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行けないから
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嫌だ、したくない、行きたくない、と訴えることが増えてきた。言葉を覚えたばかり頃の定番文句は「しーなーいー!」だった。最近では語彙が増えてきたので、色んな拒絶のパターンを聞くことができる。
第一段階は可愛い。
「ぺちーん」
こう言って私の手を払う。子どもの機嫌もそれほど悪くないので、こちらもあまりイライラしないで済む。小さな手で私の手を押す、その優しい力さえ可愛く思える。ああ、むにむにの手の甲が愛らしい。むにむに。
困るのは第二段階からだ。
「行けないからー!」
叫び声に近い。
お風呂に行こう、と誘うと大体こう言われる。「行かない」ではない。「行けない」だ。行けないということは、行くことができないという意味である。そう考えると、そうか行けないなら仕方ない、と納得してしまいそうになる。だが風呂に入らずに一日を終えるわけにはいかない。保育園に行く朝は準備で忙しいので、優雅に入浴することができないのだ。何が何でも前日の夜に入ってもらわねばならない。思い切って、風呂から気を逸らして部屋で遊び、それから脱衣所へ行くなどの工夫が必要とされる。
第三段階となると、もう手がつけられない。泣いて暴れて、全身で拒絶の姿勢を取る。眠気が勝っているのだ。遊ぶことに集中し過ぎて、昼寝を忘れてしまった日の夜に、この形態になりやすい。ここまでくるとどうしようもないので、諦めて布団に寝かせてしまう。電気を消すとすぐに寝息を立て始める。翌朝の準備の工程の中に、子どものシャワーが新規タスクとして追加されるが頑張るしかない。
しかし、この子は何故「~できないから」と言っているのだろう。考えてみると、なるほど、私がよく言うフレーズだ。「ぐぁっこー」と言いながら抱っこをせがむ子どもに対して、「いま、ご飯作ってるから。抱っこできないから」と断っている。こちらとしてはきちんとした理由をもって断っているつもりなのだが、彼にしたら「~しないから」はただの断り文句でしないようだ。抱っこしてあげられないのは申し訳ないが、食事は作らねばならない。空腹時に食事がなければそれはそれで怒ることになるので、料理のときだけは勘弁して欲しい。
一応明言しておくが、彼は風呂嫌いではない。余程眠い場合を除いて、寝る前には風呂に行くものだと理解している。前に、第二段階のときにそのまま寝かせようとしたら、「おふろ、はいる」と言って、さっさと脱衣所に向かってしまった。おまけに浴室に入ると、きゃっきゃっと笑いながら遊んでいる。ぞうさんのじょうろをお供に携えれば、とにかくご機嫌だ。上がろうと促しても、浴室からなかなか出ようとしないほどだ。
一体何が嫌で風呂に「行けないから」と言っているのだろう。もう少し大きくなってから本人に訊ねてみたい。
第一段階は可愛い。
「ぺちーん」
こう言って私の手を払う。子どもの機嫌もそれほど悪くないので、こちらもあまりイライラしないで済む。小さな手で私の手を押す、その優しい力さえ可愛く思える。ああ、むにむにの手の甲が愛らしい。むにむに。
困るのは第二段階からだ。
「行けないからー!」
叫び声に近い。
お風呂に行こう、と誘うと大体こう言われる。「行かない」ではない。「行けない」だ。行けないということは、行くことができないという意味である。そう考えると、そうか行けないなら仕方ない、と納得してしまいそうになる。だが風呂に入らずに一日を終えるわけにはいかない。保育園に行く朝は準備で忙しいので、優雅に入浴することができないのだ。何が何でも前日の夜に入ってもらわねばならない。思い切って、風呂から気を逸らして部屋で遊び、それから脱衣所へ行くなどの工夫が必要とされる。
第三段階となると、もう手がつけられない。泣いて暴れて、全身で拒絶の姿勢を取る。眠気が勝っているのだ。遊ぶことに集中し過ぎて、昼寝を忘れてしまった日の夜に、この形態になりやすい。ここまでくるとどうしようもないので、諦めて布団に寝かせてしまう。電気を消すとすぐに寝息を立て始める。翌朝の準備の工程の中に、子どものシャワーが新規タスクとして追加されるが頑張るしかない。
しかし、この子は何故「~できないから」と言っているのだろう。考えてみると、なるほど、私がよく言うフレーズだ。「ぐぁっこー」と言いながら抱っこをせがむ子どもに対して、「いま、ご飯作ってるから。抱っこできないから」と断っている。こちらとしてはきちんとした理由をもって断っているつもりなのだが、彼にしたら「~しないから」はただの断り文句でしないようだ。抱っこしてあげられないのは申し訳ないが、食事は作らねばならない。空腹時に食事がなければそれはそれで怒ることになるので、料理のときだけは勘弁して欲しい。
一応明言しておくが、彼は風呂嫌いではない。余程眠い場合を除いて、寝る前には風呂に行くものだと理解している。前に、第二段階のときにそのまま寝かせようとしたら、「おふろ、はいる」と言って、さっさと脱衣所に向かってしまった。おまけに浴室に入ると、きゃっきゃっと笑いながら遊んでいる。ぞうさんのじょうろをお供に携えれば、とにかくご機嫌だ。上がろうと促しても、浴室からなかなか出ようとしないほどだ。
一体何が嫌で風呂に「行けないから」と言っているのだろう。もう少し大きくなってから本人に訊ねてみたい。
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