スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
79 / 213
第8章:王立冒険者学校編(2)

第79話:武人

しおりを挟む
 王立冒険者学校で一番強いのは誰か?
 幾度となく議論されてきた話だ。

 後期に入って各々の実力に関する理解が進むと答えは三分されるようになってきた。

 まず名前が上がるのが三年のバルカだ。バルカは【光魔法】という非常に希少性の高い魔法を使う。このスキルは【聖魔法】に匹敵するほどの汎用性と攻撃能力を持つと知られていて、バルカは将来を期待されている。しかし、魔導士のバルカは三年間武闘会に出場していない。

 次に名前が上がるのは二年のケイトーだ。昨年、一年生ながらレベル2の部で優勝したのがケイトーだった。ケイトーのスキルは【武術】だ。武闘系の汎用性の高いスキルは器用貧乏になる恐れがあるが、ケイトーはこのスキルを十全に使いこなしている。

 そして、最近名前を聞くようになったのがセネカだ。当初は一年生からの支持が絶大であっただけであるが、次第にケイトーやバルカの実力を良く知る者の中でもセネカを推す者が出てきていた。

 バルカとセネカは武闘会に出場しない。だから、多くの生徒は今年もケイトーがレベル2の部を制するだろうと考えていた。





 マイオルは準決勝まで勝ち上がった。

 自分がほとんどの生徒から期待されていないのは分かっている。それでも二年や三年の実力者達をギリギリのところで倒してきた。

 マイオルの戦闘力はそれほど高くない。剣の腕も捌きの技術もレベル2の生徒の中では、良くて中の下だろう。それなのに勝ち上がっている。

 マイオルの相手は軒並み実力をうまく発揮できず敗れ去っていった。
 実力主義の冒険者学校では結果が重視される。そのため、みんなマイオルのことを認めているけれど、釈然としない思いを抱えていた。

「次の相手は武人だ。武人は裏切らない」
「そうだな。俺は武人を応援するぞ」
「俺もだ。いや、だが、マイオルちゃんはちょっとかわいいぞ?」
「ちょっとどころじゃないだろ!」

 そう言う学生がいた。

 武人とはケイトーのことだ。ケイトーは学校の中でコアな人気を獲得しており、敬意を込めて武人と呼ばれている。

 マイオルの次の相手は冒険者学校で近接戦最強と謳われるケイトーである。質実剛健でひたむきに己を鍛え続ける姿にはマイオルも憧れを持っている。勝利を期待されない空気の中で、マイオルはそんな相手と戦わなければならない。

 マイオルは上出来だと考えている。
 レベル2の部の準決勝まで来た。
 これはこの学校の中で近接戦の強い四人に入ったということである。
 もちろんそれが事実でないことはマイオルが一番よく分かっている。
 セネカはいないし、ニーナもストローもケイトーに負けた。
 それでも、上出来だという自己評価は変わらない。

 だけど、英雄になるにはまだ足りない。
 強くなるには試練が必要だとキトが言っていた。
 ここで困難に立ち向かわない限り、未来はない。





 マイオルとケイトーの試合の前にもう一方の準決勝が行われる。
 プルケルとファビウスの戦いだ。
 二人も下馬評を覆して準決勝まで勝ち上がってきた。

 プルケルは貴公子然とした振る舞いでいつも余裕を崩さない。
 ファビウスも忍耐強い性格で、しなやかな様子であることが多い。
 しかし、そんな二人が張り詰めた様子で対峙している。

 二人が普段秘めている生の感情が溢れ出しそうなほどだ。
 マイオルはそんな二人の戦いをゆっくりと眺めた。

 死闘だった。
 プルケルは初めから[帯雷]を発動して、果敢に攻める。ファビウスもスキル【円楯】を駆使して攻防一体の動きを見せている。

 プルケルの激しい攻めをファビウスは盾や剣で受けながら、隙をついて攻撃を繰り出す。盾を攻撃にも使用して意表をつく場面もあった。

 二人は躊躇いなく魔力を投入して激しい戦いを続けたのですぐに魔力が尽きた。
 その後は槍と剣盾の戦いである。派手な技はなかったものの技巧を凝らした戦闘で観客は白熱した。
 だが、度重なる激突を重ねても二人の戦いには決着がつかなかった。

