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第15章:追悼祭編
第166話:スキルとは
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マイオル、プラウティア、ガイア、モフ、そしてキトの五人は、褒賞説を元にして今後のレベルアップ戦略について議論を深めていた。
以前はただの思いつきに過ぎなかった褒賞説も、検証を経て信憑性を増している。
おかげで以前よりも自信を持って活動できそうだとマイオルは感じている。
そんな話し合いをしていた時、キトがマイオルの方を向いた。
「ねぇ、マイオルはスキルってどんなものだと思う?」
「どうって、どういうこと?」
質問が漠然としていたのでマイオルはちょっと首をひねった。
「セネちゃんはね、『スキルとは魔力を代償に願いを叶えてくれる力のこと』って思っているみたいなんだよね。マイオルはどう思っているのかなって」
「あぁ、なるほどね。うーん、私もセネカと同じ気持ちもあるんだけど、ちょっと違う部分があるかもしれないなぁ」
そう言ってマイオルはしばらく俯き、考え始めた。
プラウティア達はキトとマイオルのやりとりを黙って見ている。
「私はセネカよりも自分の力を引き出しやすくする力って思っているかもしれないなぁ。自分の中にある力をより磨きやすくしてくれるって言ったら言い過ぎなんだけど、自分の無意識の部分っていうか⋯⋯」
「スキルを通じて自分の力を発揮しているみたいな感覚があるってこと?」
「あー、そうかもしれない。レベルが上がると完全体に近づくっていうか、秘められた力が解放されるみたいなイメージがあるかもしれないなぁ⋯⋯」
微笑みながら語るマイオルを見て、キトは「マイオルらしいね」と言った。
「そういうキトはどんな風に思っているのよ」
「私は二人ほどの信念はないかな。でも、スキルをどう認識しているかが、その人の成長を形づけている気がしているんだ」
「……どういうこと?」
「セネちゃんはこれからも自分の願いを表現するためにスキルを成長させていくだろうし、マイオルはどんどん自分が完全体に近づいて行く方向に進んでいくんじゃないかなぁって思ったの」
マイオルはキトがこう言っているように思った。
『スキルとは個々人の認識によって形を変え、その想いを反映させて行くための力である』
そんな風に考えることが、まさにキトらしい気がしてマイオルは目を細めた。
マイオルはモフやガイア、そしてプラウティアがスキルのことをどう考えているのか聞きたくなった。特にモフは教会の教義に詳しいはずなので自分たちとは違う観点を持っている気がしたのだ。しかし、この話になってからプラウティアの表情が暗く、どんどん俯いてしまっていることにも気がついていた。
マイオルはプラウティアが自分のスキルに対して良い気持ちもそうでない気持ちも持っていることを知っていたので、一度話を変えることにした。
「それで、みんなに聞きたいんだけど、私ってどうしたらレベル4になれると思う?」
全員が『それが簡単に分かったら苦労しない』という顔でマイオルを見た。
それから五人はレベルアップ方法についての議論を深め、それが終わるとあまり聴く機会のなかったモフのスキルの能力について改めて話してもらい、今後のパーティの戦略についても考えた。
モフの【綿魔法】は[性質変化]、[綿爆弾]、[綿ぼうし]などのサブスキルを持ち、敵の阻害と防御に特化している能力であるため、非常に有用だということをマイオル達は改めて認識した。
◆
レベルアップ会議から一夜が明け、ついに追悼祭が始まった。
初日は国王をはじめとして、教皇や聖女などの偉い方々が登場して、追悼の意を述べることになっている。夕方になると街中にランタンが置かれて、みんなで死者を偲ぶのだ。
マイオル達の出番は二日目からだ。初日から一転して、復興を祈願するお祭りが始まるので、功績の大きかった者は街の広場での儀式に参加することになる。
二日目からは街の区画は二分されるそうだ。片方は初日と同様にしめやかな空気が流れ、静かにしなくてはならないらしい。もう半分では夜でも飲食店が開き、冒険者達を中心にバカ騒ぎが始まる。
悲しみをしっかり味わうことも、喧騒でそれを忘れることもどちらも重要だということだそうだ。
