スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
136 / 213
第12章:魔界編

第136話:道理

しおりを挟む
 ルキウスはオークキングの爆発で吹き飛ばされながら冷静に頭を働かせていた。

 爆発の直前、ルキウスはセネカの前に立ちはだかり、即席で【神聖魔法】の防御をした。そのおかげでルキウスは死を免れた。セネカもおそらく意識があるだろう。

 もう少しだけ猶予があればサブスキル[鎧]が発動できたかもしれないけれど、この能力は発動が遅く、魔力制御に意識を集中する必要があって間に合わなかった。

 回復魔法士として後方支援に徹するのなら強力な能力なのだが、近接戦闘には意外に向いていないのだ。

「ルキウス、ごめんね⋯⋯。でも私が守るから」

 ルキウスが地面に落ちると同時にセネカの声が聞こえてきた。
 反射的にルキウスは声の方に回復魔法を出した。

 セネカはルキウスの回復を受けて即座に立ち上がり、刀を抜いて敵の方に向かって行った。
 おそらくオークキングが近づいて来ているのだろう。
 このまま倒れていたら死を待つのみだ。

 ルキウスはセネカに強化魔法をかけた。自分の回復には時間がかかりそうなので、まずはセネカの延命を優先したのだ。

「勝てる道理はないな⋯⋯」

 冷静にルキウスはそう思った。
 オークキングに勝てるとしたら序盤から押し切って敵を罠に嵌めるしかないと思っていたのだ。
 こうなってしまっては勝つことは難しいだろう。だけど、このままで終わるつもりもない。

「せめてセネカだけでも逃がさないとな」

 ルキウスの耳に激突の音が聞こえてくる。
 セネカが戦いを始めたのだろう。
 このままだとセネカは自分の身を犠牲にしてでもルキウスを守ろうとするはずだ。
 だから急がないといけない。

 ルキウスは自分の回復にかかる時間を冷静に算出した。
 感覚の話になるが自分が復活する前にセネカが負けてしまう可能性がかなり高いと思った。
 
「これが道理ってやつなのか?」

 冷静に状況を整理しながら、ルキウスは教会に連れてかれたばかりの頃を思い出した。
 教会ではあらゆる人が『道理』という言葉を使っていた。
 味方は道理という言葉を使ってルキウスを肯定しようとし、敵は同じ言葉でルキウスに害をなそうとした。

 誰しもルキウスを型に嵌めようとして、何かあると『それは道理じゃありません』とか『こうするのが道理ですよ』と言ってきた。

 その言葉を使わないのはグラディウスとモフと聖女と教皇の四人だけなんじゃないかと思うほど、教会ではみんなが『道理、道理』と連呼していた。

 そんな状況に嫌気がさしていたはずだったのにルキウスはつい『道理』という言葉を使ってしまった。

 ルキウスは自分の行動を振り返る。
 聖者であるのに教会にいない。
 実績のある効率の良い訓練をしない。
 挙げ句の果てには国から出てしまった。

 きっとそのどれもが教会の人達が考える道理から外れていたことだろう。
 けれど、それで良いとルキウスは思っている。だって道理に従っていたらこうしてセネカと会うことなどできなかったのだから。


 セネカとオークキングが戦う音がどんどんとこちらに近づいている。セネカが押し込まれているのだろう。
 ルキウスは早く自分を回復させようとしているけれど、当たりどころが良くなかったのかまだ立てそうにない。

 なんとか顔を上げて、ルキウスは戦うセネカを見た。
 セネカは針に乗って懸命にオークキングと戦っている。あらゆるものを縫い、仇であるオークキングをなんとか押し留めようとしている。

「ルキウス、大丈夫⋯⋯。貴方だけは絶対に私が守るから!!!」

 青ざめた顔で戦いを見るルキウスに気がついたのだろう。激しい戦いの最中でセネカは笑いながらそう言った。

「情けない⋯⋯」

 口をついてそんな言葉が出てきた。
 ルキウスはこんな時にセネカを助けるために故郷を離れたのだ。
 それなのに危険な状況でただ這いつくばっていることしかできない。

『聖者様、それが物の道理でございます』

 誰かに言われた呪いの言葉が頭をよぎる。
 このまま自分はここで終わりなのだろうか。
 セネカが痛めつけられるのを見ながら、回復をただ待っていることしかできないだろうか。