 最初から全力で戦っているので二人とも息も絶え絶えだが、絶対に譲らないとばかりに抜け目ない動きを見せている。

 試合時間はまだそれほど経過していないが目まぐるしく状況が変わるので、非常に長く戦っているようにマイオルは感じた。

 力を込めたプルケルの突きをファビウスが盾で受ける。その時、お互いの力に押されて槍と盾が飛んだ。武器を持てなくなったのだ。

 ファビウスは何故か剣を捨てて、プルケルに殴りかかった。プルケルもそれを受けて立ち、いま試合は荒々しい殴り合いになっている。

 二人は元々人気が高い。整った顔に確かな実力、そして動じない態度だ。一年の女の子の中ではストローを加えて三人のうちの誰が魅力的かを話すことが多いらしい。

 この試合も当初から黄色い声が飛び交っていた。その声が今はさらに大きくなっている。普段冷静な二人が感情を剥き出しにして猛烈に殴り合っている。

 普段は頼りになる先輩達も熱を上げて声援を送っているのを見て、マイオルは残念な気持ちになった。

 そんなボロボロの戦いを制したのはプルケルだった。

 満身創痍の美男子二人が会場で仰向けになって寝ているのを見て、悲鳴のような声をあげている女性もいる。結果を受けて滂沱の涙を流している先輩もいる。

 これから自分の戦いが始まるというのにマイオルは複雑な気持ちになった。





 気を取り直してマイオルは戦いの準備をした。

 会場の反対にはケイトーが立っている。

「武人だ! 武人が来たぞ!」
「今年も勝ってくれよな!」

 そんな野太い声援が立つにつれて会場の空気は引き締まっていった。

「マイオルちゃん、今日もかわいいよ!」
「相手が不調だといいな!」

 マイオルには応援なのか野次なのか分からない声が飛んでくる。

 苦笑いを浮かべながらマイオルはケイトーを見た。
 大きな身体に隆々の筋肉をたくわえている。短く刈り込んだ髪に険をまとった瞳は己の甘えを削ぎ落としているかのようだ。

「確かに武人だね」

 ケイトーは刃引きした斧槍を持っている。
 厄介な武器だ。

 ケイトーはスキルを活かして様々な武術を修めている。斧槍は斬ることも突くこともできるし、棒術のように柄で攻撃することもできる。もちろん近接して体術で戦うこともできる。隙がない。

 そんな相手と戦わなければならない。
 周囲の学生に引きずられて散漫になっていた意識をマイオルは集中させた。

「ただいまより準決勝第二試合を行います。両者前へ」

 マイオルは会場に上がり、前に進んだ。
 ケイトーと目が合う。
 お互いに深い集中状態に入ろうとしているのが分かる。

 油断してくれていたらよかったのにとマイオルは思った。だが、ケイトーがそういうタイプでないこともよく分かっていた。

 むしろネズミでも全力で叩く種類の人間だ。
 だからこそ、越えがいがあるってものだ。

 マイオルは自分が薄く笑っているのに気がついた。いつのまにか強い相手と戦えることに楽しみを感じるようになっている。

「セネカに似てきたかな」

 そんなマイオルの顔を見て、ケイトーも微かに笑みを浮かべた。

 無口な男が重い口を開く。

「君はどうやら好敵手だ」

 その言葉の意味は分からなかったけれど、マイオルは気にしなかった。
 強い相手と向き合っているのに瑣末なことに気を取られていたら失礼だ。
 合図もなしに二人は同時に武器を構えた。

「はじめ!」

 マイオルの挑戦が始まった。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...