123 / 221
第11章:銀級冒険者昇格編(3):騒乱
第123話:間隙
しおりを挟む
最新の理論によれば、この世界の物質は目に見えない小さな物質が固まってできているのだという。
本当なのかは分からないけれど、スキルの行使に大事なのはイメージだ。
だからセネカは自分や魔物がそのような微小の物質で出来ていると思い込むことで、強力な攻撃を繰り出そうと奇行を始めた。
細かいことはよく分からない。
ガイアに何度も理論を聞いたし、数式を解くとそれっぽい答えが出ることも分かっている。
だけど理論は時代とともに変わってしまうし、机の上の結論が常に現実を反映しているとは限らない。
となると、セネカが出来ることは一つである。
その法則が成り立つ世界を自分の中に作れば良い。
他の人にとっては空気を【縫う】という行為が意味不明なように、このスキルが戦いに使えるとは思えないように、世界がどう動くのかはセネカには分からない。
だけど、空気を縫うこともスキルが当たりであることも、セネカにとっては真実なのだ。
その揺るぎない想いを今だけでも、スキルの力で現実にしてしまえば良い。
ルキウスが隣にいる今、セネカは何にでもできる気持ちになっていた。
◆
大太刀を鞘に納めたまま、ルキウスはガーゴイルに向かっていった。ガイアの魔法を受けてバランスを崩す魔物は恰好の的だ。
だけど、ルキウスは攻撃しないまま、一旦ガーゴイルの横を通り過ぎた。
攻撃が来ると身体を硬くしていたガーゴイルは完全に拍子を崩された。
「[剣]」
ルキウスは作成した大太刀に同じサブスキルを重ねがけし、威力を倍加した。
そして振り向いて、反対側でセネカが攻撃体制に入っていることを確認した。
セネカが柄に手をかけて、刀を抜こうとしているのが見える。
ルキウスも柄を握り、セネカと同時に飛び出した。
二人の視線が交錯する。
二人は息を合わせ、両側から激烈な居合い攻撃を放った。
ガーゴイルに攻撃が当たる瞬間、セネカはその魔物を構成する小さな物質の間に刃を入れて、極微の間隙を【縫い】進めた。
シャキーン。
ガーゴイルを切り裂く二つの音が重なり、大森林に響く。
「ギ」
そしてガーゴイルは胸と腹を両断され、三つに分かれて落ちていった。
【レベル4に上昇しました。[縫い付ける]が可能になりました。干渉力が大幅に上昇しました。身体能力が大幅に上昇しました。魔力が大幅に上昇しました。サブスキル[属性変換]を獲得しました】
セネカはレベル4になった。
◆
切断されたガーゴイルは地に落ち、下半身の方から崩れ出した。
シューシューと音が出ていて、煙のようなものが発生している。
「⋯⋯勝ったのね」
マイオルがそう言ったのを皮切りに力が抜け、みんなが地面に腰を下ろした。
アッタロスとレントゥルスは限界を超えて技を出したため、肉体の消耗が激しかった。
最後の攻撃のために力を振り絞ったセネカとルキウスも満身創痍であった。
ポーションで魔力をこまめに回復しながら【探知】を続けたマイオルも脳の疲労で限界を感じている。そのマイオルと共に攻撃を抑え続けていたガイアもボロボロだ。
安堵感からプラウティアはへたり込んだけれど、この中では比較的ダメージが少ないと気付くとアッタロスとレントゥルスの方に向かい、ケガの手当てをし始めた。
全員が死を覚悟した戦いだった。
明らかに戦力は足りておらず、幾つもの偶然が重なって得ることが出来た貴重な勝利であった。
次に同じメンバーで戦っても勝てるか分からない。そんな激闘であった。
ガーゴイルが亜空間から魔物を召喚していたと考えると数々の違和感を説明出来るというのも全員が脱力した要因の一つだ。
魔物の増えが早く、倒しても倒しても強力な魔物が出てくる理由が分かった。だからあのガーゴイルを倒したことでスタンピードの原因もおそらく除かれただろうとみんなが思っていた。
そんな気の緩みを敵は見逃さなかった。
◆
その魔物にはまだ息があった。
先は長くなく、首以外はもう朽ちている。
完全なる敗北だ。
しかし、自分にトドメを刺したあの二人、特に聖の遣いだけは苦しめてやりたい。
だからその魔物はあと十数秒だけ残っていた時間を捧げて、ささやかな反撃をすることにした。
これまでその魔物は亜空間を発生させ、こちらの空間に吐き出すことで火や魔物を召喚していた。
今度は亜空間を発生させて吸い込めば良い。
そうすればアイツを苦しめることができる。
首だけになったガーゴイルは最後の力を振り絞って、ルキウスのすぐ後ろに亜空間を発生させた。
そして吸引を開始して、事の顛末を見届ける事なく息絶えた。
◆
それは突然やって来た。
全員が気を抜いている時、ルキウスの後ろに赤黒い亜空間が発生したのだ。
セネカが声を出して注意を促そうとした時、ルキウスは既に吸い込まれ始めていた。
「ルキウス!」
セネカは反射的に立ち上がり、ルキウスの腰にしがみついて、そして一緒に亜空間に飲み込まれていった。
「セネカァァァァ!!!!!」
いち早く異常に気がついたマイオルの悲痛な叫びだけが、大森林に響いていった。
本当なのかは分からないけれど、スキルの行使に大事なのはイメージだ。
だからセネカは自分や魔物がそのような微小の物質で出来ていると思い込むことで、強力な攻撃を繰り出そうと奇行を始めた。
細かいことはよく分からない。
ガイアに何度も理論を聞いたし、数式を解くとそれっぽい答えが出ることも分かっている。
だけど理論は時代とともに変わってしまうし、机の上の結論が常に現実を反映しているとは限らない。
