スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
86 / 213
第9章:銀級冒険者昇格編(1):邂逅

第86話:交流

しおりを挟む
 アピアナの依頼を達成した後、四人は急いで王都に帰った。納品をして不足品を補充したら授業の準備を始める。

 二年の授業は一年次の発展の科目が多いので一から予習をする必要はない。しかし、四人は早めに単位を取り切ってしまいたいので詰め込んでいる。勉強時間を削ることは出来なさそうだった。

 セネカたちは、昨年の平日は鍛錬ばかりだったけれど、今年からは今後のことを見据えて人との交流を増やしている。

 セネカは学内の人と会うことが多い。二回ほど貴族の食事会にお呼ばれしたけれど利になることはあまりなかった。今のうちに場慣れしようという意識があるだけだ。

 マイオルの実家のメリダ商会は王都に出店しようと準備をしているようで度々父親が来ている。マイオルは父に付き添って色々と勉強をしている。

 プラウティアはキトと頻繁に会っているようだ。伝手を辿って魔導学校の薬師コースの学生とも交流を深めているらしい。先日セネカがキトに会った時にもプラウティアのスキルを利用した新たな製薬の話をした。また、プラウティアは貴族なので貴族同士で控えめに交流しているようだ。

 ガイアも学内の者との交流が多いようである。セネカと二人で行動することもある。冒険者学校にはフィールドワークを中心とする学者肌の生徒が多くいるので、そういう人たちから情報を得ている。

 セネカは模擬戦をすることが増えた。
 生徒同士で話をしていると実際に技を見たくなるのですぐ練習場に行こうということになる。そしてわざわざ練習場に行けば模擬戦をしたくなる。
 また、有力者たちも冒険者の腕を見るために戦いをけしかけてくることがある。セネカは良からぬ気配を感じた時には逃げることにしているため、今のところ大変な目には合っていない。反対に有力者の護衛の中には面倒見の良い者も多いので、そういう人に出会えた時には積極的に話しかけて情報を得ることにしている。

 セネカは交流に煩わしさを感じることも多かったけれど、これも必要なことだと自分を言い聞かせて、日々勤しんだ。





 銀級冒険者への昇格試験は年に二回ある。試験を受ける前には推薦を受ける必要があるため、今年の一回目の試験には間に合わなさそうだ。なのでセネカは二回目の試験に狙いを定めて活動を進めている。

 交流を重ねるうちに、セネカは上流階級の人間の評価を高めるのがどれだけ大事なのか分からなくなって来た。アッタロスの言う通り、信用が大事なことは分かるが、それは一時のものなのではないかとも思ってしまう。

 マイオルは深く入り込みすぎてしがらみに囚われてしまうことを懸念していた。権力者達と関わりすぎると却ってルキウスを守ることができない状況に陥ってしまう恐れもある。

 色々と考えると、この一連の交流では深く信頼できる人を探すことが大事だとセネカは感じていた。自分が将来英雄になっても、外れ者になっても、それでも信じられる人を見つけたい。そう考えると、そろそろ面通しは十分であるように感じてきた。あとは知った人の中から信用できる人を見定めてゆけば良い。

 龍を倒す英雄になろうとしているのにお金や権力の力に揺らいでいては仕方がないようにセネカは思う。

 むしろ、圧倒的な実力があれば良いのではないか。結局のところ、それが求めるものではないかとセネカは閃いた。交流は最低限必要な分にして、圧倒的な実力をつけよう。信用も経験も副産物だ。そう思いついたセネカはマイオルに相談した。

 マイオルは「それもそうね」と言って、改めて四人で話し合うことにした。





「という訳でみんなに集まってもらったのだけど、どうかしら?」

 四人はマイオルとプラウティアの部屋に集まって最近の活動について話している。

「私はいまの生活も嫌いではないが、確かにそろそろ鍛錬にも力を入れたいとは感じ始めていた。なので、いっそのこと何人かで研究会を作って【砲撃魔法】をはじめとした魔法スキルについて深く検証するのが良いかもしれないと考えている」

