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第13章(間章):一方その頃編

第145話:ガイアと宝玉(4)

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 王立冒険者学校の高威力練習場に快活な声が響く。

「アッタロスさん、ひっさしっぶりー!」

 そう言いながら手を振るピュロンの目線の先には頭を抱えるアッタロスがいた。

「なんでお前がここにいるんだよ⋯⋯」

「え? ガイアちゃんと修行するのに一番良いのはここだからですけど⋯⋯」

 ピュロンは何が悪いの?と言いたげな顔だ。
 多分本当に悪意がないのだろう。

 アッタロスは横で苦笑いを浮かべるガイアを見る。
 ガイア達が旅に出てから半年ほどだ。マイオルが定期的に手紙を送っているので状況は把握しているけれど、アッタロスがガイアと会うのはずいぶん久しぶりだ。

「久しぶりにアッタロスさんにも会いたかったし、アッタロスさんもそろそろボクに会いたいんじゃないかと思って来ちゃいました!」

 横ではピュロンの適当な物言いが聞こえてくる。
 ピュロンは『放浪』と呼ばれているけれど、アッタロスにしてみれば『適当』と名付けるのがちょうど良いように思える。

 ピュロンに話を聞いても良いが、重要な部分を聞き出すまでに時間がかかりそうなのでアッタロスはガイアの方を向いた。

「ガイア、教えてくれ。どうしてこいつと二人で冒険者学校に来ることになったんだ?」

 そうするとガイアは珍しく困惑を隠さずに言った。

「私たちがフイップにいたのはご存知でしょうか? そこでピューロ様に出会って私のスキルを見せたところ、魔法を教えてくれないかと依頼されました」

 そこまではアッタロスも知っていたのでしっかり頷いた。
 横ではピュロンが「ボクの話も聞いてよー」と言っているけれどアッタロスは流した。

「それに了承した途端、ピューロ様は半球状の銀の物体を出しました。乗るようにおっしゃったので訳もわからぬまま従うと、半日も経たないうちに王都に着いたんです⋯⋯」

 ガイアは訳が分からないとでも言いたそう顔をしているけれど、アッタロスは何があったのかを正確に推察した。
 馬車で何日もかかる距離を一息で移動させられて困惑してしまったのだろう。
 ちなみに人目があるところではピュロンが偽名で呼ばれたがっているのはアッタロスも知っている。

「王都に着いてからは『いいからいいから』の一点張りで冒険者学校に乗り込み、この訓練場に着きました」

「難儀だったな」

「はい⋯⋯」

 アッタロスはガイアを労い、目を細めながらピュロンを見た。

「アッタロスさん、分かってますって⋯⋯。ボクがちゃんと面倒を見ますから一週間くらいここを使わせてください」

「元より白金級冒険者の要請を断る権限は俺にはないが⋯⋯分かった。俺が話を通しておくよ」

「ボクが依頼するよりもアッタロスさんが言ってくれた方がスムーズに物事が進みますのでー。その代わりやることはしっかりやりますよー」

 ピュロンは軽い態度で笑う。
 その様子を見てアッタロスは「はぁ」とため息をついた。

「ガイア、マイオルへの手紙にも書いたけれどこいつは言ったことはちゃんとする奴だ。下に頼るなんて滅多にあることじゃないし、今のうちに恩を売っておくんだぞ」

「⋯⋯分かりました」

「それに、そいつの戦い方はガイアにも十分参考になると思う。案外相性も良さそうに思えるからしっかり学ぶと良いさ」

 アッタロスはそう言って離れて行こうとした。
 しかしそんなアッタロスを見て、ピュロンは突然真剣な顔つきになり口を開いた。

「アッタロスさん、ボクは待っていますよ。あなたが本気になって上がってくるのを⋯⋯」

 アッタロスは顔を見せないまま立ち止まる。
 そして一拍置いてから振り返った。

「ガイア、そいつはその見た目だけれど俺と何歳かしか違わないから色んなことを知っている。そんな奴に教えてもらえる機会なんて滅多にないと思うから大切にな」

 そう言って歩き出してしまった。
 ガイアは無視されたピュロンの方を恐る恐る見た。
 予想に反してピュロンは笑みを浮かべていた。

「うーん。もう少ししたら面白いものが見られそうだね。楽しみだなぁ」

 ガイアには何も分からなかったけれど、まぁ良いかと流すことにした。





『レベルアップとは、ある成果を出した者に対する褒賞のようなものではないか』

 その考えを教えてくれたのはマイオルだった。
 セネカの幼馴染であるキトと議論の末にそんな考えを思いつき、彼女達はそれを『褒賞説』と呼んでいる。

 この話を聞いた時、最も希望を持ったのはガイアだった。

 従来の考えでは、レベルアップに重要なのはスキルの使用回数だ。
 上位の熟練度という概念もあるくらいだから質の観点が無いわけではないけれど、根底にあるのは量を重視する考え方になる。

 しかしマイオル達の話が正しいとすれば重要なのは質の方であり、その質を得る方法も多岐に渡るように思える。

 ガイアは一日に一回しかスキルを使えなかった。
 レベルアップのために何度使う必要があるのかは分からないけれど、量が大事だとしたら遠い道のりになるのは間違いなかった。

 使用回数が少ない分、出来るだけ上位の熟練度を得ようともがいて来た。
 だけど魔法が強すぎて安全に狩れる魔物では大した成果にはならないと人に言われてしまい、ガイアは途方に暮れてしまった。

 そんな中でセネカ達に出会い、学んできたことはガイアに希望を与えた。

 褒賞説が本当であれば自分も早くレベルアップできるかもしれない。
 一日に何回かしかスキルを使うことが出来なくても前に進めるのかもしれない。
 そう思って単調な訓練を続けて来た。

 最近では【砲撃魔法】を高度に圧縮する方法や圧縮した魔力を射出することなく保持する方法を考え、練習に取り入れている。

 これによってレベル2になった時に関連するサブスキルを得られるのではないかと期待しているのだ。

 もがき続けてやっと見えて来た希望をガイアはなんとしても掴みたかった。





 アッタロスがいなくなった後、ピュロンが魔法について教えて欲しいというのでガイアはこれまでに考えて来たことを隠すことなく伝えた。

「ねぇ、キミ本当にレベル1? 今の話だとやっぱりスキルをほとんど手動で使っているように思ったんだけど⋯⋯」

「いえ、手動では流石に使えません。どうしてもスキルの補助が必要な工程が多々ありますし、自分だけに通用する理論を勝手に打ち立てているだけなので」

「同じスキルを使える人がいる訳じゃないから再現性がないのは分かるけどね。でもそこまでスキルの素過程を理解しようとしている人はほとんどいないと思うよ。特にレベル4以下だったらね」

 ピュロンが強く褒めてくれるのでガイアは驚いた。学校にはそういう嗜好で研究をしている人もいたし、何よりスキルなしで魔法を使えるようになったセネカが隣にいたから自分は普通だと思っていたのだ。

「⋯⋯ねぇ、ガイアって呼んでも良い? ボクのことも呼び捨てにしていいからね」

「滅相もありません」

 自分がどう呼ばれようとも構わないけれど、ピュロンを呼び捨てにするわけにはいかないとガイアは首を振った。

「ガイアが積み重ねて来たものにはそれだけ価値があるとボクは思ったんだ。それを教わるんだから相応の敬意を払わないといけないんだよ」

 そう言うピュロンをガイアはただ呆然と見ることしかできなかった。
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