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第8章:王立冒険者学校編(2)

第76話:「だけど、それでも」

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 セネカが批判に晒されているのを見て、プラウティアは納得いかない気持ちになった。

 事情は分かる。今の段階でセネカがレベル3だと公表するのは良くないし、だからといって無理矢理レベル2として出場するのも良くない。けれど、セネカを守るための策で本人が傷つけられているのは本末転倒だろう。

 プラウティアも批判に晒されることが多かった。いまだにプラウティアを下に見て罵詈雑言を浴びせてくる人はいる。

 平気な顔をしていても、内心では傷つくものだ。筋が通っておらず、感情的に発せられる言葉ほどじわじわと効いてくる。意味が分からないからだ。

 プラウティアは自分の実力を分かっていた。一年生でありながらレベル2に上がったのは良いけれど、同レベルの中での実力は下の方だろう。武闘会で勝ち続けることは難しい。

「だけど、それでも」

 セネカの分まで頑張る。そう決意した。





 女子寮の奥にある林でファビウスは息を切らしていた。

 目の前ではプラウティアが座り込んでいる。

 ファビウスにとってプラウティアは気になる存在だ。ニシロ密林で共に戦う前から屈託なく笑う顔に惹きつけられていた。

 そんな女の子と全力で戦っている。
 もっと言えば滅多打ちにしている。

 ファビウスはSクラスでも上位の実力を持つ。どこまでやれるかは分からないが、優勝してもおかしくはない。

 この訓練には正直気が引けている。だが、手は抜けない。理由は二つある。

 一つは油断すればやられてしまうからだ。プラウティアは相手の死角を突いたり、拍子を崩して攻撃したりするのが上手い。咄嗟の攻撃で加減してしまえば負けるのはファビウスだ。

 もう一つの理由は——

「⋯⋯もう一度」

 プラウティアはファビウスをまっすぐ見つめながらまた立ち上がった。

「次も全力で戦ってね。加減はいらないから」

 足や手はプルプルと震え、顔には砂がついている。それでもプラウティアの瞳に灯る炎は輝きを増している。

 好意を持つ相手にこんな表情をされたら、手を抜くわけにはいかない。

 手を抜いたら男が廃る。

 ファビウスはまた剣を構えて、プラウティアと戦い始めた。





 それからプラウティアは鍛錬を続けた。
 毎日ではないけれど、ファビウスとも戦い、上位者との戦い方を学んで行った。

 あれよあれよという間に時が経ち、ついに武闘会の日が近づき、三日前にはトーナメント表が張り出された。

 プラウティアの初戦の相手は二年Sクラスのフーススという先輩だった。

 フーススは校内一の弓の腕を持つと言われている。しかし、今回は最大でも中距離からの戦いになるので弓はあまり活かせないだろう。

 プラウティアが調査したところによると、フースス先輩は近距離が弱いわけではないが特段強いわけでもないようだ。そういう生徒は武闘会を辞退することも多いのだが、この先輩は昨年に引き続き出場するそうだ。

 その後もフーススの情報を得たり、武闘会の規則を念入りに確認したりしながらプラウティアは当日を迎えた。

 一日目には複数の会場を使って各レベルの一回戦と二回戦が行われる。学生の多くはレベル1なのでその試合に割り当てられた会場が多い。

 プラウティアの試合は午前の遅めの時間帯の予定だ。

 セネカは依頼に行き、ガイアは武闘会を辞退したので不在だ。
 マイオルは気合が充実してハキハキしている。
 それにてられてプラウティアも気持ちが入っている。

 何度かフースス先輩のことを見た。目があったような気もしたけれど、気まずいのですぐさま目を逸らした。

 試合が近くなってきたのでプラウティアは軽鎧を着けて、特注の木剣を持った。

「一年Aクラス、プラウティアさん。二年Sクラス、フーススさん。試合の時間です」

 係の学生がそう呼びかけた。戦いが始まる。





 試合会場は広めに作られているので、弓矢での攻撃も十分可能だ。だが、すぐに近づかれてしまうような距離でもある。

「はじめ!」

 審判の先生の声を聞くや否やフーススは機敏に動いて、矢を連続で放ってきた。

 フーススの得意技は曲打ちだ。レベル2の【弓術】を活かして矢の軌道を操り、複数の矢を同時に着弾させる。

 プラウティアは続け様に放たれる矢をなんとか防御する。接近しなくては勝ち目がないので機を見計らっている。

 だがフーススの方も簡単に接近を許すつもりはなかった。機敏に動いて角度を変えながら弓を引き続ける。

 フーススは木の矢を主に使用しているが、時折、サブスキル[魔力矢]で生成した矢も射ってくる。おかげで付け入る隙が見当たらない。

 観戦している学生たちは、プラウティアはこのまま為す術もなく負けるだろうと考えていた。

 レベル2とは言え、スキルは所詮【植物採取】だ。この大会においては軽んじられる。相性があるとはいえ、戦闘用のスキル以外で勝ち上がるのは難しい。

「そんなことはわかってる」

 プラウティアは間断なく放たれる矢をすんでのところで避けながら体勢を整える。

 劣勢かもしれない。攻撃手段に乏しいかもしれない。だけど、それでもプラウティアは負けるつもりなどなかった。





 思いのほか粘り強いプラウティアを見てフーススは攻撃の手を強めることにした。
 魔力矢での攻撃も可能だが、魔力を節約したいという気持ちがある。

 だからフーススは木の矢を三本取り出して弓につがえ、力一杯引き絞った。
 その時、プラウティアの目がキラッと光ったように見えた。
 
 嫌な予感がしたが、攻撃をするしかない。フーススは同時に三本の矢を放つ。

 矢は狙い通りプラウティアの方に向かう。
 フーススは良い射撃ができたと感じた。
 しかし、プラウティアに着弾する直前で矢は突然攻撃を受けた。

 矢を払ったプラウティアは猛烈な勢いでフーススのところに向かってくる。

 状況をうまく整理できないまま、フーススはまた木の矢を放った。だが、また矢は失速した。

 フーススは思いもよらなかった。
 プラウティアの狙いはずっと【植物採取】で木の矢を無効化することだった。
 このスキルでは範囲内の植物を同時に攻撃することができる。

 接近したプラウティアは木剣でフーススに斬りかかって来た。
 フーススは慌てて模擬剣を抜いたが、釈然としない気持ちを整理できぬまま、追い詰められて、終いには場外に出てしまった。

「勝者プラウティア」

 フーススは気がつけば負けていた。

 舐めていてわけではないが、正直この戦いは勝てると踏んでいたので、信じられない気持ちだった。

 しかし、プラウティアのこの後の試合を見て、自分が甘かったことを認識した。
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