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第16章:砂漠の薔薇編

第180話:森での戦闘

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 リザードマンの森に入ったセネカ達は順調に森を進み、探索を続けていた。既に三つのリザードマンの群れと遭遇して、無事に壊滅させている。戦いにも慣れてきたので、新たな群れと遭った時も迷いなく戦いを始めることができた。

 セネカは刀のような形の針を振って、リザードマンの首を落とした。このリザードマンは石斧を持っていたが、形は洗練されていて切れ味も悪くなさそうだった。

「セネカ、後ろは任せて!」

 ルキウスの声が聞こえてくる。セネカはその声を信じて、群れの中にさらに一歩入った。リザードマンの群れの中には原始的なスリングで石を飛ばしてくる個体がおり、彼らが一番脅威度が高いので優先的に倒すことになっている。

 石斧のリザードマンを切り伏せて群れの奥に進もうとした時、セネカの目の前に長い木の棒を持つリザードマンが立ちはだかった。このリザードマンは強靭な膂力を活かして杖術のように棒を振り回し、他のリザードマンを守る。変則的な動きが多いので剣や槍を持つ個体よりも倒しづらい。

 統率の取れた動きで三匹のリザードマンがセネカに棒を振り下ろす。避ける隙間が限られている良い連携だが、セネカは冷静だった。

 セネカはスキルを使う。三本の木の棒を縫い、糸を引き絞って絡めてしまう。突然棒に力が加わったのでリザードマン達はうろたえ、硬直を見せた。セネカは瞬時に一番左の個体の首を刈る。真ん中の個体の腕を切り落とし、右側の個体の後ろにまわる。

 回転斬りで三匹目の首を落としながら周囲を確認する。先ほどの言葉通りルキウスが後を追ってきていて、こちらにやってこようとしていた個体を斬っている。

 一瞬ルキウスと目が合った。顔を見るに状況は悪くなさそうなのでこのまま暴れて問題なさそうだ。

 セネカは地面に落ちているリザードマンの武器――石斧や剣、棒など――と奥にいるリザードマン達を魔力糸で繋ぎ、スキルを発動した。すると、まるで意志を持っているかのように武器が動き出し、凄まじい速度で飛んで行った。

 けたたましい声と共にリザードマン達が吹っ飛んでいく。セネカはその様子を見て、攻撃対象にならなかった個体に攻撃を加える。気づけばルキウスも飛び出していて、反対方向から敵を倒し始めている。

「セネカ、こっちに戻ってプラウティアと交代して!」

 マイオルからの指示が聞こえる。セネカは目の前のリザードマンの胴体を真っ二つにした後で後ろに飛びすさり、集団からの離脱を始めた。

 一歩、二歩と進むうちにセネカは自分がかなり前に出ていたことに気がついた。マイオルがいる場所は遠く、すぐ後ろにいたはずのプラウティアとも距離が空いている。連携を考えるとあまりよろしくない状態だ。

「中衛まで脅威なし!」

 すれ違うときにプラウティアがそう言った。撃ち漏らしはなさそうだし、他の群れが来たというわけでもなさそうだ。マイオルとガイア、そしてモフが走ってこちらに近づいてくるのが見える。

「モフ、ガイア、前衛の援護をお願い! セネカと私は後ろに下がるわ」

 モフとガイアは頷いて前に進んで行った。セネカはマイオルと共に二人の後ろにつく。

「マイオル、私、前に出過ぎだったよね。ごめん!」

 セネカは周囲を警戒しながら言った。

「え? あー、確かにそうだったけれど戻ってもらった理由は違うわよ。このままだと二人だけで全滅させそうだったからプラウティア達にも戦ってもらった方が良いと思ったの。奥に進むほど敵が強くなっているように思うしね」

 話しながらマイオルがベリーを渡してくれた。先ほどプラウティアが採っていたものだろう。口に入れると甘酸っぱさが広がり、乾いた喉が潤う。

「セネカとルキウスの連携はよく取れているから、このあとは、プラウティアやあたしが一緒に戦う経験を積むことにするわね。あと緊急時は回復魔法を使って貰うからその場合はガイアとも協力してもらわないとだなぁ。セネカはひとまず休憩ね」

