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第12章:魔界編

第130話:進行

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 セネカ達が最初の亜空間を出てから七日が経った。二人はいま三つ目の亜空間を探索している。

 二つ目の亜空間は最初の亜空間よりも生き物が生息していた。魔樹や魔草と呼ばれる植物がごく稀に生えており、ブルペスをはじめとした小型の魔物と日に何度も遭遇した。

 強い魔物は居なかったので落ち着いて探索しているうちに次の裂け目が見つかり、また飛び込んだという次第である。

 三つ目の亜空間にはアクアラプトルやツインマタマタの亜種が生息していて、植生も微妙に違うようだった。

 これまで三つの亜空間を見て来たけれど、赤い空に黒い大地、水は赤や青などが混ざった不思議な色をしている。元の世界であったら水が多いところに植物が生えるはずだけれど、魔界ではその法則が当てはまらない。

 セネカとルキウスは少しずつだが魔界に漂う独特の魔力を取り込み、使えるようになって来た。セネカの方が魔力の知覚能力が高いため、技術の習得が早いが、直にルキウスも追いついてくるだろう。

 セネカはその身に宿る膨大な魔力をふんだんに使う技をいくつか編み出しているが、元の世界では魔力効率が悪すぎて特定の条件下でしか使うことができない。しかし、そういう技も魔界の魔力を利用すれば頻度高く使えるかもしれない。

 ルキウスは平均よりは高い魔力量であるが、セネカには到底及ばない。しかし【神聖魔法】は魔力効率の良いスキルであるため、少ない魔力で効果を最大限にする訓練をずっと続けて来た。もし大気に漂う魔界の魔力を使って魔法を行使できるようになれば、元の世界では不可能だった大規模な魔法を行使できるようになるかもしれない。





 二人は次々に亜空間を進んで行った。
 それぞれの亜空間には似た魔物が集まっていて、ある種の生態系を作っているようだった。特定の環境への適応と稀に発生する撹乱、それが魔界独特の魔物を産んでいるのかもしれないとセネカは考えていた。

 戦いを続けていくうちにセネカとルキウスの連携も強化されて来た。はじめのうちは動きが被ってしまうことも多かったけれど、今では考える必要もなく攻撃を合わせることができる。

 魔界を進みながら、ルキウスは自分の成長戦略を考えている。ルキウスはレベル3になってから父親であるユニウスの言葉を思い出すようになっていた。

『ルキウス、自分の中でことわりを立てるんだ。その理が揺るぎないものであるほど、お前は高く飛べるようになるだろう』

 幼かったルキウスには些か難しすぎる言葉だった。だけど、何故だか鮮明に覚えていたし、ルキウスがこれ以上強くなるために必要なことであるように今は思えてならない。

 魔界に来てからセネカと様々な話をした。その中にはセネカの両親であるエウスとアンナの話があった。二人は『金枝』というパーティのメンバーで、一緒にガーゴイルと戦ったアッタロスとレントゥルスも昔は同じパーティにいたようだ。

 その話を聞いて、ルキウスは自分の両親の情報をほとんど知らないと言うことを改めて認識した。

 ルキウスの両親の出身はロマヌス王国ではない。母はクレスウェリアというロマヌス王国の北西に位置する島の出身で、父の出身地について詳しく聞いた記憶がルキウスにはないが、様々な情報からカフカスという都市国家の出身ではないかと考えている。カフカスはロマヌスからは遠く離れており、ユニウスと同じ【刀術】のスキルを持つ者が多くいるようだ。

 セネカは旧コルドバ村の元村長夫妻にルキウスの両親のことについて聞いたことがあるようだが、二人が凄腕の銀級冒険者であるということ以外にはほとんど情報を持っていなかったそうだ。

 セネカの父エウスのスキルは【隙を衝く】というものだったとルキウスは聞いた。エウスの剣は剛の剣だと思っていたけれど、そうではなかったようだ。おぼろげな記憶を辿ると納得できる部分もある。

 改めてユニウスの剣を思い出すと、今のルキウスであっても理解不能な技をユニウスが出していたような気がしてくる。記憶が正しいのかすら分からないけれど、ユニウスは異常に離れた所から居合い切りを放ち、魔物を倒していたように思う。しかも真っ直ぐ敵に向かっていたのではなく、体勢は同じなのに軌道が変わっていたような気がする。

「それをやってみるか」

 ルキウスは遠くなった記憶に存在する父の技を再現してしてみることにした。





 魔界を進み、十個目の亜空間に入った時、セネカとルキウスは異様な圧を感じた。

 その亜空間はこれまでで一番魔力濃度が高く、身体にまとわりつくような感じがある。これが『根』だと二人は根拠なく確信した。

「こっちだね」

 セネカがそう言うのを聞いてルキウスは頷いた。本能的に『根』の主がいる場所が分かるのだ。

 二人は強い気配を感じる方へと足を進めていった。そして、一刻ほど歩くと丘のように地面が隆起しているところがあり、そこに魔物が立っていた。

「⋯⋯オークキング」

 そこには鋼の肉体を持つオークの王が立っていた。王の身体は大きく、腰に剣をつけている。

 オークキングの強さは定かではないが、あのガーゴイルに匹敵する強さがあるようにセネカは感じた。

「ルキウス⋯⋯」

「あれは強いね。今の僕らじゃ歯が立たないだろうな」

 二人はいま真っ黒な岩のような物体の影からオークキングの様子を伺っている。

「ルキウスはどれぐらい強いと思った?」

「分からないけれど、金級中位の力はあるんじゃないかな。だってオークキングだし」

 オークキングの討伐には金級パーティが必要だと言われている。単体では最低でも金級中位の力を持つことが知られている。

「いずれ倒せるようになると思う?」

「うーん。可能性はあると思う。魔界の魔物は変異しているから元のオークキングにはない性質があれば付け入る隙があるかもしれない。それに、ここの魔物には【神聖魔法】がよく効くからね。作戦を上手く練ることが出来れば勝てる可能性はゼロじゃない」

 ルキウスの話を聞いてセネカは考え始めた。オークキングを視界に捉えたまま、ゆっくりと頭を働かせる。ルキウスの言う通り、上手く作戦に嵌められれば勝てる可能性があるかもしれないとセネカも直感した。

「⋯⋯試してみるかい?」

「えっ?」

「『根』に来てからまだ少ししか時間が経っていないから裂け目が維持されている可能性が高い。確か主は『根』から出られないはずだから、遠距離攻撃を仕掛けて敵の性質を探るくらいは出来るかもしれない」

「⋯⋯本気?」

「割と本気かな」

「死ぬかもしれないよ?」

「もしそれすらできない相手だったら、いまここにいるのも危ないし、僕らの敵う相手じゃないよ」

 セネカは口元に指をつけ、考えているような仕草を見せた。

「⋯⋯セネカ、ニヤけるのを隠せていないよ?」

 セネカがとぼけるのを目にしながら、ルキウスはオークキングにちょっかいをかけることに決めた。
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