でんでんむしが好きな君

ひらどー

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人生初の花火大会

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 七月頃から、町中で花火のイラストを見かけるようになった。我が子は絵本で初めてその存在を知った。絵本の中に「花火があがるよ。どどーん、ばーん」といった一節がある。以来、それらしい絵を見つける度に、「どどーんばばーん、あったねぇ」と教えてくれる。「はなび」と名詞を使うことはない。
 花火の絵を見つけるたびに教えてくれる我が子を見て、本物の花火を彼に見せてやりたい気持ちが募った。迫力のある本物の花火を見せて、本物の打ち上げ音を聞かせてやりたい。
こんな想いがあったが、初めての花火鑑賞には不安があった。大きな音に驚いた我が子が、花火を怖がる可能性があったからだ。協議の結果、花火は自宅から観ることになった。観える花火のサイズは小さいが、自由が利く。音に怯えて泣こうが喚こうが、周りに迷惑をかけることはない。
 迎えた当日、子どもは本物の花火を観た。色とりどりの花火が闇夜に浮かぶ。風向きの関係で、花火のサイズに反して大きな音が耳に届いた。子どもは音に驚きはしたが、怖がってはいなかった。小さな花をじっと見つめていた。
一通り打ち終わると、次の打ち上げまでわずかに時間ができる。その空き時間にご飯を食べ、再び音が聞こえると花火を観に戻った。自宅の窓の位置が高いせいで、子どもが立っただけでは花火が観えない。打ち上がる度に、母である私が抱き上げた。十キロを優に超える我が子を何度も上げ下ろししたおかげで、この日は随分と鍛えられたような気がする。
 花火大会は一夏に一回で終わるものではない。後日、別の打ち上げ場所で花火大会が行われた。子どもが花火を怖がらないと分かったため、こちらは打ち上げ地点の近くまで行って観ることになった。
 土手にレジャーシートを敷いて簡易テーブルを設置し、スーパーで買った食事を広げて、暗くなるのを待つ。落ち着かない様子の子どもに、花火を観れるよ、と説明した。本人は、花火は自宅から観るものだと認識していたようで「おうちかえるか?」と何度も訊いてきた。もうすぐ始まるよ、と話しているうちに打ち上げ開始時刻が目前に迫った。
 彼はまだ、小さな花火しか知らない。間近で観る花火にどれほど驚くだろう。
 子どもの反応に期待しながら、そのときを待つ。そして、そのときはきた。彼がツナマヨおにぎりを食べているときだった。
 どんっ――と腹に響く音の後、目の前に巨大な花が咲いた。
 子どもはあんぐりと口を開けて見つめている。花火が立て続けに打ち上げられている間、彼は手に持っていたものの存在を忘れ、ひたすら花火を観ていた。
 落ち着いた後、花火どうだった、と感想を訊いてみた。両腕を広げ、大きな声で答えてくれた。
「どどーん、おっきーい、みたいね!」
 持っている語彙を使って、何とか表現しようとする姿が可愛らしい。
これから、子どもはどんどんと多くの言葉を修得していくだろう。来年にはいまの二倍、いや二乗もの言葉を話しているかもしれない。拙い言葉で花火について話してくれるのは今年で最後だ。二歳のいまのうちに花火を観せることができて、本当に良かった。
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