123 / 220
第11章:銀級冒険者昇格編(3):騒乱
第123話:間隙
しおりを挟む
最新の理論によれば、この世界の物質は目に見えない小さな物質が固まってできているのだという。
本当なのかは分からないけれど、スキルの行使に大事なのはイメージだ。
だからセネカは自分や魔物がそのような微小の物質で出来ていると思い込むことで、強力な攻撃を繰り出そうと奇行を始めた。
細かいことはよく分からない。
ガイアに何度も理論を聞いたし、数式を解くとそれっぽい答えが出ることも分かっている。
だけど理論は時代とともに変わってしまうし、机の上の結論が常に現実を反映しているとは限らない。
となると、セネカが出来ることは一つである。
その法則が成り立つ世界を自分の中に作れば良い。
他の人にとっては空気を【縫う】という行為が意味不明なように、このスキルが戦いに使えるとは思えないように、世界がどう動くのかはセネカには分からない。
だけど、空気を縫うこともスキルが当たりであることも、セネカにとっては真実なのだ。
その揺るぎない想いを今だけでも、スキルの力で現実にしてしまえば良い。
ルキウスが隣にいる今、セネカは何にでもできる気持ちになっていた。
◆
大太刀を鞘に納めたまま、ルキウスはガーゴイルに向かっていった。ガイアの魔法を受けてバランスを崩す魔物は恰好の的だ。
だけど、ルキウスは攻撃しないまま、一旦ガーゴイルの横を通り過ぎた。
攻撃が来ると身体を硬くしていたガーゴイルは完全に拍子を崩された。
「[剣]」
ルキウスは作成した大太刀に同じサブスキルを重ねがけし、威力を倍加した。
そして振り向いて、反対側でセネカが攻撃体制に入っていることを確認した。
セネカが柄に手をかけて、刀を抜こうとしているのが見える。
ルキウスも柄を握り、セネカと同時に飛び出した。
二人の視線が交錯する。
二人は息を合わせ、両側から激烈な居合い攻撃を放った。
ガーゴイルに攻撃が当たる瞬間、セネカはその魔物を構成する小さな物質の間に刃を入れて、極微の間隙を【縫い】進めた。
シャキーン。
ガーゴイルを切り裂く二つの音が重なり、大森林に響く。
「ギ」
そしてガーゴイルは胸と腹を両断され、三つに分かれて落ちていった。
【レベル4に上昇しました。[縫い付ける]が可能になりました。干渉力が大幅に上昇しました。身体能力が大幅に上昇しました。魔力が大幅に上昇しました。サブスキル[属性変換]を獲得しました】
セネカはレベル4になった。
◆
切断されたガーゴイルは地に落ち、下半身の方から崩れ出した。
シューシューと音が出ていて、煙のようなものが発生している。
「⋯⋯勝ったのね」
マイオルがそう言ったのを皮切りに力が抜け、みんなが地面に腰を下ろした。
アッタロスとレントゥルスは限界を超えて技を出したため、肉体の消耗が激しかった。
最後の攻撃のために力を振り絞ったセネカとルキウスも満身創痍であった。
ポーションで魔力をこまめに回復しながら【探知】を続けたマイオルも脳の疲労で限界を感じている。そのマイオルと共に攻撃を抑え続けていたガイアもボロボロだ。
安堵感からプラウティアはへたり込んだけれど、この中では比較的ダメージが少ないと気付くとアッタロスとレントゥルスの方に向かい、ケガの手当てをし始めた。
全員が死を覚悟した戦いだった。
明らかに戦力は足りておらず、幾つもの偶然が重なって得ることが出来た貴重な勝利であった。
次に同じメンバーで戦っても勝てるか分からない。そんな激闘であった。
ガーゴイルが亜空間から魔物を召喚していたと考えると数々の違和感を説明出来るというのも全員が脱力した要因の一つだ。
魔物の増えが早く、倒しても倒しても強力な魔物が出てくる理由が分かった。だからあのガーゴイルを倒したことでスタンピードの原因もおそらく除かれただろうとみんなが思っていた。
そんな気の緩みを敵は見逃さなかった。
◆
その魔物にはまだ息があった。
先は長くなく、首以外はもう朽ちている。
完全なる敗北だ。
しかし、自分にトドメを刺したあの二人、特に聖の遣いだけは苦しめてやりたい。
だからその魔物はあと十数秒だけ残っていた時間を捧げて、ささやかな反撃をすることにした。
これまでその魔物は亜空間を発生させ、こちらの空間に吐き出すことで火や魔物を召喚していた。
今度は亜空間を発生させて吸い込めば良い。
そうすればアイツを苦しめることができる。
首だけになったガーゴイルは最後の力を振り絞って、ルキウスのすぐ後ろに亜空間を発生させた。
そして吸引を開始して、事の顛末を見届ける事なく息絶えた。
◆
それは突然やって来た。
全員が気を抜いている時、ルキウスの後ろに赤黒い亜空間が発生したのだ。
セネカが声を出して注意を促そうとした時、ルキウスは既に吸い込まれ始めていた。
「ルキウス!」
セネカは反射的に立ち上がり、ルキウスの腰にしがみついて、そして一緒に亜空間に飲み込まれていった。
「セネカァァァァ!!!!!」
いち早く異常に気がついたマイオルの悲痛な叫びだけが、大森林に響いていった。
本当なのかは分からないけれど、スキルの行使に大事なのはイメージだ。
だからセネカは自分や魔物がそのような微小の物質で出来ていると思い込むことで、強力な攻撃を繰り出そうと奇行を始めた。
細かいことはよく分からない。
ガイアに何度も理論を聞いたし、数式を解くとそれっぽい答えが出ることも分かっている。
だけど理論は時代とともに変わってしまうし、机の上の結論が常に現実を反映しているとは限らない。
