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第10章:銀級冒険者昇格編(2):試験
第101話:調査
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トリアス大森林に向かいながら、セネカはマイオル達から状況の詳細を聞いた。
「それで、マイオルの見立てでは魔力溜まりが関係していそうなのね?」
「うん。魔力溜まりが原因のスタンピードの可能性があるって。だからあたし達の任務は魔力濃度の分布を調べることになるわね。濃度が高い地点の情報が欲しいみたい」
「分かった」
「だけどセネカも知っている通り、魔力濃度が高いところには亜種が出てくる可能性が高くて、【探知】に反応する強力な個体がいるかもしれないから注意してほしいって。もしスタンピードが起きるような魔力濃度になっている時には、その中心にいる魔物はあたし達では倒せないってシメネメさんが言ってた」
「危険な任務になってしまったな」
マイオルの説明の後にガイアが付け足した。
プラウティアを見ると意外にも落ち着いた様子であった。
「マイオル、これって状況によっては国の存亡に関わるよね?」
「そうね。でも、やっと落ち着き始めたプラウティアが可哀想だから、一旦忘れて私たちはやるべきことに集中しましょう」
セネカが再度プラウティアを見ると、澄ましていた顔を歪め、「はわわわわ」と言い始めている。
「あ、ごめん。プラウティア⋯⋯。私たちは大丈夫だから、できることをしよう」
そう言って宥めながら進んでいくと、次第にプラウティアは落ち着いていった。
◆
マイオル達の案内に従ってトリアス大森林に入ると、確かに空気感が違うようにセネカは思った。
「うーん。確かに何か変」
「やっぱりそうですよね?」
プラウティアがたまらず返事をした。うまく言葉にできないけれど、数日前から常ならぬ気配を全員が感じるようになっていた。
「もう少し進むと魔力溜まりが継続して存在する場所があるから、まずはそこに行きましょう」
「そういう場所がたくさんあるの?」
「いくつかだけれど、あるわね。その時点でサイクロプスの時とは違うわ」
しばし進むとマイオルが[視野共有]を発動した。セネカの視野に色のついた靄が出現する。
「これが魔力溜まり?」
「そうよ。どこか違和感があるのだけれど、それが何か分からないのよね。セネカにも見てもらおうと思って」
マイオルがそう言ったのでセネカは凝視したけれど、何も分からなかった。
「とにかく記録するね。私は今の場所を記録するから、ガイアちゃんは前回の分布との違いを確認してくれる?」
「分かった。地形との兼ね合いもあるし、私が見るようにする」
「私は何を手伝えば良いかな?」
「セネカにはとりあえず現場を見てほしいわ。徐々に状況が変わって行ったから、変化に気づけなかったかもしれないの。その点、セネカなら新鮮な気持ちで観察できるはずだから、気づくことがあったら教えて」
調査の記録の方はこの辺りの地理に慣れた三人に任せて、セネカは周囲を詳細に確認することになった。だが、違和感はあってもその正体を掴むのには至らない。
漂う魔力は意志を持っているかのように蠢いている気がするけれど、なぜそう思うのかはセネカには見当がつかなかった。
こうして『月下の誓い』の四人は魔力溜まりの調査をしながら森を進んで行った。
◆
大きな魔力溜まりの状態を見ている時、マイオルの方を向いてセネカが言った。
「ねぇ、マイオル」
「なに? 何かわかった?」
「ううん。まだ分からないんだけど、[軌跡]を使ってみたら、もしかしたら見えてくるものがあるかもしれないと思ったの。見てみたことある?」
マイオルは首を横に振った。
「確かにやってみる価値はあるわね。集中するから共有を止めるわ」
セネカの視界にあった魔力の靄が見えなくなった。
マイオルが集中し始めたのでセネカは邪魔をしないように離れ、改めて状況を整理することにした。