となると、セネカが出来ることは一つである。
その法則が成り立つ世界を自分の中に作れば良い。
他の人にとっては空気を【縫う】という行為が意味不明なように、このスキルが戦いに使えるとは思えないように、世界がどう動くのかはセネカには分からない。
だけど、空気を縫うこともスキルが当たりであることも、セネカにとっては真実なのだ。
その揺るぎない想いを今だけでも、スキルの力で現実にしてしまえば良い。
ルキウスが隣にいる今、セネカは何にでもできる気持ちになっていた。
◆
大太刀を鞘に納めたまま、ルキウスはガーゴイルに向かっていった。ガイアの魔法を受けてバランスを崩す魔物は恰好の的だ。
だけど、ルキウスは攻撃しないまま、一旦ガーゴイルの横を通り過ぎた。
攻撃が来ると身体を硬くしていたガーゴイルは完全に拍子を崩された。
「[剣]」
ルキウスは作成した大太刀に同じサブスキルを重ねがけし、威力を倍加した。
そして振り向いて、反対側でセネカが攻撃体制に入っていることを確認した。
セネカが柄に手をかけて、刀を抜こうとしているのが見える。
ルキウスも柄を握り、セネカと同時に飛び出した。
二人の視線が交錯する。
二人は息を合わせ、両側から激烈な居合い攻撃を放った。
ガーゴイルに攻撃が当たる瞬間、セネカはその魔物を構成する小さな物質の間に刃を入れて、極微の間隙を【縫い】進めた。
シャキーン。
ガーゴイルを切り裂く二つの音が重なり、大森林に響く。
「ギ」
そしてガーゴイルは胸と腹を両断され、三つに分かれて落ちていった。
【レベル4に上昇しました。[縫い付ける]が可能になりました。干渉力が大幅に上昇しました。身体能力が大幅に上昇しました。魔力が大幅に上昇しました。サブスキル[属性変換]を獲得しました】
セネカはレベル4になった。
◆
切断されたガーゴイルは地に落ち、下半身の方から崩れ出した。
シューシューと音が出ていて、煙のようなものが発生している。
「⋯⋯勝ったのね」
マイオルがそう言ったのを皮切りに力が抜け、みんなが地面に腰を下ろした。
アッタロスとレントゥルスは限界を超えて技を出したため、肉体の消耗が激しかった。
最後の攻撃のために力を振り絞ったセネカとルキウスも満身創痍であった。
ポーションで魔力をこまめに回復しながら【探知】を続けたマイオルも脳の疲労で限界を感じている。そのマイオルと共に攻撃を抑え続けていたガイアもボロボロだ。
安堵感からプラウティアはへたり込んだけれど、この中では比較的ダメージが少ないと気付くとアッタロスとレントゥルスの方に向かい、ケガの手当てをし始めた。
全員が死を覚悟した戦いだった。
明らかに戦力は足りておらず、幾つもの偶然が重なって得ることが出来た貴重な勝利であった。
次に同じメンバーで戦っても勝てるか分からない。そんな激闘であった。
ガーゴイルが亜空間から魔物を召喚していたと考えると数々の違和感を説明出来るというのも全員が脱力した要因の一つだ。
魔物の増えが早く、倒しても倒しても強力な魔物が出てくる理由が分かった。だからあのガーゴイルを倒したことでスタンピードの原因もおそらく除かれただろうとみんなが思っていた。
そんな気の緩みを敵は見逃さなかった。
◆
その魔物にはまだ息があった。
先は長くなく、首以外はもう朽ちている。
完全なる敗北だ。
しかし、自分にトドメを刺したあの二人、特に聖の遣いだけは苦しめてやりたい。
だからその魔物はあと十数秒だけ残っていた時間を捧げて、ささやかな反撃をすることにした。
これまでその魔物は亜空間を発生させ、こちらの空間に吐き出すことで火や魔物を召喚していた。
今度は亜空間を発生させて吸い込めば良い。
そうすればアイツを苦しめることができる。
首だけになったガーゴイルは最後の力を振り絞って、ルキウスのすぐ後ろに亜空間を発生させた。
そして吸引を開始して、事の顛末を見届ける事なく息絶えた。
◆
それは突然やって来た。
全員が気を抜いている時、ルキウスの後ろに赤黒い亜空間が発生したのだ。
セネカが声を出して注意を促そうとした時、ルキウスは既に吸い込まれ始めていた。
「ルキウス!」
セネカは反射的に立ち上がり、ルキウスの腰にしがみついて、そして一緒に亜空間に飲み込まれていった。
「セネカァァァァ!!!!!」
いち早く異常に気がついたマイオルの悲痛な叫びだけが、大森林に響いていった。
20
お気に入りに追加
606
あなたにおすすめの小説

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

病原菌鑑定スキルを極めたら神ポーション出来ちゃいました
夢幻の翼
ファンタジー
【錬金調薬師が治癒魔法士に劣るとは言わせない!】
病を治す錬金調薬師の家系に生まれた私(サクラ)はとある事情から家を出て行った父に代わり工房を切り盛りしていた。
季節は巡り、また流行り風邪の季節になるとポーション作成の依頼は急増し、とてもではないが未熟な私では捌ききれない依頼が舞い込む事になる。
必死になって調薬するも終わらない依頼についに体調を崩してしまった。
帰らない父、終わらない依頼。
そして猛威を振るう凶悪な流行り風邪に私はどう立ち向かえば良いのか?
そして、私の作った神ポーションで誰を救う事が出来たのか?

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる