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雨の日の帰り道
しおりを挟む灰色の空から大粒の雨が、
アスファルトに打ち付けられ黒く滲む。
傘は最小限の役割しか果たしてくれず、
鞄も肩も濡れていた。
「やばっ」
学校を出た時よりも激しさを増す雨に、
危険を感じて、近くの商店街に入った。
ここらの地区で一番古い商店街。
どこもシャッターが降りていて、雨音しか聞こえない。
八神は止みそうにない雨を少し睨みつけた。
「……帰れないじゃん…」
昔は賑わいを見せていたこの商店街も技術や人間が進歩するにつれて元気がなくなっていった。
近くに巨大なショッピングモールが出来た事には勝てないから。
商店街の入口にはへんてこな銅像が立っている。
八神はそのへんてこな銅像の近くに腰を下ろした。
雨は止む気配すら感じないほど強い。
八神がシャッターが締まりきった商店街をぼんやりと眺める。
「……あれ?」
不意に聞きなれた声が聞こえた。
顔を上げるとびしょ濡れの山田がニコニコと笑ってこちらを見ていた。
「やっぱり、大輔だ!」
遠くかでも分かったよ~とはしゃぎ出す山田。
はいはい。と軽くあしらって持っていたタオルを山田に投げつけた。
「お!さんきゅ~!」
びしょ濡れの頭をガシガシと荒く拭く。
「久しぶりだな~。アラキダショーテンガイ!」
「そうだね。」
立ち上がった八神は返ってきたびしょ濡れのタオルを絞りながら山田の隣に並んだ。
「大輔も?」
「うん。小さい頃何回か来たことがあるよ。」
八神の言葉に驚いた山田は目を丸くした。
「高校からこっちに引っ越して来てって……」
「夏休みとか、こっちに来てたんだよ。」
なるほど、と納得したらしく腕組みする山田。
「じゃあさ!魚屋のテンちゃん知ってる?」
「声の大きいおじさんでしょ?」
「そうそう!!」
「いっつも飴くれるよね」
「そうそう!味はね…」
「「パイナップルピーチ味」」
答えが揃い笑い出す二人。
「どっちなんだよ~」
「パイナップルかピーチか」
お腹痛いと笑い続ける山田と
堪えるように笑う八神。
「あ、あとさ、時計屋のおばさん」
絞り出すように声を出す八神に
「ダメ!それわダメだって~」
言葉を聞いただけで笑ってしまった山田。
二人の笑い声は締め切られた商店街に響き渡った。
「あー。笑った~」
すっかり晴れた空を見上げながら山田が言った。
「笑ったね~」
水たまりの多い帰り道を二人で歩く。
「そう言えば、カメラ屋の話よく知ってたね~」
山田が思い出したように八神に聞いた。
「あの商店街をいっつも案内してくれる子がいたんだ。」
その子から聞いた。と八神は答えた。
「へー。友達?」
水たまりをひょいっと飛び越えて山田が質問する。
「うん。とってもやんちゃな男の子だった。」
八神も真似して水たまりを飛び越える。
「ほー!名前は?」
もう1度、山田が水たまりを飛び越えて、
「あれ?」
八神からの返事が無いことを不思議に思い振り返ると、
八神は立ち止まって、水たまりを見ていた。
「知らないんだ。」
そう答えた八神に
なんでー?と興味津々に聞いてくる山田。
わかんない。と八神は素っ気なく返した。
「でも、」
『きみ、だーれ?』
同じくらいの背丈の男の子。
『ともだちになろーよ!』
誰にでも笑顔で、
『しょーてんがいいこー!』
いっつも元気で
『テンちゃんはね!あめくれるよ!』
いろんなこと教えてくれて
『カメラのおっちゃんはね!』
イタズラ好きで、
『またね!だいすけ!』
水たまりを飛び越えて、八神が山田の隣を歩く。
「また、会える気がするんだよね」
山田が見た八神の横顔は何故か楽しそうだった。
「会えるよ。きっと!」
二人の上には大きな七色の虹が雨上がりの空に浮かんでいた。
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