確かに魔物は多いように感じる。通常状態を知らないけれど、頻繁に接敵するような場所ではないと聞いていた。出会う魔物や獣達はそれぞれが薄く苛立っているように見える。神経質になっていると言っても良いのかもしれない。これがスタンピードの予兆なのだろうか。
セネカが顔を上げるとマイオルと目が合った。結果はどうだったのだろうか。
「セネカ、面白いことが分かったわ。さすがよね」
そう言ってプラウティアとガイアにも声をかけに行った。
◆
集まった三人に対して、マイオルは[視界共有]を発動した。
「この辺りを見て」
そう言ってマイオルが魔力溜まりの境界部を指差した。よく見ると、魔力溜まりに向かう流れが見える。
「分かったと思うけれど、この魔力溜まりは周囲の薄い魔力を引き寄せているの。時間が足りないから確たることは言えないけれど、おそらく徐々にその濃度を増しているわ」
「おぼろげだけど魔力溜まりの中にも、中心に向かっていく流れと外に向かう流れがあるね」
「そうだな。まるで対流しているみたいだ」
「そんな性質があるって聞いたことないわね」
「あぁ。魔力溜まり固有の性質である可能性もあるな。だとしたら大発見だ」
「ねぇ、ガイア。魔力溜まりの中になんらかのパターンがあるのだとしたら、魔力溜まり同士の位置関係にも意味があるかもしれないよね?」
セネカがそう聞くとガイアは眼を見張った。
「確かにその可能性があるな。だとしたら、周辺のパターンから魔力溜まりの大まかな分布を予測することが可能かもしれない」
「それで一番濃度の高い場所を予測できたら、精度がそれなりでも役に立つよね?」
「そうだな」
ガイアは力強く言った。
「予測できるだけで時間の短縮になるかもしれないから、いまは実用的な面だけ考えて計算するのが良さそうだよね。細かいことは後から考えれば良いと思うから」
「あぁ。後で専門の研究者に分析が依頼されるかもしれないな⋯⋯」
ガイアとセネカの話を聞いてマイオルは今後の方針を決めた。
「それじゃあ、ガイアを中心に分析を進めましょう。あくまで努力目標ということにするけれど、もし実現できれば重要な情報になるわ」
その後、四人は一心不乱に調査を進めた。
「それで、マイオルの見立てでは魔力溜まりが関係していそうなのね?」
「うん。魔力溜まりが原因のスタンピードの可能性があるって。だからあたし達の任務は魔力濃度の分布を調べることになるわね。濃度が高い地点の情報が欲しいみたい」
「分かった」
「だけどセネカも知っている通り、魔力濃度が高いところには亜種が出てくる可能性が高くて、【探知】に反応する強力な個体がいるかもしれないから注意してほしいって。もしスタンピードが起きるような魔力濃度になっている時には、その中心にいる魔物はあたし達では倒せないってシメネメさんが言ってた」
「危険な任務になってしまったな」
マイオルの説明の後にガイアが付け足した。
プラウティアを見ると意外にも落ち着いた様子であった。
「マイオル、これって状況によっては国の存亡に関わるよね?」
「そうね。でも、やっと落ち着き始めたプラウティアが可哀想だから、一旦忘れて私たちはやるべきことに集中しましょう」
セネカが再度プラウティアを見ると、澄ましていた顔を歪め、「はわわわわ」と言い始めている。
「あ、ごめん。プラウティア⋯⋯。私たちは大丈夫だから、できることをしよう」
そう言って宥めながら進んでいくと、次第にプラウティアは落ち着いていった。
◆
マイオル達の案内に従ってトリアス大森林に入ると、確かに空気感が違うようにセネカは思った。
「うーん。確かに何か変」
「やっぱりそうですよね?」
プラウティアがたまらず返事をした。うまく言葉にできないけれど、数日前から常ならぬ気配を全員が感じるようになっていた。
「もう少し進むと魔力溜まりが継続して存在する場所があるから、まずはそこに行きましょう」
「そういう場所がたくさんあるの?」
「いくつかだけれど、あるわね。その時点でサイクロプスの時とは違うわ」
しばし進むとマイオルが[視野共有]を発動した。セネカの視野に色のついた靄が出現する。
