スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

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第17章:樹龍の愛し子編

第207話:真の目的

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「ここまでの話を一旦まとめるね。大陸の植物を司る樹龍が目を覚ましそうで、それを鎮める儀式を行うことになった。その巫女に選ばれたのがプラウティアで、教会騎士は強引にプラウティアを教会に連れて行った。私たちは十五日以内に仲間を集めて、教会騎士と戦わなければならない。この教会の騎士との戦いも儀式ということになっていて、『争陣の儀』って言われているんだけどね」

 セネカが口を閉じるとニーナが近づいてきて、腕に絡みついた。

「教会騎士と戦うなら協力するよ」

「僕も必ず力になる」

 ファビウスも力のこもった目で断言した。だが、そんな二人の行動をプルケルは止めた。

「二人とも、結論を出すのは早いよ。僕が思うにこの話には続きがあるし、まだ交渉は始まっていない。ここまでは前提に過ぎない。そう考えても良いよね?」

 セネカは頷いた。ニーナとファビウスはたしなめめられて口を噤んだ。セネカがニーナの立場だったら同じように反応してマイオルに注意されたかもしれない。

「先に争陣の儀について補足をするけれど、教会騎士と戦うにあたって国やギルドからの支援を受けられることになっているの。ピュロンをはじめとして、訓練を見てくれる人がいる。それと、もし『羅針盤』が参加する事が決まったとしてもあと一人足りないけれど、その人員についてはマイオルに任せてる。王都で作戦を立てているからそれに合わせて人を選ぶって話だったよ」

 プルケルは引き続き険しい表情で話を聞いている。

「護衛役の選抜が終わった後、本命の儀式はいつになるんだい?」

「儀式を行うのは次の月詠の日だって。だから、あと二十日くらいだね。その時には森の奥にいなきゃだから、出発はもう少し早くなるみたい」

「準備を整えて儀式をすると考えれば確かに早急ではあるが、国家存亡に関わる事態にしては時間がかかるとも思うが、その点はどうだろうか」

 確かにプルケルの言う通りだとセネカは感じた。国が危ないと言っているのに儀式が行われるのは二十日後と比較的後になる。

 返答に困っていると隣にいたガイアが口を開いた。

「その点について、ヘルバ氏族の次女でヘルバ氏族長代理のフローリア様に軽く質問したのだが、今のところは『龍が目覚めそう』な状態というだけらしい。詳細はフローリア様も把握していないようだったけれど、月詠の日に行うことにも意味があるのかもしれない」

「かなり複雑な事情がありそうだね。それに三百年も前のことだから全ての記録が残っているわけでもなさそうだ」

 セネカは頷いた。

「正直、私たちも細かいことは分かっていない状態。もしかしたら誰も分かっていないことが多いのかもしれない」

「その可能性が高そうだね」

 プルケルは困ったように笑った。横を見るとファビウスとニーナはセネカをじっと見ていて、まるで何があってもプラウティアを助けに行くと言っているかのようだった。メネニアはそんな仲間達を静かに見守っている。

 そろそろ本題に入らなければならないだろう。

「私たちの第一の目的は争陣の儀に勝ってプラウティアの護衛になること。教会騎士団は格上で、『羅針盤』が入ったとしても勝つのは厳しいと思う」

「自虐ではなく事実を言えば、僕たちは『月下の誓い』に劣っている部分が多いしね」

 そう言うプルケルの表情は読めない。セネカは言及しないことにした。

「だけど勝たなくてはならないって私たちは考えている。争陣の儀は教会と王国の代理戦争っていう面があって大きなことになっているけれど、私たちにとっては知ったこっちゃない。そんなことは全ての前座に過ぎないって思っている」

 セネカは話の続きで一瞬口を閉ざした。ギィーチョ達との話の後でキトとマイオルが指摘した大事なこと、そしてそれにまつわる覚悟を示さなければならなかった。

「大陸の植物を統べる樹龍。それを鎮める『龍祀の儀』では、巫女が龍と出会って供物を捧げることになっている。その詳細は誰も知らないみたいで、儀式をする巫女がどうなるのかも分かっていないの」

 セネカは自分が下を向いていることに気がつき、顔を上げた。いつのまにかガイアが近づいていて、肩に手を添えてくれた。

「プラウティアのお姉ちゃんのフローリアさんは『危険があるかもしれない』って言って、プラウティアが巫女に選ばれた時にすごく悲しそうな顔をしていた。国や教会は大陸の平和を守ることを優先していて、龍の脅威をなくすことしか考えていない」

