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第13章(間章):一方その頃編

第139話:バエティカで最も熱い男(2)

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 昔を知る者ほどセネカとルキウスに起きたことを落ち着いて受け止める人が多かったけれど、心から心配する者も数人いた。

 例えばエミリーがそうだ。
 エミリーはマイオルから話を聞いた時、とても動揺した。

 エミリーは相変わらずスキル【裁縫】を使ってトルガのお店で働いている。
 いつもは真面目に仕事をしていて、遅刻をすることも欠勤することもないのだけれど、セネカ達の話を聞いた次の日は体調を崩して寝込んでしまった。

「ノルトはどうしているかな⋯⋯」

 孤児院を出た後も、時折みんなで集まって話をする。食べ物などが余った時には孤児院に持っていくことがあって、同年代の人の話を聞くことも多い。

 先日、セネカ達の話を聞いたノルトは何を思ったか突然失踪した。山に籠って修行をしていただけらしいけれど、エミリーは不安に押しつぶされそうになった。

「あの時って⋯⋯」

 エミリーは自分が感じた不安が、ノルトの無事を案じていただけではなかったことに気づいていた。

 すぐに身体をボロボロにして幼馴染達に追いつこうとするノルトからエミリーは目が離せなくなっていた。

 ピケとミッツと共にどんどん強くなり、今では『宵明星』はバエティカの若手で最も期待されているパーティだ。他のパーティーと合同で依頼を受けることも多く、中には女性冒険者がいることも多いようだ。

 ルキウスみたいに整っているとは言い難いけれど、ノルトも顔は悪くない。ちょっと個性的な所もあるけれど、あれはあれで評判は悪くないのだ。

 ノルトはギルドでも一定の人気があるようだけれど、女性達からの誘いは全部『修行がある』と言って断っているらしい。

「⋯⋯ノルトはセネカが好きだからなぁ」

 体調不良で気が小さくなっているので、エミリーは泣きそうな気分になった。

 寂しい思いをしていると、エミリーの部屋の扉が叩かれた。

「エミリー、大丈夫?」

 パルラの声だ。パルラはトルガの裁縫店に勤める先輩でエミリーの面倒をよく見てくれる。

 エミリーはベッドから起きてのそのそと動いて扉を開けた。

「エミリー! 起こしちゃったかな? 珍しく体調崩したって聞いたから心配になっちゃって⋯⋯」

 パルラはいつも溌剌としていて仕事もできる憧れのお姉さんなのだ。
 結婚の話題になった時以外はとても優しくて頼り甲斐がある。
 エミリーは嬉しくなってパルラを部屋に招いた。



 パルラはエミリーの体調を少し調べたあとで、買ってきたパン粥を器に持ってエミリに差し出した。

「あ、そうだ。エミリー、ノルトくんまた山に籠ってるんだってね。彼も頑張るよねー」

「えっ? また?」

「あっ、もしかしてエミリーはまだ聞いてなかった?」

 パルラはまずいことを言ってしまったと気がついた。

「ノルト⋯⋯また山に行ったんですね」

「うん。でも今度はちゃんと不在にすることを告げてからいなくなってるから成長してる⋯⋯のかな?」

 エミリーが思い詰める様子を見せ始めたのでパルラは必死に話を変えた。

 それからしばし話すとエミリーが笑顔を見せるようになったので、パルラは安心して仕事場に戻っていった。

 また一人になったエミリーは部屋で考えを巡らせていた。
 パルラのお陰で体調は良くなってきている。

「ノルトはなんで山に籠っているんだろう⋯⋯」

 考えても答えが出ないので、エミリーは着替えて部屋を飛び出した。





 ノルトがバエティカに帰ってくると、ピケとミッツが慌ててやってきた。

「エミリーがいなくなった?」

「うん。そうみたいなんだ。今日は体調を崩して仕事を休んでいたみたいなんだけど、突然いなくなったって話を聞いたんだ」

「パルラさんがお昼には会ったみたいなんだけど、トゥニカさんが夕方に尋ねた時にはいなかったって⋯⋯」

 ピケ、ミッツが事情を説明する。

「ノルトは会ってないんだよね?」

「あぁ、会っていないぞ。というかその話に俺が関係あるのか?」

「パルラさんが『エミリーはノルトくんの所に行ったのかもしれない』って言っていたんだよね」

「真面目なエミリーが仕事を休んでまでそんなことするか?」

「それはそうなんだけれど、パルラさんが結構な勢いで言うから⋯⋯」

 ちなみにピケはパルラさんに憧れている。

「ノルトが居たのってどの山?」

「ブランカ山だよ。ちょうどファイアウルフを倒したい気分でな」

「そっか⋯⋯。この前ノルトはベレッタ山でいじけていたでしょ?」

「いじけてねぇよ!」

「あぁ、分かった分かった。僕が悪かったよ。⋯⋯とにかくエミリーはノルトがまた山に籠ったって聞いて、ベレッタ山の方に向かった可能性があると僕は思うんだよね」

「というからさっきからエミリーが俺に会いに行った前提で話が進んでいるけど、それがおかしくないか?」

「はぁ⋯⋯。とにかく僕たちは手分けして他の場所を探すからノルトはベレッタの方を探して。日も暮れて来ているし、早くしないと危ないよ」

「⋯⋯そこまで言うなら分かったよ。本当にベレッタ山で良いんだな?」

「うん。僕の見立てではそこが一番可能性が高い。すぐに行ってみて」

「分かった。ミッツがそこまで言うならそうなんだろう。すぐに出る」

 ノルトは踵を返して街の門に向かっていった。

「ねぇ、ピケ、気がついた? ノルトは覚悟を決めたみたいだね」

「もちろん気がついたよ。面白いことになると良いんだけど、その前にまずはエミリーの無事を確認しないとね」

「うん。メーノンさんにも手伝ってもらおう。見つかる可能性がずいぶん高くなる」

 二人はそう話してギルドに駆け込んで行ったけれど、おそらくエミリーはすぐに見つかるだろうと考えていた。

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