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第15章:追悼祭編

第165話:第一回レベルアップ会議

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 追悼祭の前日にトリアスに到着したマイオルはギルドの奥にある会議室にいた。部屋にはプラウティア、ガイア、モフ、そしてキトがいる。

 この部屋はアッタロスとレントゥルスの名前で借りてもらった。このギルド内で最も盗聴が難しい部屋で、通常であればマイオル達が使うことのできない場所だ。しかし、アッタロス達に協力してもらい、最高機密である魔界のことについて安全に話したいと伝えることで許可が下りた。

 ギルドとしても、人が集まる追悼祭のときに外で無闇にその話をしてほしくなかったため、決断は早かった。むしろ慎重に行動しようとする『月下の誓い』の評価が高まったし、仲間がいなくなったマイオル達に対してかなり同情的だった。

 そんな風にして最高の部屋を勝ち取った訳であるが、議題はセネカたちのことではない。
 これまでに何度か魔界のことは話しているし、機密事項に触れないように行方不明の仲間について話すことにも慣れてきているので、その辺りの店でも特に問題はなかったりする。

 では何故こんな場所を借りたのかと言われれば、それは彼女達の躍進の秘密であるレベルアップの方法について議論を交わすためであった。

「基本的なことはみんなも知っていると思うけれど、今一度内容を整理したいと思っているの。これが私たちの生命線だし、みんなで考えれば何か新しいことが分かるかもしれないから」

 マイオルは話しながらみんなの顔を見た。思えばすごいメンバーが集まったものである。

 会議をしようと思ったのはマイオルがモフと話をしていた時だった。
 モフはレベル3だ。セネカ達のおかげで基準がおかしくなってしまっているが、十五歳でレベル3というのは、とてつもなく早い。セネカ達が入学する前まで、王立冒険者学校の学生でレベル3になった者は二人しかいなかったのだ。

 モフの話によると彼は初期に教会式の訓練を受け、この国を出るまでは祖父であるグラディウスの指導を受けていたのだという。そこにこれまで知らなかった情報が含まれているはずだと思ったのでので、マイオルは改めて話し合いたくなったのだ。

「まず基本となるところだけど、私たちは最初、熟練度の質は量を凌駕するということを知ったわ」

 最初にセネカがレベルを上げた時、セネカは膨大な魔力を使って強引に質の高い熟練度を得た。セネカが成したことは通常レベル2にならないと不可能なことであったため、それに合わせるかのようにレベルも上がったと当時マイオル達は分析した。

 それまでの常識では、レベルアップのためにはとにかくスキルを使う回数を増やすことが大事であり、ある程度量をこなしたら質を求めはじめるのが良いという考えだった。しかし、セネカの場合では量はほとんど必要なく、とにかく高い質を求めるのが良さそうだった。

 この考えを元にマイオルとキトはレベルを上げたし、プラウティアも恩恵を受けている。

「初めに聞いた時は驚いたよぉ。教会でも質は求めていたけど、やっぱり大事なのは量だって考えだったねぇ」

 モフが教会でのレベルアップの方法を説明してくれる。どうやら教会では、上位の熟練度を得るために格上の騎士達を使うようだ。
 攻撃系のスキルだったら強い防御スキルを持つ騎士をひたすら殴るとレベルアップが早くなるようだし、防御スキルだったら逆らしい。
 位の高い家の子供たちは、レベルの高い騎士に訓練を依頼して、早くレベルを上げようとするのが普通だともモフは言っている。

「すごく無機質な方法なのね。手順化されているというか……」

 マイオルの向かいにいるキトがそう言った。マイオルはキトにモフの話を聞いて欲しかったので、キトが静かに頭を回転させ始めたのを見てちょっと嬉しくなった。

「グラディウスの爺ちゃんもそう言ってたなぁ。有効な方法だとは認めていたけど、納得しきっている訳じゃなかったと思う。だからか僕とルキウスがその訓練をやめても何にも言わなかったよ」

「グラディウス様はレベルの上げ方については何と仰っていたの?」

 キトがモフに聞いた。あれ以来二人は何度も会っているので、少しずつ話し方が砕けてきているようだ。

「爺ちゃんは技法とか御業みわざを調べるのが好きだからさぁ、単純作業でレベルを上げようとする風潮には割り切れない気持ちを持っていたみたい。ほら、この方法を信じてる人にとっては技法の訓練って無駄に見えるみたいなんだよねぇ」

 技法や御業とは、サブスキルやスキルに匹敵する技術のことだ。例えばマイオルは魔力を操ることで身体を強化する技法が使えるようになったし、剣や弓の攻撃力を増すことも出来る。戦闘を嗜む者にとっては必須の技能だが、その訓練を始めるのはスキルがかなり育ってからが良いとされてきた。

「それに、爺ちゃんは技法がスキルと全く無関係な訳じゃないって言ってだけどね」

「……どういうこと?」

「僕もちゃんと聞いたことはないんだけれど、技法や御業は、スキルを根本的に鍛えるもので、その成長にも関わるって考えてるんじゃないかと思うんだよねぇ。みんなのサブスキル獲得の話を聞いて、その考えがあってたんじゃないかって気がするなぁ」