 もうひと掴みのベリーをセネカに渡してからマイオルは矢を弓につがえた。セネカと話しながらも戦場の動きに集中できているようだ。

 セネカはもらったベリーをまた口に入れた。さっきよりも酸っぱかったけれど、改めて気を引きひめるのにちょうど良い味だった。

「マイオル、[花火]を二回使う」

 前方にいるガイアがこちらに向かってくるリザードマン達に向かって魔力の種を投げつけた。種はリザードマンに当たると『パンッ』と乾いた音を立てて弾ける。

「グギャッ!」

 種が直撃したリザードマンの腹から血が出ている。周囲にいたリザードマンは怪我をしていないようだが、それぞれ「グゥ」と唸っている。

 ガイアはもう一度サブスキルを使い、奥側の魔物に魔力の種を当てた。

「矢を放つわ! そのあとセネカ以外で近接攻撃!」

 マイオルが矢を放った。同時に前にいたガイアとモフが剣を抜き、敵に向かっていく。遅れてマイオルも弓を剣に持ち替えて走り出した。

 リザードマン達はガイア達を迎え撃っているが動きに精細を欠き、次々に倒されている。

 セネカはいつでも出撃できる態勢を保ちながら戦いを眺めていた。
 
「すごい⋯⋯」

 前に飛び出して来ていたリザードマンがこの短い時間で無力化されてしまった。モフとマイオルの剣技も冴えていたけれど、ガイアの[花火]が特にすごかった。

 このサブスキルは音が鳴って魔力を撒き散らすだけの能力だとセネカは聞いていたが、ガイアが修練を重ねた結果、非常に強力な補助スキルになった。

 訓練次第で発生する音や攻撃力、範囲を調整できるようだし、飛び散る魔力の属性を変換することで敵の身体に異常をもたらすこともできるそうだ。

 さっきリザードマン達は雷の属性に変換された魔力を身体中に浴びたことで痺れ、動きが遅くなってしまったのだ。ガイアによれば魔物によって効果的な属性が違うそうなのでいま研究中らしい。

 魔力効率もかなり良いようで、ガイアはいま[花火]を主体にして離れた距離からパーティを援護する立ち回りを試していた。

「全員中衛に集まって! 少し離れた場所に別の群れがいるから態勢を整えましょう!」

 セネカの出る幕はなく、マイオル達は敵を倒し切った。前で戦っていたルキウスとプラウティアも息は切らしているが涼しい顔で戻って来ている。

「次はあたしとセネカが前衛で、ルキウスとガイアが後衛の布陣にしようと思うからそのつもりで準備をお願い」

 それぞれが装備の確認をしながらマイオルに返事をした。セネカも剣や防具に綻びがないか見直す。

「回復が必要な戦いの想定にしたいからプラウティアとルキウスは援護中心でお願い。あたしとセネカも引き気味で戦うから手が足りなかったら教えて」

「僕は後衛の守り中心ということで良いんだよねぇ?」

「うん。それでお願い」

 モフがマイオルに確認をしている。モフもルキウスも話の理解度が高いが、万が一のこともあるのでよく質問してくれている。おかげで経験の少ないパーティなのに円滑に戦いを続けられている。

「薬は足りていますか?」

 今度はプラウティアが口を開いた。軽い傷にはプラウティアが昨日作成した塗り薬を使うことになっているのでその補充が必要かという質問だ。

「追加でもらっておこうかな」

 ルキウスが手を上げた。塗り薬の効果を知るためにこまめに使っていたので減りが早いのだろう。

「これ、本当にすごいね。現場で採ったもので薬を作ることはあるけれど、こんなに効くことなんてなかったよ」

 ルキウスに褒められてプラウティアはちょっとはにかんだ。

「キトちゃんが現場用の調製方法を考案してくれてるのが大きいですね。あまり発展してない分野なので」

 プラウティアは謙遜したけれど、【植物採取】の恩恵が大きいことはみんなが分かっていた。方法が広まったとしてもプラウティアほど上手くやれる冒険者がいるとは思えなかった。

「だとしてもプラウティアが作ってくれて嬉しいわよ。三人で旅をしていた時は薬の管理が大変だったから今がとても恵まれてるってよく分かるのよ」

 マイオルがプラウティアに近づいて頭をポンポンと撫でた。セネカも同じ気持ちだったけれど、プラウティアが恥ずかしがって固まってしまったのでその様子を眺めるだけにしておいた。

「それじゃあ、次の戦いを最後にして、今日は帰ることにしましょうか。戦闘にも慣れて来たし、明日は探索に力を入れるのが良さそうね」

 準備を終えた後でマイオルが言った。

「明日は集落の探索をするんだよね? 何個も見つけたってマイオル言ってたし……」

 セネカが聞くとマイオルはニコッと笑った。

「そうね。明日はまずリザードマンの集落を調べたいと思うわ。でもね、さっき探索している時に見つけたのよ。……この森の奥にはさらに違う領域が存在する。どうやらリザードマンを倒しているだけで攻略できるほど甘い場所じゃないみたいだわ」

 セネカは笑みを浮かべながら手に持っていた針刀を強く握りしめた。パーティの空気が一変し、静けさが広がったように感じる。

 高なる胸を落ち着けるためにセネカは針刀を真横に振った。『ピュン』と音が鳴り、刃が走る。持ち手に巻いた魔力糸の締まり具合も良さそうだ。

「明日が楽しみだけれど、まずは今日を乗り越えないとね」

 セネカに応えるように全員が武器を持つ。そしてマイオルの合図に従って次のリザードマンの群れに向かった。

 そして全員が淀みのない動きでリザードマンを倒し、すぐに拠点に帰ることになった。みんなの足取りが少し弾んでいるのをセネカは見逃さなかった。
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