「私も貴族との付き合いはそろそろ終わりで良いかなって感じている。『月下の誓い』に貴族がいるって情報が出回っただけで十分じゃないかな?」

「ヘルバ家のご令嬢が属しているって分かった訳だものね」

 セネカとマイオルはプラウティアが貴族の出だと以前聞いた時には驚いた。ガイアは身のこなしからそういう場合もあるかもしれないと考えていた。

 ヘルバ家は古くからある家で、当然マイオルの父は知っていた。うまく付き合うようにマイオルは伝えられている。

「マイオルちゃんはどう思っているの?」

 プラウティアは以前よりも堂々とした様子で尋ねた。少しずつ自信がついてきているようである。

「あたしも基本的にはセネカの考えに賛成ね。圧倒的な実力をつければほとんどのことは無視できる。それが冒険者だからね。でも、教会や国に目をつけられることになったら辛い状況になるのは事実よ。鍛錬に時間を使いつつ、追い込まれた時の手段を構築することは続けてほしいわ」

 マイオルの話を聞きながらセネカは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
 セネカはルキウスと再会したら一緒に冒険するつもりだ。例え世界中が敵になったとしてもルキウスが望むのであれば戦い続ける覚悟を持っている。

 マイオルは基本的にセネカについていく覚悟だ。自分に夢を見せ続けてくれるセネカのことをマイオルはもう見捨てられない。しかし、ガイアとプラウティアにはそこまでの覚悟はないかもしれない。お互いのことを信頼しているけれど、ルキウスのことに勝手に巻き込むのは虫が良すぎる。

 セネカは二人にルキウスのことを全て話したけれど、二人が心の奥底でどんなことを考えているのかは分からない。簡単に聞けることでもないし、そもそもこれからどんな事態が待っているのかも分からないのだから、その時の動きについて話し合うことなどできなかった。

「ガイアが言っているように少人数で研究会をしてみるのは良いかもしれないわね。パーティの中に閉じこもりすぎずに深い探究が出来るかもしれないわ」

 一番興味のあることを信用できる人と探求しよう。そういう結論になって、後日また話し合いをすることになった。





 セネカは前にも増して、王都を一人で歩くことが増えた。
 個人的に人と会う機会も多くなったし、待ち合わせまで時間を潰す必要がある時もある。そうしているうちに街の様子も覚えて、気軽に出かけられるようになってきた。

 今日はセネカだけ授業が早く終わる日なので、一人で携行食を補充し、武具を見に行くつもりだ。

 以前だったらすぐに用事を済ませて学校に戻り、即座に鍛錬を開始しただろう。今も街行く人に気づかれないように魔力操作の練習をしているけれど、身が入っているとは言い難い。

 セネカはうろつきながら小径に入っていった。迷いなくまっすぐ進み、古い建物の二階にある店を訪れる。

 そのお店はお茶屋だ。穏やかな女性が営むお店で静かな空気がある。そういうお達しがある訳ではないのに自然と声を出すのが憚れるような雰囲気があり、落ち着くことができる。

 セネカは静かに席についてお茶を注文した。照明は暗いが窓から外の明るい光が入ってくる。

 ルキウスと離れてから四年が経つ。
 六歳の時に出会って十歳まで一緒に過ごした。十四歳のいま、過ごした時間よりも離れていた時間の方が長くなりつつある。

 あんなに鮮明だったルキウスの顔も今では霞み始めている。
 ルキウスも成長しているはずなので顔も変わっているだろう。
 いまのルキウスの姿をセネカは知らない。

 そう思うと何故だか目頭が熱くなって自分だけが取り残されてしまったような気持ちになる。

 お茶が来た。この店では非常に濃いお茶が少量出てくる。

 セネカは器を手に取り、ゆっくりと口に含んだ。濃厚なお茶の味が広がる。香りは華やかで渋みは薄い。量は少ないけれど満足感がある。
 頭の中に浮かぶモヤがほんの少しだけ晴れた気持ちになる。