 それはつまりどういうことか。

「⋯⋯プラウティアが危ないかもしれないの。もし教会騎士が護衛に選ばれたらプラウティアの身を樹龍に差し出してでも儀式を遂行すると思う。彼らはそれを必要なことだと思っているだろうし、犠牲になることを褒め称えることすらするかもしれない」

「それは、例えばプラウティアさん自身が捧げ物である可能性を考えているということだろうか」

 セネカは頷いた。乱れる息を落ち着けようとしたけれど、それはとても難しかった。

「私はそんなことを認めない」

 そして覚悟を示す。

「もしプラウティアに危害が加わりそうだったら、私たちは、『月下の誓い』は樹龍に挑む。相手が本気だったら勝てる訳はないと思っているけど、仲間が傷つけられるのを黙って見ることなんてできない。それが禁忌だとしても、許されないことだとしても、プラウティアを守るって私は決めたの」

 セネカは『羅針盤』のみんなを見た。

「プルケル、ストロー、ニーナ、ファビウス、メネニア……。お願い、力を貸して。私たちの真の目的はプラウティアを守ること。相手が教会でも国でも、樹龍であったとしても、私たちはプラウティアを守りたいの。命を賭けてでも!」

「……それは僕たちにも命を賭けろと言っているんだよね?」

 プルケルの言葉にセネカは頷いた。とんでもないお願いをしていることは分かっていた。

「対価は、現時点で『月下の誓い』が保有しているスキルに関する知識全て。その中には効率的なレベルアップの方法も含まれている」

 プルケルは初めて目を見開いたが、すぐに鋭い表情に変わった。

「君たちのレベルアップには何か秘密があると思っていたけれど、それを得ることができるのか……。本気だね」

「プラウティアを守ることに比べたらそんな情報に価値はないよ。参考情報だけれど、いま『月下の誓い』にはレベル4が四人、レベル3が一人、レベル2が二人いる」

「レベル4が四人!?」

 ストローが反応した。あり得ないと言いたげだが、これがあり得てしまうのだから仕方がない。

「他にも国から褒賞が出るみたいだけど、詳細はよく分からなかった。莫大なお金と最高の武器を用意してくれるって言ってたような気がするかな。それに護衛役に選ばれたら、教会やギルドからも支援を受けられるはずだよ」

「破格の報酬だね。君たちが持っているスキルの情報は喉から手が出るほど欲しいものだよ。けれど、死んでしまっては元も子もないというのが正直な感想だね」

 プルケルはあくまで冷静な態度を貫いている。
 そんな中でファビウスが口を開いた。

「僕は参加するよ」

「ファビウス?」

 プルケルは止めようとしたけれど、ファビウスの顔見てやめたようだ。

「僕は一人でも護衛団に加わるよ。みんなには申し訳ないけれど、約束したんだ。僕は必ずプラウティアさんを助ける!」

 大きな声でそう言うファビウスを見て、ニーナは息を吐いた。

「ファビ君が行くなら私も行くよ。私が保護者だからね」

「ニーナ、僕が保護者だよ」

 ニーナは笑っているが、目の奥には熱い光があった。幼馴染のニーナが付いてくると聞いてファビウスから少しだけ力が抜けた。

 そんな二人の様子をプルケル、ストロー、メネニアはじっと見つめていた。いや、プルケルはニーナだけを強く見ていた。

「返事は明日の朝でも良いだろうか?」

 プルケルの言葉にセネカは頷いた。

「突然来て、重大な決断をさせることになって申し訳ないと思っている。私たちもここで野営しようと思っているから、何か聞きたいことがあったら私かガイアかピュロンに聞いて欲しい」

 セネカはガイアと共に頭を下げた。

「ちなみにピュロンは私たちが龍と戦おうとしていることは知らないから⋯⋯。勘付いているとは思うけどね」

「そうか……。それにしても、君たちが来た時に何かとんでもない事態になっているんだと思ったが、まさか龍と戦うつもりだとは思わなかったよ。それに、話を聞くに樹龍は最上級の格の龍だろう?」

「格が高いのは間違いがないと思う」

「なぜそんな存在と戦うなんていう大それたことを考えたんだい?」

 プルケルは信じられないとでも言いたげだ。セネカは少しだけ考えてすぐに答えた。

「プラウティアを助けたいっていうのが一番だけど……この前、最上格の龍と戦って来たからかもしれない」

「そ、それは本当なの?」

 何故かメネニアが食いついて来た。セネカが同意を求めるとガイアは口を開いた。

「青く賢き龍と思われる龍と戦って生存して来た。そして、私たち……いや、マイオルが龍に試練を課され、力を示した後で加護を手に入れたんだよ」

 その言葉の後には静寂が広がった。
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