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小さな誤魔化しから見る成長
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子どもは素直なところが可愛い。自分のやりたいことに忠実に生きている様は、見ていて微笑ましいものがある。時折、親がやって欲しいことと子どもがやりたいことが噛み合わずに苛立つこともあるが、それもこれも子どもの自意識の成長の表れだろう。
そんな子どもの心の成長を密かに感じる出来事があった。きっかけは、子どもの障子戸破りだ。
まだ畳の上を這うことしかできなかった頃、子どもは障子紙を突き破ることにハマっていた。手を出すだけで破れる紙の感触と、破れて障子戸から取れる紙片の動きと、その行動で慌てる母を見て面白がっていたのだと思う。足で立てるようになってからもそれはしばらく続いたが、ある程度大きくなったところでやらなくなった。破る回数が減った頃を狙い、障子紙を全て貼り直してしまったせいかもしれない。破れのない綺麗な障子を見て、「これは破ってはいけないものだ」と学んだのだ、と信じている。ちなみに、今回話したいのはこの学びについてではない。もう少し後になって起きた出来事のことだ。
我が子は、飛行機の音が聞こえると窓に駆け寄ってその姿を見ようとする。時には、豆粒ほどの飛行機を指差して、
「ほーきだ!」
と言っている。じぃっと目を凝らさねば見えないような、極小さな姿でも捉えてしまうのだから、その視力は恐ろしいものがある。眼鏡がなくては生活ができないほどの視力しか持たない母としては羨ましい限りだ。
その目も、そうやって飛行機を探そうとしていた。しかし、障子が閉めっぱなしになっていた。普段であれば自分で障子を開けてしまうのに、この日はそれをしなかった。代わりに、ぷつり、と障子紙に人差し指をさし入れた。私がこの行動に気づいたのは、びりびりと紙が破かれる音が聞こえてからだ。
畳んでいた洗濯物を投げ出して子どものところへ行くと、ぱっくりと大きな穴の空いた障子紙が見えた。このとき、自分が何と言ったかは正確に覚えていない。おあー、と情けない声を漏らしながら天を仰いだような気がする。子どもが成長したとはいえ、障子を破る可能性はゼロではなかった。その子どもを見ずに洗濯物に集中していた私のミスだ。やっちまった、という気持ちで胸がいっぱいだった。
そんな私の様子を見て、子どももただごとではないと感じたらしい。
「ないない、したよ」
破った障子を後ろに引っ込め、代わりに破っていない側の障子を前に引っ張り出した。破れた箇所はタンスの影に隠れてしまい、惨劇の跡は見えなくなった。
なんと、彼は誤魔化す術を編み出してしまったのだ。そんなこともできるようになったのね、と感心する一方で後悔もした。子どもにこんな誤魔化しをさせてしまってはいけない。
子どもを抱きしめて、ごめんね、と謝った。後で障子を貼り直すからね、と言い、ひとまずテープを貼って補強した。
自分の失態を失態だと認識できること、そしてそれを誤魔化せること。これらの行動から、子どもの成長を見た。赤子のときにはできなかったことだ。だが、できれば子どもには自分のミスを素直に認め、それを打ち明けられるようになって欲しい。
このとき私は、どんな行動をとるのが正しかったのか、いまでもよく分からない。子どもの成長の早さと、育児の難しさを改めて知る出来事だった。
そんな子どもの心の成長を密かに感じる出来事があった。きっかけは、子どもの障子戸破りだ。
まだ畳の上を這うことしかできなかった頃、子どもは障子紙を突き破ることにハマっていた。手を出すだけで破れる紙の感触と、破れて障子戸から取れる紙片の動きと、その行動で慌てる母を見て面白がっていたのだと思う。足で立てるようになってからもそれはしばらく続いたが、ある程度大きくなったところでやらなくなった。破る回数が減った頃を狙い、障子紙を全て貼り直してしまったせいかもしれない。破れのない綺麗な障子を見て、「これは破ってはいけないものだ」と学んだのだ、と信じている。ちなみに、今回話したいのはこの学びについてではない。もう少し後になって起きた出来事のことだ。
我が子は、飛行機の音が聞こえると窓に駆け寄ってその姿を見ようとする。時には、豆粒ほどの飛行機を指差して、
「ほーきだ!」
と言っている。じぃっと目を凝らさねば見えないような、極小さな姿でも捉えてしまうのだから、その視力は恐ろしいものがある。眼鏡がなくては生活ができないほどの視力しか持たない母としては羨ましい限りだ。
その目も、そうやって飛行機を探そうとしていた。しかし、障子が閉めっぱなしになっていた。普段であれば自分で障子を開けてしまうのに、この日はそれをしなかった。代わりに、ぷつり、と障子紙に人差し指をさし入れた。私がこの行動に気づいたのは、びりびりと紙が破かれる音が聞こえてからだ。
畳んでいた洗濯物を投げ出して子どものところへ行くと、ぱっくりと大きな穴の空いた障子紙が見えた。このとき、自分が何と言ったかは正確に覚えていない。おあー、と情けない声を漏らしながら天を仰いだような気がする。子どもが成長したとはいえ、障子を破る可能性はゼロではなかった。その子どもを見ずに洗濯物に集中していた私のミスだ。やっちまった、という気持ちで胸がいっぱいだった。
そんな私の様子を見て、子どももただごとではないと感じたらしい。
「ないない、したよ」
破った障子を後ろに引っ込め、代わりに破っていない側の障子を前に引っ張り出した。破れた箇所はタンスの影に隠れてしまい、惨劇の跡は見えなくなった。
なんと、彼は誤魔化す術を編み出してしまったのだ。そんなこともできるようになったのね、と感心する一方で後悔もした。子どもにこんな誤魔化しをさせてしまってはいけない。
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自分の失態を失態だと認識できること、そしてそれを誤魔化せること。これらの行動から、子どもの成長を見た。赤子のときにはできなかったことだ。だが、できれば子どもには自分のミスを素直に認め、それを打ち明けられるようになって欲しい。
このとき私は、どんな行動をとるのが正しかったのか、いまでもよく分からない。子どもの成長の早さと、育児の難しさを改めて知る出来事だった。
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