 無我夢中で走ってきた。
 やっとルキウスの手がかりを掴んだ。
 再会の時はそう遠くないのかもしれない。

 喜びが湧き上がってくる。
 同時に不安が顔を出してくる。

 喜びに心から浸ってしまいたい。
 不安にどっぷりと飲まれてしまいたい。
 だけど、その先に待つのは停滞だ。

 不確実な状況に心を削られ続けている。
 苦しいはずだ。疲れてしまうのも仕方がないと思ってしまう。
 どうにかしたいけれど、どうしようもない。

 そんな時、自分を救ってくれる魔法のような解決方法があれば良いと思ってしまう。

 セネカは魔法が使えるようになったのだ。
 絶望的に効率が悪いが、火を出せる。
 氷を放てる。
 回復もできる。

 だけど、魔法のことを学べば学ぶほど痛感することがある。

 自分の運命を覆してくれるような都合の良い魔法はこの世界に存在しないのだ。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

隣国から有能なやつが次から次へと追放されてくるせいで気づいたらうちの国が大国になっていた件

さそり
ファンタジー
カーマ王国の王太子であるアルス・カーマインは父親である王が亡くなったため、大して興味のない玉座に就くことになる。 これまでと変わらず、ただ国が存続することだけを願うアルスだったが、なぜか周辺国から次々と有能な人材がやってきてしまう。 その結果、カーマ王国はアルスの意思に反して、大国への道を歩んでいくことになる。

オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木
ファンタジー
 フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。  ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。  そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。    ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。  オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。  オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。  あげく魔王までもが復活すると言う。  そんな彼に幸せは訪れるのか?   これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。 ※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。 ※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。 ※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

【連載版】婚約破棄? 私が能無しのブスだから? ありがとうございます。これで無駄なサービスは終了致しました。

ごどめ
ファンタジー
辺境地の男爵家の令嬢であるリフィルはとある日、都からやってきたダリアス侯爵に見初められ婚約者となるが、突然婚約破棄を申し渡される。 それを喜んで受けたリフィルは、これまでの事を思い返す。彼女には貴族の嗜みである上位魔法の中でも、少し変わった『魔力提供』という物でこれまでダリアス侯爵を支え続けてきた。  しかしそれも婚約破棄によりそんな事をする必要性が失われる。リフィルからの魔力支援が無くなった彼が勝手に失落していくであろう事を想像して、リフィルはひとりほくそ笑む。 しかし、田舎へ帰るはずの馬車はリフィルの知る道ではなく見知らぬ山道。そこで突如野盗に襲われてしまうのだが、そこに現れたのは以前から想いを寄せていた伯爵令息のシュバルツだった。 彼に助けられ、そして彼と接していくうちにどんどんと彼に惹かれていくリフィルは、彼と二人で幸せになる道を選ぶ。 リフィルの力により、シュバルツは飛躍的にその力を覚醒させ、そして彼は国を守るほどの英傑となり、最強旦那様へと進化、変貌を遂げ成り上がる。 必ず幸せになる物語。 ひたすらにリフィルが幸せを積み重ねていくその微笑ましくも逞しい生き様と、能無しだった令息のシュバルツの成り上がりを描く。 ※第一部がプロローグ込み全50話あります。短編版から大きく加筆されておりますので短編版をお読みの方でも最初からお楽しみいただけます。 ※ややコメディ感強めです。恋愛ジャンルのつもりでしたが、バトル要素がありますのでファンタジージャンルとしています。 ※この作品は小説家になろう様の方にも掲載しておりますが、アルファポリス様の方では加筆と修正、また第二部以降の物語も予定しております。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

処理中です...