スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
116 / 213
第11章:銀級冒険者昇格編(3):騒乱

第116話:石像の魔物

しおりを挟む
 マイオル達は決して油断していなかった。
 周囲は十分に警戒していたし、遠距離からの攻撃にも気を配っていた。
 だがその攻撃は突然やってきた。
 
 これまでの人生で数多の奇襲を受けてきたアッタロスもこの時ばかりは完全に虚をつかれ、居着いてしまった。

 だが、彼の横には歴戦の友が出した球体が浮いていた。
 その球の特異な性質が彼の命運を分けた。

「魔引!」

 レントゥルスは盾球に備わる魔力誘引性能を最大限まで引き上げた。

 青い火が盾球に吸い込まれるように引き寄せられていく。そして「ゴウ」と音を立てながら盾球に当たり、火は消えていった。

 一拍遅れてアッタロスは身を退き、剣を抜いた。

「レントゥルス、助かった」

「あぁ。喰らっていたら危なかった。盾球にはあまり魔力を込めてなかったが、それでも一撃で壊されそうじゃい」

「全く気配を感じなかった。マイオル、敵はどこだ?」

「一番近くにいる魔物でもかなり距離があります。そこから攻撃が飛んで来たのか、探知に引っかからないのか分かりません。とにかく次撃に備えてください。視野を共有します!」

 この時、セネカ達は冷静ではなかった。
 方法不明の攻撃に晒されて、共有された【探知】の視野の中で、自分達の近いところしか見ていなかった。

 そんな中でガイアだけは冷静に状況を見ていた。

「マイオル! 『扉』があった方向に猛烈な勢いで進んでいく魔物がいるぞ!」

 ガイアに言われて、一行は凄まじい速さで移動を進める魔物に目を向けた。

「ガーゴイルの亜種です!」

 マイオルが叫んだ。

 この時、アッタロスは嫌な予感がした。
 その魔物が目的を持って真っ直ぐに進んでいるように見えたからだ。

「防御は俺に任せろ! [豪快]!」

 レントゥルスはサブスキルを発動し、盾球を十個まで増やした。もしまた奇襲されても、これなら魔法の誘引が間に合うだろう。

「総員、走れ!」

 アッタロスの声が響く。

 プラウティアは走りながらポシェットに入っている何種類ものポーションの位置を確認した。これらはキト特製の濃縮ポーションなので、腰に持てる分だけでも様々な事態に対処できるはずだ。

「セネカ、俺の後ろに来い。レントゥルスと一緒に二列目に入るんだ! プラウティア、ガイア! マイオルを守ってくれ!」

 全速力で走りながらアッタロスはそう言った。

 誰もアッタロスには追いつけなかったけれど、すぐさまセネカとレントゥルスは横に並び、この後の戦闘に備えた。

 前列の三人に離されながらも、マイオルは必死に走り、アッタロスに決定的な情報を伝えた。

「アッタロスさん! そのガーゴイルを全力で攻撃してください! 早く!!!!」

 先行していたガーゴイルは『扉』があった領域に到着し、膨大な魔力を練って何かしようとしている。

 アッタロスは教え子の指示を聞いて、迷うことなく従った。

「[瞬速]! [剣魔]!」

 アッタロスは切り札を一つ切った。
 [瞬速]により猛烈な速度になった身体からさらに速く魔法が放たれる。
 その魔法は光り輝き、剣のような形をしていた。

 まるで空気を切り裂くように剣魔は飛び、精神を集中しようとしていたガーゴイルを邪魔することに成功した。

「ギギィ!」

 ガーゴイルは悔しそうな声を上げた。
 もう少し時間があれば、目論見を完遂できたからだ。
 しかし、最低限の目的は達成した。

 全員が【探知】の視野を見ていた。
 少し前まで巨大な『扉』があった場所に拳大の圧縮された魔力が浮かんでくる。
 その魔力は意思を持ったかのように乱回転し、そして、小さな亜空間を発生させた。

「ギギキィィィィ!!!」

 その石像の悪魔は嘲笑うような声をあげて、亜空間から流れてくる濃密な魔力をその身に浴びた。





 小さな亜空間が発生するのを目にした瞬間、アッタロスはガーゴイルに斬りかかった。

 小さい亜空間だとは言ってもそばに居る魔物が力を得て守護者化する恐れがあるからだ。

 ガーゴイルは背中に生えたコウモリのような羽を巧みに使い、アッタロスの攻撃をひらりと避けた。そして己の権能を発揮して亜空間を開き、彼方から青い火を召喚した。

 アッタロスは危機を察知していたので、すぐに距離を取り、追いかけてきたセネカとレントゥルスの前に立った。

「キキィッ」

 癇に障るような鳴き声をあげて、ガーゴイルは別の亜空間を開いた。
 亜空間がアッタロスの半身ほどの大きさになったかと思うと、一匹の獣が飛び出し、亜空間はまた閉じてしまった。

「こいつ、亜空間を自由に開けるのか?」

 飛び出してきた獣がアッタロスを襲う。
 体躯は猫のようだが、頭は二つあり、醜悪な顔をしている。

「こんな魔物は知らねぇぞ!」

 双頭の猫がアッタロスに噛みつこうとした時、ガーゴイルも動きを見せていた。その魔物は再度亜空間から青火を召喚しながらアッタロスに飛びかかった。

 三方向からの攻撃を受けてしまっては流石のアッタロスもひとたまりもない。だから、セネカは全力で飛び出した。

 火の方はレントゥルスがなんとかするのだろうとセネカは思っていたので、迷うことなくガーゴイルに向かっていった。

 ガーゴイルは飛んでアッタロスに激突するつもりのようなのでセネカは置き物をすることにした。

 二十本の[まち針]を宙に固定して、ガーゴイルの進路を変えさせた。そして、減速せざるを得なかったガーゴイルの首に向かって、渾身の太刀を喰らわせた。

 ガギン!