あれから一年が経つ。セネカは生きていると信じることでマイオルは精神のバランスを保っているが、時々胸が張り裂けそうな気持ちになる。
一度心が動き始めると何度もそのことが頭をよぎり、夜も眠れなくなってしまう。
ゆっくりと悲しみを消化する気にもなれないが、だからといって騒ぎたい気分でもない。
招待された時には、自分たちが追悼祭の真ん中にいるのだと思っていたけれど、いざ始まってみると浮いている気がしてならなかった。
そんなマイオルはキトと一緒に街をまわることにした。プラウティアはファビウスと一緒にどこかに消え、ガイアはニーナと話すようだった。いつのまにかモフも居なくなったので、自然と二人きりになった。
「ねぇ、キト、お菓子も食事もすごく安いね」
「国からお金が出ているんだって。この催しにはいろんな意味があるだろうけれど、復興支援の一環でもあるみたいだから」
マイオルとキトは街のはずれにあった喫茶店に入り、名物だというとびきり濃いお茶を頼んだ。
茶葉をしっかり焙じているため、どれだけ煮出しても苦くならないと聞いていたが、飲んでみるとかなり大人向けの味だった。
「マイオルは明日からやることがあると思うけど、私はどうしようかな」
キトは『月下の誓い』として呼ばれている訳ではないので明日からは別行動だ。こういうとき、彼女は積極的に活動することが多いが、今はそういう気力もあまりないらしい。
「アンダさん達と過ごそうかなぁ。友達もいるけど、いまは良いかな」
セネカとルキウスの育ての親であるアンダとルシアは、ルシタニアからはるばる追悼祭にやってきている。
彼らは二人の故郷であるコルドバ村の村長夫妻だったため、当然キトとも面識があった。
そんなことを話しながら、二人は素朴な木の実のクッキーを食べ、店を出ることにした。
「夕方からは聖女様が儀式を行うんでしょ?」
「うん。グラディウス様に見た方が良いって言われたから私は広場に行こうと思う。キトはどうする?」
「……私も行こうかな」
二人はゆっくりと歩き、たまに寄り道ししながらトリアスの街を進んだ。
時折マイオルのことを知っている人がいて声をかけられる。冒険者の知り合いが多かったけれど、中には街の人もいて、この街を救ってくれてありがとうと感謝されるのでマイオルはなんと反応して良いものか困ってしまった。
そんな風に時間を潰しながら二人が広場に着いたとき、空は暗くなり始めていた。
以前はただの思いつきに過ぎなかった褒賞説も、検証を経て信憑性を増している。
おかげで以前よりも自信を持って活動できそうだとマイオルは感じている。
そんな話し合いをしていた時、キトがマイオルの方を向いた。
「ねぇ、マイオルはスキルってどんなものだと思う?」
「どうって、どういうこと?」
質問が漠然としていたのでマイオルはちょっと首をひねった。
「セネちゃんはね、『スキルとは魔力を代償に願いを叶えてくれる力のこと』って思っているみたいなんだよね。マイオルはどう思っているのかなって」
「あぁ、なるほどね。うーん、私もセネカと同じ気持ちもあるんだけど、ちょっと違う部分があるかもしれないなぁ」
そう言ってマイオルはしばらく俯き、考え始めた。
プラウティア達はキトとマイオルのやりとりを黙って見ている。
「私はセネカよりも自分の力を引き出しやすくする力って思っているかもしれないなぁ。自分の中にある力をより磨きやすくしてくれるって言ったら言い過ぎなんだけど、自分の無意識の部分っていうか⋯⋯」
「スキルを通じて自分の力を発揮しているみたいな感覚があるってこと?」
「あー、そうかもしれない。レベルが上がると完全体に近づくっていうか、秘められた力が解放されるみたいなイメージがあるかもしれないなぁ⋯⋯」
微笑みながら語るマイオルを見て、キトは「マイオルらしいね」と言った。
「そういうキトはどんな風に思っているのよ」
「私は二人ほどの信念はないかな。でも、スキルをどう認識しているかが、その人の成長を形づけている気がしているんだ」
「……どういうこと?」
「セネちゃんはこれからも自分の願いを表現するためにスキルを成長させていくだろうし、マイオルはどんどん自分が完全体に近づいて行く方向に進んでいくんじゃないかなぁって思ったの」
マイオルはキトがこう言っているように思った。
『スキルとは個々人の認識によって形を変え、その想いを反映させて行くための力である』