「父さん、母さん、セネカ⋯⋯」

 ルキウスは心から尊敬する両親の顔を思い浮かべた。
 何か手はないのかと必死に可能性を探る。

 コルドバ村でのこと、孤児院にいた時のこと、教会の騎士に言われたこと、そして魔界でのこと⋯⋯。
 全ての記憶が頭に巡ってくるので、ルキウスは俯瞰的に眺めることができた。
 そしてそれら全てが自分の糧になっているという確信が芽生えてきた時、ルキウスの脳裏に閃光が走った。

「あるじゃないか!」

 ルキウスは叫んだ。
 そして右腕を動かして、自分の胸に手を当てた。

「僕には頼れる武器があるって学んだんだ!」

 ルキウスは以前修羅道で新たな力に覚醒した時と同じように、胸に秘められた[剣]を取り出した。
 そしてその剣を持って『自分の回復に時間がかかる』という道理ルールを心の中で切り裂いた。
 その瞬間、頭の中でザンッという音がして謎の手応えを感じた。

「⋯⋯全快している」

 そして思った通り、身体が万全の状態まで回復していることに気がついた。

 ルキウスは即座に周囲の魔力を集めてセネカに回復魔法をかけた。
 そして凄まじい速さで飛んでセネカの元に向かい、お姫様のようにセネカを抱きながらオークキングから距離をとった。

 オークキングは虚を突かれて硬直していたので、ルキウスは【神聖魔法】で膜を作り、オークキングに被せた。

「ルキウス!」

「セネカ、待たせてごめんね。もう大丈夫だから」

 びっくりするセネカの顔を見て、ルキウスは身体に自信が満ちてくるのを感じた。
 この危なっかしい幼馴染を助ける力が自分にはある。
 守られるだけじゃなくて、守ってあげられるような力が確かにある。

 長い間願ってきた力がやっと手に入れられたのではないか。
 そう思ったルキウスはまっすぐにセネカのことを見ながら言った。

「セネカ、あいつを一緒に倒そう! もう負ける気がしないんだ」

 そうのたまったルキウスにセネカの目は釘付けになった。
 ルキウスの顔は憑き物が落ちたかのように晴れやかで凛々しい。



 セネカは胸が大きく高鳴るのを感じた。
 まるで世界の全てが輝きを放っていて、幸せな光が心を包んでくれるかのようだった。

 押し留めていた感情が噴出して止まらない。
 セネカはその気持ちをついにルキウスにぶつけることにした。

「⋯⋯ねぇ、ルキウス」

「なに?」

 スタンピードの時からセネカはその想いを留めていた。
 魔界を二人で進みながらそれはどんどん募っていった。

 いつか言おうと思っていた気持ちを今ならまっすぐ伝えることができる。
 
「あたしね。
 ルキウスのことが好きだよ。
 世界で一番、あなたのことを愛しているの」

 セネカは涙を流していた。
 これだけの言葉をずっと言うことができなかった。
 心の底から湧き上がってくる強い想いが目から溢れて止まらない。

 そんなセネカを見てルキウスは微笑んだ。
 抱いていたセネカを顔の近くまで引き寄せて、ルキウスは答える。

「僕もさ。
 僕もセネカのことを愛している。
 君に会えて本当に良かったと心の底から思っているんだ」
 
 ルキウスの目からも一筋の涙が流れてきた。
 セネカにはそれがこの世のものとも思えないほど綺麗なものに見えた。

 二人は自然に笑顔になっていた。
 お互いが想っていることは間違いないと感じていたけれど、こうやって言葉にすると嬉しさは段違いだ。

 ルキウスは地面に降りて、オークキングを見据える。
 神聖魔法の膜の中でまだもぞもぞとしているけれど、そろそろ出てきそうだ。

 セネカはルキウスに降ろしてもらい、力強く大地を踏みしめた。
 そんなセネカを見てルキウスが声をかける。

「ねぇ、セネカ。
 一緒に元の世界に帰ろう!
 みんながきっと待っているよ!」

「うん! 一緒に帰ろうね!」

 二人の英雄候補は笑いながらオークの王を見据えた。

「トドメは任せたよ。それ以外は僕に任せて!」

「分かった!」

 ルキウスが軽く宣言したので、セネカは軽く請け負った。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...