉねーちゃ、こっちよー」と呼んでいる。お姉さんがかくれんぼを始めると、我が子はけたけたと笑いながらお姉さんの姿を探した。見つけると、今度は我が子が隠れてみせる。お姉さんと同じように隠れて、見つけてもらうとやはり楽しそうに笑っていた。
キッズスペースを余すところなく動き回って遊んでいた二人は、隅にある絵本置き場に辿り着いた。息子が「こぇ」と言って差し出した本を、お姉さんが読んでくれる。恐らく読み方を習ったばかりなのであろう。書かれている文字を精一杯追いかけながら読んでくれた。
ショッピングモールでの出会いは一期一会だ。同じ曜日の同じ時間に行ったとしてもまた会えるとは限らない。このお姉さんと我が子が遊べるのは、この日限りだろう。何年か経ってから奇跡的に再会しても、お互いにそうだとは分からない。そもそもこの日の出来事すら記憶していないかもしれない。
いつもは知らない人とはすぐに打ち解けられない我が子が、あんなにも長く、初対面の子と遊べたのは貴重な出来事だった。もしも我が子に姉か兄がいたら、ああやって毎日遊んでくれたのかもしれない、とありもしない想像を膨らませた。または妹か弟が生まれたら、彼がああやって遊んでくれるのかもしれない。そう考えると胸が温かくなる。
ちなみに、このときのお姉さんの妹だと思われる子どもは、途中まで二人にくっついて回っていた。知らない子であるはずの我が子にそれほどやきもちを妬く様子もなかったので、母としてこっそり胸をなでおろした。息子がお姉さんに絵本をせがんだとき、この子も絵本をせがんできた。しかし、相手は自分の姉ではなく、自分の姉が遊んでいる子どもの母親――つまり私だった。絵本が読み終わるわずかな間だけ、知らない女の子に絵本を読んでもらう息子と、知らない女の子に絵本を読んであげる母親という不思議な構図が出来上がっていた。
いつものように、買い物の後にキッズスペースに立ち寄った。同じく買い物帰りらしい母親数名と、子どもたちが遊んでいる。我が子はお気に入りのおもちゃが空いているのを見ると、一目散に駆けて遊び始めた。一緒に遊んで、ある程度の時間が経ったら帰る。これがいつものパターンだ。だが、この日は違った。我が子の遊び相手が私以外にもいた。
小学生くらいの女の子だった。そのキッズスペースを使うには、年齢がやや高い。不思議に思って見渡すと、彼女の妹らしき女の子が近くにいた。その隣には、お腹に赤子を抱えた母親もいる。三人きょうだいの長女のようだった。下にきょうだいがいるせいか、面倒見のいい女の子だった。滑り台でまごつく我が子に世話を焼いたのをきっかけに、気がついたら二人で遊んでいた。いや、我が子がこの「お姉さん」にくっついて動いていたのだ。
お姉さんはせわしなく動き、色んなところで遊んでいる。それを我が子が追いかけていた。時折、「ぉねーちゃ、こっちよー」と呼んでいる。お姉さんがかくれんぼを始めると、我が子はけたけたと笑いながらお姉さんの姿を探した。見つけると、今度は我が子が隠れてみせる。お姉さんと同じように隠れて、見つけてもらうとやはり楽しそうに笑っていた。
キッズスペースを余すところなく動き回って遊んでいた二人は、隅にある絵本置き場に辿り着いた。息子が「こぇ」と言って差し出した本を、お姉さんが読んでくれる。恐らく読み方を習ったばかりなのであろう。書かれている文字を精一杯追いかけながら読んでくれた。
ショッピングモールでの出会いは一期一会だ。同じ曜日の同じ時間に行ったとしてもまた会えるとは限らない。このお姉さんと我が子が遊べるのは、この日限りだろう。何年か経ってから奇跡的に再会しても、お互いにそうだとは分からない。そもそもこの日の出来事すら記憶していないかもしれない。
いつもは知らない人とはすぐに打ち解けられない我が子が、あんなにも長く、初対面の子と遊べたのは貴重な出来事だった。もしも我が子に姉か兄がいたら、ああやって毎日遊んでくれたのかもしれない、とありもしない想像を膨らませた。または妹か弟が生まれたら、彼がああやって遊んでくれるのかもしれない。そう考えると胸が温かくなる。
ちなみに、このときのお姉さんの妹だと思われる子どもは、途中まで二人にくっついて回っていた。知らない子であるはずの我が子にそれほどやきもちを妬く様子もなかったので、母としてこっそり胸をなでおろした。息子がお姉さんに絵本をせがんだとき、この子も絵本をせがんできた。しかし、相手は自分の姉ではなく、自分の姉が遊んでいる子どもの母親――つまり私だった。絵本が読み終わるわずかな間だけ、知らない女の子に絵本を読んでもらう息子と、知らない女の子に絵本を読んであげる母親という不思議な構図が出来上がっていた。
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