スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
130 / 213
第12章:魔界編

第130話:進行

しおりを挟む
 セネカ達が最初の亜空間を出てから七日が経った。二人はいま三つ目の亜空間を探索している。

 二つ目の亜空間は最初の亜空間よりも生き物が生息していた。魔樹や魔草と呼ばれる植物がごく稀に生えており、ブルペスをはじめとした小型の魔物と日に何度も遭遇した。

 強い魔物は居なかったので落ち着いて探索しているうちに次の裂け目が見つかり、また飛び込んだという次第である。

 三つ目の亜空間にはアクアラプトルやツインマタマタの亜種が生息していて、植生も微妙に違うようだった。

 これまで三つの亜空間を見て来たけれど、赤い空に黒い大地、水は赤や青などが混ざった不思議な色をしている。元の世界であったら水が多いところに植物が生えるはずだけれど、魔界ではその法則が当てはまらない。

 セネカとルキウスは少しずつだが魔界に漂う独特の魔力を取り込み、使えるようになって来た。セネカの方が魔力の知覚能力が高いため、技術の習得が早いが、直にルキウスも追いついてくるだろう。

 セネカはその身に宿る膨大な魔力をふんだんに使う技をいくつか編み出しているが、元の世界では魔力効率が悪すぎて特定の条件下でしか使うことができない。しかし、そういう技も魔界の魔力を利用すれば頻度高く使えるかもしれない。

 ルキウスは平均よりは高い魔力量であるが、セネカには到底及ばない。しかし【神聖魔法】は魔力効率の良いスキルであるため、少ない魔力で効果を最大限にする訓練をずっと続けて来た。もし大気に漂う魔界の魔力を使って魔法を行使できるようになれば、元の世界では不可能だった大規模な魔法を行使できるようになるかもしれない。





 二人は次々に亜空間を進んで行った。
 それぞれの亜空間には似た魔物が集まっていて、ある種の生態系を作っているようだった。特定の環境への適応と稀に発生する撹乱、それが魔界独特の魔物を産んでいるのかもしれないとセネカは考えていた。

 戦いを続けていくうちにセネカとルキウスの連携も強化されて来た。はじめのうちは動きが被ってしまうことも多かったけれど、今では考える必要もなく攻撃を合わせることができる。

 魔界を進みながら、ルキウスは自分の成長戦略を考えている。ルキウスはレベル3になってから父親であるユニウスの言葉を思い出すようになっていた。

『ルキウス、自分の中でことわりを立てるんだ。その理が揺るぎないものであるほど、お前は高く飛べるようになるだろう』

 幼かったルキウスには些か難しすぎる言葉だった。だけど、何故だか鮮明に覚えていたし、ルキウスがこれ以上強くなるために必要なことであるように今は思えてならない。

 魔界に来てからセネカと様々な話をした。その中にはセネカの両親であるエウスとアンナの話があった。二人は『金枝』というパーティのメンバーで、一緒にガーゴイルと戦ったアッタロスとレントゥルスも昔は同じパーティにいたようだ。

 その話を聞いて、ルキウスは自分の両親の情報をほとんど知らないと言うことを改めて認識した。

 ルキウスの両親の出身はロマヌス王国ではない。母はクレスウェリアというロマヌス王国の北西に位置する島の出身で、父の出身地について詳しく聞いた記憶がルキウスにはないが、様々な情報からカフカスという都市国家の出身ではないかと考えている。カフカスはロマヌスからは遠く離れており、ユニウスと同じ【刀術】のスキルを持つ者が多くいるようだ。

 セネカは旧コルドバ村の元村長夫妻にルキウスの両親のことについて聞いたことがあるようだが、二人が凄腕の銀級冒険者であるということ以外にはほとんど情報を持っていなかったそうだ。

 セネカの父エウスのスキルは【隙を衝く】というものだったとルキウスは聞いた。エウスの剣は剛の剣だと思っていたけれど、そうではなかったようだ。おぼろげな記憶を辿ると納得できる部分もある。

 改めてユニウスの剣を思い出すと、今のルキウスであっても理解不能な技をユニウスが出していたような気がしてくる。記憶が正しいのかすら分からないけれど、ユニウスは異常に離れた所から居合い切りを放ち、魔物を倒していたように思う。しかも真っ直ぐ敵に向かっていたのではなく、体勢は同じなのに軌道が変わっていたような気がする。

「それをやってみるか」

 ルキウスは遠くなった記憶に存在する父の技を再現してしてみることにした。





 魔界を進み、十個目の亜空間に入った時、セネカとルキウスは異様な圧を感じた。

 その亜空間はこれまでで一番魔力濃度が高く、身体にまとわりつくような感じがある。これが『根』だと二人は根拠なく確信した。

「こっちだね」

 セネカがそう言うのを聞いてルキウスは頷いた。本能的に『根』の主がいる場所が分かるのだ。

 二人は強い気配を感じる方へと足を進めていった。そして、一刻ほど歩くと丘のように地面が隆起しているところがあり、そこに魔物が立っていた。

「⋯⋯オークキング」

 そこには鋼の肉体を持つオークの王が立っていた。王の身体は大きく、腰に剣をつけている。

 オークキングの強さは定かではないが、あのガーゴイルに匹敵する強さがあるようにセネカは感じた。

「ルキウス⋯⋯」

「あれは強いね。今の僕らじゃ歯が立たないだろうな」

 二人はいま真っ黒な岩のような物体の影からオークキングの様子を伺っている。

「ルキウスはどれぐらい強いと思った?」

「分からないけれど、金級中位の力はあるんじゃないかな。だってオークキングだし」

 オークキングの討伐には金級パーティが必要だと言われている。単体では最低でも金級中位の力を持つことが知られている。

「いずれ倒せるようになると思う?」

「うーん。可能性はあると思う。魔界の魔物は変異しているから元のオークキングにはない性質があれば付け入る隙があるかもしれない。それに、ここの魔物には【神聖魔法】がよく効くからね。作戦を上手く練ることが出来れば勝てる可能性はゼロじゃない」

 ルキウスの話を聞いてセネカは考え始めた。オークキングを視界に捉えたまま、ゆっくりと頭を働かせる。ルキウスの言う通り、上手く作戦に嵌められれば勝てる可能性があるかもしれないとセネカも直感した。

「⋯⋯試してみるかい?」

「えっ?」

「『根』に来てからまだ少ししか時間が経っていないから裂け目が維持されている可能性が高い。確か主は『根』から出られないはずだから、遠距離攻撃を仕掛けて敵の性質を探るくらいは出来るかもしれない」

「⋯⋯本気?」

「割と本気かな」

「死ぬかもしれないよ?」

「もしそれすらできない相手だったら、いまここにいるのも危ないし、僕らの敵う相手じゃないよ」

 セネカは口元に指をつけ、考えているような仕草を見せた。

「⋯⋯セネカ、ニヤけるのを隠せていないよ?」

 セネカがとぼけるのを目にしながら、ルキウスはオークキングにちょっかいをかけることに決めた。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木
ファンタジー
 フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。  ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。  そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。    ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。  オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。  オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。  あげく魔王までもが復活すると言う。  そんな彼に幸せは訪れるのか?   これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。 ※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。 ※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。 ※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...