「これが魔力溜まり?」
「そうよ。どこか違和感があるのだけれど、それが何か分からないのよね。セネカにも見てもらおうと思って」
マイオルがそう言ったのでセネカは凝視したけれど、何も分からなかった。
「とにかく記録するね。私は今の場所を記録するから、ガイアちゃんは前回の分布との違いを確認してくれる?」
「分かった。地形との兼ね合いもあるし、私が見るようにする」
「私は何を手伝えば良いかな?」
「セネカにはとりあえず現場を見てほしいわ。徐々に状況が変わって行ったから、変化に気づけなかったかもしれないの。その点、セネカなら新鮮な気持ちで観察できるはずだから、気づくことがあったら教えて」
調査の記録の方はこの辺りの地理に慣れた三人に任せて、セネカは周囲を詳細に確認することになった。だが、違和感はあってもその正体を掴むのには至らない。
漂う魔力は意志を持っているかのように蠢いている気がするけれど、なぜそう思うのかはセネカには見当がつかなかった。
こうして『月下の誓い』の四人は魔力溜まりの調査をしながら森を進んで行った。
◆
大きな魔力溜まりの状態を見ている時、マイオルの方を向いてセネカが言った。
「ねぇ、マイオル」
「なに? 何かわかった?」
「ううん。まだ分からないんだけど、[軌跡]を使ってみたら、もしかしたら見えてくるものがあるかもしれないと思ったの。見てみたことある?」
マイオルは首を横に振った。
「確かにやってみる価値はあるわね。集中するから共有を止めるわ」
セネカの視界にあった魔力の靄が見えなくなった。
マイオルが集中し始めたのでセネカは邪魔をしないように離れ、改めて状況を整理することにした。
確かに魔物は多いように感じる。通常状態を知らないけれど、頻繁に接敵するような場所ではないと聞いていた。出会う魔物や獣達はそれぞれが薄く苛立っているように見える。神経質になっていると言っても良いのかもしれない。これがスタンピードの予兆なのだろうか。
セネカが顔を上げるとマイオルと目が合った。結果はどうだったのだろうか。
「セネカ、面白いことが分かったわ。さすがよね」
そう言ってプラウティアとガイアにも声をかけに行った。
◆
集まった三人に対して、マイオルは[視界共有]を発動した。
「この辺りを見て」
そう言ってマイオルが魔力溜まりの境界部を指差した。よく見ると、魔力溜まりに向かう流れが見える。
「分かったと思うけれど、この魔力溜まりは周囲の薄い魔力を引き寄せているの。時間が足りないから確たることは言えないけれど、おそらく徐々にその濃度を増しているわ」
「おぼろげだけど魔力溜まりの中にも、中心に向かっていく流れと外に向かう流れがあるね」
「そうだな。まるで対流しているみたいだ」
「そんな性質があるって聞いたことないわね」
「あぁ。魔力溜まり固有の性質である可能性もあるな。だとしたら大発見だ」
「ねぇ、ガイア。魔力溜まりの中になんらかのパターンがあるのだとしたら、魔力溜まり同士の位置関係にも意味があるかもしれないよね?」
セネカがそう聞くとガイアは眼を見張った。
「確かにその可能性があるな。だとしたら、周辺のパターンから魔力溜まりの大まかな分布を予測することが可能かもしれない」
「それで一番濃度の高い場所を予測できたら、精度がそれなりでも役に立つよね?」
「そうだな」
ガイアは力強く言った。
「予測できるだけで時間の短縮になるかもしれないから、いまは実用的な面だけ考えて計算するのが良さそうだよね。細かいことは後から考えれば良いと思うから」
「あぁ。後で専門の研究者に分析が依頼されるかもしれないな⋯⋯」
ガイアとセネカの話を聞いてマイオルは今後の方針を決めた。
「それじゃあ、ガイアを中心に分析を進めましょう。あくまで努力目標ということにするけれど、もし実現できれば重要な情報になるわ」
その後、四人は一心不乱に調査を進めた。
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