スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
129 / 213
第12章:魔界編

第129話:マイオル達

しおりを挟む
 セネカとルキウスが亜空間に吸い込まれた後、マイオル達はただ立ち尽くしていた。

 アッタロスは亜空間に飛び込もうとしたけれど、穴はすぐに閉じてしまったため、ただ虚空に突撃しただけになってしまった。

 それは油断と言うにはあまりにも些細な気の緩みであった。普通の魔物であれば首だけになって身体が朽ち果て始めれば魔法など使うことはできない。ましてや、亜空間を発生させるという特殊能力をそんな状態で使えると思う冒険者はほとんどいないだろう。

 アッタロスとレントゥルスがずっと限界を超えて戦っていたのも要因だ。立っているのもやっとの状態だったのにも関わらず命を振り絞って戦い続けた。

 けれど、そんなことが理由にならないことを二人が一番よくわかっていた。

「⋯⋯冒険者失格だな」

 アッタロスの微かな声が響き渡る。

「⋯⋯セネカとルキウス君はどうなったんですか?」

 わなわなと手を振るわせながらマイオルが聞いた。完全に血の気が引いており、顔から足まで真っ白だ。

「二人は⋯⋯」

 アッタロスが言いかけた時、マイオルが突然上を見上げた。全員がつられて空を見ると、上空に人影がある。

 影は次第に大きくなり、あっという間に地面に降りて来た。大きな十字の剣を担いでいる。

「ペリパトス様⋯⋯」

「来るのが遅くなっちまったな。狼煙は見たが手が離せなかった。⋯⋯アッタロス、何があったんだ」

 ペリパトスは尋常ではない雰囲気を感じてアッタロスに聞いた。

「援軍に駆けつけた聖者ルキウスとセネカが亜空間に飲み込まれました。ただ一つの幸いは、それが守護者が倒された後のことだったということです」

「聖者諸共魔界に誘われたのか⋯⋯」

 ペリパトスとアッタロスは考え込む様に黙ってしまった。だが、マイオルは話が止まることを良しとしなかった。

「ちょ、ちょっと待ってください! 魔界って何ですか?」

 マイオルだけでなくプラウティアとガイアも真剣な目をしている。ペリパトスはそんな三人を見て、話し始めた。

「魔界とは亜空間の向こう側の世界のことだ。亜空間は無数に存在していて、魔界もこれまた無数にあると考えられている」

 全員が真剣な面持ちでペリパトスの話を聞いている。

「セネカたちはその魔界に行ったんですか?」

「あぁ、そうだ。魔界にも種類があるからどういう状態かは分からない。だが、アッタロス、『扉』が再び開いたのか?」

「敵は亜空間を開くことの出来る魔物でした。おそらく魔界から炎や魔物を何度も召喚し、ゼノン師匠が閉じた『扉』を開きました。魔物の討伐後にセネカが『扉』を再度閉じたのですが、息があった魔物が亜空間を開き、二人は吸い込まれました。二人が吸い込まれた亜空間が『扉』と同じ場所なのかどうかは分かりません」

 アッタロスの話を聞いてペリパトスは難しい顔をした。

「そうか。扉を閉じる時には、不測の事態に備えて全力で魔法を撃ち込むことになっている。俺とゼノンが魔法を撃ったのと同じ場所にたどり着いていれば魔物はほとんどいなくなっているはずだが、どうだか分かるか?」

 アッタロスたちは首を横に振った。

「帰る方法はあるんですか?」

 必死の形相でマイオルが聞く。

「帰る方法はいくつか知られているが、大きく二つだな。まずは偶然こっちの世界と魔界が繋がる時に出会えば帰って来れるが、可能性としてはかなり低い。これが起きやすいとスタンピードが頻発するだろうからある意味では良いことなんだがな。
もう一つは、魔界の『根』と呼ばれる領域にいる主を倒すことだ。魔界は無数にあると言ったが、その一つ一つは独立だ。一つの魔界はいくつかの亜空間からなっていて、その間を移動できるんだ。だから先に進んでいけばいつかは『根』に到達する」

「その主は強いんですか?」

「魔界による。最上級だと龍が跋扈しているという伝承があるから、俺でも危ないだろう。だが、大抵は金級パーティ相当の主がいることが多い。俺が魔界に行った時もそうだった」

