捨てられ第二王子は、神に愛される!

水魔沙希

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教会とは、神に祈りを捧げる以外にも怪我人を手当てをする場所でもあるらしい。僕がその人物を目にした時は咄嗟に行動に移していた。


「その冒険者を、横に寝かせてください!僕が治癒魔法をかけますから!!」


村長さんは大怪我をした人物を僕の傍に寝かせるように運んでいる人物らに指示した。怪我をした冒険者は腹から血を流して、気を失っている。下手したら、死んでしまうかも!助けられる人は助けないと!


血が流れている腹部を包帯で押さえると、僕は咳払いをする。上手く声が出せるように。


僕の心の準備が出来てから、歌を歌い始める。


♪~♪♪


歌い始めると、冒険者さんの顔色が良くなってくる。しかし、雑念が入らぬように歌う。歌い終わると、僕は冒険者さんに駆け寄る。



「あの、大丈夫でしょうか?」


僕は冒険者さんの肩を揺らす。しかし、返事はない。けれど、規則的な呼吸音が聞こえるので、どうやら無事らしい。腹部の怪我もなくなって、血流が良くなっている。僕は安堵した。


「ハァ・・・ハァ。良かったぁ。また、助けられる命を助ける事が出来た。」


『グレイシア。お疲れ様。人々の役に立つって気分良いよね!』


アポロンが言ったのと同時に、教会内から拍手が湧き起こる。近くにいた村長さんなんか僕に祈りを捧げている。


「やはり貴方は神の愛し子ですぞ!こりゃーめでたい!」
「そ、そんな・・・。僕は僕の出来る事をしたまでです。」


「・・・村長さん、この冒険者をどうする?」
「それは、この教会で預かる事にしよう。・・・そう言えば貴方様の名前を伺っていませんでしたね。名前を伺ってもよろしいか?」


村長さんにそう聞かれ、僕は戸惑った。でも、悪い事はしていないし、それくらいは良いよね?


「・・・僕の名前はグレイシアです。」
「グレイシア様!なんと高貴な名前だ・・・。」
「グレイシア様、最高!!」
「グレイシア様は神の愛し子!!」


なんと名前を名乗っただけなのにこうも持ち上げられるとは思わなかった。僕は冒険者さんの怪我を治しただけだよ?


『ヒュー。グレイシア様、最高!!』


もう、アポロンまで何を言っているの!


『でも、グレイシアがやった事でしょ?褒められるような事だよ!』


でも、やっぱり自分のした事が褒められるなんて、嬉しいなぁ。ちょっと、照れるような。


「グレイシア様、よろしければ夕食を食べていかれては?」


そう、村長さんは言う。僕はご厚意に乗る事にした。


☆☆☆☆


夕食は村長さん宅で取る事になった。正直に言って、誰かと一緒に食べるご飯は美味しいものだと知った。勿論、アポロンがいるのは悪い事じゃないよ。でも、やっぱりご飯、美味しいや。


夕食を頂くと、泊まるように促されるが、そこまでお世話になるのは悪いと思う。だから、断りを入れて、自宅に帰る事にした。


「このメチュアートの村人さん達にはお世話になりました。ありがとうございます。」


僕は村人さん達にお礼をする。村長さんは名残惜しいようである。


「そんな!こちらこそお世話になりました!」


雨の事なら偶然なのになぁ。僕が降らせるなんて芸当、出来やしないのに。


☆☆☆☆


僕はテレポートで自宅に戻ろうとすると、先程助けた冒険者さんの姿があった。


「・・・アディエル王子?」


しまった!この冒険者さんはアディエル王子の事を知っているのか!こんなところにいるとバレると僕は殺されてしまうかも!僕はただでさえ注目を集める存在なのに!



どうにか誤魔化さないと。


「・・・我が名はグレイシア。神に仕える者です。」


『・・・ククッ。急に、口調を変えてきた!こりゃー、面白い!ちょっと、グレイシア、テンパりすぎだよ!』


アポロンに笑われたけど、この場をどうにかしないとという気持ちが強かった。それに、冒険者さんも変に納得していた。


「・・・そうか。こんなところに王子様がいる訳ないか。」
「どうかされましたか?」


逃げ出したい気持ちが強い癖に、聞いちゃうのは何故かなぁ?


「・・・貴方が俺を助けてくれたと聞きました。俺は所属していたパーティを突如として追い出されて、強い魔物の盾に使われて、もうここで死んでしまうかと思ってしまいました。でも、運が良い事に貴方と出会って、魔物につけられた傷を治して頂き、俺を生かしてくれました。だから、なんと言ってお礼を申し上げたら・・・!」


へー?この人にも色々とあったんですね。しかも、仲間を見捨てるなんて、とてもじゃないですが酷いです。


「・・・ぼ、私は自分の出来る事をしたまでです。礼など不要です。しかし、それでも、礼を言いたいなら、私と引き合わせたこのメチュアートの村人に礼を言ってください。彼らがいなければ、貴方は死んでいたのですから。」


ちょっと、偉そうな事を言ったかなぁ?でも、事実だし。そして、そろそろ帰ろう。その人が余所見をしている隙に僕は自宅までテレポートしたのだった。
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