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第12章:魔界編
第137話:威光
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オークキングに迫りながら、ルキウスは先ほど悟ったことを反芻していた。
物事が従う道理がある。
例えば物は下に落ちてゆくし、速く動けば空気の抵抗がある。
それは全てがあべこべな魔界であっても同じだけれど、絶対不変の真理であるとはルキウスには思えなかった。
いや、むしろルキウスは『絶対不変の真理すら書き換えられるのがスキルだ』という想いを強くした。
そうでないと信じられないことがこの世には多すぎる。
ルキウスはセネカをチラッと見て「ほらね」と思った。
セネカは魔力を溜めてまた何かしようとしている。
セネカがこれまで実現してきたことに比べたら自分がしようとしていることはちっぽけなのではないかとルキウスは錯覚する。
ルキウスは心の中で『物体には重力がかかる』という理を[剣]で斬りつける心象を描いた。
それを破壊するには至らなかったけれど、ルキウスは理の呪縛から一時的に逃れることが可能になった。
身体から魔力を放出するとこれまで以上に簡単に身体が浮き上がる。
「ほらね」
理を斬るのには多大な魔力が必要だけれど、魔界ではその欠点を補うことができる。
ルキウスは改めてスキルに願いを込めた。
『もっと強くなって大切な人達を守れるようになりますように』
自分に宿るスキルが微かな返事を返したようにルキウスは感じた。
◆
セネカはルキウスを見つめていた。
再会してしてから今が一番凛々しいけれど、リラックスしているようにも見えた。
コルドバ村で出会った頃のように楽しそうに剣を振っている。
「先に乗り越えちゃったんだね」
置いて行かれた気がしてセネカは切ない気持ちになった。
けれど自分もこれから乗り越えるのだ。
復活したルキウスの力は尋常ではなく、あのオークキングと対等に渡り合っている。
負ける気がしないというルキウスの言葉に嘘はなかった。
正直セネカの助けが必要ないようにすら思えてくる。
「だけど、二人で乗り越えるから意味があるよね」
セネカはルキウスがトドメを任せてくれたことが飛び上がるくらいに嬉しかった。
だってこれは共同作業。初めてではないけれど、大切な二人の共同作業なのだから。
「うふふ」
セネカはご機嫌な様子でスキルの準備を整えた。
セネカがそんな様子であることには気が付かず、ルキウスはオークキングを追い詰めて見事にその右手首を切り落とした。
「セネカ!!!」
セネカはルキウスの声が聞こえるよりも早くオークキングの背後に移動した。
そしてよろめくオークキングの腰から上の空間を【縫い】、遠くの空間と結びつけた。
ルキウスはオークキングに【神聖魔法】を浴びせ、さらに動きを阻害する。
その隙にセネカはオークキングの下半身の空間を先ほどとは反対側の空間に結びつけた。
オークキングはいまセネカの糸によって上半身は右側に、下半身は左側に引っ張られている。
「さよなら。オークキング」
そう言ってセネカは空間を縫い合わせていた糸を強く引き絞り、オークキングの上半身と下半身をそれぞれ反対方向に瞬間移動させた。
ドサッ。
腰から半分に分かれたオークキングの身体が地面に落ちる音が聞こえてくる。
呻き声を上げる間もなく、オークキングの命は途絶えた。
◆
オークキングが絶命したことを念の為確認してからルキウスは口を開いた。
「⋯⋯倒しちゃったね」
そう言うとセネカが抱きついてきた。
「やっとここまで来たんだね」
「うん。僕たちは仇を取ったんだ」
「でも父さん達にはまだ敵わなそうだね」
「僕たちに有利な条件だったからね。それに――」
「他に魔物がいなかったもんね」
「子分のいない王を倒しただけだからねー」
二人は楽しそうに話している。
「まだまだ強くなれるね」
「うん。だけど今日は喜ぼう。だって僕たちは生き残ったんだから」
「そうだね⋯⋯。やっと帰れるんだ」
二人が桃色の空間を作っていると『ゴゴゴゴ⋯⋯』という音がし始めた。
「『根』の主を倒したから魔界が崩壊するみたいだね」
地響きのような音がだんだん大きくなっていく。
「ねぇ、ルキウス。これってこのまま待っていても大丈夫なんだよね?」
「やっぱりそう思った? なんか不穏な感じがするよね」
足元が強く揺れ始めた。
「セネカ! 僕が魔法で防御するよ!」
そう言ってルキウスは【神聖魔法】で自分たちの外側に球体の防御壁を構築した。半透明なので外の様子も分かる。
「私が補強するね」
セネカは嬉しそうに防御壁の内側にまち針やら糸を縫い付けて強度を高めた。
「ルキウス、これは私達の新しい旅の始まりだよね?」
「そうだよ。僕たちの門出だね」
「じゃあお祝いしなくっちゃ」
崩壊が始まった魔界の中でセネカはルキウスも見たことがないくらいに楽しそうに笑った。
そして真っ赤な顔でルキウスに近づいて、頬に口付けをした。
それと同時に魔界は爆発し、消えてなくなった。
まるでその瞬間を見計らっていたかのようなタイミングだった。
爆発の衝撃に巻き込まれ、魔法壁の中で揺さぶられていると、ルキウスの頭の中に声が響いてきた。
【レベル4に上昇しました。[破邪]が可能になりました。身体能力が大幅に上昇しました。魔力が大幅に上昇しました。干渉力が大幅に上昇しました。サブスキル[理]を獲得しました】
女神の威光が届き始めたようだとルキウスは安堵した。
----------
ここまでお読みいただきありがとうございます。
爆発したところで第12章:魔界編は終了です。
次話から第13章(間章):一方その頃編が始まります。
3-4話の短編が何個か続く予定です。
今年もどうぞよろしくお願いします!
