スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

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第8章:王立冒険者学校編(2)

第83話:「うぅ⋯⋯」

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 休日、王立冒険者学校の練習場に五人の生徒がいる。

 一人はセネカだ。彼女は一見無表情に見えるが、慣れた者からすれば悔しがっているのだと分かる。

 もう一人はマイオルだ。練習場の壁の前に立っている。
 隣には二年のセクンダが立っていて二人はセネカを見つめている。

 セネカの目線の先には一年Sクラスのメネニアがいる。彼女は念のためマイオルが声をかけてこの場に来てもらった。

 そのメネニアは大柄の男を魔法で回復している。男は治療を受けているが珍しく笑みを浮かべている。

「噂は本当だったのね」

 セクンダがマイオルに話しかけた。

「噂ですか?」

「えぇ。まさかセネカがここまで強いなんて知らなかったわ」

「まぁそうでしょうね」

 マイオルが苦笑いで応える。

「ここでのことは秘匿するという契約だけど、見ることができただけでもありがたいわね」

「こちらも要求をしていますからね」

「それにしても、あいつが、ケイトーがあんなに簡単に負けるなんて思いもよらなかったわ」

 セクンダは目を細めて、治療を受けるケイトーを見遣る。その目には慈しみが含まれているようにマイオルには見えた。





 この戦いはケイトーからの申し出で実現した。マイオルと戦ったケイトーはセネカへの興味を深めたので、セクンダの仲介により話が来たのだ。

 依頼の内容は全力の模擬戦だった。ケイトーにとって学内最強かどうかといった評価はどうでも良く、己を鍛えてくれる存在をひたすらに求めている。

 学校を出れば自分を超える実力者は山ほどいるが、同年代にはいない。これから磨く必要のある能力はたくさんあるが、近距離戦士として行き詰まりを感じていたのも事実だった。

 そこで出会ったのがマイオルだった。マイオルの強さは異質で、ケイトーがこれまで磨いて来たものとは違う強さがあった。その新鮮な力にケイトーは可能性を感じた。

 プルケルやファビウスの戦いも興味深かった。武闘会での決勝では、ケイトーは疲弊したプルケルと戦ったけれど、なかなか面白いところがあった。

 そこで、一年の中で最も強いと言われているセネカと戦ってみたくなったのだ。一年生の変革の中心にはセネカがいる。そう確信した故の行動であった。

 ケイトーに仲介を頼まれたセクンダはすぐにセネカに話を持って行った。セネカはマイオルを巻き込み、一つの条件を提示した。それはスキルを切った上でのケイトーとの模擬戦だった。

 秘密裏に模擬戦を行うために四人は休日に練習場を貸し切りすることにした。怪我をしたら話が漏れてしまいそうだったので、マイオルは治療が得意なメネニアを巻き込むことにした。その結果、この五人がこの場にいる。

 最初にスキルを切った状態での模擬戦が始まった。ケイトーは刃を潰した斧槍でセネカの剣を圧倒した。

 セネカは歯が立たなかった。何をしても的確に対応されて、どう動いたら良いのか見当もつかなかった。素の技術や能力にはそれほどの開きがあった。武人の抜け目ない鍛錬の成果をセネカは目の当たりにした。

 次はスキルを解禁しての全力の戦いだった。今度はケイトーがなす術なく負けた。
 ケイトーは勝ち筋が全く見えない相手との戦いは本当に久しぶりだった。

 ケイトーの心に歓びが広がった。
 まだ強くなれる。
 まだまだ鍛錬のしがいがある。
 武人の視界は開けた。

 一方のセネカは、全力の戦いで勝てたことは喜ばしかったけれど、スキルを切った状態であれほどの差があるとは思っていなかったので傷ついている。

 ケイトーとここまでの差があるのだったら、ルキウスとはどれほどの差がついてしまったのだろうと考えているのも一因ではある。

 これらのことがあって、全力の戦いに勝ったセネカの表情は苦く、負けたケイトーの顔が晴れやかだという状態になっている。





「うぅ⋯⋯」

 さっきから何度もセネカが唸り声を上げている。

 余程悔しかったのだろうとマイオルは思った。だが、すぐに落ち着くだろう。だってこれから彼女の親友に会うのだから。

「セネちゃん! マイオル!」

 キトの朗らかな声が聞こえてくる。
 キトは急いで来たのか少しだけ息を荒げている。顔が上気していて赤いのが艶になっている。

 いじけるセネカの相手をしながら三人は喫茶店に入った。そしていつも通り魔導学校のキトの個室に行って緊急会議を開いた。

 議題は決まっている。

 マイオルのレベルアップについてだ。





 それからも後期には様々なことが起きたけれど、基本は変わらなかった。

 セネカもマイオルもガイアもプラウティアも日々を鍛錬に捧げ、冒険者としての技能を磨いて行った。

 アッタロスとの模擬戦にはさらに力が入り、マイオルは一度だけグラディウスと会った。

 プラウティアはキトとの交流をさらに深めて、新たな技術をいくつも開発した。
 ガイアはマイオルとの連携を深めることで新たな可能性を切り拓いた。
 そして、長い一年の終わりを迎え、セネカたちは二年生になるための準備を始めた。



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ここまでお読みいただきありがとうございます。第8章:王立冒険者学校編(2)は終了です。

次話から第9章:銀級冒険者昇格編が始まります!

時系列的にはまだ第6章(間章):砂漠の少年編に追いついておりません。
引き続きどうぞよろしくお願いします。
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