「やっぱり褒賞説は結構正しそうなのよね⋯⋯」

 マイオルは思わずそう言った。

 キトとマイオルが以前に考えた褒賞説では、レベルアップは一定の成果を上げた者に対する褒賞であり、その成果に対応したサブスキルが授けられるのではないかと考える。
 モフは、単純作業でレベルアップしただけでは、あまり有用なサブスキルを得ることはできず、技法などを含めて総合的に力を伸ばしていくことが良い結果を生むのではないかということを改めて指摘したのだ。

 マイオル達は黙って褒賞説について考え始めた。そうしているうちに全員が自然とガイアの方を見ていた。それに気づいたガイアは手のひらを見つめながら口を開いた。

「私は何でレベルアップできたのだろうな」

 ガイアはレベル2になった。だが、いまだになぜレベルアップしたのかよく分かっていないのだ。

「スキルの使用回数は絶対的に足りていないはずだから、別の質的な成果をあげたんだと思うが、何を成し遂げのか分からない⋯⋯」

「サブスキルにそのヒントがありそうなんですけどね。褒賞説が正しいとすればサブスキルは成果に対応しているので、サブスキルからそれを推測することもできるんじゃないですか?」

 プラウティアの言葉を聞いてガイアは手のひらの上でサブスキル[花火]を使った。すると、パンッと軽い音が鳴った。
 音が鳴る以外、ガイアに認識できる変化はない。マイオルの【探知】によれば音が鳴るだけではなく、同時に魔力が飛び散ってしばらく周囲に付着するようなのだが、どう使えば良いのか全く分かっていない。
 練習を重ねることで音を多少大きくすることや、属性を変えることは出来るようになったのだが、現状では音も小さすぎて小動物を脅かすくらいにしか使えそうにない。

 残念そうな顔で考え込むガイアのことをキトはじっと見つめていた。せっかくレベルが上がったというのに困っているガイアの力になりたいと考えているようだ。

「プラウティアちゃんからレベルアップした時の話を聞いたけれど、私は『解明』がガイアちゃんの成果なんじゃないかと思ったよ。白金級冒険者のピュロン様が驚くほどにスキルを分析して使いこなしていたって聞いたから、その辺りにヒントがある気がするの」

 キトの見解を聞いてモフも声をあげた。

「魔法を撃つ前にレベルが上がる気がしたっていうのも僕は面白いと思ったなぁ」

「私もそれが気になりました」

 モフとプラウティアはガイアの認識が変わったことでレベルが上がったようにも見えるという点を指摘した。
 気の持ちようと言ってしまえば簡単に聞こえるが、ピュロンにアドバイスされたことでガイアの何かが変わったことが大きかったようにも考えられる。

「精神的な部分に関する成果って可能性もありそうよね。そう考えるとどうやってレベルアップを目指していくのが良いんだろう」

 キトはモフとプラウティアの話を聞いて、また考え始めた。
 マイオルは黙ってみんなの議論を聞き、情報をまとめようとしている。なんとかレベル4になりたいと思っているため、ヒントを見つけようと必死だ。
 魔界に吸い込まれたことで有耶無耶になっていたが、マイオルはガーゴイルを倒したあとセネカがレベル4になったと思っているため、レベルアップを求める気持ちが強い。

 全員が頭の中で考えを整理しようとしている時、プラウティアが口を開いた。

「前から気になっていたのですけど……セネカちゃんのレベル3のサブスキルって[まち針]ですが、それって褒賞説の考えと合っていますか? 【縫う】で敵を倒したから単純に針が増えたんでしょうか? うまく筋が通らない気がしてきました」

「⋯⋯私もずっとプラウティアちゃんが言ったように思ってたんだけど、セネちゃんがガーゴイルと戦った時の話を聞いて違うんじゃないかって思ったの」

 そう言ったキトに全員が注目した。
 マイオルもプラウティアと同じように考えたことがあったけれど、上手い説明は見つからなかった。褒賞説は実証された理論というよりは、作業仮説という側面も強いため、矛盾が生じてくるのは仕方ないとも思っている。

 みんなが聞きたいと思っているようだと気づいて、キトははっきりと言った。

「セネちゃんの空気を【縫う】って技は空間を縫い合わせることで移動速度を上げているみたいだよね。[まち針]って針を空間に固定する能力だから、どっちも空間系の能力なんだと思う。だから、空気を【縫う】という技を成功させたこと、もしくはそれが可能だと認識したことが成果で、その対価として空間系のサブスキルを獲得したと考えると一応筋は通るの、ちょっとこじつけの部分もあるけれどね」

 キトの話を聞いて、みんな口々に「なるほど」と言った。
 みんなの様子を見て、マイオルはここまでの話を一旦まとめることにした。

「色々と考えてきたけれど、褒賞説には大きな間違いがなさそうね。つまり、レベルアップやサブスキルは、特定の成果を上げたことに対する報酬として与えられていそうってことだし、その成果は、高度な技の成功や格上の敵の撃破だけじゃなくて、精神的な変化である可能性もあるってことよね」

 話しながらマイオルは、自分たちが持っている情報の重さに気づいて軽く身震いした。
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