そんな風に考えることが、まさにキトらしい気がしてマイオルは目を細めた。
マイオルはモフやガイア、そしてプラウティアがスキルのことをどう考えているのか聞きたくなった。特にモフは教会の教義に詳しいはずなので自分たちとは違う観点を持っている気がしたのだ。しかし、この話になってからプラウティアの表情が暗く、どんどん俯いてしまっていることにも気がついていた。
マイオルはプラウティアが自分のスキルに対して良い気持ちもそうでない気持ちも持っていることを知っていたので、一度話を変えることにした。
「それで、みんなに聞きたいんだけど、私ってどうしたらレベル4になれると思う?」
全員が『それが簡単に分かったら苦労しない』という顔でマイオルを見た。
それから五人はレベルアップ方法についての議論を深め、それが終わるとあまり聴く機会のなかったモフのスキルの能力について改めて話してもらい、今後のパーティの戦略についても考えた。
モフの【綿魔法】は[性質変化]、[綿爆弾]、[綿ぼうし]などのサブスキルを持ち、敵の阻害と防御に特化している能力であるため、非常に有用だということをマイオル達は改めて認識した。
◆
レベルアップ会議から一夜が明け、ついに追悼祭が始まった。
初日は国王をはじめとして、教皇や聖女などの偉い方々が登場して、追悼の意を述べることになっている。夕方になると街中にランタンが置かれて、みんなで死者を偲ぶのだ。
マイオル達の出番は二日目からだ。初日から一転して、復興を祈願するお祭りが始まるので、功績の大きかった者は街の広場での儀式に参加することになる。
二日目からは街の区画は二分されるそうだ。片方は初日と同様にしめやかな空気が流れ、静かにしなくてはならないらしい。もう半分では夜でも飲食店が開き、冒険者達を中心にバカ騒ぎが始まる。
悲しみをしっかり味わうことも、喧騒でそれを忘れることもどちらも重要だということだそうだ。
あれから一年が経つ。セネカは生きていると信じることでマイオルは精神のバランスを保っているが、時々胸が張り裂けそうな気持ちになる。
一度心が動き始めると何度もそのことが頭をよぎり、夜も眠れなくなってしまう。
ゆっくりと悲しみを消化する気にもなれないが、だからといって騒ぎたい気分でもない。
招待された時には、自分たちが追悼祭の真ん中にいるのだと思っていたけれど、いざ始まってみると浮いている気がしてならなかった。
そんなマイオルはキトと一緒に街をまわることにした。プラウティアはファビウスと一緒にどこかに消え、ガイアはニーナと話すようだった。いつのまにかモフも居なくなったので、自然と二人きりになった。
「ねぇ、キト、お菓子も食事もすごく安いね」
「国からお金が出ているんだって。この催しにはいろんな意味があるだろうけれど、復興支援の一環でもあるみたいだから」
マイオルとキトは街のはずれにあった喫茶店に入り、名物だというとびきり濃いお茶を頼んだ。
茶葉をしっかり焙じているため、どれだけ煮出しても苦くならないと聞いていたが、飲んでみるとかなり大人向けの味だった。
「マイオルは明日からやることがあると思うけど、私はどうしようかな」
キトは『月下の誓い』として呼ばれている訳ではないので明日からは別行動だ。こういうとき、彼女は積極的に活動することが多いが、今はそういう気力もあまりないらしい。
「アンダさん達と過ごそうかなぁ。友達もいるけど、いまは良いかな」
セネカとルキウスの育ての親であるアンダとルシアは、ルシタニアからはるばる追悼祭にやってきている。
彼らは二人の故郷であるコルドバ村の村長夫妻だったため、当然キトとも面識があった。
そんなことを話しながら、二人は素朴な木の実のクッキーを食べ、店を出ることにした。
「夕方からは聖女様が儀式を行うんでしょ?」
「うん。グラディウス様に見た方が良いって言われたから私は広場に行こうと思う。キトはどうする?」
「……私も行こうかな」
二人はゆっくりと歩き、たまに寄り道ししながらトリアスの街を進んだ。
時折マイオルのことを知っている人がいて声をかけられる。冒険者の知り合いが多かったけれど、中には街の人もいて、この街を救ってくれてありがとうと感謝されるのでマイオルはなんと反応して良いものか困ってしまった。
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