 しかし、硬い石でできたガーゴイルに傷を与えることができなかった。セネカの想像の何倍も硬かったのだ。

 攻撃をした後、セネカはアッタロスの横に戻っていった。反対側には青火にしっかり対処したレントゥルスもいる。

「おい、アッタロス。なんだコイツは。こんな魔物は見たことねぇぞ」

「⋯⋯討伐班が強い魔物から倒しているのに数が減らねぇと思ってたんだよ。この辺りに出る種類の魔物だったから魔力溜まりで強化されてるんだと思い込んでいたが、お前のせいだったんだな」

「ギニュー」

 ガーゴイルは楽し方な声を上げた。

「変な炎と仲間の召喚が能力か。こりゃあ骨が折れるな」

 レントゥルスがそう言った時、マイオル達が追いついてきた。

「見ていたな? 後ろの三人はその猫の魔物を頼む。倒せずとも牽制してくれ。俺たちはガーゴイルを倒す」

「⋯⋯分かりました」

 鋭い様子で返事をしたのはプラウティアだった。

「レントゥルスさん。あの魔物が亜空間を開く前、うっすらと魔力が先に移動します」

「分かった。その兆候を見失わなければ対処できるな」

「総員、作戦『赤』だ。頼んだぞ」

 アッタロスはそう言って、奥に控えていたガイアを見た。作戦『赤』は全員で引きつけて、敵にガイアの全力の魔法をお見舞いする作戦だ。

 セネカ達が作戦を立てている間、ガーゴイルはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらふわふわと浮いていた。小馬鹿にするような動きだ。

 しかし、セネカ達がキッと睨みつけると、また「ギギィ」と鳴き、新たな亜空間を開いた。

「セネカ、猫を頼む!」

 双頭猫の魔物がもう一匹飛び出してきたので、アッタロスはセネカに任せて、自分はガーゴイルと対峙することにした。





 ガイアは魔法を撃つ隙を伺っていた。
 魔法の準備は整っており、いつでも発射することができる。
 確かに敵は硬そうだったが、ガイアの魔法であれば傷つけられないということはないだろう。

 最近までガイアは自信を失っていた。なぜなら、白龍と出会ってしまったからだ。

 ガイアは【砲撃魔法】を一日一回しか使えなかった。
 そのことに不満を抱き、憤り、葛藤を抱えていた。しかし、威力に疑問を抱いたことはなかった。

 発動して倒せない魔物はいなかった。
 自分より高威力の魔法を使う人間を見たことがなかった。
 だから、いつの間にか自惚れていたのだろう。
 発動さえさせてしまえばどんな魔物でも倒せるはずだと、無意識のうちに幻想を抱いてしまったのだろう。
 だから、白龍を見た時、ガイアの自信は打ち砕かれた。

 そういう存在を知らなかったわけではない。
 例えば、ガイアが毎日魔法を打ち込んでいる的は、下級の龍の鱗に特殊な金属加工をした物だ。だから少し考えれば、自分の魔法が通じない魔物が存在すると想像することはできたはずだった。

 しかし、ガイアはこの世界の頂点の力にあまりにも早く出会ってしまった。
 客観的に自分の力を見る前に。
 冷静に分析をする前に。
 想像力を働かせる前に。

 魔法が一回しか使えないという呪縛からやっと抜け出たところで、ガイアはまた自分に呪いをかけてしまいそうになった。
 けれど、そんなガイアを立ち直らせたのはマイオルの姿だった。

 龍にあった後のマイオルは打ちひしがれていて、目を背けてしまいたくなるほどだったけれど、そんな状態から這い上がり、すぐに前以上の勢いでひたむきに訓練を始めた。

 その姿はガイアの胸を強く打った。

 自分はショックを受けたままで良いのだろうか。
 目を背けたままで良いのだろうか。

 何度も眠りにくい夜を超えた後で、ガイアは心に決めた。

「威力が足りないのなら、強くなれば良い」

 そうして、スキルを得てから初めて威力を高める訓練を開始した。おかげで少しずつではあるが、向上が見込めている。

「ガイア!」

 アッタロスからの合図が来た。

 ガイアは左腕を前に出した。
 そして、魔力を変換して強大な魔法の『種』を形成する。
 この『種』を全力で圧縮し、魔力がさらに変質するのを待つ。

 仲間達は既に避難を始めている。
 レントゥルスのスキルで敵の動きは止まっている。

 敵がどれほど硬かろうと貫いて見せる。
 ガイアはスキルに想いを乗せた。

 魔力が臨界状態に達し、高エネルギー状態になったのが分かる。
 あとはこの暴力的な魔力を高速で発射するだけだ。

「撃つぞ!!!!」

 ガイアはその魔法をガーゴイルに向けて解き放った。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木
ファンタジー
 フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。  ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。  そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。    ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。  オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。  オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。  あげく魔王までもが復活すると言う。  そんな彼に幸せは訪れるのか?   これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。 ※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。 ※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。 ※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...