 ペリパトスの話を聞いてマイオルたちは息を呑んだ。

「ペリパトス様は帰還者なんだ」

 絶望の表情を浮かべていたマイオルの顔が少しだけ紅潮してきた。

「セネカたちは助かりますか?」

「分からん。正直言って運次第だな。『根』に行って主に勝てないと思えば、亜空間が偶然この世界に繋がるのを待つしかないが、それには何十年、いや何百年もかかるかもしれん」

「そんな⋯⋯」

「魔界ってのはそんなもんだ。教会のやつの中には『出口のないダンジョン』と表現する奴もいる。運が良くないと帰って来れねぇんだ」

 ペリパトスは吐き捨てるような口調でそう言った。

「とりあえず事情は分かった。後で詳しい話を聞かせてもらうが、スタンピード自体は終息に向かったと見て間違いないだろう。もうしばらくしたらゼノンの野郎が来るはずだから、アイツに見て貰えば良い」

 マイオルは縋るような目でペリパトスを見た。そんなマイオル達を前にしてペリパトスは少しだけ目を細めた。

「おい、お前ら。俺が言っても仕方がねえだろうが、希望を捨てるな。だが、絶望に折れるな。もし二人とも五体満足で帰って来れたら、そんときは今よりもはるかに強くなってるはずだ。普通にしてたんじゃあ、パーティを組んでいられなくなるぞ」

 そしてマイオル達よりも明らかに打ちひしがれているように見えるアッタロスとレントゥルスをチラッと見てから、空に跳び上がり消えていった。





 アッタロス達はしばし休んだ後、強力な魔物が掃討されたことを確認してから帰還を始めた。

 実は一行にはモフがいたのだが、あまりに自然に溶け込んでいたため、マイオルがその存在に気付いたのはかなり後になってからだった。

 ペリパトスが白金級冒険者の権限を使って魔界の情報をマイオル達に伝えてくれたので、アッタロスとレントゥルスは自分たちの知る限りのことを教えることができた。

 また、ルキウスと共に教会で英才教育を受けたモフも魔界に関する情報を全員に教えた。中にはアッタロスすら知らない情報もあったので、モフの素性を確認すると祖父がグラディウスだと言うので全員が驚いた。

 しかし、冷静になってみるとルキウスとグラディウスの孫が一緒に行動していることは全員聞いており、自分たちが正常に頭を働かせられない状態に陥っていることに気がついた。

 都市トリアスでは防衛戦がまだ続いていたけれど、白金級冒険者のゼノン、ペリパトス、そしてピュロンの三人が揃っていたので、アッタロスは負けるわけがないと思っていた。

 都市の中にはペリパトスから話を聞いたファビウスとニーナが待っていた。普段は元気いっぱいのニーナがマイオル達の顔を見るなり大泣きし始めたので、マイオル達も涙腺が崩壊し、混沌とした状態に陥った。

 アッタロスとレントゥルスは前線での戦いに加わり、『月下の誓い』、ニーナとファビウス、そしてモフの六人は後方支援に回った。やることはいくらでもあったので気は紛れたけれど、六人はふとした時にセネカ達のことを思い出し、やりきれない気持ちになった。

 そして、ついにスタンピードが終息した。ゼノン率いる防衛部隊、ペリパトス率いる殲滅部隊、ピュロン含めた遊撃部隊、どれもが圧倒的な力を示した。特に遊撃部隊に入ったアッタロスとレントゥルスの活躍は凄まじく、二人の名声をさらに高めることとなった。

 犠牲者は多かった。ゼノンが都市を離れてている間、冒険者たちや街の兵士たちは全力を尽くしたけれど、それでも力が足らず、散っていく命を守る術を持たなかった。

 死傷者は最小限だと思う者もいた。特に大森林で討伐を行なっていた者達は今回の事態の重さを正確に把握していたので、街が一つも壊滅しなかっただけで大きな成果だと感じていた。

 スタンピードに勝利したことが伝わると街は歓喜に沸いた。戦った者、怯えるしかなかった者、家族を亡くした者、街にはさまざまな境遇の人がいたけれど、そのほとんどが外に出て、感情を露わにした。

 けれど、涙を流して塞ぎ込む人や浮かない顔を浮かべる人もいた。そんな人たちは街の喧騒を羨んだり、疎ましく思ったりしながら、ひと時を過ごした。

 マイオル達は喜びの席の中心にいながらもひっそりと時間が過ぎるのを待った。あからさまに消沈した顔を見せることはなかったけれど、心からの笑顔を浮かべられない自分がいることにも気がついて、割り切れない想いを大きくした。

 そして数日が経ち、復興部隊の本隊がやってくるのを確認した後、みんなで王都にゆっくり帰っていった。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...