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自分で用意した枕に収まらない男
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子どもは寝相が悪い。身動きができなかった新生児の頃は大人しく布団に入って寝ていたのに、寝返りを習得してからはとにかくよく動く。小さな子ども用の布団に収まっているはずもなく、部屋の中を縦横無尽に動き回っている。これは起きているときの話ではない。眠っているときの話だ。
寝る直前まで私の隣にいたはずなのに、深夜にふと目を覚ますと部屋の端ですやすやと寝息を立てている。下手に抱き上げて起こすと不機嫌になる恐れがあるので、敢えて放置してみた。眠かったので動きたくなかったという理由もあるが、私の判断は正しかった。明け方にはきちんと初期位置に戻っていた。
眠りながらどれだけ大きな移動を繰り返しているんだ、君は。
これだけの寝相の悪さを誇る我が子は、枕を使っていない。寝ている間に動き回ることが分かってからは、使うのを止めていた。初めの頃は、頭の形を整えるために、ドーナツ型の枕を使用していた。それも既に押し入れの中だ。
そんな彼だが、二歳の夏に「まくら」と言い始めた。保育園で、枕を使い始めたのだ。
夏に入り、二枚のタオルを保育園に持って行くようになった。一枚は水遊びに使い、もう一枚は枕に使う。保育園でのお昼寝を目にしたことはないが、恐らく、タオルを折りたたんで子どもの頭の下に敷いているのだろう。枕を覚えた彼は家でも枕を作るようになった。
風呂から上がると、タオルを持って布団に飛び込む。そして、
「まーくーら、こぇ、まくらよ」
と言いながら、布団の上にタオルを広げる。初めてこの光景を目にしたときは、自分で枕を作れるようになったのね、と酷く感動したものだ。このときに彼が使ったタオルは、自分の身体を拭いた後のものだったためにすぐ回収してしまった。新しいタオルを与えられるとまたすぐに枕を作った。
この日から、布団を敷くときにはタオルも併せて用意するようにした。もちろん、枕を作るのは彼の仕事だ。時折、私にも世話を焼いて、「ままの、こぇ」と作ってくれる。そういったときは、私が普段使っているそば殻枕は彼に回収されてしまう。私は、ありがとうと言って大人しく彼の手作り枕を使わせてもらうことにしている。回収した私の枕をどうするつもりなのかと観察していたら、自分の頭の下に敷いていた。そば殻枕は薄く、ぺったんこであるにも関わらず、二歳児の身体には使いづらそうだ。しかし満足そうににやにやと笑っているので、私も笑って返した。
自分で枕を作るようになったので、寝相がよくなったのだろうか、といえばそんなことはない。いまでも彼は、私の頭の隣から足の先まで移動している。せっかく作った枕は置き去りだ。彼がどれだけ使いたくても、眠っているときは意識がないので、使うに使えない状況なのだろう。
枕が好きになった我が子について、一つだけ疑問がある。これだけ寝相の悪い彼は、果たして保育園でも枕をきちんと使えているのだろうか。彼の目が覚めたら訊いてみよう。きっと、にやりと笑って応えてくれるはずだ。
寝る直前まで私の隣にいたはずなのに、深夜にふと目を覚ますと部屋の端ですやすやと寝息を立てている。下手に抱き上げて起こすと不機嫌になる恐れがあるので、敢えて放置してみた。眠かったので動きたくなかったという理由もあるが、私の判断は正しかった。明け方にはきちんと初期位置に戻っていた。
眠りながらどれだけ大きな移動を繰り返しているんだ、君は。
これだけの寝相の悪さを誇る我が子は、枕を使っていない。寝ている間に動き回ることが分かってからは、使うのを止めていた。初めの頃は、頭の形を整えるために、ドーナツ型の枕を使用していた。それも既に押し入れの中だ。
そんな彼だが、二歳の夏に「まくら」と言い始めた。保育園で、枕を使い始めたのだ。
夏に入り、二枚のタオルを保育園に持って行くようになった。一枚は水遊びに使い、もう一枚は枕に使う。保育園でのお昼寝を目にしたことはないが、恐らく、タオルを折りたたんで子どもの頭の下に敷いているのだろう。枕を覚えた彼は家でも枕を作るようになった。
風呂から上がると、タオルを持って布団に飛び込む。そして、
「まーくーら、こぇ、まくらよ」
と言いながら、布団の上にタオルを広げる。初めてこの光景を目にしたときは、自分で枕を作れるようになったのね、と酷く感動したものだ。このときに彼が使ったタオルは、自分の身体を拭いた後のものだったためにすぐ回収してしまった。新しいタオルを与えられるとまたすぐに枕を作った。
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