物事が従う道理がある。
例えば物は下に落ちてゆくし、速く動けば空気の抵抗がある。
それは全てがあべこべな魔界であっても同じだけれど、絶対不変の真理であるとはルキウスには思えなかった。
いや、むしろルキウスは『絶対不変の真理すら書き換えられるのがスキルだ』という想いを強くした。
そうでないと信じられないことがこの世には多すぎる。
ルキウスはセネカをチラッと見て「ほらね」と思った。
セネカは魔力を溜めてまた何かしようとしている。
セネカがこれまで実現してきたことに比べたら自分がしようとしていることはちっぽけなのではないかとルキウスは錯覚する。
ルキウスは心の中で『物体には重力がかかる』という理を[剣]で斬りつける心象を描いた。
それを破壊するには至らなかったけれど、ルキウスは理の呪縛から一時的に逃れることが可能になった。
身体から魔力を放出するとこれまで以上に簡単に身体が浮き上がる。
「ほらね」
理を斬るのには多大な魔力が必要だけれど、魔界ではその欠点を補うことができる。
ルキウスは改めてスキルに願いを込めた。
『もっと強くなって大切な人達を守れるようになりますように』
自分に宿るスキルが微かな返事を返したようにルキウスは感じた。
◆
セネカはルキウスを見つめていた。
再会してしてから今が一番凛々しいけれど、リラックスしているようにも見えた。
コルドバ村で出会った頃のように楽しそうに剣を振っている。
「先に乗り越えちゃったんだね」
置いて行かれた気がしてセネカは切ない気持ちになった。
けれど自分もこれから乗り越えるのだ。
復活したルキウスの力は尋常ではなく、あのオークキングと対等に渡り合っている。
負ける気がしないというルキウスの言葉に嘘はなかった。
正直セネカの助けが必要ないようにすら思えてくる。
「だけど、二人で乗り越えるから意味があるよね」
セネカはルキウスがトドメを任せてくれたことが飛び上がるくらいに嬉しかった。
だってこれは共同作業。初めてではないけれど、大切な二人の共同作業なのだから。
「うふふ」
セネカはご機嫌な様子でスキルの準備を整えた。
セネカがそんな様子であることには気が付かず、ルキウスはオークキングを追い詰めて見事にその右手首を切り落とした。
「セネカ!!!」
セネカはルキウスの声が聞こえるよりも早くオークキングの背後に移動した。
そしてよろめくオークキングの腰から上の空間を【縫い】、遠くの空間と結びつけた。
ルキウスはオークキングに【神聖魔法】を浴びせ、さらに動きを阻害する。
その隙にセネカはオークキングの下半身の空間を先ほどとは反対側の空間に結びつけた。
オークキングはいまセネカの糸によって上半身は右側に、下半身は左側に引っ張られている。
「さよなら。オークキング」
そう言ってセネカは空間を縫い合わせていた糸を強く引き絞り、オークキングの上半身と下半身をそれぞれ反対方向に瞬間移動させた。
ドサッ。
腰から半分に分かれたオークキングの身体が地面に落ちる音が聞こえてくる。
呻き声を上げる間もなく、オークキングの命は途絶えた。
◆
オークキングが絶命したことを念の為確認してからルキウスは口を開いた。
「⋯⋯倒しちゃったね」
そう言うとセネカが抱きついてきた。
「やっとここまで来たんだね」
「うん。僕たちは仇を取ったんだ」
「でも父さん達にはまだ敵わなそうだね」
「僕たちに有利な条件だったからね。それに――」
「他に魔物がいなかったもんね」
「子分のいない王を倒しただけだからねー」
二人は楽しそうに話している。
「まだまだ強くなれるね」
「うん。だけど今日は喜ぼう。だって僕たちは生き残ったんだから」
「そうだね⋯⋯。やっと帰れるんだ」
二人が桃色の空間を作っていると『ゴゴゴゴ⋯⋯』という音がし始めた。
「『根』の主を倒したから魔界が崩壊するみたいだね」
地響きのような音がだんだん大きくなっていく。
「ねぇ、ルキウス。これってこのまま待っていても大丈夫なんだよね?」
「やっぱりそう思った? なんか不穏な感じがするよね」
足元が強く揺れ始めた。
「セネカ! 僕が魔法で防御するよ!」
そう言ってルキウスは【神聖魔法】で自分たちの外側に球体の防御壁を構築した。半透明なので外の様子も分かる。
「私が補強するね」
セネカは嬉しそうに防御壁の内側にまち針やら糸を縫い付けて強度を高めた。
「ルキウス、これは私達の新しい旅の始まりだよね?」
「そうだよ。僕たちの門出だね」
「じゃあお祝いしなくっちゃ」
崩壊が始まった魔界の中でセネカはルキウスも見たことがないくらいに楽しそうに笑った。
そして真っ赤な顔でルキウスに近づいて、頬に口付けをした。
それと同時に魔界は爆発し、消えてなくなった。
まるでその瞬間を見計らっていたかのようなタイミングだった。
爆発の衝撃に巻き込まれ、魔法壁の中で揺さぶられていると、ルキウスの頭の中に声が響いてきた。
【レベル4に上昇しました。[破邪]が可能になりました。身体能力が大幅に上昇しました。魔力が大幅に上昇しました。干渉力が大幅に上昇しました。サブスキル[理]を獲得しました】
女神の威光が届き始めたようだとルキウスは安堵した。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
爆発したところで第12章:魔界編は終了です。
次話から第13章(間章):一方その頃編が始まります。
3-4話の短編が何個か続く予定です。
今年もどうぞよろしくお願いします!
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