となると、セネカが出来ることは一つである。
その法則が成り立つ世界を自分の中に作れば良い。
他の人にとっては空気を【縫う】という行為が意味不明なように、このスキルが戦いに使えるとは思えないように、世界がどう動くのかはセネカには分からない。
だけど、空気を縫うこともスキルが当たりであることも、セネカにとっては真実なのだ。
その揺るぎない想いを今だけでも、スキルの力で現実にしてしまえば良い。
ルキウスが隣にいる今、セネカは何にでもできる気持ちになっていた。
◆
大太刀を鞘に納めたまま、ルキウスはガーゴイルに向かっていった。ガイアの魔法を受けてバランスを崩す魔物は恰好の的だ。
だけど、ルキウスは攻撃しないまま、一旦ガーゴイルの横を通り過ぎた。
攻撃が来ると身体を硬くしていたガーゴイルは完全に拍子を崩された。
「[剣]」
ルキウスは作成した大太刀に同じサブスキルを重ねがけし、威力を倍加した。
そして振り向いて、反対側でセネカが攻撃体制に入っていることを確認した。
セネカが柄に手をかけて、刀を抜こうとしているのが見える。
ルキウスも柄を握り、セネカと同時に飛び出した。
二人の視線が交錯する。
二人は息を合わせ、両側から激烈な居合い攻撃を放った。
ガーゴイルに攻撃が当たる瞬間、セネカはその魔物を構成する小さな物質の間に刃を入れて、極微の間隙を【縫い】進めた。
シャキーン。
ガーゴイルを切り裂く二つの音が重なり、大森林に響く。
「ギ」
そしてガーゴイルは胸と腹を両断され、三つに分かれて落ちていった。
【レベル4に上昇しました。[縫い付ける]が可能になりました。干渉力が大幅に上昇しました。身体能力が大幅に上昇しました。魔力が大幅に上昇しました。サブスキル[属性変換]を獲得しました】
セネカはレベル4になった。
◆
切断されたガーゴイルは地に落ち、下半身の方から崩れ出した。
シューシューと音が出ていて、煙のようなものが発生している。
「⋯⋯勝ったのね」
マイオルがそう言ったのを皮切りに力が抜け、みんなが地面に腰を下ろした。
アッタロスとレントゥルスは限界を超えて技を出したため、肉体の消耗が激しかった。
最後の攻撃のために力を振り絞ったセネカとルキウスも満身創痍であった。
ポーションで魔力をこまめに回復しながら【探知】を続けたマイオルも脳の疲労で限界を感じている。そのマイオルと共に攻撃を抑え続けていたガイアもボロボロだ。
安堵感からプラウティアはへたり込んだけれど、この中では比較的ダメージが少ないと気付くとアッタロスとレントゥルスの方に向かい、ケガの手当てをし始めた。
全員が死を覚悟した戦いだった。
明らかに戦力は足りておらず、幾つもの偶然が重なって得ることが出来た貴重な勝利であった。
次に同じメンバーで戦っても勝てるか分からない。そんな激闘であった。
ガーゴイルが亜空間から魔物を召喚していたと考えると数々の違和感を説明出来るというのも全員が脱力した要因の一つだ。
魔物の増えが早く、倒しても倒しても強力な魔物が出てくる理由が分かった。だからあのガーゴイルを倒したことでスタンピードの原因もおそらく除かれただろうとみんなが思っていた。
そんな気の緩みを敵は見逃さなかった。
◆
その魔物にはまだ息があった。
先は長くなく、首以外はもう朽ちている。
完全なる敗北だ。
しかし、自分にトドメを刺したあの二人、特に聖の遣いだけは苦しめてやりたい。
だからその魔物はあと十数秒だけ残っていた時間を捧げて、ささやかな反撃をすることにした。
これまでその魔物は亜空間を発生させ、こちらの空間に吐き出すことで火や魔物を召喚していた。
今度は亜空間を発生させて吸い込めば良い。
そうすればアイツを苦しめることができる。
首だけになったガーゴイルは最後の力を振り絞って、ルキウスのすぐ後ろに亜空間を発生させた。
そして吸引を開始して、事の顛末を見届ける事なく息絶えた。
◆
それは突然やって来た。
全員が気を抜いている時、ルキウスの後ろに赤黒い亜空間が発生したのだ。
セネカが声を出して注意を促そうとした時、ルキウスは既に吸い込まれ始めていた。
「ルキウス!」
セネカは反射的に立ち上がり、ルキウスの腰にしがみついて、そして一緒に亜空間に飲み込まれていった。
「セネカァァァァ!!!!!」
いち早く異常に気がついたマイオルの悲痛な叫びだけが、大森林に響いていった。
20
お気に入りに追加
605
あなたにおすすめの小説

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

病原菌鑑定スキルを極めたら神ポーション出来ちゃいました
夢幻の翼
ファンタジー
【錬金調薬師が治癒魔法士に劣るとは言わせない!】
病を治す錬金調薬師の家系に生まれた私(サクラ)はとある事情から家を出て行った父に代わり工房を切り盛りしていた。
季節は巡り、また流行り風邪の季節になるとポーション作成の依頼は急増し、とてもではないが未熟な私では捌ききれない依頼が舞い込む事になる。
必死になって調薬するも終わらない依頼についに体調を崩してしまった。
帰らない父、終わらない依頼。
そして猛威を振るう凶悪な流行り風邪に私はどう立ち向かえば良いのか?
そして、私の作った神ポーションで誰を救う事が出来たのか?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。


俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる